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人事評価制度
に関するよくあるお悩み
出典:写真AC
評価制度に関しては【社員側からの不満】と【経営側からの不満】があります。
まず社員側からは、
「ちゃんと評価されてもらっていない」
「何を頑張ったら評価が上がるのか分からない」
「評価項目が多すぎて覚えていられない」
「評価点数が上がっても給料が増えるわけじゃないから意味がない」
「公平に評価されていない」
「部下の仕事ぶりなんて見てもないのにどうして評価できるのか」
などといった不満の声がよくあがってきます。
経営側からは、
「改善しても改善しても、評価の不満がなくならない」
「そもそも、人が人を評価するのに完全に公正にというのは難しい」
「折角評価制度を導入(改善)したのに、社員が評価項目を意識していない。覚えていない」
などといった不満の声をよく伺います。
これらの不満を本質的に解決していくにはどうしたらよいのか、考えてみたいと思います。
人事評価制度についての考え方
「人事評価制度をどうするか?」はとても重要な要素
人事評価制度というのはとても重要で、かつ、とても難しいものです。
人事評価制度に関する、代表的なものをまず見てみましょう。
年功序列
年齢や、在籍年数を重視する評価制度。簡単に言ってしまえば「年齢が上がるほど給料が上がる」「長く勤めているほど給料が上がる」というような人事評価制度です。
これは能力や成果によって差がつかずに「頑張る意欲」を阻害するというマイナス面がある一方、「ライバルよりもいい評価を得てやろう」というような無用な社内競争を作らなくて済むといったプラス面も存在しています。
実際に日本が経済大国として世界に名をとどろかせていた時代、その象徴には「終身雇用」と共にこの「年功序列」がありました。
年功序列の制度を採用すると「この会社で長く働き続ける」というインセンティブが強くなります。とにかく、長くいさえすれば給料が上がっていくわけですから。長く働いていれば、経験も積み重なり、成果を上げやすくなっていくと考えることもできます。
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考え方としては「能力や成果に対して支払う」というよりも「必要な分だけ支払う」というような意味合いも強くなります。
20代独身の社員よりも、40代で子供がいる社員の方が「生活コスト」が高くなる、だからそれでも安心して働けるように必要な分だけの給料を支払う、というような考え方であるということもできます。
能力主義
これは今も多くの企業で採用されている考え方です。能力が高い人は、高い評価を得られ、その分報酬(給与)も増えていくという考え方です。
年功序列よりは「能力を磨こう」という意欲を喚起しやすくなります。
多くの企業が
入社1年目~7年目:バンドA:年収レンジ300万円~400万円
入社3年目~10年目:バンドB:年収レンジ350万円~450万円
入社8年目~20年目:バンドC:年収レンジ400万円~600万円
入社11年目~40年目:バンドD:年収レンジ450万円~800万円
というような賃金テーブルを用意し、各バンドごとに「能力の高い人は、評価が上がり、昇給する」というような道筋を用意しています。
能力を評価する際の「評価項目」を用意して、人材を一人一人評価していくという形になります。
実際問題としては、適度に年功序列的要素も持ちつつ「頑張り次第では、早く昇給していくこともできる」として、社員に自己成長の努力を促しやすい仕組みです。(だからこそ、能力主義の人事評価制度を採用している会社が多いのでしょう)
大きな欠点はないようにも思われますが、実際には「人が人を評価する」というのは大変難しいことです。公平性を担保するということも大きな課題です。また、どうしても「評価者・被評価者」という上下関係(ヒエラルキー構造)を持つことが前提になることも特徴です。
※ 360度評価などの手法が用いられるのは、この能力主義による人事評価制度を補完するために、というような場合がほとんどかと思います。
成果主義
不動産の営業職、保険代理店の営業職など、営業職において用いられることが多い制度です。
何件の家を売った。総額いくらの売上を作った。それによって評価及び報酬(給与)が確定するという考え方です。
