組織マネジメントの大前提

正しい「人間に対する知識」を
学ぶ価値

組織マネジメントの前提

    

事業面は好調な企業でも、「組織マネジメント」の領域では課題感を持っている経営者の方は多いのではないでしょうか。

経営は、「事業推進」「組織マネジメント」の両面があります。事業推進も、組織マネジメントも好調であれば、企業は順調に成長していきます。

一方、組織マネジメント面は良いが、事業推進が悪い状態では、当然ながら会社が倒産してしまいます。反対に、事業推進面は良いが、組織マネジメント面が悪い状態の企業は、組織面がボトルネックとなって、事業推進が一定以上進まないということが起きてきます。
    

組織マネジメント面には、組織経営が人を対象としている以上、人間に対する知識がとても大切になります。

特に人を動かし、組織を作り、事業を推進していく経営者が、正しい「人間に対する知識」を持っていなければ、効率的に成果を得ることはできません。
    

例えばプロ野球選手であれば、正しい栄養学に基づいた食事をすることはとても大切なことになるでしょうし、筋力トレーニングなども正しい知識のもとに行っていくことが重要になります。

組織マネジメントにおいても、社長の「人間とはこういうものだ」「人間とはこうあるべきものだ」という思い込みによって組織経営をしていくよりも、科学的な調査などから「人間とはこういうものだ」と発見されてきているものを学んで活用するほうが、合理的です。
     

社長自身の「人間とはこういうものだ」という信念が、科学的な調査結果などと一致していればなんの問題もありませんが、ズレが生じていることも多々あるでしょう。

昔は野球部の訓練として「うさぎ跳び」というのは普通に行われていましたが、今はうさぎ跳びをトレーニングとして取り入れている高校野球部はほとんどありません。

それは、科学的なデータから、怪我の増加や、筋力アップに寄与しづらいことなどが見えてきたからです。当時の指導者は「うさぎ跳びによって強くなる」と信じていたわけですが、データによってその信念が怪しいものであることが見えてきたわけです。
    

経営者は、人を動かし、組織を作り、事業を推進していく以上、「人間」に対するできるだけ正しい知識を持つべきだろうと私たちは考えています。

そして、既に世の中には、経営に役立つ研究成果が多数報告されているわけですから、これを活用しない手はありません。是非「人間とはどういうものか」ということに対するできる限り科学的な正しい知識を得て、より効率的、効果的に経営を進めていただけたらと思います。
     

まず本稿では、日本の社会的背景も踏まえ、会社組織に対してよくある誤解や、社長が失敗したり苦戦したりしてしまう要因、最新の人間心理に関する研究などをご紹介していきます。

どの内容も、経営者の方に知っておいてほしい 「組織マネジメントの大前提」の部分になりますので参考になりましたら幸いです。
    
    

会社組織をスポーツチームに例えるのは間違っている

はじめに、組織マネジメントに関わる中で発見した、会社組織に対してよくある誤解を紹介します。

ひとつめは、「会社組織をプロスポーツチームに何となく例える」ことです。
    

ビジネス書などでも、監督のチーム論・戦術論は書店に必ず並んでいますし、例えばサッカーの『なでしこジャパン』で強くなった佐々木監督の手法が注目されるようになったり…

「チーム(組織)というものは、こうやってやったら強くなるんだ」というのを参考にしようと、プロスポーツチームに基づくビジネス理論は世の中に多く出回っています。

ですがそもそも、それこそ前提として、プロスポーツチームの監督の方が、会社組織の経営者より、正直よほど簡単です。みなさんのやっている社長いう仕事の方が全然難しいことを、大前提として認識しておく必要があります。
    

野球でもサッカーでも何でも好きなスポーツで構いませんので想像してみてください。

例えば、あなたがプロ野球チームの監督になったとします。そのときに、まず「やる気のない選手は基本的にいるはずがない」ですよね。全員スタメンになりたいですし、試合に出たら勝ちたいですし、MVPを獲れる活躍をしたいですし、試合の途中で帰りたい選手なんていません。

所謂「やる気」「モチベーション」「意欲」の課題みたいなものは、プロスポーツチームの監督にとっては、まず問題となることがありません。

ですので、会社をスポーツチームに例え、スポーツチームの組織論にあてはめて企業の悩みを解決しようとしても、多くの場合うまくいきません。
    

会社組織をスポーツチームに例えるのは間違っている

     

