人のモチベーションや創造性の高め方は?
人のモチベーションや
創造性の高め方は?
こんにちは。会社活性化メール講座、2日目です。今日もよろしくお願いします。
今日のタイトルは「人間のモチベーションや創造性はどうやったら高まるのか?」です。
昨日は、これまでのマネジメントの常識が、人の意欲を阻害してしまう面があることについて触れてきました。次は「では、どうしたらよいのか?」を考えていきたいわけですが、その前提となる、マネジメントにおいて重要な研究成果について確認をしていきたいと思います。
1日目のクイズの答えは、本日の記事の最後にお伝えします!
動機づけ衛生要因理論
仕事の満足度が
高まる要因と下がる要因
まずは、古典ともいえる古い研究成果から確認していきたいと思います。ハーズバーグの動機づけ衛生要因理論です。
ハーズバーグは、ケース・ウェスタン・リザーブ大学で心理学の教授、ユタ大学で経営学の教授を歴任した人物ですが、労働者にとって「仕事の満足度が高まる要因」と「仕事の満足度が下がる要因」とは、それぞれ別であるということを研究から発見しました。
重要な点は「満足度が下がる要因(衛生要因)」に対して、どれほど手を打ったとしても、それによって、仕事への満足度が高まるわけではないということです。ですから、もし社員の「仕事の満足度」を高めたいのであれば、満足度が上がる要因(動機づけ要因)に注目して、手を打つ必要があります。
満足度が上がる要因(動機づけ要因)としては
などが挙げられます。
不満足につながる要因(衛生要因)としては
といったことが挙げられます。
満足度が上がる要因(動機づけ要因)としては
などが挙げられます。
不満足につながる要因(衛生要因)としては
といったことが挙げられます。
ここで注目したいのが「給与」が衛生要因(不満足を招く要因)であることです。
給与は、業界水準などと比較して「うちの給料は安すぎる」となれば、それは仕事や会社への不満を引き起こし、離職につながることもあります。「もっといい給料のところがあるから、向こうに転職しよう」というわけです。しかし、給与は動機づけ要因としてはほぼ機能しないため「うちの給料は、とても高い」「だから、仕事をどんどん頑張ろう」というようにはなりません。
仕事を頑張ろうという意欲が高まるには「責任ある仕事を担っている」という実感や、仕事を通しての達成感、達成した成果に対する周囲からの承認が重要となります。
モチベーション3.0
社員の意欲や創造性を
引き出すために重要なこと
社員の意欲や創造性を
引き出すために重要なこと
働く人のモチベーションや創造性について、真正面から取り組んだ本がダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」です。これも少し時間が経ちましたが、この研究内容は、今も色あせないものです。
この本のコアなメッセージは「内発的動機」が重要であるということです。
外発的動機付け「これをやったら、報酬を上げるよ」「これができなかったら、罰を与えるよ」というものは、人本来の創造性をむしろ低下させてしまうのです。これを平易に表現すると「したいこと」が「しなければならないこと」になると、人はやるのが嫌になってしまうということです。
「新しいことを学習する」ということは、本来楽しいものですが、学校の宿題に辟易した経験のある方も多いのではないでしょうか。これはまさに「しなければならないこと」に転じてしまっているから起こることです。「勉強しないと、親や先生に怒られるからやる」といったことはまさに外発的動機付けです。
そういった勉強嫌いの子供であっても、自分が好きなことについては夢中になって学習をするということがあります。サッカーが好きな子供であれば、ネットからサッカー上達のための動画や記事を見つけて必死に勉強したりします。大好きなゲームの攻略法について、言われなくても自分でどんどん調べて学習したりします。これらは内発的動機によるものです。
面白い話ですが、子供がTVゲームばかりやるのを困った親が、モチベーション3.0の理屈を活用して、ゲームをやめさせた実例がありますのでご紹介します。
子供はまさに内発的動機で、ゲームを「やりたいからやる」でやっていたわけですが、そこで親が「しなければならないこと」に仕向けていきました。何をしたかと言うと「必ず毎日2時間TVゲームをすること」「した内容について、学んだことと今後の方針について毎日報告をすること」というルールを課しました。
それまでは「いつまでゲームをやってるんだ」と小言を言われていた子供は、最初は大喜びでしたが、数日経つともう嫌になってきました。報告の義務があるのもうんざりですし、「毎日しなければならない」という義務感になってしまっているのもうんざりです。それで、すっかりゲームをやらなくなった、ということが実際にありました。
