常識的なマネジメントの弊害と限界とは?

常識的なマネジメントの
弊害と限界とは?

こんにちは。Co-ducation 代表取締役の石川です。「会社活性化メール講座」の1日目。これから10日連続でお送りしていきますので、お楽しみに。10日間の内容を全て実践できなくても、できることから取り組むことで効果は着実に出てきます。ぜひ活用できるところから活用していってみてください。

初回の本日は「マネジメントの常識を疑う」です。様々な「マネジメントの常識」がありますが、果たしてそれは機能しているのか?効果的なのか?時代に合っているのか?それを考えてみたいと思います。

 

※ 「印刷して読みたい」「綴じて冊子にしてまとめて読めるようにしたい」という声にお応えし、ダウンロードできるPDF版もご用意しております。内容はWeb版と同じです。詳しくは最下部をご確認ください。

本日の目次

目標設定の常識

目標をトップダウンで設定することが
本当に最善なのか

目標をトップダウンで
設定することが
本当に最善なのか

まずはじめは「目標設定」に関する常識です。これまでのマネジメントの常識では「上が目標を定める」となっています。トップダウンで目標を設定していくわけです。

社長が「来期、年商50億円を目標とする」と設定し、それをもとに上から目標が下りてくる。A部署は20億円、B部署は20億円、C部署は10億円を目指して頑張りなさいというように。

この目標の設定の仕方は、果たして正しいのでしょうか?効果的なのでしょうか?「効果的である」とすれば、何に対して効果があるということになるでしょうか?

実は、この目標設定の方法は、人的資本管理(Human Capital Management)の観点から言うと、とても効果的とは言えません。少なくとも100点満点の手法とは呼べないものです。

能力が100の社員に100のパフォーマンスを発揮してもらえたら、それはマネジメントの成功と言えるかと思います。もし能力が100の社員が、30しかパフォーマンスを発揮できていなかったら、それはマネジメントの失敗と言えるでしょう。80のパフォーマンスを引き出せていたら、及第点かもしれませんが、それでもやはり理想的とは言えないものです。

もし社長が「会社として今年年商50億円達成するぞ!そのためにA部署では20億円達成せよ!」と目標設定したとして、社員が「よし、50億円達成のために頑張ろう!」と思えて、自分の能力を100%以上発揮してくれたら、それはマネジメントとしてOKということになりますが、もしも社員が「50億円なんて無理だよ・・・」「50億円達成して何の意味があるんだよ・・・」というような気持になっていたとしたら、これは効果的な目標設定とは言えません。

詳しくは2日目に紹介する「フロー体験理論」のところで説明しますが、達成の難易度が高すぎる目標や、達成する意味や価値が見えにくい目標というものは、むしろ人材のパフォーマンスを低下させる要因になりえます。

常識だからと言って「社長(や経営陣)が、目標を設定するもの」として、そのまま企業経営を行っていくことが、最善かどうかは一度よく疑ってみる必要があります。

評価制度の常識

頑張って評価があがる(報酬が増える)と
本当に社員の意欲は高まるのか

頑張って評価があがる(報酬が増える)と
本当に社員の意欲は高まるのか

頑張って評価があがると
本当に社員の意欲は
高まるのか

次は「評価制度」に関する常識です。マネジメントの常識では「しっかりとした評価制度を導入する」というものがあります。おそらくですが、上場しているような大企業で評価制度が導入されていない会社はまずないでしょう。それほど常識的になっているものです。

創業したてのベンチャー企業などは、当初は評価制度などなく「全員報酬はしばらくずっと固定」とか「利益が出たら山分け」みたいな状態のこともあると思います。それが、企業規模が拡大していくにつれて「しっかりした会社にしていかなければ」「そのためにはしっかりとした評価制度を導入していかなければ」という考えになるケースはとても多いと思います。

評価制度を導入することが全面的に悪いということではありませんが、「評価制度を導入したら、むしろ社内がギスギスし始めた」とか、「評価制度を導入してから、社員が評価されること、言われたことしかやらなくなった」などということが起こりえることも知っておく必要があります。

評価制度は、ほとんどの場合「これを頑張ったら、評価が上がる(報酬が増える)」という外発的動機づけを採用しています。でも、外発的動機付けは、実は人間の意欲を高めるどころか、長期的に見てむしろ意欲を低下させていく弊害があるのです。(詳しくは2日目「内発的動機」で解説します)

この「頑張ったら評価が上がる(報酬が増える)、だから頑張れ」というマネジメントのあり方は、誤解や勘違いから成り立っています。

例えば社員にヒアリングをしたら「給料がもっと増えたら、もっと仕事も頑張りますよ」とか「頑張っても給料が増えないんで。頑張る意味ないじゃないですか」といったセリフが出てくることがあります。これを真に受けると「よし、もっと頑張ったら報酬が増えるよう評価システムにしよう」といったことを考えてしまいます。