細かく分けていくと「個人の成果と報酬が連動する」「チームの成果と報酬が連動する」個人とチームの成果、両方と連動する」「成果額と報酬が単純に比例する」「成果額がバンド分けされ評価され、それと報酬が連動する」などの違いは出てきますが、人の能力や、業務上のプロセスの質などは(ほぼ)考えずに、成果(売上額、利益額、売上数など)のみで評価します。
これは「透明性」という意味では大変分かりやすい人事評価制度です。しかし、経理や人事などの間接部門の評価には適用しにくいという面があります。
鉛筆なめなめ
特に中小企業においてよくあるのが「人事評価制度がない」という状態です。それを「鉛筆なめなめ」と呼んだりします。社長が、鉛筆をなめながら、社員の給料を独断で決めていくというものです。
実は、私がお世話になった組織開発における老舗のコンサルティング会社は(当時)この状態でした。そしてそれは、素晴らしく機能してもいました。
社員が少人数であり、社長(評価者)と社員(被評価者)が直接顔を合わせる機会が多く「見られている・見てもらっている」と実感でき、かつ信頼関係が厚い場合には、これはなかなか有効な方法だと考えています。
但し、リスクも大きいものがあります。「結局、社長次第なんだ」「社長に気に入られるか、気にいられないかが一番大事だなんだ」とあきらめの気持ちや、内向き(顧客への貢献に意識が向くのではなく、社長のご機嫌とりに意識が向く)になってしまう可能性もあります。
No Rating
近年、世界的な先端企業が積極的に取り入れ始めており注目されているのが「No Rating(ノー・レーティング)」と呼ばれているものです。
これは具体的に「こういう人事評価制度がNo Ratingだ」と明確に定義できるものはまだないように認識していますが、能力主義的・成果主義的な人事評価制度の運用の限界と、脳科学等の新しい知見からもたらされた「新しい人間観」に基づいた評価制度として「No Rating」という概念が注目されているものと思います。
これは「評価項目が存在し、その評価項目に沿って人材を点数付け(A評価、B評価など)する」ということをしない、という意味においては「鉛筆なめなめ」と似たものです。報酬制度としては、年功序列給的な方向に進めている企業もあるようです。
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そもそも、金銭的報酬を、仕事の動機付けとして使おうとすること自体(評価が高ければ昇給する、というのはそういうことです)、人々の労働意欲を高めるのか?ということには疑問があり、その周辺の研究はたくさんされてきています。(「モチベーション3.0」「動機付け衛生要因理論」「時代遅れの人事評価制度を刷新する」)
また「期首に目標を立てて、1年間その目標達成のために頑張る」という、会計年度を基準としたタイムスパンの捉え方自体が、現状の変化の激しい市場環境に対して、合っていないというところもあります。
そういった中で「市場環境の変化を察しながら、柔軟に目標設定そのものも更新し続ける」「本当に価値提供に必要な努力を、日々取り組みながら更新し続ける」「更新し続けることを前提に、組織の中で、上司・部下、メンバー同士は効果的なコミュニケーションを取り続ける」といったことが”価値創出”には重要になってきている、というところです。
しかしこうなると「公平な報酬の分配」というのが大変難しくなります。
価値を創出し、売上・利益を生み出す努力を日々柔軟にし続けていると「期首の目標に対して何パーセントの達成率か」といったことが測れなくなってきます。
そうすると、評価ができません。また「期末時点の売上・利益の額」というのも、それは単に会計上の問題であるため「今の状況を見ると、期末の利益が減ってでも投資をしていくべき時期だ」という判断が適切であるということが、ちょうど期末に判断されるかもしれないわけです。
そうすると「期末時点でその人・その部署が出した利益の額」といった成果主義的な観点も、あまり合理的ではないということになってきます。
「では、どのように報酬を公平に分配したらよいのだろうか?」ということについては、現在世界中の企業が模索しているような状況かと思いますが、大きな潮流としては年功序列的、もしくはベーシックインカム的な方向に流れていっているようにも見えます。
この点は、Co-ducationでも調査・研究、探求・実践をし続けていきたいと思っています。
人材育成と「評価制度」
色々限界があり、「鉛筆なめなめ」の良さもあるということは前提の上で、それでも「評価制度を導入しましょう」とお勧めすることが多くあります。