高度経済成長期の感覚・理論は通用しない

ふたつめは、「高度経済成長期の感覚・理論は基本的に通用しない」ということです。

ちょっとひと昔前の理論や理屈は普及していくタイムラグがあり、どうしても一般的に書籍やネット上の記事は、「少し古い」ところがあります。それこそ、今の若い人たちにはそれは通用しないみたいなことがあるのです。
    

高度経済成長期の日本は、約50年ほど世界が羨む経済成長を実現していました。

あの時代は、まず敗戦から頑張った人たちが率先して身を粉にして働くことをした結果、経済的に上手くいったので、それに続く10歳若い人たちや20歳若い人たちが「頑張れば、豊かになれるんだ」という希望を持てていました。

なので、あの頃の若い人材たちは憧れの年長者から「いいから、おまえはこれをやれ」と指示を出されたときに、「何でやるんですか?」とは言わずに、憧れの人たちが言っているからと素直に(ある意味、無条件に)従うことができました。

野球少年がイチローからアドバイスされて、「全然納得いかないけど(もしくは理由はよくわからないけど)、イチローさんが言うならやってみよう」と思うみたいなことです。

ですが、現代の日本社会ではこの感覚は成り立たなくなっています。みなさまがご存知のとおり、日本の経済環境は、高度経済成長期が終わり、現在は低迷期に入っています。
    

その上、今の若い世代は、ちょうど社会人になるあたりのときに、リーマンショックなどで終身雇用神話が崩壊したのを目の当たりにしました。

両親や身近な人が、それこそ身を粉にして働いてきた会社からリストラされるのを目撃し、「会社は信じられない場所だ」「いつクビを切られるのかわからないのに尽くしたくない」「会社のために頑張っても仕方ない」という不安や疑心が強くなっているのです。

そういった社会背景もあって、今の若い世代の感覚は、「正直、別にあなたみたいな60歳になりたくないです」「本当にあなたみたいな50歳の生活が幸せなんですか?」のように変わってきており、「いいから、やれよ」というこれまでのようなコミュニケーションでは仕事がまわらなくなっているのです。
    

日本の経済環境の変化:GDP成長率の推移

        

世の中に普及しているマネジメント理論の多くは、これまでの成功体験、つまり高度経済成長期の感覚を前提にしています。

けれど、 この日本の経済環境が上手くまわっていたときにできたマネジメントの理論は、基本的に現在の経済環境下では通用しない と考えたほうがよいでしょう。過去の成功体験に固執してしまうと、組織は上手くまわりません。
   

コンサルタントの仕事の中で、大企業ともお付き合いをしてきましたが、今 大企業では、若手の社員が「管理職になりたくない」と言い始めており、どうやったら管理職になりたいと言ってもらえるだろうか・・・と上層部は頭を抱えている話をよく耳にします。

大企業ですと多くの場合組合があり、一般社員はそこへ加入しますが、管理職になると非組合員となり、残業代が出なくなります。 

そうすると、例えば今、600万円の給与で残業代を含めると700~800万円の年収だったとき、管理職になると残業代なしの年収800万円になるとしたら、「嫌だ・・・管理職になりたくない。これ以上給与が増えなくてもいいから、残業代がつく平社員のままがいい」みたいなことが起こっていて、当然「管理職」への憧れはなく素直には上の指示は聞かないですし、「出世のために頑張れ」も通用しません。
    

また、所謂ゆとり世代(~30代)層になってくると、物欲の感覚も全然違います。彼らはそもそも、「いい車に乗りたい」「豪邸に住みたい」「豪遊してみたい」と思っていません。

昔でしたら、「いつかはクラウンだ!そのために頑張る」みたいなことがモチベーションとして機能していましたが、今の若い世代は「軽自動車でも快適だからいいじゃん」「そのために(物欲や生活水準をあげるために)頑張るというよりは、なら休暇ください」「自由な時間がほしいです」「友達と過ごしたいです」になってしまうのです。

「お酒飲まない」「タバコ吸わない」「デートしない」何て言われていますからね(笑)

ワークライフバランス(WLB)や働き方改革などの言葉が注目を浴びているのも、この今の若い世代の感覚を象徴しているといえるかもしれません。
     

ゆとり世代の傾向(ゆとり世代の良いところと悪いところ)

    

組織マネジメントの注意点

次に、主に組織マネジメント面において、社長が失敗したり苦戦したりしてしまう要因・・・陥りやすい罠を解説していきたいと思います。

よく起こりがちなケースのご紹介ですので、人によっては自分は大丈夫だなと思える部分もあるかもしれません。一般的に組織運営・組織マネジメントにおいて起こりやすい、陥りやすい現象として、捉えていただければ幸いです。
     

