プロ野球選手から学ぶ部下指導法
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プロ野球選手から学ぶ部下指導法
6月に入り、プロ野球では交流戦が始まりました。最近、自分が子供の頃にヒーローだった野球選手たちのYoutubeチャンネルを見ています。その中でも特に面白いと思っているのが、元ヤクルト監督の古田敦也のYoutubeです。
今回は、私の好きな野球を題材にプロスポーツ界の名コーチから学ぶ部下指導法について考えてみたいと思います。野球が好きな方も、あまり普段観ない方も、是非読んでいただけましたら嬉しいです。
プロで活躍した野球選手たちから学ぶ本当に人のパフォーマンスを引き出す指導法
このYoutubeの特徴は【誰か一人のゲストの技術論】ではなく、ホームランバッター3人が同時揃って技術論を喋る、ピッチャー3人が揃って技術論を喋るというところにあります。
そして見事にみんな言うことが違うのです。
例えば「速い球を投げるコツ」という話を、A選手は「左腕の使い方が重要」と言い、B選手は「股関節の使い方が重要」みたいに言います。「プレートの踏み方」みたいなことでもC選手は「僕はプレートをちゃんと踏みたいです」と言い、D選手は「僕はプレートにつま先をつけるだけです」と言ったりします。
プロ野球選手として結果を残してきた人たちばかりですから、どの人の話にも説得力があります。
しかし、本当に言うことがかなり違います。
これを見ていると、例えば少年野球のコーチなどは「自分なりの指導の仕方」について考えざるを得なくなると思います。
まず、コーチが自分の体験から「こうしたほうがいい」と説明していることが、プロ野球選手たちの言っていることと全然違うということが起こりえます。そして、A選手とは同じ説明の仕方だが、B選手とは説明の仕方が違うということが起こりえます。
選手に上達してもらおうと思ったら「その選手に合った」指導をする必要があるでしょう。それをしなければ、選手をつぶしてしまうということもありえます。
同じようなことを伝えたくても「腰を回すのが大事」と言うのはピンと来なくて「腰を切るのが大事」と言われるとよく分かる、ということもあります。どんな言葉をチョイスするかということも、自分の感覚だけに頼ると危険です。
部下の指導にどれほど「個別性」を意識しているか?
「部下の指導の仕方」ということについて、どれほどのデータを持てるかと言うとなかなか難しいものです。
自分が部下として10人の上司からしっかりと指導を受けていたら、10人分のデータのを持てますが、3人しか経験がなければ、3人分しかデータがありません。
しかも結局「その指導は、自分の好みであったかどうか」というフィルターによって理解、記憶しています。
「私とは違う個性の部下に、私とは違う個性の上司の指導が合う」ということがあり得ると思って、そのパターンをしっかり学習していこう、という意識を持っている経営者、管理職の方はなかなかに限られていると思います。
しかし、実際には個性を生かした接し方ができる管理職の方が、プロ野球の世界同様にビジネスにおいても、部下を伸ばしていくことができるのです。
「選手のレベルと個性に応じた適切な指導法」名伯楽吉井理人コーチ
2023年現在、ロッテで監督をしている吉井理人氏ですが、コーチとしての実績はすごいものがあります。
まず日本ハムのコーチになりますが、この時に指導している選手がダルビッシュ有です。次に、ソフトバンクのコーチになります。この時に指導している選手が千賀滉大です。そのあと、日本ハムのコーチに復帰します。この時に指導している選手が大谷翔平です。そして、ロッテのコーチになり、佐々木朗希を日本トップクラスの選手に育てました。
野球に詳しい方になら、どれほどすごい選手を輩出してきたコーチか言うまでもないと思います。
野球をご存じない方でも「大谷翔平を輩出したコーチ」と言われれば、それはすごい、と思われるのではないでしょうか。
詳しくはご本人の著書に譲りたいと思いますが、吉井コーチのすごいところは「選手のレベルと個性に応じた適切な指導法」ということに尽きると思います。
まず「レベル」によって指導を変えています。
プロ野球の世界に入りたての高卒選手などには「まだ今は、体力を作る段階」「自分なりに考えても大事だけど、言われたことをきっちりやれるのが大事な段階」などの指導をしてきます。二軍の選手などもこれに当たります。
一軍で活躍し始めた選手に対しては、技術的な指導や、戦略的(相手バッターの攻略方法など)な指導を積極的に行います。
一軍の主戦力の選手に対しては「相談相手」になります。主力選手たちは自分たちで考える力、反省する力も高いので、アドバイスをするというよりは聞き役になって本人が思考を整理するのを手伝います。
このように、レベルに応じて指導方法を変えています。
そして、選手の個性、感覚というものに応じても指導法を繊細に変えています。
例えば、あるピッチャーには「もっと力を抜いて投げた方が速い球がいくのでは?」と言い、他のピッチャーには「もっと力を入れて投げた方が速い球がいくのでは?」というように。
変化球を磨いた方がいいのか、直球にこだわったほうがいいのか、そういったことも「今、この選手にとっては何が大事だろうか?」という観点から考えて指導しています。
自分の経験を言語化する重要性
現代の経営陣や、管理職が部下指導に対して、どれほどの時間を割けるかというと難しいところもあります。プロスポーツの世界のコーチのように「部下指導そのものに100%専念できる」というようことはなかなかないでしょう。プレイングマネジャーとして、自分自身も色々と頑張らないといけません。
とは言え、プロスポーツの世界で「コーチ専業」をやっている人たちの指導法が参考にならないわけでは勿論ありません。
指導法について学べることはたくさんあります。
冒頭に触れた古田チャンネルを見ていると、多くの名選手たちが現役引退後、コーチになってから「自分の経験を言語化する」ということに取り組んでいます。現役時代は感覚で出来ていたものが、指導対象の選手たちはできずに、そうすると言語化して伝えなければいけないからです。
そして、言語化して伝えてみても「どうも、アドバイス通りに上手く伸びる選手と、伸びない選手がいる」という壁にぶつかります。
もちろん、選手の側の責任が大きいのですが、それでも「コーチの私の責任なのではないか?」と自分に矢印を向けられるかどうかで、コーチとして一流になるかどうかの差が生まれるように見えます。
Youtubeの動画内で、一流選手たちが「そんな風に考えたこともなかった!」「そんなこと意識してたの!?」と驚き合っている風景は、なんとも面白いものがあります。「結果を出した一流選手」という共通項はあるのに、その結果を生み出していた、意識、注意点、コツといったものは本当に多種多様なのです。
選手に個性があるように、部下にも個性があります。
「この部下はどういうタイプなんだろうか?」
「このタイプが伸びるには、今どんな接し方が効果的なんだろうか?」
そういった問いを持つこと自体で、部下指導力が飛躍的に向上するかもしれません。
▼参考:フルタの方程式【古田敦也 公式チャンネル】
https://www.youtube.com/@furuta-houteishiki
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[Vo115-5. 2023/06/06配信号、執筆:石川英明]