社長ばかりが忙しく働く体制をどう卒業するか?
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社長ばかりが忙しい・・・
出典:写真AC
社長ばかり忙しく働くことになっているのは、中堅・中小企業ではよくある事象です。圧倒的に社長が優秀で情熱もあり、逆に社長が手を抜いたらすぐに会社が傾いてしまう。そんな風になっている中堅・中小企業は多々あります。
「会社を大きくしたら、もう少しラクになるはずと思っていたのにな」というような声もよくお聞きします。
創業社長の場合、特になのですが、タイプやポジションについてそこまで深くは探求せずに仕事を頑張って会社が大きくなってしまうと、自分で生み出した状況に自分で苦しむようなことにもなってしまいます。
社長の4段階
エースで4番
創業期に、数名から始めて会社が大きくなっていく場合には、野球で例えると、社長はまさにエースで4番、大黒柱として大車輪の活躍をして会社を引っ張っていきます。
だからこそ事業は軌道に乗り、会社としてひとまずの成功を収められるのですね。
監督
会社の規模が大きくなってくると、全ての仕事を自分でコントロールすることが難しくなってきます。5名程度であれば、全てを把握しながら進めていけますが、10名を超えてくるとだんだんと難しくなってくる。そうなると「監督」にシフトしてくる必要が出てきます。
監督となってくると、自分で活躍すればいいということではなくて、言葉で、コミュニケーションで、戦略で、選手(社員)たちをいかに活躍させていくかという仕事に変わってきます。
現場でエースで4番をやっているのが楽しい人にとっては、つらい仕事になってきたりもします。もともと監督業をやりたくて社長になった人からすれば「まさに社長業」という感じがしてくるフェーズでもあります。
球団社長
さらに会社が大きくなってくると、現場の監督もやっていられなくなったりもします。球団社長のポジションまで来ると、ビジネスの仕方が全然変わってきてしまいます。
現場は優勝のために頑張っていますが、球団社長からすると優勝したら選手の年俸が上がってしまう。だから、誰の首を切るか?とかを考えないといけなくなってきます。
選手や監督としてやっていきたかった人からすれば全く別次元の仕事になってきます。
球団オーナー
この状態は、株主として君臨して、不労所得を得られるような状態です。
極端に言えば、「野球」というものにほとんど興味がなくても、優秀な球団社長と監督さえ雇えていれば、自分は何もしなくてもいい、というような状態であり、ある意味では「経営する楽しさ・充実感」のようなものはほとんどない状態です。
少なくとも「社長ばかりが忙しい」という状況を卒業するには、社長がエースで4番という状況を卒業し、監督業にシフトしていくことが求められます。
経営者としてのタイプ
また、経営者としてのタイプも良く知っておくことが重要です。エースで4番から監督業にシフトしていこうというとき、また、やっぱりまだまだエースで4番の社長として頑張りたいというとき、どちらにしても、自分はどのようなタイプの経営者なのかを捉えておくことは、事業や組織にとって価値があります
ついつい【なんでもできる天才型】に自分を分類したくなりますが、そのカテゴリーに分類される人はごくわずかです。【何でもできる天才型】には、面倒くさいことがないという特徴があります。
ですから
- 細かいお金の計算は面倒くさい
- 部下のモチベーションとか考えるのはめんどくさい
- 事業戦略は考えるの楽しいけど、税金対策はめんどくさい
- やる気の高い部下を伸ばすのは楽しいけど、やる気が下がってる部下を救うのはめんどくさい
などなど、面倒な領域がある場合は【何でもできる天才型】にはなりません。
実際は、めんどくさいことがあるのが当然ですし、めんどくさいことがあっても何も問題はありません。問題があるとしたら「苦手なことを嫌々やっている」時間が長くなってしまうことや、「本当は不得意なのに、得意だと思い込んでやって」いて周囲に迷惑がかかっていたりすることです。
経営者にとって大切なことは、自分のタイプをしっかりと自己認知しておくことです。
切り口として参考にして頂けるように、ざっくりとタイプを並べてみましょう。ご自身が、どの経営者タイプか、どれが一番近いかを考えながら眺めてみてください。
人使いのタイプ
【本田宗一郎、ビルゲイツタイプ】
- 基本的に自分はビジョナリーな職人。
- 経営はNo.2に任せる。藤沢武雄やスティーブバルマーに任せる。
【豊田章一郎・井深大タイプ】
- 番頭をそろえるタイプ。殿様。
- 財務番頭。技術番頭。販売番頭を持って経営する。
【松下幸之助・盛田昭夫タイプ】
- 天才タイプ。
- 事業構想も、組織構想も、実行も育成も全部自分でやる。
情熱の持ちどころのタイプ
【孫正義、柳井正タイプ】
- 事業が拡大する、儲かることが大事。
- 事業への熱。「それは燃えるか?」がキークエスチョン。
【吉田松陰タイプ】
- 人材育成が命。社会性が命。
- 「それは正義か?」がキークエスチョン。
【ロバートキヨサキタイプ】
- 不労所得が重要。
- 会社の規模は重要ではない。利益額、利益率が重要。
- 「それは儲かるか?」がキークエスチョン。
ご自身はどんなタイプだな、と思いましたか?