子供はまさに内発的動機で、ゲームを「やりたいからやる」でやっていたわけですが、そこで親が「しなければならないこと」に仕向けていきました。何をしたかと言うと「必ず毎日2時間TVゲームをすること」「した内容について、学んだことと今後の方針について毎日報告をすること」というルールを課しました。
それまでは「いつまでゲームをやってるんだ」と小言を言われていた子供は、最初は大喜びでしたが、数日経つともう嫌になってきました。報告の義務があるのもうんざりですし、「毎日しなければならない」という義務感になってしまっているのもうんざりです。それで、すっかりゲームをやらなくなった、ということが実際にありました。
これはとても示唆に富む話で、下手をすると仕事も「やりたいからやっていた」ものが、いつのまにか「しなければならないこと」に変容して、全然つまらないものになってしまっていることは起こりえます。
人の創造性(もっとこうしてみたらどうだろう?と試行錯誤してみる)が発揮されるのは、内発的動機によって突き動かされているときです。自分自身が達成したい、実現したい、試してみたいと思っているときに、人の創造性はフルに発揮されます。
例えば、オリンピック選手の姿に感動して「自分もできるようになりたい!」と思った少女は、どんどんと試行錯誤して、憧れの選手に近づけるように努力します。本人は努力とすら感じていなくて、夢中になってやっている、という状態であったりします。このような状態が、最も成長し、最も高いパフォーマンスが上げられることは容易に想像できます。
マネジメントは、社員の「内発的動機」をいかに引き出せるかを考えることが重要です。そして「外発的動機付け」を用いて、むしろ社員の意欲や創造性を低下させてしまわないように注意する必要があります。
フロー体験理論
人の集中力が
高くなる状態とは?
チクセントミハイ博士による「フロー体験理論」も重要な理論になります。チクセントミハイは「人の集中力が高まるのはどういうときか?」について研究をしました。
その結果、非常に集中力が高い状態「フロー」(没頭している状態)を見つけ、そのフロー状態であるために重要な要素もまた発見しました。
フロー体験理論には、8つの要素があるのですが、今回はマネジメントの上で重要と思われる4つの要素についてご紹介したいと思います。
一つ目が「ゴールが明確である」ということです。
人が集中力を発揮するには「どこに向かってやっている」「何のためにやっている」というゴールが明確であることが重要です。何のためにやっているのか分からない、どこに向かって進んでいるのか分からない、という状態では人は集中することができません。
登山などは、フロー状態に入りやすい行為の一つですが、登山には「山頂にたどり着く」という明確なゴールがあります。TVゲームなどもフロー状態に入るものですが、ゲームも「このゲームをクリアする」という明確なゴールがあります。このゴールが明確であるということが、一つ目の条件です。
モチベーション3.0と合わせて考えてみると、このゴールが「本人にとって」内発的であり、かつ明確であるということが理想的なゴール設定だと言えるでしょう。
二つ目ですが、これがフロー体験理論のコアな要素になります。それは「能力と難易度のバランスが絶妙である」ということです。
人は、難易度が高すぎるものに取り組んでいると【不安】という状態になり、高い集中力を発揮することができません。そして難易度が低すぎるものに取り組んでいると【退屈】という状態になり、これまた高い集中力を発揮することができません。「能力をフルに発揮すれば、達成できるかもしれない」といった絶妙な難易度のものに取り組むことが、フロー状態になるためにはとても重要な要素です。
マネジメントにおいては、ある社員に、ある仕事を任せた場合に「不安か?退屈か?それともフロー状態か?」という観点で見ることはとても重要です。
三つ目の要素は「やったことへのフィードバックがある」ということです。
自分がやったことによって、ゴールに対して、進んでいるのか、それとも後退しているのか、それが「分かる」ということが重要です。TVゲームなどはこのフィードバックが分かりやすく存在しています。例えば「敵のキャラクターを倒して、進んでいる」ということがすぐに実感できます。
仕事において自分がやったことが、役に立ったのかどうか分からない、ということは集中力やモチベーションを低下させる要因になります。
