Vol.63 中長期的な見通しや会社全体の話に対して、社員が「会社の言いたいことがよくわからない」状態になっている
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今回のご相談内容
年始に今年1年の目標と中長期の見通し、会社全体で取り組んでいく課題を社員に発表したのですが、中長期的な展望や課題、会社全体でやっていかなければいけないところについて、イマイチ社員が理解できているように思えません。
こういったところを考えていくのは社長や役員の仕事ではありますが、現場の社員たちが「会社の言いたいことがよくわからない」、「社長は何を言っているんだ」という状態では困ります。
情報はかなり開示している方だと思うので、その情報をみて社員が自分でも考えられるようなチカラ、「全体的な視野をもって考えられる力」や「長期的な視野をもって考えられる力」を高めたいと思うのですが、どうしたらよいでしょうか?
石川からのご回答
役割分担による効率化が全体的な思考を狭めてしまうジレンマ
現代の企業経営は「効率化」を求めるため、役割範囲を小さく定めて、その範囲の中の専門性を高めるように動いています。そうすると、専門性は高まりますが、どうしても全体的な視野というのは持ちにくくなります。
経理の専門家は、営業のことが分からず、営業の専門家は、生産のことが分からず、生産の専門家は、経理のことが分からない、、、というようなことが容易に起こります。
このような状況を打破するために、一つ考えられた方法が「ジョブローテーション」です。他の部署の仕事についても実際に経験するため「会社全体としては、関係しあいながら仕事をしているのだな」としっかりと実感することが出来ます。
しかしジョブローテーションにもデメリットはあります。「自分は営業の専門性を磨きたいのだから、経理部へ異動なんかしたくない」といった社員のモチベーション低下や離職を招くリスクがあります。また、営業部からすれば戦力の社員がいなくなり、経理部からすれば素人の人間が入ってきたので教育負荷がかかるというようなことも起こります。
これらのことから「ちょっとジョブローテーションをやるのは難しい・・・」という状況の会社も多いことでしょう。
では、ジョブローテーション以外に「全体的な視野を持たせる」方法はないのでしょうか?
社員の全体的(総合的)な視野を高める解決策のひとつは〇〇
解決策の一つになりえるのが「ディベート思考力」を鍛えることです。
例えば経理部と、営業部で問題があったとします。
「経費精算完了の責任をどっちが持つのか」といった問題について、営業部の人間は「経理部の立場として、営業部が責任を持つべきだ」という論を主張し、経理部の人間は「営業部の立場として、経理部が責任を持つべきだ」という論を主張します。
これがディベートです。
出典:写真AC
このディベートをしっかりと行うことで【複眼的思考】が身につきます。自分の立場の視点からだけで考えるのではなく、他の立場の視点からも考えられる力がつきます。
これは、そのまま「全体的な視野を持って考える力」につながっていきます。
全社員が「全体的な視野を持って考える力」がなければいけないわけではないでしょうが、少なくとも「営業部長」や「経理部長」が、これらの力を持っていることは、企業経営に確実にプラスに働きます。
営業部のことしか考えない営業部長よりも、経理部や生産部のことも考慮して判断できる営業部長の方が、会社全体にとってより適切な判断ができることは明白です。
本質的に長く続く会社であるために
「長期的な視野を持って考えられる力」については、より意図的に「組織的に育んでいく」意識が必要となるでしょう。
企業経営の基本単位は「1年」です。
これは税務上の単位ですが、どうしてもこの税務上の単位に影響を受けてビジネスをすることになります。税負担の影響の大きい中小企業にとってはなおさらです。自ずと「今年をどう乗り越えるか」という発想が、企業経営の中核を占めるようになってきます。社長は部長に「今期の着地見込みは?」と聞くでしょうし、部長は部下に「今期の目標を達成するぞ!」とはっぱをかけることでしょう。
そうなると「うちの会社を取り巻く環境は、5年後、10年後にはどのように変化しているだろうか?」「その変化に対して、今のうちからどのようなことをしていくべきだろうか?」ということを考えることは、日常業務の中ではほとんど起こらないということになってきます。
しかし実際には、企業経営の舵取りをする際には、5年10年単位での大きなが流れを見通しながら、それも踏まえて適切に対処していく必要があります。そして「10年後を見据えると、今やっているAはやめて、Xを始めるべきだ」といった判断も必要となることがあります。
出典:写真AC
このときに「現場の、長期的な視野を持って考えられる力」が低いと、相談者さまが危惧されているとおり、社長だけが長期的視野から判断しているけど、現場には全く理解できない、むしろ不満が募る・・・というようなことも起こりえます
ですから仰るように、社員の方の「長期的な視野を持って考えられる力」もとても重要となるわけです。
日常業務の中で自然と育まれることは期待できないわけですから、これは意図的に時間をとって伸ばしていくしかありません。
例えば年に1回は、社員たち自身が「自社を取り巻く環境の、今後10年間の変化はどんなことが予測されるか?」を調べたり、考えたりする時間をとるということです。
この時間は「明日、業務に戻って役に立つスキルの獲得」といった種類の研修などとは違うものになります。ですから、現場社員からすると「こんな時間とって意味あるのか」という不満もでるかもしれません。
しかし、いざ経営者が、先をを見据えた経営方針を発表した際には、これらの時間を持っていることがボディブローのように効いてくることになります。
しっかりと「先を考える」という習慣が(年に1回だとしても)ある現場では、「社長の先を見据えた方針は理解できる。自分たちも、現場で出来るところからやっていこう」と、受け入れて実行していく力が高くなるわけです。
なお、経営者が社員に「長期的に考えることが重要だ!」といくらメッセージを発したところで、それだけでは現場の長期的思考力が高まることはまずありません。
なぜなら、現場社員は、ほとんどの場合「今期の目標達成にどれくらい貢献できたか?」という評価指標に、良くも悪くも行動を管理されているからです。
ですから「長期的に考えることが重要だ!」という場合には、実際に「長期的なことを考える時間(研修など)」を業務命令として確保することが重要です。そうすることによって初めて、現場の長期的思考力を高めていくことが出来ます。
今回の回答は、以上となります。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
[Vol.63 2021/1/12配信号、執筆:石川英明]