Vol.41 会議で今すぐ使える心理的安全性を高める3つのテクニック

今回のご相談内容

うちの会社では、上下関係にとらわれすぎず、社内の会議やチームミーテイングなどでは、できるだけ社員1人1人が自分の考えや意見を発言できる環境であってほしいと思うのですが、どうしても「社長がAといったから」「管理職や上司の好みがこうだから」の結論ありきで話が進んでしまうところがあります。

最近、心理的安全性という言葉をよく聞きますが、こちらとしては、まさに心理的安全性の高い環境……誰もが安心して意見を述べ、質問できるような環境にしたいと思っているのに、部下はどうしても上司がいると委縮してしまうようです。

どうしたら、職場の中で心理的安全性が高まっていくでしょうか。

        

石川からのご回答

ご質問ありがとうございます。

結論から言えば、上下関係がある職場においても心理的安全性は作れます。作れるというか、高めることができます。
   

心理的安全性が高い環境というのは、一人一人が、本音のところを出しやすい場ということです。もっと言うと「普通なら言いにくいと思うことも出せる」ということです。これは同時に「普通なら言われたくないことを、受け止める」ということと表裏一体でもあります。

では、これらの「言いにくいことも言える」「言われたくないことも受け止められる」という状態は、どのように作っていけばいいのでしょうか?

     

会議で今すぐ使える心理的安全性を高める3つの技術

相談者の方も会議の場面で悩まれていましたが、実は心理的安全性が最もでる場面は「会議」です。ですので、まずは会議という場面にフォーカスして説明をしていきます。

会議での心理的安全性の高め方が分かってくれば、それ以外の場面、例えば上司と部下の報告の場面などへの応用も見えてきます。
   

心理的安全性の高い会議の場にするための方法

   

【議論する】と【意見を出す】を分ける

まず、心理的安全性を高める初歩の初歩は(そして、初歩というのは基礎であり、一番大事なことでもあります)【議論する】ということと【意見を出す】ということを分けるということです。

具体的に言うと、議論をする前に「意見を書く」というステップを入れます。

まず数分間の時間をとり、付箋紙などに、各々意見を書き出します。5人で会議をしていたとしたら、5人分の意見が一旦付箋紙に書きだされ、それがホワイトボードなどに共有されます。

最近のオンラインであれば、zoomのチャットに書き出されるなどでもいいでしょう(細かいことですが、いきなりチャットに書き出すのではなく、一人一人が手元に書き出して、そのあとチャットに「写す」ことが重要です)

「一旦書き出す時間をとる」ということは、「いきなりフリーで議論を始める」ことよりも多くの人にとってずっと心理的なハードルが低いものです。こうすると「様々な意見がある」といったことが、例えばホワイトボード上に可視化されます。

これが、フリーで議論を始めてしまうと「まず部長がAがいいと言う」から始まり、Bがいい、Aにはデメリットがある・・・などということが、いきなり”出しにくく”なってしまうリスクがあります。
   

1人1人の発言の持ち時間を確保する

次に「一人一人の発表の持ち時間がしっかりある」という状態を作ります。例えば、書き出した意見に対して、1分間の説明時間を持つようにする、といったことです。

そうすると、5人が1分ずつ説明をした、という状態が生まれます。

これが「自由に議論しよう」だと、一人が5分間持論を述べる、というようなことが起こり得ます。強烈に「絶対これしかない」と誰かが5分間の独演会をしたあとに、それに対して反論を述べると言ったことは、心理的ハードルが高まってしまいます。

ですから「一人一人の発表の持ち時間がしっかりある」状態を作ることで、心理的ハードルを下げるわけです。

発表順を、若手から順にするなどの工夫があるとよいケースもあります。

先輩たちの意見を聞いた後では発表しにくい・・・というような空気がある職場であれば、意図的にそれを崩すような工夫をしてもよいでしょう。
   

I(アイ)メッセージを徹底する

I(アイ)メッセージを徹底する、ということも心理的安全性を高めてくれます。

「私の意見としては・・・である」
「私の考え方としては・・・・である」

という表現方法を徹底します。

例えば「これ以外の方法は考えられない」といった断定的な表現が使われると、違う意見を表出することへの難易度が上がってしまいます。

ですから、会議で発言する際のルールとして「I(アイ)メッセージで話す」といったことを周知徹底するということも、心理的安全性を高める一助になってくれます。

   