「ちょっとこの資料つくっておいて」と上司から頼まれて作ったものの、その後、その資料がどう使われ、どのような成果になったのか、ということが上司からフィードバックがなければ「やった意味があったのか、なかったのか分からない」となり、資料作成へのモチベーションは低下します。「どうせ、たいして使われていないんだろうから、まぁ適当にやっとけばいいや」となったりします。
ここで「さっき会議で、資料使ったよ。あのデータあったから分かりやすかったよ。またよろしく」といったフィードバックがあれば、自分のやったことが役に立ったと実感することができます。この「フィードバックがある」という状態が、フロー状態であるためには重要なのです。
4つ目の条件は「邪魔されない環境」です。
ゴールに向かって、そこに集中できる状態であるということが4つの目条件です。これはマルチタスクをしてはいけない、というようなことではありません。マルチタスクの方が集中しやすいタイプの人材もいるでしょう。
具体的には例えばトリンプ社で「頑張るタイム」というものが設けられていましたが、これが一例になります。私語禁止、電話も出なくていい、自分の業務に専念していいよ、という時間を会社として用意していたわけです。当然ですが、時間や場所などそれぞれの業務に適した職場環境をある程度用意することも必要になります。
心理的安全性
質の高い議論が
できる土台
Googleが社内プロジェクトの研究成果を発表したことで、一躍注目を集めるようになったキーワードがこの「心理的安全性」です。生産性の高いチームは、心理的安全性の高いチームであった、ということを発表しました。心理的安全性についてはその後も「弱さを見せあえる組織はなぜ強いのか」「恐れのない組織」といった関連書籍も多く出されています。
心理的安全性が高い職場では、率直な意見を表明することができ、質の高い議論を行うことが可能です。質の高い議論ができた結果、より良いアイデア、計画といったものが生まれてきます。
会社として、挑戦的なアイデア、革新的な事業計画、創造的な手法などを生み出していけるようにしたければ、会社の心理的安全性を高めることが重要です。
どのように心理的安全性を高めるかについて、具体的な手法については明日のメール講座にて詳しくお伝えします。
Growth Mindset
今日最後にお伝えするのは、キャロル・ドゥエック教授の研究成果であるGrowth Mindsetについてです。これは「やればできるの研究」として日本語版でも本が出ています。
Growth Mindsetには対比概念としてFixed Mindsetというものがあります。
Fixed Mindset | Growth Mindset | |
人間の才能は固定的なものである | ⇔ | 自分は成長可能な存在である |
できないことには取り組んでも仕方がない | ⇔ | 今の自分にはできなくても挑戦してみる |
「失敗した」という評価をされないよう行動する | ⇔ | 失敗してもそこから学習し成長できる |
社員にどちらのような意識でいて欲しいか、どちらのような行動を選んで欲しいかでいうと、それはGrowth Mindsetでいて欲しいと思うでしょう。
実際に、Growth Mindsetが育まれた職場では、社員は、リスクを負いながらも、果敢に挑戦し、もし挑戦の結果が一旦、失敗になったとしても、その経験を無駄にせずにその経験から学び、粘り強く試行錯誤を続けて、成果が出るまで自分自身を向上させ続けます。
このような人材であってもらうには、ポイントがあります。
Fixed Mindsetが強化されるのは
という周囲からのアプローチです。こういった接し方を上司や同僚からしょっちゅうされているとFixed Mindsetが強化されていき、社員はリスクをとって挑戦することをしなくなっていきます。過去に上手くいったパタンを踏襲し、仕事がマンネリ化していきます。
そして成果が出なくても「過去の成功パタンにしっかり則って行ったので、自分の過失ではない」と、自己防衛をするようにもなっていきます。
これに対して、Growth Mindsetが強化されるのは
挑戦を奨励する
失敗からの学びを促す
プロセスを承認する
といった周囲からのアプローチです。こういった接し方を上司や同僚からしょっちゅうされていると、Growth Mindsetが強化されていき、社員はリスクをとって挑戦し、その挑戦のプロセスから学習し成長していくようになります。
「プロセスを承認する」ということは誤解されることがありますが、成果が出ていなくても「お前は頑張ったよな。えらい、えらい」というように甘やかすというようなことではありません。