評価制度がないことによって社員が「何を頑張ればいいのか分からない」「何を頑張ったら報われるのかが分からない」という状態を、軽減することができるというのが一つの大きな理由です。
また、経営者や管理職は、部下や社員に「成長して欲しい」を自然と願っている方が非常に多いわけですが、評価制度というのはは、人材育成制度ということでもあります。
評価制度というのは「うちの会社では、こういう人材を理想としている。こういう能力・側面を磨ていくことを大切にしている」というメッセージの発信なのです。
また評価制度を導入し、その運用をしていく中で経営陣・管理職(評価者)と社員(被評価者)のコミュニケーションを促進していく、ということができます。むしろこちらの方が目的であると言っても過言ではないかもしれません。
上司は、「部下がいい評価を得られるように支援する」ことになります。部下がいい評価を得られるということは、会社の目標に対して部下がよい貢献をできるということであり、会社の業績を高めてくれるということだからです。
そして同時に、部下がいい評価を得られるということは、部下の得られる報酬(金銭的報酬だけでなく、成長実感ややりがいといった”報酬”も含め)も高めることができるということです。
このような「良好な上司・部下」の関係を育んでいくための仕組みとして、人事評価制度を活用していくこともできます。人事評価制度を導入していくことは、限界もありますが、それでもやはり捨てきれないようなメリットもあると考えられます。
人事評価制度を構築する上で
重要になるポイント
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まずベーシックな人事評価制度を導入してみる
実際に評価制度を初めて作る、もしくは今ある評価制度を刷新する、そのようなお手伝いをする際の基本的な流れをお伝えします。
まず基本としては「自社で、社員を評価する観点=評価項目は何か?」を考えていただきます。
評価項目を策定する際のポイント
評価項目は最大7項目
評価項目の数は最大で7つ。7つ以内に絞っていただくようにしています。
評価項目が8つ以上になると、一つ一つの重要性(ウェイト)が軽くなり、社員が評価項目を大切にできなくなってくる、数が多すぎてそもそも覚えていられない、業務の中で意識していられなくなる、というデメリットが大きくなるためです。
経営陣の口癖と一致しているか
そして、この評価項目を作る際に、一番土台となるのは「口癖と一致しているか?」です。例えば、20名ほどの中小企業であれば、社長の口癖と、評価項目は一致していることが重要です。
例えば、いつも「仕事はスピードが大事。もっと早くできるように頑張って」とか「なんであの社員はこんなに仕事が遅いんだろう。。。」という発言を繰り返していたとします。
けれど、評価項目には「スピード」が入ってない。逆に「仕事の丁寧さ」といった評価項目が入っている。
このような状態になると「評価面談では、仕事の丁寧さを求められ、それによって昇給が決まる。しかし、日常のコミュニケーションではいつもスピードを求められ、仕事が遅いと怒られる」というダブルバインド状態になってしまい、社員は混乱してしまいます。
ですからまずは「この7つの評価項目は、口癖と一致しているか?」ということが重要になります。(経営陣・管理職・社員といった3階層になっている場合は、経営陣の口癖と、管理職の口癖を揃えていくような努力もしていく必要があります)
組織目標に貢献しているか
次に「この7つの項目で高評価な人材は、組織目標に貢献していると言えるか?」というチェックが必要です。
例えば評価項目として「仕事のスピード」「仕事の確実さ」「チームワーク」「新しいことへのチャレンジ」という4つの項目を用意したとします。この4つの項目の評価が高い人材は「いい人材だし、会社の目標に貢献している」と言い切ることができれば、それで評価項目はOKです。
しかしもし「でも結局、売上を作るやつが一番偉いし、貢献しているんだよなぁ。。。」というようなセリフが出てくるようであれば考えなければいけません。
スピードが遅いときもあるし、仕事が雑な時もある。社内のチームワークという観点からすると問題児だったりもする。けれど、お客さんのハートを掴む能力はぴか一で、結局一番売り上げを作ってくる営業担当者、、、というような存在が思い浮かんで「この評価項目だと、あの営業は評価低くなるけれど、それでいいんだっけ?」というようなことは、必ずチェックするようにしてください。
