Vol.49 上が詰まっていて昇進・昇格ができない…出世を前提としたマネジメント限界を感じている

今回のご相談内容

弊社は創業15年ほど、約80名の中小企業です。

ここ数年、シニア世代の処遇に悩んでいます。要は、上が詰まっていて出世や昇進・昇格ができない状況が生まれています。

ずっと役職がないのもどうかと思い、年齢や勤続年数なども考慮し、ある程度の成果を出している社員には役職を与えるようにした結果、次長、部長、課長、課長補佐、主任…と、無駄に中間管理職が増えてしまっているのも問題です。

これからも工夫次第で、地位や役職を社員のモチベーションとしていくことができるのでしょうか?これはもう時代にそぐわないやり方なのでしょうか?

また、もし出世や昇進以外が社員の仕事のやりがい、働きがいとなっていくとしたらどのようなものが考えられますか?

        

石川からのご回答

出典:写真AC

出世で釣るマネジメントは限界を迎えている

業界自体が成長期にあり、企業が成長期にあるときは「より多く」というアメが機能しやすい状態であるといえます。

より出世し、より部下の数が多くなり、より収入も増えていく・・・ということを目指すことが「頑張る」意欲につながる、ということです。

   
しかし、日本社会全体が人口増の経済成長期から、人口維持から減の経済衰退期にマクロでいうと入っています。

国際社会全体としてみれば、まだ人口増の経済成長期にあるかもしれませんが「このまま人口増を続けていくことが人類にとって良いことなのか?」という観点もあります。エネルギーや食糧生産、環境などの観点からも現代的な物質社会は維持できないのではないかという見方はあります。

日本社会として、人口減のトレンドにあれば、当然基本的には市場は縮小していくことになります。市場というのは「人口×一人当たり予算」ですから、人口という大きなトレンドがマイナスになれば、基本的に市場もマイナストレンドになります。

   
当然、多くの業界がそのトレンドの影響を受けることになります。

例えば自動車業界でも、少なくとも国内市場において「販売台数を10年後までに倍にする」といったことは、もはや現実的な目標として機能しないでしょう。

20歳で入社し、60歳で定年するとしたときに、40年間自社が成長し続け、売上が増え続け、社員数が増え続け、ポストが増え続ける・・・・といったことを前提としたマネジメントは、もはや機能しなくなってきています。

   
例えば、毎年10人入社する企業で、40年間在籍するとしたら、400人の社員が常にいて、10人入社し、10人定年退職するという感じになります。

業界の縮小に合わせるのであれば、10人退職し、9人採用する、8人採用する・・・となって、400人の社員数も390人、380人・・・と減っていくというのが自然だということになります。

20歳で入社し、30歳で課長になり、40歳で部長になり、50歳で役員になり、60歳で退職する。年功序列的に10人が、同じように「出世」を経験していく。そのような「筒状」の組織マネジメントもあるでしょう。

ヒエラルキー組織にして「課長一人に対して部下10人」といった体制を維持しようとすれば、当然ながら、10人入社しても、8人が退職するか、もしくは平社員にとどまるか、ということが生じてきます。

こうすると、組織内の大多数の人のマネジメントは「出世」で釣るということはできないということになります。

ポジションと報酬を切り分けて、報酬のみ年功序列的に上げていくという方法も一つかもしれません。
   

出世以外のモチベーションマネジメントとは?

学習する組織――システム思考で未来を創造する

「会話からはじまるキャリア開発ー成長を支援するか、辞めていくのを傍観するか」が出版されていますが、これからの企業は、採用した社員を「継続的にモチベートできるか」について、真剣に考えなければいけません。    

多くの企業にとって「規模の成長を前提としたモチベーション・マネジメント」は、現実的にできない打ち手になってきています。

QOLということになりますが、「この会社に勤め続けて、自分は充実したキャリアを送れる」と思えるかどうか、それも「限られた椅子である出世」や「金銭的報酬」ということ以外の施策によって、それを導き出さなければなりません。

