Vol.47 「何故この仕事をやらないといけないんですか?」に答えるのは上司の仕事か
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今回のご相談内容
中小企業の管理職をしています。
6月に人事異動があり、自分の直下に新しい部下が配属されたのですが、「なんで、これをやらないといけないんですか?」「この仕事には何の意味があるのですか?」といったように、業務内容に対して、「何故?」という質問をよく投げられます。
その何故を説明するのに、会社全体の話や長期的な観点も踏まえて話さないといけなかったり、上司とはいえ、恥ずかしながら即答できない問いもあり、正直面倒に感じることも。
部下の何故?に答えるのはやっぱりマネージャーの仕事なのでしょうか?
石川からのご回答
部下の「なぜ?」に答える必要性
「なぜ、それをしなければならないのか?」
この疑問がわいたときに、どういうレベルの回答が得られれば腹落ちするかは、人によって違います。
学校の勉強でも「なぜこの勉強をしなければいけないのか?」と思ったりするものです。
それに対して「いい大学に入るためには、勉強していい点を取らないといけないんだよ」と伝えて、それで「なるほど」となる生徒もいるでしょう。しかし、「なんで、いい大学に入らなきゃいけないの?」とさらなる疑問をもつ生徒もいるでしょう。
最初の回答「いい大学に入るためには、勉強していい点を取らないといけないんだよ」で納得して、勉強に集中できるようになる生徒は、聞き分けのよい「いい生徒」ということになるかもしれません。
それに対して「なんで、いい大学に入らなきゃいけないの?」と、さらならる疑問をぶつけてくる生徒は「悪い生徒」ということになるでしょうか?
本質的に思考する力が高い生徒ほど「なぜ?」のレベルが深くなってくるところがあります。そうすると、その質問に回答する側の教育者も、深いレベルで「なぜ」に答えられる必要が出てきます。
「なぜ、いい大学に入らなきゃいけないのか。それは学歴と年収はかなり比例するからだよ。いい年収を得て、いい人生を送ろうと思ったら、勉強しなきゃいけないんだよ」
これで納得する生徒もいれば、納得しない生徒もいるでしょう。
「でも先生、年収が高いと本当にいい人生になるの?僕の親せきにおじさんは、年収は高くないらしいけど、何でもよく知っているし、とても楽しそうだよ?」
さらにこのような疑問をぶつけられたら、どう回答すべきでしょうか?
出典:写真AC
上司が部下に業務を指示する際にも同じ構造は起きてきます。
「これ、やっといて」だけで済む場合もあります。しかし、面従腹背で、本当は納得していないようだと、なかなかその頼んだ仕事で高い成果を上げてもらうことは期待できなくなってきます。
「なんで、これやらなきゃいけないんですか?」
この疑問を持つことはある意味、人間として自然なことです。意味が感じられる、納得できるということは人間にとって大切なことだからです。
でも、上司としては「面倒な部下」でもあります。
この面倒さに向き合わなければいけないところが、マネジメントという業務にはあります。そして本質的思考力の高い部下、人材ほど「面倒さ」が増してくるところがあります。
これは確かに面倒ですが、この面倒さに応えることで、確実に自分自身の上司力やリーダーシップといったものを高めていくことができます。
部下がどこで腹落ちするか
「何故、これやらなきゃいけないんですか?」と聞かれて、例えば「在庫を圧縮するためだよ」だけで済むかもしれません。
でも、まだ疑問が残っていることもあります。
「在庫を圧縮すると、保管費なども減るし、利益が増えるからだよ。利益貢献のためだよ。」「利益を出すことが大事だからだよ」
それでもまだ「なんで?」は残っているかもしれません。例えば「利益が増えても、自分の給料は増えないですよね?」など。
「利益が増えると、いろんな選択肢が増える。ボーナスの原資にすることもできるし、次の事業投資に回すこともできる。事業投資ができれば、事業の継続性を高めることができる。それはつまり、雇用の継続性を高めることにもつながることだよ。短期的に給料を増やす、以外にも利益の使い道はたくさんある」
「でも、事業の継続性って、つまり会社のためですよね?」
さぁ、ここまで疑問をぶつけられたら、どう答えるでしょうか?
「もし、事業の継続性を、会社のためだけだと思って、自分のためにはなっていないと思うのなら、会社員はやめた方がいいかもしれないね。会社員は、来年も再来年も会社がある、つまり、仕事があって、給料もあると思いながら働けるのが大きなメリットだと思うよ。
もしそれが違うのなら独立して自分で仕事をすればいい。来年、再来年、仕事や収入があるかは全部自分次第だ。
会社に利益があって、事業の継続性が高まる、ということを”一緒に頑張ろう”と思えないなら、そっちの道を選ぶのも選択肢だね」
ここまで言われて「ああ、初めて、会社から利益を増やせと言われる意味が分かりました」となる社員もいるでしょう。
そして「なら、在庫管理の業務頑張ります!」となったりするわけです。
しかし、これでもまだ納得しない社員もいるかもしれません。
「でも、利益を増やすってことは、顧客からより多くのお金を取るってことですよね。顧客のためには、利益を減らすべきなんじゃないですか?」
こんなことを考える社員もいるかもしれません。
これについて、あなたならどう答えるでしょうか?
「そんなの当たり前だろう」とか「仕事なんだから、やれよ」といった回答は、説明を放棄しています。
放棄された方としては、本当に納得するとか、腹落ちするということはなくなります。そうなれば、仕事への意欲や集中力といったものも下がらざるを得なくなります。
全ての疑問に完璧に回答するということは難しいかもしれませんが、マネジメント職にある人は、「どんな疑問に対しても、自分なりの持論で回答できる」というものを持っていることが求められると言っていいでしょう。
そしてもし「自分なりの持論で回答できない問い」を、部下などから与えられた場合には「自身のリーダーシップを高めるための問いをもらった」と捉えられるとよいと思います。
そのような場合には真摯に「これは即答できない質問をもらったから、しっかり考えて回答するから、ちょっと待っていてほしい」というような対応ができることが望ましいでしょう。
マネジメント職は、部下のどんなレイヤーの「なんで?」にも回答して、「私はこのために頑張っているんだ」とスッキリ、集中できるように支援できるとよいでしょう。
それによって部下や自部署や、自社のパフォーマンスが向上するのです。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
[Vol.47 2020/08/18配信号、執筆:石川英明]