社員に対する「人間観」が間違っている
(=期待像で接してしまう)

ひとつめに、事業と組織という2軸があったときに、経営者が事業のことしか考えていないケースがあります。簡単に言うと、お客様には非常に丁寧に仕事をしているのに、社員が相手になるとどうして急にそんなに雑になってしまうのでしょうか…というケースです。

この場合、せっかく雇った人材が離職してしまったり、社員のやる気が失われてしまったり、酷い場合には裏切られるということまで起こってしまいます。
    

では、どうしてつい社員(自社)のことになると、お客様と同じようには取り扱えなくなってしまうのでしょうか。

「人間観が間違っている」というとだいぶ強めの表現になっていますが、ここで伝えたいことは、 自社のことになると(社員に対しては)、相手の本来の姿ではなく、「こうであってほしい」という期待像で接してしまう ということです。
    

先ほどの高度経済成長期の社員の姿ではないですが、自社のメンバーに対しては、「やれ」と言われたらやってくれる社員でいてほしいという期待がどうしてもあります。

けれど、心理学の研究などをみても、そのような人間(例えば「やれ」と言われたら何でも素直にやる人間)は、ほぼ存在しません。実際には、いろいろな多様なタイプの人間がいるのです。

例えば、二要因理論(動機付け・衛生理論)という昔からある心理学の研究結果がありますが、組織運営においては、まずこの人間心理も無視されがちです。
      

     

「福利厚生や給与など待遇はよくしているのに、社員がやる気を出してくれない」というのは、心理学的に言えば、意欲の下がる要因は防げていますが、意欲をあげる要因には手を打てていないのです。

けれど、社員に対して「待遇をよくしているんだから、うちの社員のやる気は高いはずだ」という間違った人間観を持ってしまっている場合が多々あります。
    

また、ダニエル・ピンクが 『モチベーション3.0』 の中で伝えている人間の心理・行動に関する研究も、これまでビジネスで当然とされていた人間観に対し、実に興味深い示唆を与えてくれています。

この研究では、ビジネスで当然とされる20世紀的な報酬(外的動機付け)は、驚くほど狭い状況でしか機能せず、社員のやる気を失わせる要因になっていることが明らかにされました。「もし~したら、XXがもらえる」という If-then式の金銭的報酬制度は、社員のやる気を失わせるのです。

反対に、社員のやる気を高める要因は、「自分にとって重要だからやる」「自分が好きだからやる」「自分が面白いと思うからやる」といった個人の内発的動機にあり、この内的な意欲はクリエイティブで高いパフォーマンスをもたらすことも明らかになりました。
    

      

給与や報酬が意欲を損なわせてしまう例

モチベーションの研究に関係する興味深い話をひとつご紹介します。

ある一軒家のコンクリートでできた塀に、近所の子どもたちがいつも落書きをすることで家主のおじいさんが困っていました。落書きしている姿を見かけて子どもたちを叱ったとしても、子どもは「じじいが怒った!」と楽しくて仕方なく、反省する素振りはありません。

子どもたちにどうやったら落書きをやめさせられるか。おじいさんは考えました。そして、これまでとは正反対の面白い策を実行したのです。
    

ある日、落書きをしている子どもたちに、「お、君たち、いい落書きするじゃないか」とお小遣いをあげることにしました。当然、子どもたちは落書きをした上に報酬までもらえるのですから喜んで受け取ります。

おじいさんは、翌日も落書きをしている子どもたちに、落書きを褒め、お小遣いをあげました。子どもたちは喜びます。この落書きをされたら、お小遣いをあげるをおじいさんは1週間繰り返しました。

8日目の朝、子どもたちはお小遣いがもらえるものと思って、今日も塀に落書きをします。そして当然のようにおじいさんにお小遣いを要求します。

でも、おじいさんは「何で落書きをした悪ガキどもに小遣いをやらねばいけんのだ!」と、ピタッとお小遣いを与えることをやめました。

すると、「小遣いくれないなら、もう落書きしてやんねぇからな」と子どもたちの落書きがとまったという話です。
    

初めは自身の内発的動機から落書きを「楽しんでいた」 子どもたちが、落書きをすれば小遣いがもらえるという思い込みを覚え、損得勘定に支配され、もともとあった落書きを楽しむという本来の喜びを失ってしまったことがわかる、わかりやすい例です。
     

