Vol.48 せっかく育てた腹心の部下が離職してしまった
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今回のご相談内容
新卒で採用し、次期後継人材として育ててきた社員が独立してしまいました…
正直、裏切られた気持ちで、ゆくゆくは会社の重要な役職を任せたいと、いろいろな経験をさせてきただけに怒りや失望が隠せません。
せっかく育てた社員が出て行ってしまう経験は、経営者仲間の中でもよく耳にしますし、多くの会社で起こっていることだと思いますが、このようなことにはどう向き合ったらいいのでしょうか。
石川からのご回答
ベンチャー企業の経営者と仕事をしていると【裏切り】の話によく出会います。かくいう私も【裏切り】を体験したことがあります。
私は、就活塾の事業をやっていたのですが、一時期、就活塾をやりたいという人を、半分社員のような形で支援していました。で、その人がノウハウを学ぶだけ学んだら「あとは自分で出来そうなんで、あとは自分でやります」という感じで去っていってしまったわけです。
さぁ、これから収益化し、時間を投資した分だけの回収をさせてもらおう!と思っていた矢先のことだけに、愕然とし、また怒りがどうしようもなく湧いてきました。
ただ、私の場合は、かなり自業自得で、「いずれ独立したくなったら、したらいいんですよ。私は束縛するの嫌いですから」なんて、キレイごとを言っていたのですから・・・。
その後、私自身は社員を雇用するのはかなり慎重になっています。
その人のスキル、その評価、採用するにあたってのこちらが背負うリスク、それをどう回収しようとしているか、さらにそれに対してあなたは感謝できるのか・・・
そんなことまで確認しようというのが基本になっています。
腹心の部下の離職・・・裏切りはなぜ起こるのか
裏切られて、気持ちいいという人はいないですよね。
裏切りというのはなぜ起こるのでしょうか?
一つはボタンの掛け違いです。
社長は、社員を採用するときに「賭け」だと思っています。
採用するからには、法律上そんな簡単に解雇はできない。解雇は出来ないということは、約束した給料以上の活躍をしてもらわなければいけないが、そんな保障はどこにもない。だから「あなたを採用するのは賭けです」ということになります。
しかし、実際の採用面接の場面で、そんなことを言う人はいません。「期待していますよ」なんて言うのが普通です。
「期待している」と言われた方の社員の側からすれば、自分は実力を既に評価されていると思っているわけです。そして、その提示された給料は、当然約束された守られるべき権利です。
この時点で、既にボタンの掛け違いが起こっています。
社長は「賭けだけど、雇ってあげてるんだよ」と思っていて、社員は「給料はちょっと不満だけど、雇われてあげるよ」と思っている。そんなボタンの掛け違いからスタートしていることがほとんどです。
本当は、給料や、最初の1年間のパフォーマンスといったことについて、法律と共にしっかりと教育することが重要です。現在の日本では、社会人になるまでに、それを教わるための場所はありません。
それもあって、Co-ducationでは、新入社員研修や若手向けのビジネスマインド研修で経営・会計に関する基礎知識、所謂「会社の仕組み研修」を行うことを推奨しています。
大事に育てた部下が離職してしまうもう一つの理由
大事に育てた部下が離職してしまう・・・裏切りが起こるもう一つの理由は【成長】です。感謝している。社長のことは本当に尊敬もしていて、感謝もしている。しかし・・・
この「しかし・・・」という時期が、優秀な社員ほど来てしまうのです。
ある時期に「No2.のままで自分の人生は終わっていいのだろうか…」「この会社しか知らないままで自分の社会人経験は本当によいのだろうか…」と思うようになることがあるのです。
10年前は思いもしなかった。10年間、社長を(もしくは上司を)尊敬し、感謝し続けてきた。それでも「このまま終わっていいのか・・・」という湧きあがる気持ちを押さえられない。
そんなことが起こるのが人間です。もともと裏切ろうなんて思っていたわけではないのです。
むしろ、もともといつかは会社をやめようと思っていた人なら、もう少しスマートに退社してくれるかもしれません。
「社長、3年後には独立するので、それまでにご迷惑をかけないように、徐々に社内の体制をシフトさせていきたいのです」なんてことを、もっとやんわりうまいこと伝えてくることになるかもしれません。
