Vol.97 「言葉遣い」から考える組織の状態とリーダーシップ

今回のご相談内容

先日、とある他の企業の経営者のセミナーに参加したのですが内容以上に、その社長さんが「~していきたい」「~したいと思っている」「~する」と、未来系でお話されていたことが印象的でした。これまで自分がどのような語尾で話しているかを気にしたことはなかったのですが、同じ内容でも「~するべきである」と話すのでは相手に与える印象や影響はだいぶ違うだろうなと。

組織の中でリーダーシップを発揮する上で、このように話したほうが良いといった言葉遣いに関するアドバイスは何かありますか。

石川からのご回答

ビジネスでよく使われる「しなければならない」

今回はご質問いただいた、組織の状態を表す「言葉遣い」について考えてみたいと思います。

まず組織の中でよく使われる言葉として「しなければならない」があります。
  

「目標を達成するためには行動量を増やさなければならない」
「当社はこの問題を解決しなければならない」

この「しなければならない」という表現は、言葉の持つ強さと同時に、重苦しさや(避けたいような)義務感といったニュアンスも漂います。

「仕事をしなければならない」というような言葉が出てきたときに、それこには「仕事を絶対するぞ」というような強さと共に、「もししなくて済むのなら、したくないんだ」というような否定感や拒否感といったものもあるかもしれません。
   

また、「しなければならない」は、内発的なものか、外発的なものかでいうと、外発的なニュアンスが強くあります。

本人がそうしたいと内発的に思っているというよりは「常識として」しなければならない、「状況として」しなければならない、というように、自分の外側からの要請に応える必要がある、そのような認識の時に「しなければならない」という表現は出てきやすくなるかと思います。

「いやー、やんなきゃいけないのは分かってるんですけど、、、」というようなセリフもよく出てくるものですが、これは「外側からの要請があることは認識はしているが、自分が内発的に取り組もうと思うまでには至っていない」というような状況に出てくるセリフだとも解釈できます。
  

自分自身が「しなければならない」を大切にしていて、それを駆動力として動いていると、他者に対しても「しなければならない」で動くべきであるという想いも強くなります。

「社員なんだから、こうしなければならない」
「リーダーなんだから、こうしなければならない」

自分もそれで動いているわけですから、他者にも常識や状況を理由に「しなければならない」ということを求めるわけです。「仕事なんだから、いいからやれ」というのはそういうことです。
   

この「しなければならない」は楽しいことにはほとんど使われることがありません。

「旅行にいかなければならない」
「ゲームをしなければならない」
「ゴルフにいかなければならない」

こういう表現がされることはありません。

もし、こういう表現があるとすると「行きたくないけど、接待ゴルフに行かなければならない」といったニュアンスがあるときでしょう。
    

「~したい」「~する」という表現

楽しいこと、自分が楽しみなことについてはどういう表現になるでしょうか。

「旅行に行きたい」
「明日から旅行なんだ。楽しみだ」
「週末は思いっきりゲームをするぞ!」

こういう表現が出てくることになります。

「したい」もしくは「する」といった表現です。

「したい」は、したいと思っているが、まだ実行するには壁があることを少し感じているようなときに出てくるかもしれません。それでも「その壁も乗り越えて実現したい」というニュアンスであることもあります。「来年は社長賞を取りたい!」というときには「取れるかどうか分からないけど、取れるように頑張る」という前向きなニュアンスが感じられます。

これに対して「週末は思いっきりゲームをするぞ!」というような「する」表現は、より確信的です。ある意味では、絶対にするという最も強い意志があるでしょう。「しなければならない」という表現よりも、より強い意志があるかもしれません。

「今週は必ず、10社に新規アプローチをします」

このような表現があるときには、強い意志、Willが感じられます。

そしてこのような表現ができるのは、自分の行動に対しての方がしやすいでしょう。

「全力を尽くします」ということは言えても「予算比120%を達成します」という未来の成果のことは、100%の保証はないからです。それでも「今年は、予算比120%を必ず達成します」という台詞が出てきたとしたら、それはかなり強い意志を感じるものです。ほとんどの場合には「今年は、予算比120%を達成したいと思います」というように「したい」表現になるかと思います。