しかし、実際にそのような成果主義的なシステムを導入したとしても、社員のモチベーションや創造性は高まらないのです。インセンティブの賞与をもらったその日は「やった!嬉しい!」とテンションが上がるかもしれませんが、1ヶ月後、3ヶ月後「インセンティブをもらえたから、今もやる気満々!」とはならないのです。「年末の賞与のために、今日も頑張るぞ!」とも、ほとんどなりません。

これはハーズバーグなどの研究によって古くから分かっていることですが、給与といった要因は「不満を減らす」ことはあっても、「意欲を高める、創造性を高める」といったことにはほとんど寄与しません。

評価報酬のシステムについては、むしろ「業界水準や地域水準と比較して低すぎないか?=不満が出てこないか?」という観点や、「公平性が感じられないといった不満が出てこないか?」といった観点が重要で、「頑張ったら給料を増やすから、頑張れよ」ということに対しては、期待するような効果は得られないのです。

評価制度については8日目により詳しくお伝えしていきますが、外発的動機付けの考え方を基にした評価制度には、限界や弊害もあることをよく理解いただければと思います。

採用の常識

企業業績への寄与が大きいのは
スキルや経験のある優秀な人材なのか

企業業績への寄与が大きいのは
スキルや経験のある優秀な人材なのか

企業業績への寄与が
大きいのは
スキルや経験のある
優秀な人材なのか

続いては「採用」の常識です。マネジメントの常識として「スキルや経験のある優秀な人材を採用する」というものがあります。

エンジニアであれば、エンジニアとしての経験やスキルが高いことが「優秀な人材」であり、経理であれば、経理としての経験やスキルが高いことが「優秀な人材」であるという考え方は根強いものがあります。

しかし、スキルや経験といった「専門性」は、現代の企業活動において最も重要な要素とは言い難いところがあります。市場環境が変化し続け、顧客のニーズなども変化し続ける現代のビジネス環境においては「これまでどれほどの技術を培ってきたか」ということ以上に、「変化して生じた新しい状況に対応し、新しい付加価値を創造できるか」どうかということが重要になってきています。

これも2日目の講座で詳しくお伝えしますが、ロンドンビジネススクールの客員教授であるゲイリー・ハメルは、現代のビジネス環境においては「専門性」よりも「情熱」や「創造性」といったことが、企業業績への寄与が大きいという研究成果を自分の著書のなかで伝えています。

マネジメントの常識が変わる社会背景

何故 経営スタイルのシフトが求められるのか

何故 経営スタイルの
シフトが
求められるのか

本日触れてきたような「マネジメントの常識」は、意味もなく形成されてきたわけではなく、これまでの時代においては効果的であったからこそ、常識として定着してきたわけです。

以前は「創造性や情熱」などそれほど求められませんでした。むしろ「従順さ、勤勉性」といったことが求められていました。そのようなときには専門性を重視して人を採用し、上から降りてくる目標に対してしっかりできているか、評価報酬システムで管理するということは合理的だったと言えます。

しかし、日本は現在、大きな転換期を迎えています。

日本社会の変化

社会には「経済成長期」ではない「経済成熟期」があります。

社会全体が「経済成熟期」に入るのにはいくつかの要素があると考えられます。一つは、人口です。出生率が2、もしくは2を切るようになると、人口の拡大局面は終わり、人口維持、ないし人口減少のトレンドに入っていきます。

一次産業で考えると分かりやすいですが、年間1億杯のご飯が必要だったものが、9000万杯、8000万杯、と必要性が減っていきます。当然、生産量も減っていきます。(1億杯作っても、残るだけですし、作る労力が無駄ですから)米の売買量がGDP換算されるのであれば、GDPは確実に減っていきます。

もう一つは「モノが充足している」という状態です。洗濯機もテレビも冷蔵庫も、自家用車も、全部どの家にもある、という状態です。

こうなると、基本的には「買い替え需要」しか起こらなくなります。となれば、当然ながら、経済成長はほとんど見込めなくなります。例えば、新車が300万円だとして、7年に一度買い替える。その際にはまた、7年後に300万円の新車に買い替える・・・となれば、これはもう「経済成長」とは呼べません。経済維持や経済循環という状態になります。

この状態が「経済成熟期」であると言えます。

日本社会でいうと、1974年頃に出生率が2を切るようになりました。つまり人口減少トレンドに入ったわけです。(その15年後くらいにバブル崩壊が起きたのは偶然ではないと考えています)

「モノが足りない」ということも非常に少なくなったと思います。自家用車の所有率のデータなどを見てみると、一世帯一台ほどの平均保有台数になってから、保有台数はほぼ伸びていません。基本的に2台目、3台目と買っていくようなものではないのは明らかです。 

日本の社会だけで見れば「自動車の必要となる生産台数は減っていく」ということになります。単価がもし同じなのであれば、GDP換算したときには、GDPが減っていくことになるでしょう。それが自然なことなわけです。必要がないものを作らないようになっても、誰も困りません。

こうした社会の状態のシフトがあったときに「利潤追求」を「ヒエラルキー構造」で行うという経営のスタイルからもシフトしないと、色々と問題が起きてきます。

社会変化によるビジネスへの影響
社会変化による
ビジネスへの影響

まず、一つには、社員のやりがいが大きく低下していきます。経済成長期では、自社の利潤追求が「世のため人のためになっている」ということを、それほど説明などしなくても、肌で感じられる部分が多かったと思います。しかし「この利潤追求は本当に社会の役に立つのだろうか?」という感覚を持って当然の社会の状態になります。

