Vol.96 「社員の意識が低い」「社員のガツガツ感が足りない」
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今回のご相談内容
経営者や管理職の方から「社員の意識が低い」「社員のガツガツ感が足りない」といったお悩みをお聞きすることがよくあります。人の意識を変えることはできるのでしょうか?
石川からのご回答
人の「意識」を変えることはできるのか?
部下の意識を変えようと思って、一つ目の手段は諭すことです。諭す、教える、ティーチング、伝える・・・といったジャンルのことをしていくことです。
「もっと仕事への意識を高く持ってやらないといけないぞ」「前向きに取り組んだら仕事は楽しくなるよ」「仕事に情熱を注ぐのは素晴らしいぞ。どんな素晴らしがあるかというと・・・」というように語りかけていくわけです。
これが刺さる部下もいれば「ちょうど刺さるタイミングだった」というときもあるでしょう。10人の部下がいれば、1人か2人かくらいには、この諭す、語りかけるということで「あ、部下の意識が変わった」ということも起こるだろうと思います。
しかし、全員が全員語りかけるだけで変わってくれるわけではありません。
「またお説教か」
「あなたは仕事人間かもしれないけど、私は違うんですよ」
そんな本音を押し殺したまま、上司の有難い話を聞き流している・・・というような状況はよく起こります。
伝わっている感じがしない、理解されている感じがしないとなると、語りかけている方もストレスを感じてきますから、だんだん腹が立ってきます。「おい!ちゃんと聞いているのか!」「分かってんのか!」というように怒りが含まれるようになってくることもあるでしょう。
そうなってしまったら「すみません。よく分かりました。今後は心を入れ替えて頑張ります(・・・って発言しなかったらこの無意味なお説教がずっと続くんでしょ。もう早くこのお説教をやめてほしいから、頑張りますと言っちゃおう)」というようなことにしかならなくなってしまいます。
評価制度を成果主義にしたら意欲的に仕事に取り組むのか?
評価制度を明確に運用して、部下に変わってもらうという考え方もあります。
「これができてないからA評価にできないよ。B評価だよ」と。しかし、ずっとC評価にはならないものの、B評価に留まり続ける部下がいるとやはり【諭す】ということをしたくなってくるかもしれません。
「A評価目指して頑張れよ。評価が上がったらいいことあるぞ」
評価制度そのものの存在が「自分はB評価でも構わない」と思っている部下の意識を「何が何でもA評価を取れるように、死に物狂いで頑張るぞ」という意識へと変化させてくれるわけではありません。
評価制度がうまく機能していないと「せっかく頑張ったのに評価されない」と社員をスポイルしてしまう面はありますが、評価制度が存在しているからと言って、それによって社員の意識が必ず高まるというわけではありません。
「分かりやすい成果主義の人事制度になって、結果を出せば出すほど給料も上がるし、だからやる気が出てきた!」
というタイプもいるでしょうが、
「そんなガツガツ働いて、無理にA評価じゃなくてもいい。無責任に働く気はないけど、普通に責任感を持って仕事をしてB評価でも全然かまわない」
というタイプもいるわけです。
そういうタイプに対しては「評価制度を、成果主義的にすれば、意識が変わる」ということはほとんど期待できないものです。
こう眺めてみると、諭してもダメ、評価制度を改善してもダメ、結局、人の意識なんて変わらないじゃない
かという感じがしてきます。しかし、一方で「意識がガラッと変わった」というケースをたくさん見てきているのも事実です。
- 数字の達成に対する意識がほとんどなかった管理職が、利益向上に向けてバリバリと動き出した事例
- 「なんでも上の言われたとおりにやりますよ」というスタンスだった社員が、自分からどんどん考えて動くスタンスに変化した事例
- できない理由ばかり論理的に挙げていた幹部が、リスクがあることを承知したうえでチャレンジするようになった事例
など、そういったケースは多々あります。
そうすると「人の意識は、変わることがある」というのもまた事実だなと思います。
人の意識を変えることは難しい、けれど、人の意識が変わることはある。
こんな表現が適切なのかもしれません。
そもそも社会人になる前の段階で・・・
私は以前、学生から社会人になるというタイミングの就職活動というイベントを支援していました。
そこで多くの学生の本音に触れてきましたが、多くの学生の本音は「就活なんてめんどくさい」「会社員になんてなりたくない」「なりたくないけど、食っていくためには仕事をしなきゃいけない」というようなものでした。社会人になる、仕事をするという根っこの部分で、そういう考え方や意識というものを根強く持っているわけです。
だから当然、会社に入った後も急に意識が変わるわけではなくて「仕事なんてしたくないけど、食ってくためには仕事をしなきゃいけない」という意識で仕事をすることになります。
「食ってくために仕事はするけど、最低限でいい」
「人生の楽しみや、やりがいとかは、プライベートの時間にあればいい」
そのような意識が強かった時に、会社で経営陣や上司から「意識を高く持って仕事をしよう!」という話をされても、本音では全く響いていないということになります。
手前みそながら、主催していた就活塾の実績はなかなかのものでした。100%全員が、希望企業に入社とまではいきませんでしたが、多くの学生が納得のいく就職活動をできていたと思います。
やってみて分かったことは「社会人になる、仕事をする、会社員になる」ということに対して前向きな意識になれた学生は、就職活動で大成功していくわけです。そして、就職活動にいやいや取り組んでいるような学生は、結局苦労するのです。