ビジネスにおいても、本来は「いい仕事をしたら、お客様に喜んでもらえて嬉しい」という気持ちから仕事をしていた人が、「この仕事をしたら、どれだけ給与・報酬がもらえるんだろう」という損得勘定の世界観へ入ってしまっている状況をよく見かけます。

いい仕事をしているのかとインセンティブ(金銭報酬)をどれだけリンクさせるかは、とてもセンシティブな課題であり、「いい仕事をしたら、給与をあげる」という仕組みは人間の意欲を高めるために効果的ではないことは認識しておかなければなりません。

これら2つの理論でも示されていますが、注目しなければいけないのは、どのような研究結果を見ても、「お金でやる気があがっている研究結果はない」 ということです。
     

昔の日本の終身雇用と年功序列の考え方

補足として、昔の日本の終身雇用と年功序列の考え方を解説します。終身雇用と年功序列制度は、銭的報酬と仕事の成果を完全に分離させた考えに基づいています。

ご存知のとおり、終身雇用と年功序列の制度においては、仕事をどれだけ頑張ったからや業績があがったからという要因は、昇進・昇給にはそれほど強い関係ありません。

年齢が上がったら、給与が上がります(この前提は、前の章でお伝えしたとおり「みんなで頑張っている」「頑張ったら、頑張った分だけうまくまわる」という高度経済成長期の感覚があって成り立つものですが)。
    

これは、「年齢があがったら家庭で必要な支出が増えるから、給与があがる」という非常に共産主義的な考え方に基づいています。

結婚をした、子どもが生まれた、子どもが進学した、2人目が生まれた・・・なら、給与も増えていかないと大変だと当人の年齢に伴う生活環境の変化に合わせて昇給しているのです。そこに、当人の仕事の成果や会社の業績という評価基準は関係ありません。
     

ライフプラン

出典:写真AC

        

成果主義が必ずしも人の意欲を高めるわけではないことなど、間違った人間観を持っていると、良かれと思って取り組んでいることが逆効果になってしまっている場合があります。

会社組織の運営に関しては特に、世の中で通説となっている思い込みやどうしても期待から生じてしまう偏った人間観がありますので、それに捉われず、一般的な人間心理の理論を押さえておくことが重要です。
    

この人間観をベースにしたときに、気を付けてほしい注意点があります。

経営者や上司の方に、「社員にどういうふうにいてほしいですか?」とお聞きすると、「主体的に仕事をしてほしい」という言葉がよく出てきます。「主体的」とは、自分なりに考えて動くことを指す言葉です。

でも、経営者や上司の方にもう一歩本音を聞くと、「自分が出した指示・命令に対して、主体的に頑張ってほしい」という言葉が出てきます。ここで多くの方が社員へ期待する主体的とは、「指示や命令に対して、積極的にいてほしい」のようなのです。
    

経営者や上司が指示・命令をしたとき、社員や部下が「わかりました!」と意欲的に行動すること。これは主体的なのかというと、言われたことをただやっているだけ、受け身的ともいえます。

もちろんゼロか100かの世界ではありません。けれど、ついつい「社員には主体的でいてほしいし、自分の指示・命令に対して積極的でいてほしい」という矛盾した2つの要素をいいとこどりしようという期待が強く働いてしまうようです。

実際には、社員へ主体的でいてほしいと思っていても「自分の出した仕事の指示や命令に対して、積極的でいてほしい」、更に言えば「イエスマンでいてほしい」という気持ちがあり、この「主体性を発揮してほしい」と「指示・命令に積極的に頑張ってほしい」は、人間心理の側面からとらえると矛盾している部分があることは認識していただければと思います。
     

社員に対する甘えや期待がある
(=実は社員が最も社長に厳しい)

では、今 ご紹介した人間心理を踏まえ、いざ、自分の社員を育成しようと思っても、何故かお客様へのようには、社員育成は頑張れないということがよく起こります。

経営者側からすると、特にオーナー社長からすると、会社は自分の家のようなものですし、自分が採用した社員は、家族の一員と言ったら大袈裟かもしれませんが、身内のようなものだと感じている人が多いのではないでしょうか。

社長側には、どこか社員を身内のように想っている気持ちがあったとき、例えばですが、家族で、父親(社長)が子ども(社員)に対して、何かとひとつひとつお伺いを立てる…というのは、やってられないなぁとなるのも、非常によくわかります。
    

けれど、社員の側は社長のような感覚を基本的には持っていません。

社員の多くは自社に対して(社長に対して)、転職もあり得る中での一職場にすぎないという気持ちで仕事をしており、自社(社長)に対して家族というよりはお客様に接するのに近い、丁寧なコミュニケーションを求めているケースがほとんどです。