そうすると例えば、評価項目が追加になるかもしれません。「売上貢献度」とか「お客様のハートを掴む力」といった評価項目が必要になるかもしれません。
このようなチェックをして言って「うん、7つ以内に絞るなら、これらの評価項目で社員を見ているし、これらの能力を社員に伸ばしてほしいと思っているし、これらの能力が高まれば絶対会社の業績にプラスだ」と納得できる評価項目を作っていくことになります。
なお、評価項目というのは「こういう社員を求めています」というメッセージですから、採用活動にもそのまま活用できます。面接などでチェックすべき観点として「自社の評価制度に照らして評価してみると、この人材は優秀だろうか?」と面接をすべきなのです。
尚、評価項目を初めて導入される際には「7項目×5段階評価=35点満点」として、制度を導入することを基本として推奨しています。
例えばですが、
A評価:30点~35点⇒昇給率10%
B評価:26点~29点⇒昇給率3%
C評価:21点~25点⇒昇給率1%
D評価:20点以下⇒昇給率0%
といったようにすることを検討の土台として、ここから自社の実情に合わせながら数字などを調整していくようにします。
ここまでで、おおよそ「人事評価制度の基本の基本」のところまでは導入できるかと思います。
一番シンプルな評価制度は「全階層・全職種同一評価項目」というものになりますが、実際にはこれだと「評価がしにくい」ということが起こってきます。
そこで部署別・職種別・階層別に評価項目を追加・修正していくことになりますが、この際にも「ある一人を評価する際の、評価項目は最大7つ以内とする」という原則は守っていただくことを推奨しています。
評価項目における
「定量」と「定性」
定量的な評価項目は、評価者・被評価者で「点数付け」の認識の齟齬が起きずに公平性を担保しやすいという大きなメリットがあります。
例えば5段階評価として
A評価:新規契約数10以上
B評価:新規契約数7~9
C評価:新規契約数3~6
D評価:新規契約数1~2
E評価:新規契約数0
というようになれば、「だから君はC評価ね」というのが非常に分かりやすく、納得せざるを得ません。
A評価:改善アイデア提案数10以上
B評価:改善アイデア提案数7~9
C評価:改善アイデア提案数3~6
D評価:改善アイデア提案数1~2
E評価:改善アイデア提案数0
A評価:遅刻・欠勤0回
B評価:遅刻・欠勤1~2
C評価:遅刻・欠勤3~4
D評価:遅刻・欠勤5~6
E評価:遅刻・欠勤7以上
というように定量項目を設定していくことができます。
しかし、なんでもかんでも定量化できるとは限りません。むしろ大切な要素ほど定量化できなかったりもします。
例えば接客業において「よい挨拶ができる」ということは大切な評価項目になるかもしれませんが、挨拶を定量指標化することは大変難しいものです。
挨拶の回数によって定量化すればよいでしょうか。心のこもっていない雑な挨拶を回数だけこなす社員が高い評価になってしまう可能性があります。
では「いい挨拶」というのを、挨拶の”音量”で定義して、その音量の挨拶の数をカウントすればよいでしょうか。大きな声であいさつすべき時もあれば、小さな声での挨拶が適切な時もあるかもしれません。そのようなことを、どう加味して評価すればよいでしょうか。そもそも、部下の挨拶について常に音量を図ることなどできるのでしょうか。
しかし、定量化できないからといって「挨拶」という項目を評価項目から外していいのか?というと、これもまた違ってきます。
そのような場合には「定性的なまま評価項目に入れておく」ということも必要になってきます。
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そして、定性項目の場合も、5段階評価の基準値というのはできるだけ明確に用意しておきます。そのことによって、期末時点での「あなたはB評価ね」といった”評価”への納得感が高まるからです。
例えば、以下のような準備をします。
A評価:お客様から「ああ、あの挨拶の気持ちいい人ね」とフィードバックが頻繁にあるレベル
B評価:お客様や上司・同僚から見て「いい挨拶をするよね」という印象があるレベル
C評価:上司や同僚から見て「挨拶が悪い」という印象がないレベル
D評価:上司や同僚から見て「挨拶を改善すべき」という印象があるレベル
E評価:上司や同僚から挨拶の改善を要求されているが無視しているレベル