 役職上位者が気を付けたい心理的安全性への影響力

   

特に、役職上位者の振る舞いは、会議の心理的安全性への影響が大きくなります。

組織にヒエラルキー構造がある以上は、役職上位者の方がどうしても影響が大きくなりますから、役職上位者が心理的安全性を高める振る舞い」をできるかどうかも鍵になります。
   

会議の場の心理的安全性を低くする振る舞いがあります。

それは、役職上位者が「自分の意見と対立する意見が出てきたとき」の振る舞いとして表れやすくなります。

あからさまに不機嫌な態度をとる、表情が険しくなる、語気が強くなる・・・といった振る舞いがあると、人間は「あ、怒っているな」ということが分かりますので、役職上位者に対する同調的な意見を言うように意識が働き始めます。

このような状態は、心理的安全性が低下した状態です。
   

役職上位者は、自分の意見と対立した意見が出てきても、冷静にそれを受け止められることが必要になります。

これにはEQ的なトレーニングが必要な場合もあるでしょう。「アンガーマネジメント」が一時期流行しましたが、役職上位者が、自分自身の情動部分をトレーニングすることで、会議の心理的安全性を高めることができます。

この際、「厳しさが減って、甘くなるのではないか」と懸念される方もいますが、それについては下記の記事なども参考にしてください。

    

意見を戦わせる前に、背景を共有する

場の緊張感が増す、つまり心理的安全性が低下する場面というのは、意見の対立が起こったときです。意見の対立がそれほど起きていないときは、心理的安全性もそれほど脅かされることがありません。

「A案がいい」「いや、B案がいい」と意見が対立した際には、それぞれ、なぜそちらの案がいいと思っているのかの、理由や根拠を丁寧に共有していくようにします。

「短期的には利益につながるかもしれないが、長期的にみると信用を失い、長期的な利益が損なわれると思う」「今は、短期的な利益を出すことがとにかく大事だ。長期を考える財務的余力はないと思う」といったことを、これもI(アイ)メッセージで共有をしていきます。

A案がよいか、B案がよいかを話している中で、議論を深めていくと「そもそも重要視している観点が違う」ということが出てきます。

ここまできたら一旦、「議論が深まった」という認知をすることが重要です。
    

「重要視している観点が違う」ということが露わになったときは、緊張感が最も高まるときです。つまり、心理的安全性が極めて低くなる局面ということです。

このような場合には、その場で無理に議論を進めずに、可能な限り「時間を置く」ということも、効果的な一手になります。

「(トップダウンでも)スピード感をもって進めることが何より大事だ」

「(時間がかかったとしても)全員の納得感を得ながら進めることが何より大事だ」

このような信念は、その信念を形成するに足る経験などがあって生まれてきます。その信念を否定する(対立意見を出す)ということは、自分の過去の経験を否定されたことにもつながっていくような難しさがあります。

しかし”冷静になって”眺めてみれば、両面大切なことであり、バランスを見ながらやっていくべきことである・・・というようなことも見えてきやすくなります。

その為には、それぞれが「冷静になる」という時間、スペースがあることが重要になります。
   

また、ディベートの手法を用いて「冷静に検討する」ことを促進することもできます。

A案がいいと思っている人は、あえて「B案がよい。A案はデメリットが多い」という立場に立って、議論を考えてみます。B案がいいと思っている人は、あえて「A案がよい。B案はデメリットが多い」という立場にたって、議論を考えてみます。

この思考訓練をすることによって「冷静に両面から検討してみる」ということをしやすくなります。

「時間をとっている」あいだに、一人一人が、ノートに書きだしてみる、といったことをしてみてもいいでしょう。

議論という前に部下の考えや意見の視野が狭く、さすがに社長や管理職が、そこまで付き合いきれないよというような際には、若手社員同士でディベートさせて、その上で意見を提出してもらうというように「社員教育」「人材育成」の場として活用することもいいかもしれません。
   

心理的安全性を高めるためのコツは、他にも書ききれないほどたくさんありますが、まずは「社内の会議」において、ここに書かせていただいたような内容を活用するだけでも、かなり変化があるだろうと思います。
   

今回のご質問に対する回答は以上となります。

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

    

[Vol.41 2020/07/07配信号、執筆:石川英明]