Vol.38 上司が部下にコーチングをする場合のポイントとは

今回のご相談内容

人材育成や部下指導に、コーチングが有効だということでコーチングを学び、実践している最中なのですが、どうにもスッキリしません。部下に質問をしたととしても的外れな回答が多くて、本当にコーチングという方法でいいのか悩んでいます。

私のコーチングに問題があるのでしょうか。

どのように職場でコーチングを活用したらいいのか、上司が部下にコーチングをする場合のポイントなどがあったら教えていただきたいです。

    

石川からのご回答

部下の指導のスキルの一つとして、コーチングを学ばれている方も多いと思います。

教えるばっかり、叱るばっかりではなかなか部下が動かないので、コーチングによって効果的に部下に動いて欲しい。そうしてコーチングを学ぶことになる・・・というケースはよくあるケースかと思います。

しかし一言で「コーチング」と言っても非常に幅広いものがあり、どんな状況で、どんなコーチングを使うべきかなどを理解していないと、効果が出ないばかりか、逆効果になってしまう・・・というようなこともありえます。
   

コーチングが機能するのは限定的な状況に限る、コーチングと一言で言っても細かく言うと様々なコーチングがあり、状況に応じて使い分ける必要があるといったことをよくご理解いただけると「コーチングを有効に活用する」ということもしやすくなってくるかと思います。

    

ティーチングとコーチングの場合分け

まず大前提としてコーチングは「ある程度本人が自分で考えて、答えを導き出せそうな領域」に対して機能します。

例えば、英語を一度も学んだことがない人に「これはペンです、を英語で言うと?」と問いかけても無意味なことは、誰でもわかることです。
   

ティーチングが必要な場面や時期というものがあります。

それは、コーチングが機能しない場面や時期でもあります。
   

先日、育児書を読んでいたのですが、「これはリンゴ」と教える時期と、いくつかの絵を見せて「どれがリンゴ?」と選ばせる時期と、リンゴの絵を見せて「これなんだ?」と聞いてリンゴと答えさせる時期と、それぞれ適切な時期があるということを読みました。

ビジネスにおける人材育成においても、このような細かい場合分けをしっかりとすることで、部下の成長を効果的に促進することができます。
   

上司が部下にコーチングをする場合のポイント

出典:写真AC

    

Howのコーチングと、Whatのコーチング

「何に取り組むべきか?」というWhatレベルを考えさせることと、(取り組むことは決まっていて)「どう取り組むとよいか?」というHowレベルを考えさせることは、難易度が違います。

Whatレベルの方が難易度が高く、Howレベルの方が相対的に難易度が低いものになります。今自分は、部下に対してどちらのレベルのコーチングをしようとしているのか、それをよく見極めるとよいだろうと思います。
   

Whatに関してはティーチングをし、Howに関してはコーチングをする、ということもあります。

「これは重要な仕事だ。だから君にやってもらう。なぜ重要かというと・・・」とWhatについてティーチングをし、「この仕事で求める成果を出すに、どんなやり方が効果的だと思う?」とHowについてコーチングをする、といった具合です。

「どうやったら成果が出せるか?」と問うことは、一番ざっくりとしたHowのコーチングになりますが、例えば「キーマンは誰か?」「キーマンが気にしていることは何か?」「どのような資料を準備すれば商談がうまくいくか?」とHowのコーチングをしていくことは、細かいコーチングということになります。

このHowの質問の細かさを調整することで、ご質問にあった「的外れな回答ばかり出てくる」ということは、かなりの部分避けることができます。
   

ティーチングとコーチングの切り替え

そのように質問の粒度を調整しても、やっぱり「そのやり方じゃうまくいかないだろうな。。。」という回答しか出てこないことはあります。

その場合は、部下の方が経験や知識が不足していることが考えられます。そのときは、コーチングではなく、ティーチングにしていく必要があります。
   

「ちょっと、アドバイスしたいんだけどいい?」と確認を取って、その上で「こういう観点が出てきてない。この観点も入れて考えると、こうしたほうがいいと思う」と、ティーチングをすることも出てくるでしょう。

その際に「・・・とアドバイスしたけれど、あなた自身はアドバイスを聞いてどう思う?」とコーチングに戻していけるとよいのです。
   

    

これをしっかりと戻せないと「結局、自分の思い通りに動けと命令しているじゃないか」「だったら最初からはっきりと命令しろよ」という気持ちが部下の方に出てきてしまいます。

一度コーチングに入ったら、アドバイスをしたときほど「コーチングに戻す」ということを意識することが重要です。
   

どこまでスキルアップしても「忍耐力」は必要

コーチングのスキルがアップすれば、より効果的に部下に動いてもらいやすくなるのは間違いありません。しかし、だからと言ってコーチングスキルを磨けばストレスフリーになるかというと違います。

どこまでいっても「もっと早く成長してくれないかな」とか「そんなやり方は好きじゃないけど、個性の違いかな・・・」といったことは出てきますし、そこで【忍耐力】が必要となる、ということはあります。
   

「どうにもスッキリしません」とご質問いただきましたが、コーチングもやはり魔法の杖なわけではなく、ティーチングをしていてもストレスはありますし、コーチングをしていてもストレスがなくなるわけではない、という前提の認識は大切なことかと思います。

コーチングを部下に対して行う場合、やはり「部下をお思い通りに動かしたい」という思いでおこなうのと、「部下に成功して欲しい」という思いでおこなうのでは、似て非なる現象が起きてきます。

思い通りに動かしたいと思っているのであれば、むしろティーチングを徹底することの方が効果的かもしれません。

しかし、個性もある中で「本人なりの成果の出し方」を見つけられればそれでよい、
ということであればコーチングの方が機能しやすい、ということはあるでしょう。
   

部下の成功を願って、部下の個性や、現在のレベル、置かれている状況なども加味した「最適解」を得よう、というスタンスを持つことが、コーチングの効果を高める土台であり、秘訣である、ということもできるかと思います。
   

今回のご質問に対する回答は以上となります。

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

    

[Vol.38 2020/06/16配信号、執筆:石川英明]

   

関連記事