Vol.92 会社のビジョンをちゃんと浸透させたいときにまず考えるべきこと

今回のご相談内容

一般社員にビジョンが全然浸透していなく、お題目みたいになってしまっている。ビジョン?それ自分に関係あるの?という状態です。

数年前にビジョン・ミッションを策定し、ホームページにも掲載しているが、社員には全然浸透している感じがしません。このままではいけないなという想いがあり、ビジョンの浸透についてご相談したいです。

石川からのご回答

実は、最近立て続けに「ビジョンの浸透」というキーワードでご相談を頂いています。今回ご相談いただいた状況とまさに同じような理由で、まさに今ある会社さんからご依頼いただき、ご支援もしています。

さて、今回のお悩みでまず確認が必要になるのは

「どうして、ビジョンを浸透させたいと思っているんですか?」
「ビジョンが浸透している、というのはどういう状態ですか?」

という2つの問いです。
   

出典:写真AC

「ビジョン・理念を浸透させたい」ときにまず問うべきこと

「ビジョンを浸透させたいんですね。分かりました、ではビジョンを浸透させていきましょう。そのためには、、、」という風には話は始まっていかないんですね。

まず、ビジョンみたいなことを全然口に出さなくても、ちゃんと事業を回していて、黒字で、年々成長しているみたいな企業もあるわけです。

だから、ビジョン浸透みたいなことが経営で絶対に必須の要素かというとそういうわけでもない。
   

それでも「ビジョンを浸透させたい」と思っているとしたら、

  • 折角お金をかけてビジョン策定したので活用したい
  • ビジョンが浸透すれば、社員の主体性が上がり、アクションの質、ひいては利益向上につながるはずだ
  • ビジョンが浸透することで「自社の仕事の意味」が高まって、社員のやりがいにつながり、離職率などが低下するはずだ

そういうようなことを考えていらっしゃったりするわけです。

ひとまず3つの理由を書きましたが、このうちの1つが「ビジョンを浸透させたい」理由かもしれませんし、3つとも理由としてはある、ということもあります。
   

仮に、お客様にヒアリングをしていって「ビジョンが浸透すれば、社員の主体性が上がり、アクションの質、ひいては利益向上につながるはずだ」ということが大きな理由であるとしたら、ビジョン浸透というのは手段であって、「アクションの質の向上」「利益向上」といったことが大事な目的であるということになります。

そうなると、もしかしたらビジョンの浸透度以外の要素が重要かもしれません。

社員の知識不足、スキル不足が、アクションの質向上を阻んでいるかもしれませんし、利益向上に対しては、そもそも今のビジネスモデルが限界に近付いているということもあるかもしれません。

そういう可能性もある中で「それでも、今回はビジョン浸透にまず取り組むのがよい(それが利益向上に最もつながる)」となるケースもありますが、「よく話し合ってみたら、ビジョン浸透にこだわらず、ちゃんと利益向上のところを主題にしてプロジェクトをやっていったほうが良い」となることもよくあります。

そういう議論を経て「やっぱり今の自社にとってはビジョンの浸透が重要だ」となって、プロセスがスタートしていくんですが、もう一つその前に「ビジョンが浸透していると、どうしたら判断できるか?」ということの確認も重要です。
   

ビジョンが浸透しているかを何で判断するのか

「ビジョンが浸透している」ということの定義は、かなりちゃんと考えなければいけません。

例えば

「ビジョンを覚えている、暗記している」

というのがビジョンが浸透していることになるでしょうか?暗記できているかのテストを社内で定期的に実施し「社員の98%が暗記できています」、、、それを「ビジョンが浸透している」と捉えるのはちょっと違うだろう、、、と感じられる人が多いだろうと思います。

    

「ビジョン実現に向けて、日々議論が活発になされている」

という定義だとどうでしょうか?これだと、暗記しているよりは良さそうです。

もしかすると「ビジョン実現会議を、週1回1時間行っている」などと定量的に把握することもできるかもしれません。

しかしこれまた、もし会議自体は開かれていても形骸化していたり、誰も本気では議論していないなどとなれば、やはりこれも「ビジョンが浸透している」とは言い難いだろうと思います。
    

では、定義を

「ビジョンが、社員一人一人にとって、本気で自分事になっている」

にしてみます。

実際に本当にそうなっていれば「ビジョンが浸透している」と言えそうですが、今度は計測、観測が難しくなります。定量的には、なかなか計測することが難しそうです。

そこで「定性的な評価」というものが出てきます。

実際、ビジョンが浸透しているかどうかについては、定性的に評価することは重要です。定量化して計測しようとしても、本質的な把握は難しいからです。

しかし、定性的な評価というのは、主観的な評価という側面もありますから「主観的でよいのか?」という問題も出てきます。そして「誰の主観的な評価によって、ビジョンが浸透しているかどうかを決めるのか」という問題も出てきます。
   

こういった問題について議論を行い

「ビジョンが浸透しているとはこういう状態のことである」

という共通認識ができて、そこから本格的な【ビジョン浸透プロジェクト】はスタートしていきます。

ビジョン浸透のための具体的なプロセスについてはまた別の機会にお伝えできればと思いますが、今日は「一言でビジョン浸透と言っても、考えなければいけないことが色々あるのだな」というところを感じて頂けたなら幸いです。

   

本稿でご紹介したとおり、定性的な評価を適切に行うことは重要であり、一方で実際にやるとなると非常に難しい側面があります。

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今回の回答は以上となります。最後までご覧いただきありがとうございます。

編集後記

最近は、製造業さんから「社員のコンプライアンス意識を高めたい」、商社さんから「ビジョンの浸透を図りたい」、国際NGOさんから「社内サーベイ結果に対する対処を考えて欲しい」といったご相談をいただいていたりします。

どれも、とても難しい問題でして、、、、
   

実際にご支援するときには、一つ一つ、本当に難しさがあります。

その組織の歴史や、現状の人事制度、ビジネス環境、管理職の価値観や一般社員の価値観、役員の持っている方向性、、、、、などなど、様々な要素があって「前の会社ではAで上手くいったから、今度もAでやればいい」というようなことには全然なりません。

なので、このような組織変革のお仕事をさせていただいていますが「こうすれば上手くいく」というような標準パッケージのようなものはなかなかできません。毎回「この状況であるなら、、、」「こういう要素があるんだとすると、、、」と悩みに悩みます。

標準パッケージみたいなもので成果が出せればそれに越したことはないなとも思いますが、「毎回、どの会社も同じ標準パッケージで」とやっていると成果が出ないので、どうしてもそうなってしまいます。

今日もこの後、ある会社の変革シナリオのイメージングをするのに1日悩む予定です。

[Vo92. 2021/09/22配信号、執筆:石川英明]