Vol.94 時代の変化に中小企業が取り残されないために
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今回のご相談内容
前回の記事の時代変化とパワハラの記事を拝見して、実際に目に見えるカタチでは問題にはなっていませんが、弊社でも至急対策を進めたほうがいいテーマだと思いました。
このパワハラの問題だけではなく、環境問題やLGBTなど、市場変化による単に事業面の領域だけではなく、もっと会社全体、組織や企業の在りかた自体を見直さなければいけないのだろうかと考えています。
大企業の話だけかと思いましたが、中小企業でも取り組んでいく必要があるのでしょうか。そしてまずは何から取り組んでいけばいいのでしょうか。
参考:令和の悩み ~部下育成とパワハラ
http://co-ducation.com/management093/
石川からのご回答
最近、時代の変化について、中小企業の経営者の方とも語り合う機会が多くあります。時代は変化し続けているわけですが、とりわけこの数年はそれが大きく早くなっているように実感している経営者の方が多いのだなと感じます。
コロナによってリモートワークが一気に増えたこともそうですし、SDGsといったキーワードが普及してきたこともそうです。若い世代が「黙って上の人に従う」ということも随分減ってきました。
社会的に見ても、LGBTなども随分変化があり、カフェのトイレに「All Genders」と書かれることも出てきました。トランスジェンダーを受け入れると発表した女子大学もあります。
日本型経営の象徴的な存在だった終身雇用も、今や昔という感じですし、メガバンクの新卒採用数は、この5年ほどで半減しています。どんどんと変化していっています。
そして、経営は、この時代の変化の波にうまく対応する必要があります。
「ビジョナリーカンパニー4」はそのことを丁寧に説明してくれています。VUCAと言われる時代には「変化はあり続けるもの」として、経営をしていく必要があります。
成人発達理論が注目されるようになった理由
近年、ハーバード大学のロバート・キーガン教授などが発信している成人発達理論が注目されているのも、この時代の流れと無縁ではないでしょう。
成人発達理論では、発達の上位段階として「自己変容段階」というものが設定されていますが、これはまさに「時代の変化と共に、自分自身も変化し続ける」というリーダーが求められているということです。
「ビジネスはこういうものだ」
「顧客はこれを欲しがっている」
「社員が重視するものはこれだ」
こういった自分の中の常識、信念、価値観といったものが、時代の変化に合わなくなってくるものがあるため、常に自分自身の考え方や価値観といったものを吟味し、必要に応じてアップデートしていく必要があるわけです。
昔は少しくらいの体罰であれば、先生が生徒に行うことはそれほど問題視されませんでしたが、今は大問題になります。
昔は「女の子は、飲み会でお酌する」ということを当たり前に求めていたでしょうが、今それを行ったらセクハラ、パワハラだと言われる可能性は極めて高いでしょう。
昔は、終身雇用が中心で、転職というのはドロップアウト的なニュアンスがありましたが、今働いている人たちでそのような感覚を持っている人は少数派になってきていることでしょう。
私が新卒で入った外資系の会社は、徹夜して仕事をするのは当時は普通のことでしたが、20年経った今、徹夜して仕事をしている社員はほぼいないそうです。「昔は良かった」などと言っていると、あっという間に時代に取り残されていってしまう危険性があります。
昔は「会社‐社員」の関係で言うと、会社の方が強かったと言えるでしょう。転職も難しく、入社した会社で頑張り、上の人に認められることで出世していくということがあったかと思います。
しかし今は「パワハラだ」と訴える力が社員にあり、もし訴訟沙汰にでもなれば、むしろ会社の方がダメージが大きいこともありえるわけで、「会社‐社員」の力関係も変化してきたと言えると思います。
求められる経営マネジメントの変化
様々な要因が背景にありますが、昔は上司が「Aは却下。Bでやれ」と命令しても、機能する場面が多かったものです。しかし、今はそれは非常に通用しづらくなっています。
終身雇用が失われ転職が当たり前になり、以前ほど「上司の言うことを聞く」ということが当たり前でなくなっていたり、実際にビジネス環境の変化が大きくて、上司も自信をもって正解だと言い切れなくなっていたり、様々な要因があると考えられます。
ここで書いているような変化は「そんなのはもはや当たり前」という感覚のものも多いかもしれませんが、あらためてこういった変化を言語化して、認識しておくことも大切だろうと思います。
但し、この時に「なんでもかんでも新時代に迎合しなければならない」ということではありません。
しかし「なぜその判断になるのか」について、しっかりと説明ができないものについては、考え方をアップデートする必要があるかもしれないこともまた事実です。
例えば「会社にかかってきた電話は、真っ先に新人が出ること」ということを長い間新人研修などでもお伝えしてきました。
ただ「なぜ、電話に出るのは新人でなければならないのですか?」という質問に、上司もしっかりと答えられる必要があります。もし「いいからやれ」「生意気言うな」といった反応しかできないとしたら、それは「マネジメント側も変化しなければならないのかもしれない」という兆候であると言ってよいでしょう。
だからこそ、成人発達理論が注目され「自己変容型リーダーシップ」といったものについて真剣に検討されているわけです。
自己変容型リーダーシップは難しいが…
「自己変容型リーダーシップが大切だ」というのは、言葉で言うのは簡単ですが、いざ実践するとなると、これはそう簡単ではありません。自分が慣れ親しんだ常識や価値観を変更するというのは大きなストレスです。
「私が間違っているというのか!!」と言いたくもなりますし、実際にその常識や価値観で上手くいった成功体験もたくさん持っていたりします。だからこそその常識を大切にし、その価値観を強化してきたりしているわけです。
例えばですが「初めての取引先には、必ず直接お会いしてご挨拶をする」というのが常識であったとしても、「え、部長、最初からオンラインでも、全然普通に仕事になりますよ」というようなことは、多々起こっているわけです。
こういう時には「なぜ直接会うことが重要だったのか?」「メールや電話ではなく、直接会うことでしか得られない成果はどんな要素だったのか?」といったことを改めて整理し、言語化していくことが必要になります。
そうして要素の整理を行うと「要素のうち8割は、オンラインでもカバーできる」「しかし、残った2割はどうしてもオンラインではカバーできない」といったことも見えてくるでしょう。
こうした吟味を行い、言語化を進めることで、例えば社内のジェネレーションギャップなどについても、効果的な対応を進めていくことができるはずです。
今回の回答は以上となります。
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。
[Vo94. 2021/10/06配信号、執筆:石川英明]