だから私は、塾に参加してきた学生が「社会人になる、仕事をする、会社員になるということに対して前向きな意識になれる」ように支援するということが重要な仕事でした。
多くの就職活動者を支援してわかったこと
まず学生に聞くこと
就活塾をしていたときに「ぶっちゃけ、社会人になりたくない、就活めんどくさいという人は?」ということをよく聞いていました。そうすると、素直な学生が何人か手を挙げてくれます。手を挙げていない学生でも、心の中では思っていたということもあったろうと思います。
理由を聞くと、色々出てきます
「周りの大人を見ても、全然楽しくなさそう」
「つらいことを我慢してやるのが仕事だ、と言われたことがある」
「会社に入ったら、理不尽な上司の命令に沿って動くことになるんだと思っている」
そりゃ、そういうものだと思っていたら、社会人になりたい!仕事をするのが楽しみ!などとならないだろうな、、、というものが続々と出てきます。
これらの意見を頭ごなしに否定するのではなく、まず受け止めます。
「なるほど、そういう印象を持っているんだね」と。そして「そうしたら、面倒くさいみたいなに気持ちにそりゃなるよね」と。
人は、自分の本音を否定されると頑なになりますが、自分の本音を受け止められると、ちょっとゆとりがでて、柔軟になります。
「え?もしかして、そうじゃない仕事人生とかもあるの?」
そんな隙間がちょっと生まれてきたりします。
固定観念を揺さぶる大量のシャワー
就活塾では、友人・知人たちの協力を得て「仕事が楽しいという社会人」に大量に会ってもらうということをしていました。そうすると、学生たちの「社会人像」「仕事像」というのが揺らいでくるのです。
「え、仕事はつまらないものだって聞いてたのに、次々と違う話をされる、、、」
「え、上司の命令は絶対って聞いてたのに、次々と違う話をされる、、、」
これは、一人だけが話をして「それはあなたが特別優秀な人で、別次元にいるからでしょ」という感じになってしまうので、短期的に大量にシャワーのように浴びてもらうのが重要です。
このシャワーを浴びた後だと「どうやら、世の中には仕事を楽しんでいる人もいっぱいいるらしい」「もしかしたら、楽しい仕事人生と、辛い仕事人生は、自分次第で選べるのかもしれない」というようになります。
しっくりくるメタファーを探す
私のお世話になっている経営者の方が「やっている仕事と、自分の趣味が、同じ構造だと気づいてから、仕事が楽しくなった」と仰っていました。
広告などのお仕事をしているのですが、趣味は競馬です。「なんだ、競馬と同じじゃん」となってから楽しくなってきたと。「当てる」という感覚は、ご本人にとっては本当に近いそうです。
「仕事は●●みたいなもの」というメタファーをどのようにとらえているか。自分にとってしっくりくるものが出てくると、仕事に対する前向きさが高まりやすくなります。
就活塾では、各学生の「夢中になってきたこと」「ハマってきたこと」を根掘り葉掘り聞きました。それは面接で話すネタ探しでもあったのですが、一方で「仕事観」を膨らませるためでもありました。
例えば受験勉強を死ぬほど頑張った、大変だったけど、あれはあれですごい充実感や達成感があったという話があったとします。そうしたときに「仕事でも、同じような充実感や達成感を味わえたりするよ」という話ができると「ああ、仕事って受験みたいなもんだったりするのか」と、本人の中でしっくりくるメタファーができてきます。
「スノボーを死ぬほどやってきました。冬の間はずっと雪山にいました。でも、そんなの仕事じゃ無理じゃないですか」
「スノボーのどういうところが楽しかったの?」
「上手くいかないところですね。どんなに上達しても、上には上がいて。それがすごく面白くて。もっと上手くなりたいってずっと思ってます」
「それ、仕事でも味わえるかもしれないよ」
「ホントに!?仕事に、スノボー要素なんてあるんですか??」
こんな会話をしたこともあります。
実際その後、スノボーというスポーツを楽しむように、就活というイベントをスポーツのように攻略していきました。
このメタファーは、本人にとってしっくりくるものでなければ意味がありません。自分の体験に紐づいているからこそ「しっくり」くるのです。
そうすると例えば高校時代バスケ部だった私が「仕事はバスケみたいに楽しいよ!」と伝えても、バスケに対するポジティブな体験がある人以外はまったくピンとこないでしょう。
だからこそこれも【聞く】のです。
社員の意識の変化を促進するために
今回は就活塾の例を中心にお話ししましたが、こういった要素を経営の中に取り込んでいくことによって、社員の意識の変化を促進することができるだろうと思います。
前回の記事(仕事への意識を入社後にマネジメントで高めることはできるのか?)でも書きましたが、意識や心の変化というものは「こうすれば、必ずこうなる」というような1対1対応の数式のようなものにはなりません。どんな働きかけも「刺さる人には刺さる」「刺さるタイミングでは刺さる」ということであって、やれば100%変化が起きる、ということにはならないものです。
しかし「意識の変化を促す引き出し」のバリエーションを多く持っていて、環境を用意し続けることで、前向きな変化を引き出す可能性は高くなります。
長年ご支援している会社さんは新入社員が入ってきて数年たつと「仕事観」が熟成されていっているのがよく分かります。
それは今回書いたものでいくと「大量のシャワー」に近いものですが、先輩社員たちが、日々楽しく、やりがいを持って、仲間と協力的に仕事をしているので「仕事ってそういうもんなんだ」というのを浴びて、吸収しているのです。
こういう会社というのは本当に強いと思います。
[Vo96. 2021/10/19配信号、執筆:石川英明]