しかし、相談もできず、葛藤し続けた腹心の社員は、突然「やめます!」とか言ってくる。理由もよく分からない・・・なんてことが起こったりします。
それは「人は変わるもの」だからです。「人は成長するもの」だからです。
子供が、反抗期になったり、独立心旺盛になったりする時期があるのと同じように、大人も内面の変化が起こり続ける可能性があります。だから、そもそも前提として「この腹心の部下は、一生腹心の部下のままでいてくれる」とは油断しない方がいいのです。
「今、腹心の部下でいてくれることに感謝しよう。でも、来年彼/彼女が何を望むかは、分からない」
そういう心構えで社員と接する部分も、経営者の方には、どうしても必要となってきます。
裏切り防止のためにできること
出典:写真AC
実務を任せて、自分はオーナーとして美味しいところだけ持っていこうと思い始めたときも危ないときです。
あるエステサロンの経営者の方で「後継者を育てては裏切られ、育てては裏切られ・・・」ということを何度も何度も繰り返してしまっている方がいました。
ご本人は「この会社は私が苦労して立ち上げたものだ」「これだけ苦労したのだから、セミリタイアして役員報酬だけもらったっていいはずだ」と思っています。
そして後継者候補に対しても「私の会社の資産を使わせてあげている」「スキルを学べるうえに、給料までもらえる」「私自身は独立前にそんな時代はほとんどなかった」「だから、感謝して後継者として頑張るべきだ」と思っていました。
しかし後継者候補の方たちはこう思っていたでしょう。
- 苦労してこのスキルを身に着けたのは私だ
- 確かに仕事のチャンスはもらったけれど、この安月給はもらって当然のことだ
- 利益の何割も会社に収めているのだし、恩は働いている最中から返している
- いつまでもこんな安月給でいるために、この仕事をしているわけじゃない
- なんで、私がオーナーの老後まで養わなきゃいけないのか
この隔絶を直視することから【裏切り防止】は始まります。
社員が間違っているとかって糾弾する前に、まずは「そういう隔絶があるのだな」と認識し、ギャップを受け容れることが重要です。でなければ、それに対して冷静に対処することもできません。
採用の段階で、本音をつまびらかにすることを考えてみて下さい。
「あなたを採用します。しかし・・・」
「私の会社の資産を使わせてあげている」
「スキルを学べるうえに、給料までもらえる」
「私自身は独立前にそんな時代はほとんどなかった」
「だから、感謝して後継者として頑張るべきだ」
と伝えることを、想像してみましょう。
「そんなこと伝えたら、採用なんてできないよ!」と思われたでしょうか?
だとしたら、あなたは本音を隠し、嘘をついて採用しているのです。だから裏切られたのではなく、あなたのついた嘘がばれただけのことなのです。それがコトの本質です。
実際にどのタイミングで、社員にどれだけ伝えるのかは、状況によりますが、後継者候補の社員と認識ギャップがある限り、引継ぎはなかなか上手くいかないかもしれません。
また、もしあなたが不労所得的なビジネスオーナーを目指すのであれば、「仕組みの構築」を戦略的に行っていかなければなりません。「その後継者が頑張らないと立ち行かない」のような脆弱な仕組みでは、セミリタイアなどできないのです。
例えば超強力なホームページを構築して、自社のビジネスの売上の90%がそこ経由での顧客流入だとしましょう。
そういったものがあれば、後継者も「ホームページを使わせてもらっている代」として、株式配当や創業者利益、もしくは上納金というか、そういうものをリーズナブルに払うでしょうし、もしも後継者の人が交代しても、ホームページは健在ですから、あなた自身が、実務に駆り出される心配は低いわけです。
ビジネスオーナーを目指す人は「後継者」などに期待してはいけなくて、もっと無機質な仕組み構築をする必要があります。
事業としての仕組み構築はやや専門外となってしまいますが、現在の幹部育成や、10年後や20年後などに将来的に経営を担う人材や階層を対象にした人材育成に関しては弊社でもご支援が可能です。
ご興味のある方は是非1度お問い合わせください。
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また、「次世代リーダーや後継者が育たない」というお悩みをお持ちの場合は、よろしければ、下記記事もご覧ください。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
[Vol.48 2020/08/25配信号、執筆:石川英明]