Vol.46 部下に「飲み会は残業代を申請をしていいですか?」と聞かれた

今回のご相談内容

「飲み会は残業代を申請をしていいのですか?」と新入社員から質問をされて戸惑っています。

どうも本人には全く悪気がなく、ただ素直に確認をしに来たようなのですが・・・このような場合、どう対処することが望ましいのでしょうか?

        

石川からのご回答

「飲み会は、残業代を申請にしていいのか?」という疑問・質問が出てくるということについて、流さずによく考えてみるべきかと思います。

この問題については、法律的な観点、時代的な観点、本質的な観点から考えてみるべきだろうと思います。
   

「飲み会は残業代を申請をしていいですか?」と聞かれた

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法律的な観点で考える:強制力の有無

まず、おそらくこの問題は、世代間によってギャップがあると思われます。

シニア世代の方が「なに馬鹿な事言っているんだ」という感じが強くなるでしょうし、若い世代ほど「えー、実質仕事じゃん。残業代出してほしいよ」という感じが強くなるということは容易に想像できます。

法律的観点で言えば、強制力、実質的な業務命令があったかどうか、そこにかかってくるでしょう。

「必ず出ろよ」と上司が言っていればそれは業務に当たる可能性が出てきますし、「出ても出なくてもどっちでもいいよ」と伝えていれば、任意参加の業務時間外のイベント、ということになるでしょう。
   

しかし、実際にはここは極めてグレーゾーンです。
    

「来なくてもいいけど、来れるよね?」と上司から言われたらどうでしょう?

受け取り手によっては「これは、必ず来いという意味だな」と解釈することは十分にあり得ます。

「残業代未払い」といった裁判をもし万一起こされたとしたら、「私は”来なくてもいい”と言った!」と上司が訴えても、実質的に強制力があったと判断されるリスクは、ゼロと言い切ることはできないかもしれません。
   

職種などによっての違いもあります。

営業職の場合「お客様との会食」は、実質、営業活動の一部・・・となっているケースもあるでしょう。だとしたら、これは「業務に当たる」という考え方もできなくはありません。

逆に、調達部のように自分たちが発注側の場合には、「取引先との会食」が、業務上クリティカルであることは減るでしょうから、部署や職種によっても状況は変わってくるでしょう。
   

また「上司から誘われた」ケースはどうでしょうか?

「これは断れないなぁ。。。」と部下が思うようであれば、それは実質、強制力があったということになるかもしれません。
   

では、評価権をもたない先輩からの誘いであればどうでしょう?

こちらの方が断るリスクが低いでしょうが、職場の人間関係を考えると、断りずらいな、、、というようなことはもちろんあり得ます。
   

時代的な観点で考える:終身雇用と転職前提の仕事

終身雇用が社会の基本であった時代には、おそらく「飲み会」は、社会的文化として存在していたと思われます。

職場の上司や先輩と飲みに行く。もちろん残業代を申請するなどという発想はない。それが「サラリーマン生活」として当然のこと、というような風潮があったかもしれません。

これには”終身雇用”という慣習が大きく影響していただろうと考えてよいだろうと思います。

しかし今や、日本社会においても「終身雇用」は前時代的なものになってきました。社会人生の中で、1社に勤め続けるのではなく、転職がある方があたりまえという感覚が「普通」になっています。

それがゆえに、若者ほど「終身雇用なら当然の飲み会は、今の時代ではちっとも当然感がない」ということは起こっているだろうと思われます。

会社へのロイヤリティ、ましてや滅私奉公的な働く感覚は依然と比べればずっと希薄になっているでしょう。
   

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おそらくですが、新入社員や20代の若いビジネスマンは「アルバイト」と「正社員」について、それほど認識の違いを持っていない人も多いのではないでしょうか。(もちろん、人によるとは思います)

どちらも「時間給」で働くものという認識です。「仕事をしている時間に対して、給与が支払われる」ということです。

もし、その感覚だとすれば「時間を拘束されている時間は、極力ちゃんと報酬を請求したい」ということになってきます。
   

本質的な観点で考える:自社にあった文化を醸成する

始業前の掃除時間、みたいなものがあります。

8:30が始業だけど、8:15には出社し、オフィスを15分掃除するという慣習が定着している、といった会社はままあるかと思います。

この15分は「残業時間」になるのでしょうか?
   

これはもしアルバイトの感覚であれば、ほぼ間違いなく「時給が発生する」と認識するでしょう。なぜ、バイト先の店舗の掃除を、ボランティアでやらなければならないのかと思うでしょう。

この延長線上の感覚であると、掃除も飲み会も「会社に拘束される時間」は、全て報酬が発生すべき時間ということになります。

これは、今の時代感なのだろうと思います。
   

しかし、例えば「大好きで尊敬する先輩に飲みに誘われた」というようなケースであれば、誘われた後輩社員はその時間を「残業代請求しよう」とは思わないはずです。

だとすると「本人にとって、その時間などんな時間だと感じられているか」が、本質的な問題だということになります。「いやだけど、仕事だから仕方なくやっている」という認知になるほど「残業代欲しいな」とか「訴えようかな」というものが出てきます。
   

掃除もそうです。

「自分たちの使っている大切なオフィスだから、きれいに使いたいな」と思っていたら、言われなくても自然と掃除をするかもしれませんし、残業代を請求するという発想が出てこないかもしれません。

けれど「なんで、会社の掃除を自分がやらなきゃいけないんだよ。掃除は自分の業務じゃないだろ。業務命令で掃除させるなら、ちゃんと評価項目に掃除を入れといてくれよ。これじゃただ働きだよ」みたいに認知しているとしたら、不満もたまるでしょうし、臨界点を超えれば訴訟に至るかもしれません。

   

全般的に言って、若い世代は以前よりずっと「アルバイト感覚」は強くなっているように思います。

しかし、これは言い方によっては「プロ意識が高まっている」とも言えます。ちゃんと対価をもらえないところでは、仕事はしないぞというのは一種のプロ意識です。
   

解決策に正解はありませんが、自社はどうマネジメントしていきたいかはよく考える必要があります。

飲み会、社員旅行、社内運動会・・・こういったことを頻繁に行い「家族的」な経営を行いたい、ということであれば、その文化が醸成される、根付くようなアプローチが必要になるでしょう。

飲み会は、残業代は出ないけれど、会社にとって大切な時間なんだ・・・という「文化」を共通認識として持てるようにしていく必要があります。

逆に徹底して「会社主催の飲み会などはしない。当然、飲み会に給与が発生することもない」という方向にすることも考えられます。
   

どちらの方がよい、ということはありません、

自社のマネジメントとしては、どのような会社で行こうとしているのか、判断は必要と言っていいでしょう。

     

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.46 2020/08/11配信号、執筆:石川英明]