このように、多くの場合、社長と社員間において、相手に期待するコミュニケーションの丁寧さ/雑さにギャップが生じています。
    

社長業は本当にストレスが多い仕事です。

社長は、自社で一番頑張っていて、一番褒められ、認められていい仕事をしているのに、実は一番褒めてくれないのが自社の社員だったりします。

何なら社員が最も厳しい目で社長のことを見ていて、お客様や同業の社長の方がよほど褒めてくれたりします。

しかし、このズレが生じていることが(社員が家族としてどころか、最も厳しい目で社長を見ているということが)、あたりまえであるという認識を経営者の方には前提として持っていただければと思っています。
     

まず経営者の方に
気を付けていただきたいポイント

ここまで、組織運営面において、社長が失敗したり苦戦したりしてしまう要因を解説してきましたが、引き続き、組織マネジメントに取り組んでいく際に、まずは経営者の方に気を付けていただきたいことをお伝えしていきます。

これも、よく起こりがちなケースのご紹介ですので、人によっては自分は大丈夫だなと思える部分もあるかもしれません。一般的に経営者やリーダーの方に起こりやすい、陥りやすい現象として捉えていただければ幸いです。
    

経営者自身(リーダーシップ)のあり方

素晴らしい経営者や勉強熱心な社長ほど、それこそ「社長はこうあるべきだ」「リーダーの心得」のような書籍をたくさん読んでいたり、セミナーなどに参加されて日々自己を磨いていたりします。

とにかくまずは頭で「リーダーとしてこうあるべき」をインプットして、早速 現場で率先して動き、実行します。

そうすると、やはり「成果」がちゃんと出ます。会社のトップが正しい動きをしているので、良い成果が生まれる循環はできるのです。すると、まずます「リーダーとしてこうあるべき」は大事だよなという考えが強化されていきます。
    

「リーダーとしてこうあるべき」というリーダーシップのシステム図

           

しかし、このとき、実は心の方は無理をしていたり、疲れていたり、頑張りすぎている場合も結構起こっていたりします。「何で、俺だけ(リーダーだけ)こんなに頑張っているんだろう」といった疲弊感がたまっていきます。

疲労感や疲弊感がたまると、自身が頑張っていることを理解してほしい気持ちや、もう少し報われるべきだよなという気持ちが生まれてきます。

こうなってきたとき、「より一層成果を出して敬意や感謝を得たい」という気持ちに繋がっていくケースが多いです。「もっと会社を大きくしたら認めてもらえる」「業績がもっと増えたら褒めてもらえる」といったように。
        

そして、より一層成果を出そうとすると、社員に対する厳しさもどうしても強くなってしまいます。社員も厳しく言われると頑張るので、ここでも「成果」はちゃんと出ます。

けれど、この循環で成果が出ても、社長が賞賛される場はありませんし、社員からの感謝や敬意が感じられません。何故なら、この成果を出すために社員は厳しく言われて頑張ってきていますので、成果が出ても「ようやく解放された」「何で社長に感謝しないといけないんだよ」という気持ちが強くなってしまっているのです。

私たちはこれを、「頭と心が分離したリーダーシップ」と呼んでいますが、このサイクルで成果を出し続けても、どこかで破綻します。
     

頭と心が分離したリーダーシップのシステム図

              

あくまで理屈上はという話になりますが、やはりリーダーの頭と心が一致している状態であることは重要になります。

自分がリーダーとして、社員を幸せにしたいなという気持ちにもフォーカスし、そこから率先して動き成果を出し、成果が出たら社員が喜んでいるのを見て、社員が喜んでることをリーダー自身も喜び(まるで子どもの成長を喜ぶ親の心境に近いかもしれませんが)・・・という循環でもし成果が出ていたとしたら、これはストレスのない世界になりますよね。

このように、 「経営者が、自分自身に対し、どういう捉え方をしているのか」 という観点は、組織をマネジメントしていく上で、非常に大事なポイントになります。
    

頭と心が統合されたリーダーシップのシステム図

          

自分が「すごい人」であることを認める

経営者自身の自己分析、自己認知を高めることが重要という点で、もうひとつ大事なのは、「もっと自分がすごい人であることを認めてください」ということです。これは、社長や経営者、上司となる方に、私たちはよく伝えるようにしています。

社長や経営者は(そもそもこのような立場になるような方ですので)、人格者で、真面目で努力家であり、とても謙虚な方が多いのですが、それ故「自分がすごい人だと思っていない」ために、苦労されているケースがあります。
    