定量項目であれ、定性項目であれ、例えば5段階評価をするのであれば「どのような結果・行動が、どの評価段階に当たるのか」について、できる限り期首の段階で明示できるようにすることが求められます。
評価制度は「構築」以上に
「運用」が重要
人事評価制度を導入した場合「評価面談」を定期的に行うことを推奨しています。
頻度としては最も少ないとしても年に1回。半期に1回や、四半期に1回という会社が多いかと思います。多い会社では「毎月評価面談を行っている」という場合もあります。
年に1回の評価面談は、ずばり少なすぎます。期首の出来事を評価者の方が正確に覚えていることは現実的に困難です。
そうすると、期末の評価面談付近の出来不出来だけで評価が決まってしまうようなことにもなります。これは大変不公平でもあり、社員のやる気を高める、社員を育成するという効果も得られなくなってしまいます。
Co-ducationでは、四半期に一度の評価面談の実施を推奨しています。一人の部下につき1時間の評価面談を行うとして、15人部下がいる管理職については「四半期に一度、丸2日は評価面談にあてる」というようなボリュームです。
そして、社員の「評価制度への納得感」は、多分に上司(評価者)の評価としてのスキルに依存するところがあります。
まず、上司の観察力が必要です。部下の日頃の仕事ぶりをファクトベースで押さえておくことが大切になります。また、評価面談時のコミュニケーション力も重要となります。(詳細は「評価面談」の個別記事へ)
上司がしっかりと「ファクトベースの公正なフィードバック・評価」を伝え、かつ「A評価を取るための的確なアドバイス、支援策」を伝えることができれば、評価制度というのはとても有効に機能していくことになります。
「評価と報酬」は
どのような関係であるべきか
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1.評価と報酬(給与)は関係ない
2.評価と報酬が連動する
評価と賞与額のみが連動する
評価と月給額のみが連動する
評価と月給・賞与それぞれが連動する
3.報酬原資
労働分配率は?
会社が赤字でも賞与を出すのか?
議論のたたき台としてまず推奨しているのが「給与月額のみが評価と連動する(A評価なら5%昇給など)」「賞与については、賞与原資に対して頭割りとする」というところです。
これは、
「月給に関しては、自分の努力・能力が評価されて高めていくことができる」
「単年の賞与については、会社利益と連動して”みんなで山分け”とする」
ということです。
会社の単年の利益というのは「いつ、誰の頑張りによってもたらされたものか」というのが分かりにくいのです。
3年前の画期的な研究開発が実を結んで、今期の黒字を大幅に大きくした、というような場合もあります。その場合は「3年前の功績にさかのぼって、研究担当者に賞与として還元する」などとすることもできなくはありませんが、これはなかなか難しいものです。
そこで議論の始めとしては「いつの誰の功績によって生まれた黒字化は、正確には分解できないのだから、割り切って山分けとする」というところからスタートするのです。
業種や職種によっては「いや、ここは切り分けができるから、この部分は切り分けたほうが納得感が高い」と言ったことも出てくるでしょう。
ビジョン・ミッション・バリューとの関係性
よく「会社のビジョン・ミッション・バリュー」を作りましょう、というようなことが言われます。
評価制度は、できる限り会社の「事業計画(ビジョン実現のための計画)」と「行動指針(バリュー)」と連動したものであるべきです。
例えば、会社のバリューとして「私たちは挑戦を最も大切にする!」と掲げたとしたら、それがそのまま評価項目に「挑戦」として入っているのが良いでしょう。事業計画上「顧客数の拡大」が重要なKPIとして掲げられていれば、それをそのまま評価項目に入れていくとよいでしょう。
重要なことは、社内に存在する制度や資料の一貫性です。「こちらの資料には、とにかく慎重さと丁寧さを大切にすると書いてある」「こちらの制度では雑でもいいからスピードが大切であるとなっている」というようなことがあると、社員が混乱したり、制度が形骸化したりすることになります。
効果的な組織マネジメントを行う上では、全体として一貫性を持った施策を打っていくことが大切になります。
支援事例
新規での評価制度導入した
企業の例
ご相談内容
