Vol.107 感染症問題から考える―視野の狭さの問題(システム思考の欠如)
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今回のご相談内容
会社の話ではないのですが、先日ある経営者の方とお話していて、感染症の話になりました。
「あの感染症の専門家という人たちはどうも困りましたね」
そんな話になりました。
どうもテレビでこのような話があったそうです。
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「我々は、感染症の専門家として感染症を抑え込むための方法を提言している」
「その方法のせいで経済が止まって、うつ病や自殺が増えたらどうするんですか」
「それは精神科の医者などが考えることで私たちの考えることではない。我々は感染症の専門家として感染症を抑え込むための方法を提言している」
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・・・、確かにこんなスタンスでいられたら「どうも困りましたね」という気持ちになるなと思いました。
しかし、このような「どうも困ったこと」というのは、構造としては全く同じことが、実は会社組織でもよく起こったりします。
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「我々は、コンプライアンスの専門家として、コンプラ違反を抑え込むための方法を提言している」
「その方法のせいで、売上、利益が減って、給料が減ったり、解雇者が出たりしたらどうするんですか」
「それはコンプラ委員会の考えることではない。我々はコンプライアンスの専門家として、コンプラ違反を抑え込むためのの方法を提言している」
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「我々は、営業として、受注のために必死にやっている。」
「その営業方法のせいで、受注後のクレームが大きくて、むしろ会社の評判を落としたりしたらどうするんですか」
「受注後のことは営業の考えることじゃない。営業は、受注のために必死にやっている」
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さすがに直接的にこのような会話はなくても、実態としてはこのようなコミュニケーションが起きてしまっている企業も少なくないのではないでしょうか。
今回は何故このようなことが起きてしまうのか解説していきます。
石川からのご回答
視野の狭さの問題 ―システム思考の欠如
「専門ごとに部署を分けて、部署ごとに専門性を高めていく」という役割分担の動きは、どのような組織にも大なり小なり存在しています。内科医と外科医で分かれている、営業と生産で分かれている、そういうようなことはとても普通にあることです。
そして「自分たちの担当範囲は、ここからここまでだ」という意識が生じます。
全体のなかで、その中の部分を担っているという感覚よりも「私の責任はこの範囲にしかない」という意識が強くなってしまいます。そうすると「うちの部署としてはこれが最善だ」という発想が強くなります。いわゆる部分最適というものです。
図で示したように、これは「私たちはここの部分だけ考えていればよい」という視野の狭さから生じる問題です。
営業局面で
- 「何が何でも受注することが重要」
- 「とにかく顧客に買いたいと思わせて買ってもらう」
- 「なんでもできます、他社より全て性能がいいですと訴える」
といったことをすれば受注はできるかもしれません。
しかし営業局面で、顧客の期待値を高め過ぎれば「言ってたのと違うじゃないか」とクレームにつながるリスクも当然大きくなります。
しかし「受注後のことは、営業の仕事じゃない(とにかく売上という数字を作ることが仕事だ)」という視野で仕事をしていれば、図にある「全体で起こっていること」については考えなくなってしまいます。
多くの企業が専門家を育てる傾向を持っている
私達は、社会全体が、特に企業組織においては「専門家を育てる」という傾向を強く持っています。
例えば
- 部署を分ける
- 同じ部署だけで何年も経験を積ませる
- 部署ごとに責任範囲を明確にする
- 部署ごとに評価指標を明確にする
- 評価指標に沿って評価を行う
- 評価指標外の行動は評価しないか、罰する
こういうことをしていると、あえてきつい表現をしますが、専門バカを育成していくことにもなります。
専門性を高めることのメリットは大きいものがありますから、バランス感覚を持つ必要がありますが、専門性を高めることのデメリットについても十分に配慮が必要です。
一人の人間が、法務も財務も営業もITも、全て深く理解しているということはとても難しいものです。だからこそ、部署などを分けて、それぞれの専門性を磨いているわけです。
しかし、法務は法務のためにやっているのではなく、経営のためにやっています。経営のことを考えたら、財務も営業もITも全く知らないというわけにはいかないのです。
短期的な直線的思考だと「問題があれば解決すればよい」ということになりますが、現実的には多くの場合「遅れて副作用がやってくる」ということになります。(それをしっかりと考えるのがシステム思考です)
視野が狭い人には何が足りていないのか
その解決策を実行して問題がなくなった結果、その後どうなるか?
このことを考えることは非常に重要です。そして、自分の専門分野を超えた副作用について意識することが必要です。
例えば、不祥事が起きた企業において「管理体制を強化する」という解決策を取ると一時的には不祥事が減りますが、副作用として「不祥事がより隠蔽される」「管理ばかりで本業がおろそかになる」ということが起きたりします。
例えば、業績不振の企業において「値引きによる営業攻勢をかける」という解決策を取ると一時的には業績が回復しますが、副作用として「より厳しい価格競争に巻き込まれる」「品質強化への投資がおぼつかない」といったことが起きたりします。
このような全体性を俯瞰する力はとても大切です。
一般的にこのような俯瞰力は「役職が上がるにつれて徐々に養っていく」という認識が強いかもしれません。
しかし私は「専門性と俯瞰力は、若い頃から同時に鍛えていく」ことがよいと考えています。そしてそれが可能であり、効果的であることも、実体験から確信しています。
新入社員の頃から「会社全体の部署の関係性はこうなっていて、その全体性の中で、私が配属された部署の役割はここなのだ」ということを認識しながら仕事をしていくことはできるのです。
そして「自分の部署さえよければよい」という発想で仕事をするよりも、よい仕事ができることは言うまでもありません。
具体的なトレーニング内容については、サービスとしてご提供しておりますので、「もし、自社の社員のシステム思考を鍛え、若手社員から会社全体について考えながら仕事に取り組むような会社に成長していきたい」という方は、是非まずはお問い合わせいただけましたら幸いです。
いかがだったでしょうか。
今回の質問に対する回答は以上となります。
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。
[Vo107. 2022/01/25配信号、執筆:石川英明]