新しいことや難しいことに挑戦した時には、必ず試行錯誤が必要となります。その試行錯誤の努力自体を評価する(褒める)ことも大切ではありますが、それ以上に、その試行錯誤のプロセスを、周囲が丁寧に共有することです。そしてその試行錯誤のプロセスから、集団的に学習することが重要です。エジソン流に言えば「実験に失敗した」のではなく「この方法では上手くいかないと発見した」なのです。それが「プロセスを承認する」ということの本質です。
成果が出なかった場合に、その手前のプロセスまで「無駄なことをした」と意味づけてしまうと、個人としても集団としても「確実に成果が出ることしかやらない」という意識が強くなってしまいます。成果が出なかったことは反省しなければいけませんが、その反省のためにも「失敗したプロセスにも価値がある(なぜならそこから学ぶことができるから)」という認識でいることが重要です。
本日は、会社活性化に取り組む上で外せない重要な研究や理論・・・動機付け衛生要因理論、モチベーション3.0、フロー体験理論、心理的安全性、Growth Mindset の5つを見てきました。1日目にご紹介した「これまで常識といわれていたマネジメントの弊害と限界」についても、より説得力が増したのではないでしょうか。
このほかにもマネジメント上の重要な理論は多数ありますが、まずはこの5つを押さえていただくだけでも、組織の活性化に役立つところは多いかと思います。
明日以降は、より具体的、実践的に「では何をすればよいのか?」についてお伝えしていきたいと思います。
Quiz&answer
クイズの答えと
次回への宿題
さて、昨日お伝えしたクイズは以下のようなものでした。
セリグマンという教授が「幸福度への影響の大きさ」について研究しました。
ア.人生に目的や意義を感じること
イ.楽しいといった感情を頻繁に感じること
ウ.(時間を忘れるような)没頭する時間があること
この3つの因子が、どれくらい人生の幸福度に影響するか?について調べたのですが、明確に順位が出ました。
1位、2位、3位はそれぞれなんだと思いますか?
どれが1位で、どれが3位だと思われましたか?
実は3位で、最も幸福度への影響が小さかったのは「イ.楽しいといった感情を頻繁に感じること」です。
例えば飲み会で、楽しい!と感じたとしても、翌朝二日酔いであればそれだけで気分は台無し、ということがあります。快の感情は、持続力が低く「私の人生は幸福なものだ」と感じることへも、もっとも影響が少ないものでした。
1位は「ア.人生に目的や意義を感じること」です。自分の人生には意味がある、と感じられている人は幸福度も高いということです。家族を養うという大切な意味があるとか、大切な仕事に携わっているとか、自分の過ごしている時間に意義を感じられていることは、もっとも幸福度への影響の大きいものでした。
僅差の2位で「ウ.(時間を忘れるような)没頭する時間があること」になります。今日ご紹介したフロー体験理論のフロー状態、そういう状態で過ごせる時間が多いと、人生の幸福度は高いということです。
意義がある、ということとはまた別で「大好きなスポーツに没頭できている時間がある」とか「大好きな楽器の演奏に没頭できている時間がある」とか、そういう時間が多いほど幸福度が高いのです。もちろん没頭する対象は仕事であっても全く構いません。
意義を感じる仕事をし、仕事においても没頭している時間があるとなれば、その人はとても幸福な人生を送っていると言えるでしょう。
明日は、今日ご紹介した心理的安全性について詳細をお伝えしていきたいと思いますが、その心理的安全性に関するクイズです。
以下の「心理的安全性が高い職場」の説明で、一つだけ「間違っている」ものがあります。その間違っているものは、どれだと思いますか?
ア.心理的安全性が高い職場では、自分の意見が否定されることはない
イ.心理的安全性が高い職場では、リスクをとってのアクションがとりやすい
ウ.心理的安全性が高い職場では、困った状況を共有し相談しやすい
このクイズの答えは明日のメール講座でお送りします!
明日もお楽しみに!
References
引用&参考文献
リスト
著:ダニエル・ピンク 、訳:大前 研一 2010年 講談社
TEDGlobal 2009
著:チクセントミハイ、訳:今村 浩明 1996年 世界思想社
Mihaly Csikszentmihalyi TED2004
著:ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー、監修:中土井 僚、訳:池村千秋 2017年 英治出版
著:エイミー・C・エドモンドソン、開設:村瀬俊朗、訳:野津智子 2021年 英治出版
著:フレデリック・ハーズバーグ、訳:北野 利信 1968年 東洋経済新報社
著:キャロル・S・ドゥエック、訳:今西康子 2016年 草思社
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