評価制度が存在しておらず、評価制度を導入したい。部署を超えたチームワークを高めたいが「チームワーク」といった抽象的なものを評価制度に入れていいのか分からない。
ご支援内容
最初にご依頼いただいた時点では、社内では評価制度が存在していませんでした。昇給などは、社長が独断で決定する仕組みでした。
No.2である本部長が評価制度を導入し「何をどう頑張れば評価されるのか」を明確化したいと考え、社長も同意して、評価制度導入プロジェクトがスタートしました。
また、組織の課題として「協力し合うということが足りない」というものがありました。「チームワークを発揮したら評価されるように、評価項目に入れましょう」とご提案しましたが、「数字で測れないものは、客観性や公平性がないですよね?それは入れられないのではないですか?」という懸念が、本部長から示されました。
結論からいうと、評価項目に「チームワーク」という項目を入れることになりましたが、この理由は「その観点で頑張ると、評価される、報われる」と明示して、協力し合う文化を醸成していくためでした。
懸念のように、定性的な評価と言うのは「人が人を見て評価をする」ということになり、主観が入ることは免れません。主観があっても社員が納得感を持つためには、評価者の観察力や説明力が欠かせません。その点もご理解いただいた上で、チームワークという項目も入れた形で評価制度を構築しました。
まず管理職以上の方に「どのような観点で部下の仕事をみているか」「部下に期待することは何か」「部下のどのような行動は減点と考えているか」などをヒアリングし、それらを集約して「重要な7項目」に絞り込みました。
その7項目を5段階評価するために7×5=35マスの評価基準表を作成しました。
作成した評価制度について社員への説明会を開き、評価制度の運用をスタートしました。3ヶ月に一度評価面談を行い、上長が部下の評価と、評価向上のアドバイスをします。
社員からは「何を頑張れることが期待されているのか明確になり、迷わずに仕事を頑張れるようになった」といった声が出るようになりました。
管理職からは「最初は3ヶ月に一回も評価面談をすることは大変だったが、慣れるとそれほど負荷でもなく逆に、部下との大事なコミュニケーションの機会になってきた。厳しくC評価であることを伝えることと、どうすればA評価となるかのアドバイスができることで、バランスよくコミュニケーションができている」といった声が聞かれるようになりました。
チームワークという定性的なものについても3ヶ月に1回の評価面談の内容を蓄積し、幹部で検討会を開いて「当社にとって効果的なチームワークの行動とは?」ということが議論され、評価基準の知見も深まっていきました。
成長を支援する制度を導入したい
という企業の例
ご相談内容
評価制度を導入したい。評価制度を導入する目的は「あなたはC評価です。今年はダメでしたね」というようなことを伝えるためではなく、社員が、自分の成長プランを自分で描いていけるような、それを支援するためのものにしたい。
ご支援内容
まず経営者のご意向もあり評価制度と、報酬制度の連動をさせない、という方針で制度を導入することにしました。
A評価⇒5%昇給
B評価⇒3%昇給
などといった評価と報酬を連動させるケースがほとんどですが、この会社様では連動はさせませんでした。(報酬そのものは、評価も参考にしつつ、社員の個人的事情や会社の財務状況など総合的に判断し、社長が最終決定する方式)
その上で「社員自らが、どんどん成長していけるように」そのための制度を策定し「自己成長支援制度」と名付けて、社内にリリースをしました。
評価観点は「市場や顧客から求められているもの」という観点で、経営陣が中心となって整理をして「この観点を大事にして、成長していってください」というメッセージとしました。
評価制度導入と並行して、自己学習研修も行いました。「5年後にどのような人材になっていたいか?顧客からどんな声をもらえる人材になっていたいか?」「そのためにどのような学習プランでいくか?」などを、社員一人一人に自分で描いてもらうようにしました。
また同一業務、隣接業務をしているメンバーが集まっての「社内自主勉強会」の枠を会社として用意しました。書籍購入などの予算を付与し、勉強したいテーマは社員が自分たちで考え、書籍や雑誌、社内の事例などの共有と検討を行う勉強会を定期的に開催するようにしました。
もともと「自己成長するメンバー、自己成長する企業」を望んでいた社長からは「自分の想いを完璧に形にしてもらえました。これはずっと運用していきます」と大変好評をいただきました。