経営者となる方は、非常に優秀な方です。優秀だからこそ、経営者(またはリーダー)をやっているのです。この記事を読んでいる皆さまと同じレベルで優秀な社員がいたとしたら、恐らくその方は自分の会社を起業できるはずです。

なので、そんな優秀な経営者の方々の基準で、「これくらいできて、あたりまえだろう」と感じるレベルは、社員の側からすると、「難しすぎる要求」であり、「期待値が高すぎる」状態になっている場合が多く見受けられます。

経営者からしたら、「連立方程式くらいできるだろう」と思っていても、社員は実はまだ足し算やかけ算を覚えている…というようなギャップが、よく起こっているのです。
    

チクセントミハイの「フロー体験理論」は与えられた仕事の難易度と仕事の成果(パフォーマンス)に関する、心理学の研究です。

弊社では組織マネジメントを推進する上で様々な心理学の研究結果を紹介していますが、この理論は、その中でも「これだけは絶対に押さえてほしい」と強くオススメする理論です。
     

チクセントミハイのフロー体験理論
【参考】 フロー体験理論

    

このフロー体験理論をもとに考えたとき、社員を「不安ゾーン」か「退屈ゾーン」か、どちらにおいているケースが多いかというと、「不安ゾーン」に置いているケースの方が多いものです。

「これくらいできるだろう」「もっとできるはずだろう」という、優秀な経営者や、優秀な上司の過度な期待のために、不安ゾーンに置かれて、むしろパフォーマンスが低下してしまっている社員が多数存在しています。

もしも、社員からより高いパフォーマンスを引き出したいのであれば、日々の業務やコミュニケーションにおいては、できるだけフロー状態にいられるような難易度設定となっているよう配慮すべきです。
        

例えば「今月はここまで達成しよう」という目標設定自体が、不安ゾーンや退屈ゾーンにあっては、社員のパフォーマンスは最大化されません。

社員がフロー状態にいるのか、それとも不安や退屈ゾーンにいるのかを把握したい場合は、人事評価などの個人面談において、「仕事に対し、どちらかいうと不安を感じているか、それとも退屈だと感じているか」を、本人に直接聞いてしまうのが、手軽で確実です。
   

ただし、このやり方は、質問者(社長や上司)と訊かれた社員の間に、「ぶっちゃけ」の本音も言い合える信頼関係があることが前提になります。

社員がもっとチャンスがほしい、挑戦したいと思っているのか、実は社長(上司)のオーダーに対応するので精一杯なのかを聞き出すためには、「怒らないから言ってごらん」と伝えたときに、社員から素直に本音が出てきて初めてわかるものです。

もし、社員に、「不安だと言ったら、この程度もできない人材だと思われるかな」「退屈だと言ったら、やる気がないと思われてしまうかな」など、自分の本音を伝えることへ不安があったら、当然ながら本音は引き出せず、適切な把握もできません。

この「心理的に安全な人間関係の重要性」や「人の感情を取り扱うポイント」については、後段で詳しく解説します。
          

話は戻りますが、経営者やリーダーとして活躍される方は非常に優秀な方々ばかりです。ですので、そのような方々の目線からみたら、社員に対して、「そのレベルもできないのか」と感じてしまう場面はよく起こります。

けれど、それは「社員ができない」のではなく、まずは「ご自身の仕事能力が非常に優秀であること」を認めてください。
    

自分がすごい人であることをわかるのは、難しいです。

リーダーシップ論の多くは、謙虚でいなさいと伝えていますし、それと矛盾します。けれど、 社員の働きに感謝することと、ご自身がそもそも仕事の能力の高い人材であることは全く別 です。

一般的な「社会人ならこれくらいできるだろう」にとらわれず、もしかしたら社員はまだ足し算を覚えたばかりかもしれないという目線で、相手の仕事能力を判断してみてください。
     

これからの経営で注目される要素

実際に組織づくりを進める上でのお悩みに対する解説は、「ビジョンの共有」「評価制度・配置」など、次頁以降でお伝えしていきます。

本稿では最後に、人や組織の問題に取り組む際に共通で知っておいていただきたいポイント・・・最新の人間心理に関する研究結果を、簡単にではありますが、いくつかご紹介していきたいと思います。
    

Googleが研究発表した「高い生産性の要因」

まず1つめは、アメリカのGoogleが発表した「心理的安全性」という要素です。

「心理的安全性」を一言でいうと、先ほど「自分がすごい人であることを認める」でお話しした、「ぶっちゃけ」の本音も言い合える信頼関係のことです。「怒らないから言ってごらん」と伝えたときに、ぶっちゃけ今の仕事が退屈なのか、不安なのかを言えるのが心理的安全性の高い組織です。