経済成熟期では「競合」はまさに「争い相手」のように現れます。向こうが儲かればこっちの取り分が減ってしまうというパイの奪い合いという面が強くなってきます。(経済成長期では、その面はあっても分母の増大があるため、両方とも成長できるというところがありました)

自分たちが頑張ることは、競合を潰すことにつながるのかもしれない・・・頑張ってみても、お客さんに以前ほど喜ばれない。売上を増やすためには、新車の買い替え年数を短くしてもらうしかないが、そのような押し売りは、自分が客だったらされたくない・・・されたくないことまでして、売上を伸ばさないといけないのか・・・・。環境問題もある中で、そもそも生産台数を増やそうとすること自体が、社会にとってよいことなのだろうか・・・。

そのような「やりがいの難しさ」が経済成熟期では出てきます。

経済成熟期における「ビジネス」に必要なことは高級化、希少化、全く新しい需要の創造といったことになります。

つまり「ご飯は毎日食べれている」となったら「もっともっとおいしいお米作れますよ」「ちょっと高いですけど」ということをする。それが高級化や希少化ですね。「うちは、量産車にはない、とても個性的なデザインの車ですよ」といったことも希少化の一つかと思います。

全く新しい需要の創造ということでいくと、例えばメルカリなどがそれにあたるかもしれません。今まで社会に(ほとんど)なかった「個人同士で、大規模に、売買するマーケットあったら便利でしょう?」ということは、潜在ニーズはあったかもしれませんが、顕在的にはなかった。そこの需要を創造したというように言えるかもしれません。

そしてこの、高級化、希少化、新しいことの創造といったことは「ヒエラルキー構造」は非常に不向きです。ヒエラルキー構造は、まず需要があり、生産計画を作ることができ、その生産計画に「従って動く」ときに、最適な組織構造です。

一人一人のアイデアや創造性を、育んだり、発揮させたりすることに向いていません。「それ本当に売れるの?」「売れなかったときに責任取れるの?」と、ヒエラルキー構造の中の責任者は必ず確認をします。そりゃそうです、自分が「それ売れるのか?」と疑問に思っているものを、自分の責任において出すことはできないからです。

だから、ヒエラルキー構造は必ず「管理職」や「経営者」がボトルネックになります。勿論、そこを打破するリーダーシップを持った人もいたりはします。「よし、俺は分からないけど、やってみろ!」と言える人です。しかし、それはそのリーダーの特異性によるものであって、ヒエラルキー構造を、単に属人的にカバーしているに過ぎません。

ヒエラルキー構造というものは、基本的には、責任者から「それ本当に大丈夫なの?」と確認が入り、責任者が「納得した」とならなければ、部下のアイデアなどは日の目を見ないという構造になっているわけです。

本日解説したように、これまでのマネジメントの常識は「人のパフォーマンスを最高に発揮する」マネジメントではありません。むしろ、人の持つパフォーマンスを抑制する面があります。こうなると、経済成熟期、そしてVUCAとも言われる時代において重要な「一人一人の創造性」といったことを高めるのには全くもって構造として不向き、ということになります。 

良い悪いではなく「社会の状態」に対して「適した組織構造」と「適していない組織構造」があるということです。社会の状態が変われば、適した組織体も変わるというのは、ある意味当然と言えば当然のことだろうと思います。やりがいも得にくく、創造性も発揮しにくい企業経営・・・・だとしたら、それは変化していくとよいだろうと思います。

では、実際問題どのような経営スタイルへ変化していくことが考えられるのかについては、次回以降解説していきます。

明日は社員一人一人の創造性や能力を最大限引き出していく際に、そもそもの土台となる「人間の意欲やモチベーション」について取り扱います。本日の記事で出てきた「外発的動機づけ(これを頑張ったら評価があがるで人はやる気になるのか)」や「専門性の高い人材が最も企業業績への寄与が大きいのか」などについても、より詳しく理論や研究をご紹介していきますので、お楽しみに!

Quiz

次回への宿題

次回への宿題

次回は「人間のモチベーションや創造性はどうやったら高まるか?」についてお届けしたいと思いますが、ここでクイズです。

Quiz DAY2

モチベーションとはちょっと違いますが「幸福度」についても大学などで色々と研究されています。セリグマンという教授が「幸福度への影響の大きさ」について研究しました。

ア.人生に目的や意義を感じること
イ.楽しいといった感情を頻繁に感じること
ウ.(時間を忘れるような)没頭する時間があること

この3つの因子が、どれくらい人生の幸福度に影響するか?について調べたのですが、明確に順位が出ました。

1位、2位、3位はそれぞれなんだと思いますか?

答えは、明日のメール講座でお伝えしたいと思います。

それでは今日はここまでです。お疲れさまでした。また明日届くメールをお楽しみに!

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ダウンロード版

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