自分のタイプを良く知ることがとても大事です。本当は孫正義タイプなのに、ちまちまと利益率ばっかり追っかけても楽しくないのです。本当は本田宗一郎タイプなのに、全部自分でやろうとしても苦労ばかりが増えるのです。
もしあなたが孫正義タイプなら、とにかく事業構想を練り続けることです。大きな事業構想を。それが大事です。その大きな夢、野望、野心に乗っかってくる仲間たちにどんどん動いてもらうのが大事です。
もしあなたが本田宗一郎タイプなら、とにかくNo.2がいないと話が始まりません。自分の分身にも思えるようなパートナーとの出会い、もしくはその育成。それが最重要課題です。
もしあなたがロバートキヨサキタイプなら、経済合理性以外で人を動かそうとしない方がいいでしょう。理念経営、なんて踏み込まないほうがいいのです。「みんなで効率よく稼ごうよ」これが会社で大切にされるべき掛け声です。
実際には「8割吉田松陰タイプだけど、2割くらいロバートキヨサキも入ってるな」とか、「豊田章一郎みたいに番頭をおいて殿様経営したいけど、今は人材がいないから自分で頑張るしかないな・・・」とかってことがあります。
しかし、それでも自己認識を深めておくことは重要で、それによって経営戦略が変わるのです。採用の仕方も、投資の仕方も、リスクの取り方も、事業構想の練り方も、エースで4番のプレイヤー社長から監督業業へシフトするときのポイントも、部下の育成の仕方も変わってきます。
あなた自身がどんな経営者なのか、あなたにとってComfotableな経営とはどんなものなのか、それ自体をとにかく大切にしてほしいと思います。結果として、あなたがストレスの少ない状況は、顧客や社員にとってもストレスが少なく、業績が高まりやすい状況になっているでしょう。
支援先事例
~あるマーケティング企業
実際に、エースで4番を引退し、監督業に専念していった事例を一つご紹介します。
抜群の嗅覚とスピード感で会社を大きくしてきた社長でしたが、規模が大きくなり自分一人で頑張る限界を感じ、我々のところにご相談にいらっしゃいました。
その社長が取り組んだことは、一つは「会議に出ない」ということでした。それまでは、広告作成、商品開発、全ての領域の会議に出て、しっかりと指示を出し、管理をしていました。しかし、それではいつまで経っても社員の「社長頼み」の態度が変化しないので、自分自身は会議には出ないようにしました。
ほぼ同時に、社長+社員という二階層だった組織体制を、社長+課長+社員という三階層に変更し、課長たちに自分たちで考えて判断するように求めるようになりました。
始めたころは、正直すんなりとは上手くいきませんでした。課長達も、自分達に託されたプレッシャーもあり、どうしても判断を社長に仰いでしまうことが続き、社長としても、ついつい口を出してしまうこともあり、なかなか変化が進まなかった・・・というよりも一時的には状況は悪化したかのようなところもありました。
それでも「社長の力ではなく、組織の力で勝てる会社にする」というビジョンだけは揺るがずに持ち続け、判断を求められても「自分達で考えて決めて」と返すように心がけていきました。同時に、管理職研修も実施し「自分達でゴールを考える」「課長達で、担当部署を超えて全体を考える」ということを、粘り強くやっていきました。
1年も続けていくと、明らかに様子が変わってきました。課長達の主体性も高まり、判断の制度も高まり、社長としても安心して任せられるようになってきました。
時間が浮いてきたので、より長期的な戦略を検討したり、組織作りについてより深い探求をする時間を取るようになっていきました。また「任せられている」という信頼感や責任感から、さらに課長達は、自分達でどんどんと会社を運営していくようになりました。
この難しい権限移譲を進めていったことも奏功し、5年連続増収を達成し、今なお、より組織力全体を高めるように経営努力を続けられています。
エースで4番のプレイヤーから
監督になるために
ここでは見事にプレイヤーから監督業に移行された経営者の例をご紹介しましたが、実際に多くの企業を支援してきて、プレイヤーでやってきた経営者が「エースで4番を辞めることの難しさ」を感じています。
スポーツ選手であれば、加齢とともに肉体的な限界を迎え自然とパフォーマンスが落ちてきますが、ビジネスパーソンはそうはいきません。むしろ経験を積んで、どんどんとパフォーマンスが上がってしまうところがあります。
そういった中で、トップダウンの指示命令をしていけば、一定の成果は得られるのです。むしろリスクは少ない。しかし、どうしても「組織力で勝つ」方が「一人のカリスマで勝つ」よりも強いことが多いため、一人で頑張ることの限界はあります。
社長依存から脱皮するためには、一時的な混乱、一時的な業績低下のリスクを受け容れなければいけないところがあります。
しかし、この難しさに正面から向き合って乗り越えたときに、明らかに組織はパワーアップします。社員も成功体験を積み、どんどん頼もしくなっていくのです。