「ぶっちゃけ」の本音も言い合える関係というのは、社員が自分の本音を伝えたら、この人はいい方向へ一緒に考えてくれるという信頼があるから、成り立っています。

反対に、本音を飲み込んでしまう場合は、「これを言ってしまったら、駄目だという烙印を押されてしまうだろう…」「こういう評価になってしまうだろう…」と、不安があるのです。
    

Googleが発見した最も成功しているチームに共通する5つの特性

【参考】心理的安全性

        

心理的安全性が高い組織というのは、不安や悩みなどのネガティブな情報も自然と共有できる関係です。本当は悪い情報ほどちゃんとキャッチして対処していきたいのですが、心理的安全性が低いと、悪い情報が隠れていってしまうのです。

しかし、ネガティブな情報が適切に共有されることは、プロジェクトがスムーズに上手く進んでいくために不可欠であったりします。

この心理的安全性を高めるためには、所謂IQ(効率的に効果的に数学的に考える能力)ではなく、EQやEIと呼ばれる「人の感情を受けとめる能力」「感情(相手の状態)に気付いたりする能力」が大事になってきます。
     

心理的安全性(ネガティブな情報ほど共有しにくい)

           

EQ/EI(感情指数)の重要性を示す研究

EQ/EI(感情指数)の高い人ほど、生産性が高く、業績が良く、離職率が低いことが、データで示されています。

下記の情報は、全て海外事例ではありますが、心理的安全性やEQ/E(感情指数)Iが、ビジネスと関係しているエビデンスは増えてきました。
     

EQ EI(感情指数)の重要性を示す研究の一例

     

正直なところこの心理的な話は、表層的にとると、「優しく褒めてあげましょう」みたいなことなのかとなってしまいがちです。

ただ、「組織マネジメントの前提」の項目でお話しした高度経済成長期の頃は、職場の心理的安全性が高かったはずなのです。

要は、上司が「いいからやれ」のような雑なコミュニケーションで命令したとしても、「恐らく上司の言う通りなんだろうな」「これは自分のために言ってくれてるのだ」という信頼や安心感がありました。
   

なので、厳しい言葉をいうと、心理的安全性が低くなってしまうわけではありません。「これは自分のために言ってくれているのだろうか」「自分をよい方へ導くために言ってくれていることなのか」と、感じられるかどうかは、極めて主観的な世界です。

ですので、「厳しくあたることが間違っている」「優しくしなければならない」わけではないことも、ご認識いただければと思います。
        

「心の状態」の伝播力・影響力

もっと個人ひとりひとりの状態にフォーカスした心理的研究もご紹介します。
    

「心の状態」の伝播力 ミラーニューロン

ひとつめは、脳機能的に「人は言語で、分析・記述するよりも速く・正確に人の感情状態を察知する能力が備わっている」ということです。

人間の脳には人間の脳には「ミラーニューロン」という機能があります。このミラーニューロンは、人が、言語で、分析・記述するよりも速く・正確に状況察知する能力を備えているのです。

【参考】心の状態の伝播力 ミラーニューロン
    

つまり「あ、あの人は、怒っていそうだから、近づかないようにしよう」と言葉で、分析・記述するよりも速く、言うなれば「直観的に」“危ない!”と、人はわかっているのです。

要は、朝、始めに会社に入った瞬間(もしくは自宅に帰った瞬間)、「何だか部屋の空気がおかしいぞ」と感じるみたいな能力です。みなさんも必ず1度は体感したことがあるのではないでしょうか。
      

ぐいぐい自分が引っ張っていくようなカリスマ型のリーダーであれば言わずもがな、みんなで頑張ろうというチーム型のリーダーであっても、やはり権力のある(立場が上の)人間がもたらす影響力は、いち社員の影響よりも非常に大きなものです。

社長や上司が自分の感情をコントロールできずにイライラしていると、周りもどうしてもピリピリしてきます。反対に、 社長や上司が自身の感情に向き合い、できるだけリラックスした状況をつくれていると、周りもリラックスして仕事がしやすくなります。
        