しかも、VUCAの時代では、市場環境は変化し続け、ベテラン社員も新しいことに挑戦し続けるような姿勢が求められます。

「定年退職まで、高望みせず、慣れ親しんだ仕事をし続けて、給料がもらえればいい」という社員を、ただ終身雇用という意識において抱え続けていくことは非常に難しいわけです。

    
人間には個性があり、一人一人、何が刺激となるかは違うものですが、とは言えある程度「こういったことが刺激となる」というものはあります。

地位、金銭的報酬以外で、どのような刺激剤があるのか、それをちょっと考えてみなければなりません。

   
一つは「挑戦」です。

人間は、新しいことに挑戦するときに、非常に刺激を受けます。イキイキとします。もちろん新しいことに取り組むことへの抵抗や面倒くささなども存在しますが、「新しいことへの挑戦」そのものは、よい刺激となることが多くあります。

実際問題として、例えば旅行で新しい場所に行ってみるとか、新しい趣味を始めてみるとか、それによって人がイキイキとし始めるという例は、枚挙にいとまがありません。

社内の業務においても、適切な「挑戦」を用意し続けられるかどうかはマネジメントの上で重要でしょう。非管理職が管理職となると「部下を指導する」といった挑戦があり、こういった挑戦が人材のやる気を刺激してきた面があります。

こうした垂直方向の挑戦もあれば、水平方向の挑戦もあります。例えば、まったく経験したことのない部署に異動する、といったようなことです。

無限成長前提のヒエラルキー組織においては、まったく未経験の部署に異動して「新人」として業務に挑戦していく・・・といったことは、降格のようなニュアンスを持ってしまっていましたが、これからの成熟社会においては、これはまった違う視点で語られるべきものになります。

つまり、とても純粋な新しい挑戦だ、ということです。

他部署への異動まで行かなくても、担当業務において「水平的に」領域を広げていく挑戦もあり得ます。例えば、経理担当者が、税務への知識を増やして行ったり、業務改善への経験を増やしていく・・・というよなケースもあるでしょう。

  
成熟期においては「挑戦し、能力が拡大し、その結果報酬が増える」という方程式を手放していく必要があります。

成熟業界であれば、売上は増えず、維持です。X部署のAさんと、Y部署のBさんを入れ替えて、それぞれ全く新しい挑戦をして、新しい能力を獲得しても、それで売上が伸びるわけではありません。

「売上は伸びない」という前提の中で、どう人材をマネジメントするか、という観点で行います。

   
もう一つは「余暇」です。

市場規模が縮小傾向にあれば、売上を伸ばすことは容易ではありません。しかし、効率化を進めて、時間当たりの生産性を高めることはできます。

「売上÷かかる時間」があったときに、今までは「効率化を進めて、浮いた時間を売上アップに使う」ということが暗黙の前提になっていることが多かったかと思います。

つまり、1日8時間の労働ということは変わらない、という前提です。

しかし、分子である「売上」が変わらないようであれば、分母である「時間」の方を減らすということも考えてもよいでしょう。それは、年間有給休暇日数の拡大や、週休3日の導入などといった具体的に施策になってくるでしょう。

地位や報酬はそれほど変わらないが、休暇については生産性を高めることで年々増やしていける・・・といったことは、今後の会社組織の目標設定として、大きなトレンドになっていく可能性もあります。

これは、社員個々人のQOLの向上には直結する施策となるでしょうし、マネジメントの観点からも大変合理的です。

   
「規模の拡大」を前提としたマネジメントから、シフトしなければいけないという状況に直面している企業は多々あるかと思います。

もちろん「さらに売上を伸ばす」といった方向性での努力も、してはいけないということではありません。新規事業の可能性なども十分に検討してみるべきだろうと思います。

ただ、大きなトレンドとしては、少なくとも日本は人口減のフェーズに入っており、国内GDPは基本的に拡大しにくい状況であることは間違いなく、「成熟期のマネジメント」を考える必要性が高まっている、ということは認識しておくべきなのだと思います。

    

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.49 2020/09/01配信号、執筆:石川英明]