経営と感情、感情が組織に及ぼす影響
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経営と感情
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当たり前ですが、人には感情がありますね。目には見えませんが、感情が存在します。感情は「本音」と言い換えられることも多いかもしれません。
社長にも感情はもちろんあります。社長も人間ですから。だから、すごく嬉しいこともあったり、イラッとすることもあったり、「許せない!」と感じることもあるわけです。
これまでのビジネスの現場では、感情はどちらというと無視されてきました。「プロとして私情を挟まず仕事に集中しろ!」「仕事に私情を持ち込むな!」という感じでしょうか。 これは長い間常識でした。
しかし、実はこの「感情」というものは、「我々が想像していないほど大きな影響があり、実際にビジネスの成果へとつながっている」というのが、最近の様々な研究でわかってきたことです。
人の感情がわかってしまう
”ミラーニューロン”
脳科学の世界では、人の脳には”ミラーニューロン”という機能があることが分かっています。これは、すごく単純化して言うと、”他者の感情を察知する機能”です。
緊張感ある会議などをやった際に、「ピリピリとした雰囲気だ。。」と感じることがありますよね? これは錯覚ではなくて、その部屋にいる人たちの緊張感、焦り、プレッシャーといったものが実際に、脳科学的に”分かる”ので、”ピリピリ”するのです。
つまり、もっと詳しくいうと、人間は「あ、あの人は、怒っていそうだから、近づかないようにしよう」と言葉で分析するよりも速く、言うなれば直観的に「危ない!!!」と分かっているという話です。
さて、感情には大きく分けて、「ポジティブ感情」と「ネガティブ感情」の2つがあります。 実はこの2つの感情の違いで、恐ろしいほど組織の状態は変わってしまうことが最近の研究でわかってきたことです。
「ネガティブ感情」がもたらす
恐ろしい悪影響
まずは「ネガティブ感情」から見ていきましょう。
ネガティブ感情状態は、単語を並べると、「不安」「敵愾心」「怖れ」「緊張」「プレッシャー」「怒り」「孤独」といったような気持ちの状態です。
組織全体にネガティブな感情が渦巻いている場合、どんな影響があると思いますか?
特に社長は影響が大きいので、社長が良く怒っている会社などでは社内にネガティブ感情が渦巻いているケースがほとんどです。
研究結果からいうと、こんな影響があります。
- 思考を狭くする(柔軟性・創造性など)
- 血圧や脈拍などに影響し、長引くと心身の健康に対して悪影響を持つ
- 心身症の状態となる
- 疾病を促進する可能性がある
- 心筋梗塞などの心臓血管系疾患と関係がある
- 免疫機能を抑制し、癌の進行を早める
当然こんな恐ろしい影響がでますから、組織全体がネガティブな感情状態ということは極めて仕事の効率などは悪くなり、チームワークも悪化します。
では次に「ポジティブ感情」を見ていきましょう。
「ポジティブ感情」がもたらす
様々な多くの恩恵
ポジティブ感情状態は、同じく単語を並べると、「リラックス」「安心」「落ち着き」「喜び」「感謝」「幸せ」といったような気持ちの状態です。
組織全体がポジティブな感情が溢れている場合、どんな影響があるでしょうか。
同じく、特に社長は影響が大きいので、社長が良く笑って、周りを褒めたり、感謝を伝えたりしている会社などでは社内にポジティブ感情が溢れていたりします。
ポジティブ感情がもたらす効果は次のとおりです。
- 視野が広がる
- 短期だけじゃなく中長期的視点を持てる
- 創造的な思考を促進する
- 問題解決が促進する
- 物事を前向きに捉えるようになる
- 社交的になり、対人関係が促進する
- 助け合いを促進する
- ポジティブ感情がさらなるポジティブ感情を増大させ、上向きのらせんを生み出す
こんな様々な恩恵があるわけですから、組織全体がポジティブな感情状態ということは、極めて集中力が高く、視野が広く、柔軟に考えられ、助け合いながら良い仕事ができ、さらにそれが好循環を作っていくのです。結果、高い成果を得やすくなるのです。
経営における感情の大切さをなんとなくご理解いただけましたでしょうか。このような研究結果を見れば、組織からいかにネガティブ感情を減らし、ポジティブ感情を増やしていくかが、経営において最重要課題であると言われても、うなずけるのではないでしょうか。
とはいえ、実際これを実現するにはどうすればいいのか?
よくありがちな間違いとしては、根本的な課題を見ずに、ポジティブ感情を強要するパターンです。
「元気よくいなさい!」「明るく笑顔でいなさい!」 そういうことを社訓にして、強制的に笑顔で挨拶させるような会社も多く存在しますが、根っこに課題を抱えたままこれをやるとかえって悪影響が起きます。
そうではなくて、重要なのは、「ネガティブ感情を組織の中で減らす」ことです。実はネガティブ感情が減っていくと、自然とポジティブ感情が増やしていける状態になります。
ネガティブ感情を
組織の中で減らすには?
では、ネガティブ感情を組織の中で減らすにはどうしたらよいのでしょうか?