「心の状態」の影響力 ポジティブ心理学

また、心の状態による影響力に関しても研究が進んでおり、感情と生理学的にどういう関連があるかについても、おもしろい事実が明らかになってきています。

『ポジティブ心理学』では、ネガティブ感情とポジティブ感情が、それぞれ生理学的にどのような影響を人にもたらすかについて、示唆しています。

ここで、ポジティブ感情としている状態は、「前向きで勇気にあふれていて元気がある!」というよりは、どちらかというと、リラックスしていて、集中できているような状態のことです。
     

ポジティブ感情の影響力
ネガティブ感情の影響力

     

簡単にご紹介すると、不安や苛立ちなどのネガティブ感情は、人間の視野を狭め、健康状態上でも様々な面で悪影響を及ぼします。

一方で、落ち着いている、集中しているといったポジティブ感情は、目の前の問題だけではなく長期的な視野で捉える思考を促し、問題解決を助け、創造的かつ協調的な行動をもたらします。

心の状態が、人の能力にも影響を及ぼすことが生理学的にも明らかになったのです。
   

当然ですが、これは本当の気持ちを押し殺して、無理にリラックスしたになれということではありません。気持ちを押し殺している時点で、緊張状態が生まれています。

「経営者自身の自己分析・自己認知を高める重要性」でお伝えしましたが、頭と心が分離したリーダーシップでは、どこかで崩壊します。
       
      

人間心理に関する興味深い研究を幾つかご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。

今まで、経営と「感情」については重視していなかった方も、何となく気になっていて探っていた段階の方も、人の「こころの状態」の伝播力や影響力に興味を持っていただけたのなら幸いです。
     

ちなみに、人が自身の心身の状態を落ち着けて「自分自身の仕事のパフォーマンスを上げ」「周囲とも質の高いコミュニケーションができる」状態になるために、できることは何があるのでしょうか。

この部分の詳細は、まさに弊社が提供している勉強会やコンサルティングなどのプログラムで扱う内容になりますが、心身の状態を整えるという点で、最も簡単にできる手法は、「呼吸を整えること」です。

これは科学的にも立証されており、呼吸を整えると、心拍が整い、脳波など“心の状態”も整いますので、よろしければ実践してみてください。
    

感情(気持ち)が重要になってきている背景

ここまで「こころの状態」の重要性をお伝えしてきましたが、どうして人の感情(気持ち)が重要になってきているのか、社会的背景を踏まえ整理しましたので、参考にご覧ください。

大量生産・大量消費の時代
かなり遡りますが、産業革命以降に近代ビジネスがスタートしました。世界的に人口増加を伴い、「大量生産・大量消費」時代が始まります。
         
このときはわかりやすく、「生産量を増やせば、富が増える」状態で、ものをつくれば、買い手はいくらでも買い続けてくれました。
        
人口が増加し続けていたので、消費者の分母自体が大きくなり続けていましたので。ビジネス的には非常にやりやすい時期でした。日本の高度経済成長期もこの時代です。
   
大量生産・大量消費時代においては、ビジネスの主役は「設備(工場)」でした。
    
工場の稼働力を最大限高めて、生産量を増やすことで、富を増やすことができたのです。その時代においては、極端に言えば「工場の動きに従って動く人間」が重要でした。
差別化・効率化が重要となる
徐々に物が溢れ、余り出すと、差別化が重要になってきます。また、効率性(生産性)を高めてコストを削減することも重要になってきました。
           
要は消費者の分母が底打ちしてきたので、「大量に作れば作っただけ売れる」というモデルは限界を迎えていましたが、まだまだメーカーがイキイキとしていた頃で、モノの品質が良ければ売れる時代でした。
          
この頃はまだ、企業マネジメントにおいては人材の重要性は今よりもまだまだ低く、「一部の賢い人間」が考えた計画に沿って、従順に動く人間がいれば充分でした。
【現在】人材の重要性が高まる
そして、現在のビジネス環境では、人材の重要性は非常に高まっています。
    
モノありきではなく、店舗でも「店員の態度が悪かったから行かない」「コールセンターの対応が悪かったからもうあのブランドは使わない」といったように、クリエイティビティ(創造性)やホスピタリティ(察知力)が、ビジネスのあらゆる場面で差別化要因となってきているのです。
    
今は、社員の創造性や察知力をいかに全組織的に高められるかが、経営の最重要課題となっています。

    

本稿では、組織マネジメントの諸所のコツを学ぶ前に、まず経営者の方に知っておいてほしい組織マネジメントの基本となる考え方や知識、注意点、また最新の研究や企業事例を解説してきました。

次からはいよいよ組織マネジメントを具体的な領域ごとにご紹介していきます。
    

組織づくりの考え方_株式会社コーデュケーション

     

    

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