いずれにせよ「する」「したい」というのは「しなければならない」とは違った心理状態から出てくる表現なのは間違いありません。

これまで多くの組織に関わらせていただいて、社内に「する」「したい」が一定以上ある組織は、活発で活性化している組織であることがほとんどであるなと思います。
   

「してほしい」や「なるといいなぁ」に含まれる他人事感

「したい」とはまた違う表現に「してほしい」「なるといいなぁ」があります。

「してほしい」は、明らかに他力本願的なニュアンスがあります。

「ホント、うちの会社の残業の多さはどうにかしてほしいよ」
「もっとましな評価制度にして欲しいもんだ」

このような表現が出てくる場合には、自分には変えられないという無力感や、「ある日突然王子様が救ってくれましたとさ」といった救世主願望が強い状態と言えるかと思います。

自分たちで創っていくんだ、変えていくんだといった主体性の高さはあまり感じられません。
  

「なるといいなぁ」も似たような傾向があります。

「うちの会社も、もっとよくなるといいなぁ」というような表現は、ポジティブな未来を望んではいるものの「その実現に向けて自分自身がしっかりと取り組んでいく」といった主体性、能動性、積極性といったものはそれほど感じられません。
   

社内でよく聞く口癖から組織の状態がわかる

「どうしたいか?」と問われると、戸惑ってしまう社員さんたちは大勢います。仕事において、自分自身の意志、Will、希望といったものが尊重されるということを思ってもいないということです。

どうしたいか?を聞かれるよりも「これとこれをあなたには期待している」「その期待に応えたら昇給がある」といったことをハッキリと示してくださいというような意識であることも多いわけです。

これはつまり、受け身的な姿勢だと言えます。
   

「言われたことはきっちりやりますよ」

しかしながら、AIなどの発達により「言われたことをきっちりやる」ということはどんどんと人間でなくてもよい、むしろロボットなどの方が効率的だということが増えています。RPA(Robotic Process Automation)などは、その最たるものでしょう。

自ら問題意識を持ち、実現方法を考えて、実行していくといった主体的、能動的な姿勢(台詞)を引き出すことができないなら、「人を雇っている意味がない」という時代にいよいよなってきています。

AIなどは、過去のデータの成功パタンを分析して、再現することに関しては非常に強力です。

しかし、過去の延長線上にないより良い未来を想像し、新しいアプローチを創造するということは人間の方が優れています。

ゼロか100かではありませんが「言われたことをきっちりやれる」「ミスなく繰り返し行える」といった業務と、「延長線上にないことを考える」「未知なやり方にトライする」といった業務と、その割合について真剣に考えている企業ほど、未来にも繁栄していく可能性は高いでしょう。

そしてそのような企業ほど社内には「したい」や「やってみる」「する」といったことが溢れているものだろうと思います。

  

こういった口癖のような定性的な評価も踏まえて、まずは自社の状況を把握したいという会社には、手前味噌ですが、弊社の組織診断サービスの活用もおすすめです。1000名以上の大企業からベンチャー・中小企業まで、多くの企業をみてきた組織の専門家だから可能な視点で、あなたの会社の状態を分析しレポートします。

   

また、この組織の中の「口癖」といったところなどは、組織変革塾4日間コースで、更に詳しく解説しています。想像してみると確かに……と感じていただける方もいるかもしれませんが、社内のメンバーがどのような言葉を発して、コミュニケーションをとり、仕事をしているのかは、職場の雰囲気に影響を及ぼすのはもちろんのこと、仕事の成果やパフォーマンスの発揮にも本質的に大きく関わります。

組織のお悩みQ&Aでよく読まれている記事「社員間やチーム内で温度差があるときどうしたらいいか?」でも取り上げましたが、本当に職場のメンバーが皆それぞれ情熱を持って仕事に取り組めている状態を理想としたとき、そこに向けて自分が職場や会社を変えていきたいと思う気持ちがある経営者や管理職などリーダー層におすすめの講座です。

  

[Vo97. 2021/10/26配信号、執筆:石川英明]