これは実はとてもシンプルで「ネガティブ感情を表現できて、共有できる」とネガティブ感情は減ります。逆に、ネガティブ感情を表現できずに抱え込むと、減らないどころか増幅してしまったりします。
世界屈指の大企業であるGoogle社が、”プロジェクト・アリストテレス”という名前で、生産性の高いチームにはどういう共通点があるかを大々的に調査しました。
その結果において、こういったネガティブ感情をメンバーに共有できる「心理的安全性」が高いチームほど、生産性が高いことが 発見されています。
※心理的安全性 :他者への心遣いや同情、あるいは配慮や共感がある状態。 誰もが安心してリスクを冒し、意見を述べ、質問できるような環境。
※Googleのプロジェクトアリストテレス :http://qq4q.biz/GCz3
「心理的安全性が高い」とは、例えば、仕事の会議においてあるメンバーが、「プロジェクトの佳境にきていますがプライベートでは親の介護をもっとしないといけなくなってきていて、このままいくとみんなの足を引っ張ってしまわないかって、とても不安なんです」ということを、メンバーに安心して話すことができ、 そして周りのメンバーが、「よく話してくれたね。」「それは大変だね。」「なにか手伝えることあるかい?」と受け止めてくれるような状態です。
このようなことができるチームは非常に生産性が高いという結果が出ているのです。
「喜びは分かち合えば二倍に、苦しみは分かち合えば半分に」というような言葉がありますが、これはビジネスの世界でも真理なのです。
このように、ネガティブ感情をちゃんと大切にし、それを表現することも許容し、表現されたネガティブ感情に対して共感したり、支援的な態度を示せる。
そうすると、先にも述べたように、その組織は、実は自然とポジティブ感情を増やしていけるのです。
チームワークを高めていく手法につきましては、会社・組織の「チームワーク」をいかに具体的に高めていくか?の記事も参考にしてください。
はじめの一歩としてできること
少し話は変わりますが「挨拶」はなぜするのでしょうか?挨拶はなぜ大切なのでしょうか?
挨拶をする最小単位の一つは家族でしょう。
「おはよう」「おはよう」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「おかえり」「ただいま」
「おやすみ」「おやすみ」
この定型句を、なぜ家族は毎日やり取りし続けるのでしょうか?
それは元気な挨拶を強要するというよりも、ちょっと元気のない「いってきます・・・」に気づくためにあるはずなのです。
「あれ?いつもより元気ないな」「学校でなんかあったかな?」「帰ってきたら”なんかあったか?”って聞こうかな」と思えるように、相手の状態をキャッチするために挨拶があったりするわけです。
そうやって思いやって、支えあっている”組織”はやっぱりうまくいくわけです。
「お父さん、実は学校でこんな嫌なことがあって。相談に乗ってくれる?」 「うんうん、もちろん聞くさ。どんなことがあったんだい?」 その会話が家族とできる、というだけで、例えば子供がどれほどの安心感を持てることでしょうか。
しかし、もし「こんなネガティブなこと両親に相談したら”元気を出しなさい”!”って言われるにきまっている・・・」としか思えないとしたら、その孤独感、不安、寂しさ・・・といったネガティブ感情が膨らむことは容易に想像できます。
人の自然な状態はポジティブ感情状態ですから、無理にそれを作ろうとする必要はないのです。むしろ、いかにネガティブ感情が出てきたときに、それを分かち合い、一緒に悩むかどうかが大切なのです。
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まずは社長・リーダーから
感情は伝播しあいます。
ですから、社長でも、社員でも、一人でもポジティブ感情状態(落ち着き、安心、希望、明るさ)を上手に保てる人がいると、その影響を受けて、周りの人もポジティブ感情状態になりやすくなります。
逆に言うと、社長でも、社員でも、一人でもネガティブ感情状態(不安、焦り、プレッシャー)にあると、周囲もその影響を受けてしまうのです。
よって、組織のリーダーは、自分のポジティブ感情状態を保ち、メンバーのネガティブ感情状態に対してはそれに寄り添えるかが重要です。それができれば、メンバーの意欲、集中力は高まり、仕事の質が向上して、業績へとつながっていきます。
その第一歩として、リーダー自身が感じているネガティブ感情を素直にメンバーと共有することがとても有効です。リーダー自身もネガティブ感情を溜め込んで増幅させているケースが多く、しかしその状態では自然なポジティブ状態になりません。
これは実際に当社が支援している会社で起きた話ですが、みんなで話し合いをする場で、社長が、「実は、今かなり赤字で、借り入れもしていて胃が痛い。とても不安なんだ。。」というようなことを吐露しました。
その結果どうなったか? ある社員が、「社長、辛い思いをさせて・・・本当に・・・」と泣き出しました。そして、多くの社員はその辛さを受け止めてくれて「社長のためにも頑張ろう!」という流れになり、明らかに組織のムードが一気に変わりました。
社長は自分のの不安を吐露し、そしてそれが許容されたことでネガティブ感情が減りました。受け止めてくれた社員に感謝するというポジティブ感情が生まれました。
社員は、その不安を聞いて、陰ながら社長が支えてくれていたことにあらためて気づき、感謝を覚えたのです。また、同時に「この会社はネガティブな感情でも受け止めてくれる会社なんだ。」ということを感じたのです。
この日を堺に、この会社の組織は格段に進化したのです。
不安を共有し、喜びも共有する 経営において、メンバーがどんな感情状態にあるかは、生産性・業績に直結します。そしてよい感情状態に組織があるためには「不安を共有し、喜びも共有する」というシンプルな原則がとても有効なのです。
もし、あなたが今の会社を、あるいはチームをもっとより良い状態にしたいとお考えなら、まずは自分のネガティブ感情を吐露するところからはじめてみてはいかがでしょうか。そして社員、部下の不安などにも耳を傾けてみてはいかがでしょうか。