Vol.100 定量評価の呪縛と限界

今回のご相談内容

社員数、約20名規模の会社を経営しています。

採用をしていてもよく聞かれるので、評価制度を暫定的に作ったのはいいのですが、定量評価なら公平に評価されていると思えるのか細かく数字で出してほしいなど、改善要望や不満の声も多く聴きます。

私としては何でもかんでも定量評価にしたところで「適切に評価できる」とは思えないのですが……何故社員は定量評価に対しての期待値がこんなに高いのでしょうか。

石川からのご回答

定量評価の呪縛と限界

定量評価の呪縛みたいなものがあるなと感じることがあります。

評価制度の構築や修正のお手伝いをたくさんしてきていますが「定量評価にするべき」という傾向が強いなということを感じています。

定量評価:数字で表して評価する
定性評価:主観による観察によって評価する

こうだったときに、どうしても「公平性が担保できるのは定量評価だから」という理由で、定量評価に偏りがちなのかもしれません。

営業部門の評価を行うときに「受注件数」「受注金額」といった定量指標によって評価することは自然なことかもしれません。1000万円売上を作った社員よりも、2000万円の売上を作った社員の方が評価が高いといったことも納得感のあるものだと思います。
   

しかし、定量評価の限界もあります。

例えば、接客サービスにおいて挨拶が重要だとして、挨拶を評価項目の中に入れたとします。そしてそれを定量的に測ろうとすると例えば「挨拶の数」といったことなります。挨拶の数が多ければ評価が上がるということで、心のこもった「いらっしゃいませ」をちゃんと言う社員よりも「っしゃいませーー」と雑な挨拶を連発する方が評価が高くなってしまうとしたら、これはおかしなことになります。

そうなってくると「いい挨拶をちゃんとしているかどうか」ということは、やはり評価者の観察による定性評価が必要になってきます。

ところが定性評価になると当然「評価者の主観が入ってくる」ということになります。Aさんの挨拶を、X部長は「いい挨拶だ」と判断し、Y部長は「ダメな挨拶だ」と判断するというようなことが起こり得ます。

この【評価者によるブレ】をなくして公平性を担保したいがためにできるだけ定量評価をしていこうということになるわけですが、そうすると前述したように質的評価が抜け落ちてしまうリスクが出てきます。
   

出典:写真AC

評価において本質的に重要なことは?

本質的に重要な対応は、X部長と、Y部長とで「よい挨拶とはどういうものか?」という議論をしっかりと行い、認識をすり合わせることです。

そして、できる限りの言語化をすることです。それによって「上司の好みによって評価が不公平になる」という側面を減らすことができます。

また、評価者と被評価者の関係においても「こういう挨拶がいい挨拶だよ。だからあなたはB評価だよ」ということを、言語的にしっかりと伝えることができるようになり、被評価者の成長にもつなげやすくなります。
  

定性評価をしっかり行うことは、質の面を担保するためには重要ですが、そのための負荷が大きくなる面もあります。「評価基準について評価者同士で認識をすり合わせる負荷」や「被評価者の行動を観察する負荷」が上がります。

実際には、この負荷を見ながら、現実的にどの程度、定性評価を入れ込むかを評価制度設計の際に考えていくことが重要です。なんででもかんでも定量評価にすればよいと考えてしまうと質の高い納得感の高い評価制度とすることは難しくなります。

またこのような知識は、評価制度を作る人や評価を行う人だけでなく、評価をされる人にも大切な知識になります。
  

そもそも評価制度に対する不満の多くは・・・

評価制度に対する不満の多くは「そもそも評価というものの難しさを理解していない」ことに起因しています。どこかに完璧な素晴らしい評価制度があり、評価者がいるはずだという空想のような想いがあり、その理想形との比較から不満が生じているわけです。
  

しかし、例えば「社長一人が100人の社員全員の評価を行う」となれば、一人一人を観察する機会は相対的に減ります。

だから「部長10人が、残り90人の社員の評価を手分けして行う」とすれば、観察機会は増えますが、今度は部長同士のすり合わせの負荷が増えます。

部長一人が9人を見るのでも「ちゃんと見てもらえていない」という感じがしたとして、では社員一人に対して、評価者(観察者)が一人いる状態だとしたら、そもそも総人件費が増えてしまって、一人当たり給与原資が減るというようなことも起こり得ます。

今期の自分の成果が出ているのは、前々期に他部署が頑張っていた恩恵によって支えられているというようなこともあります。

このようなことについて「考えたことがない」ということ自体が、評価制度への不満の要因となっているケースは非常に多いのです。
  

評価制度に対する不満は、実は制度そのものを改善する以前に、「評価制度とは?」という研修や学びの機会を設けることで改善できるかもしれません。 このような会社の仕組みを、ちゃんと社員に「伝えたい」「教育したい」と思ったときには、内製で場を設けるよりも外部の力を借りて機会を設定したほうが効果的です。

何故なら、このような本質的な話を、 「本当に公平な評価制度は幻想だ」 ということを社長や管理職自らが社員教育として伝えようとすると、「なんだか、会社都合のいいように話をしている感じがする・・・」「正論でいいように丸め込まれたなぁ。」と社員が受けとめてしまう可能性があるからです。

営業トークのようになってしまいますが、この教育は、社外に頼んだ方がいい部類の研修だと思います。

今回の評価の話は、ちゃんと説明して、その上で考えてみれば、「分かってしまう」ことです。しかし、これまで「公平に評価してもらえることはできるはずだ」と固く信じていた場合、「頭では分かるけど、心がついていかない」ということが起きやすい領域でもあります。

 

 

確かにそうかもしれないが、これは社長や上司に言いくるめられているだけではないか、と。そう考えることで、「公平に評価することは非常に難しい」という事実を認めないという社員も出てくる場合があるのです。この点について、是非気を付けて学びの機会を設けていただけるとよいかと思います。

手前味噌になりますが、もし評価制度に対してお悩みをお持ちでしたら、弊社ではこのような社員教育の場も含めた評価制度改善のご支援が可能ですので、是非お気軽にご相談ください。

参考:人事評価制度に関する基本の考え方  

  

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo100. 2021/11/16配信号、執筆:石川英明]