Vol.90 これからの経営を考える上で外せないエンゲージメント(関係性の質)とは?

今回のご相談内容

組織としての競争力を高めたい。

石川からのご回答

本編の前に、いつも弊社HPをご覧いただき、誠にありがとうございます。

先日、ある大企業の役員集中討議のファシリテーションの仕事をさせていただいてきました。「自分たちの会社の存在意義は何か?」ということを考える場だったのですが、真剣に悩まれている姿が印象的でした。

この「自分たちの存在意義は何か?」という問いはとても重要な問いだろうと思います。

この問いについて、株主も、経営者も、社員も、顧客も共有できているような会社はとても強い会社になりますし、そこがちぐはぐだとどうしても経営の端々に影響があられてきます。ミッション、パーパス、経営理念、存在意義、レゾンデートル、、、言葉は色々とありますが、あらためてその重要性を感じています。

朝から晩までのオンラインでのお仕事で疲れもしましたが、貴重な機会でした。

  

それでは、今回の「エンゲージメント」について解説していきましょう。
  

まず会社における階層構造(縦関係)について

前回、組織について考えたときに「エンゲージメント」というものが本質的に重要であろうと書かせていただきました。

役員→従業員

といった階層構造(縦関係)があるのが会社ですが、その中で、いかに効果的なエンゲージメント(横関係)を築くことができるか。これは非常に重要な問題なのだろうと思います。
   

まず前提として、会社において階層構造(縦関係)があること自体は、意味があると思っています。

近年、なんでもかんでもフラット化がよいとか、上限関係はいらないというような意見も目にしますが、私は縦関係も横関係も大事であると思っています。
   

エンゲージメント(関係性)とは

さて、エンゲージメントというのは、言葉のニュアンスからして非常に横関係のものです。従業員満足度(ES)という言葉をよく使う時代がありましたが、従業員満足度の方が縦関係のニュアンスがあります。

これは、そもそもが顧客満足度(CS)という概念を転用しているところがあり、

お客様→会社

という縦関係の概念を用いているからだと思います。

従業員満足度というと、経営陣にとって従業員をお客様に見立てて、その従業員にいかに満足していただくかというようなニュアンスがあります。
   

しかし、エンゲージメントというのはちょっとニュアンスが違います。

エンゲージメントというものを従業員満足度と同じように捉えていたとしたら、それは本質を見誤るものと思います。

前回書きましたが、エンゲージメントは、エンゲージメントリング(婚約指輪)という言葉で使われるように、対等な関係性や契約についての単語であるニュアンスが強くあります。そして「(歯車が)かみ合う」というような意味も持つ言葉であるともお伝えしました。

会社と社員のエンゲージメントは、対等な関係性であり、それぞれが個性を持っている中で「上手くかみ合うかどうか」といったところがあります。歯車がかみ合うということで行くと、歯車というのは隙間がなさ過ぎてもスムーズに回りませんし、隙間がありすぎてもスムーズに回りません。

適度な「間」があることが重要です。

会社と社員の関係性が、近すぎても上手くいかないし、離れすぎても上手くいかなということです。

正社員というような近さの「間」がよいこともあれば、契約社員という間が適切だったり、外注という間が適切だったりすることもあります。この辺りも「エンゲージメント」を考える上では重要です。
   

そしてエンゲージメントというのは「会社の方が一方的に努力して高めるもの」では、やはりありません。

従業員満足度というと、「会社が頑張って従業員の満足度を高める」という感じがしますが、エンゲージメントというのはちょっと違います。平たく言えば「相性」みたいなところがあるわけです。

エンゲージメント(婚約)と考えれば、相性の良いカップルが結婚したほうが幸せであるだろうとは容易に想像されることです。そう考えるとまず「相性の良い採用をする」ということはやはり考えられます。

「うちの会社の個性はこうですよ、あなたの個性はどうですか。」
「それならば相性がよさそうですね。」

そういった採用活動であることが、エンゲージメントを高める一つの要素であることは間違いありません。
   

出典:写真AC

採用で気を付ければ解決するのか?

ただ、採用だけで全てが解決できるほどには単純な問題でもありません。組織は、1対1の関係とは違いますし、入社してからも、会社の状況も、一人一人の状況も変わり続けるからです。

そう考えると、高いエンゲージメントを維持するには、努力し続けることが必要なことが見えてきます。

まったく努力せずに生涯夫婦円満ということもあるかもしれませんが、見事幸せに添い遂げた夫婦というのは、むしろ不断の努力を重ねてきた夫婦の方が多いのだろうと思います。

エンゲージメントは

「こういう仕事をして欲しい」
「こういう仕事がしたい」
「こういう部署でやって欲しい」

「こういう仲間と仕事がしたい」
「こういうスキルを身に着けて欲しい」
「こういう経験を積んでいきたい」

「こういう成果を出してほしい」
「こういう結果にこだわりたい」
「こういう特徴を生かしてほしい」
「こういう個性を生かしていきたい」

そういったことのすり合わせです。

そのすり合わせの度合が高いほどエンゲージメントのスコアが高いということになりますし、そのズレが大きいほどエンゲージメントのスコアが低いということになります。

このすり合わせのためには、会社、従業員、双方の努力が必要になります。

では具体的に会社はどんな努力ができ、社員にはどんな努力をして欲しいものか、その辺りについては、また次回以降、お伝えしていきたいと思います。

[Vo90. 2021/09/07配信号、執筆:石川英明]