Vol.128 本質的な対話やコーチングでは欠かせない「聞く」スキルを徹底解説

今回のご相談内容

前回、対話型リーダーシップについてお話がありましたが、ここについて、対話型リーダーシップを発揮するために大事なスキルなどをもう少し具体的に知りたいです。

石川からのご回答

対話で欠かせない要素「聞く」技術

対話において、欠かせない要素の1つが「聞く」です。一昔前よりも、経営者にも管理職にも「聞く」ことが時代的にも求められていると言えます。コーチング力が必要、1on1で部下とコミュニケーションする、様々な場面で「聞く」ことが求められています。今回はこのビジネスにおける「聞く」スキルについて解説してみたいと思います。

まずコミュニケーションは、話すと聞くで成り立っているわけですが、多くの経営者や管理職は「話す」方に重心が偏りがちです。自分の考えを伝えよう、自分の考えを分かってもらおう、そういう姿勢がそもそも強いということがあります。

「自分は伝えようとしているか?それとも相手を理解しようとしているか?」

それ自体をまず考えてみるとよいでしょう。相手を理解することよりも、自分を理解してもらおうと思っていることが多いものです。

例えば部下と1時間の1on1をしたとします。そこで「話す」と「聞く」の時間の割合はどれくらいでしょうか?一度録音してみて確認してみるとよいでしょう。「結局、自分が話している時間の方が多かった」という管理職も多いのではないでしょうか。

相手を理解しよう。相手が困っていることを知ろう。相手のやりたいことを知ろう。相手が自分に求めていることを知ろう。相手が何が分かってないのかを知ろう。・・・そう思って接していれば、自然と「聞く」時間の方が多くなります。

「聞く」ということは、自分を理解してもらうのではなく、相手を理解しようという行為です。このことは大前提となります。

「聞く」の段階

聞こう、と思ったときに実際に聞けているかというと段階があります。

Lv1~Lv3

Lv1.聞いてない。物理的に音を拾っていないレベル。
Lv2.一応音としては聞いているが、聞いていない。自分が喋るターンを待っているだけ。
Lv3.賛成意見だけ聞こうとしている。反対意見はスルーするか、反論しようとしている。

ここまでは「聞いている」とは言えないレベルです。

Lv3の「聞く」を「聞く」としている人も大勢いますが、これは「相手を理解しよう」としているとは言えません。結局、自分の言いたいことを言うだけなのです。

Lv4

Lv4.相手の話を受け止める。自分の意見や興味と同じでも違っていても。

Lv4から「聞く」ということになります。相手が話すこと、相手が話したいこと、相手が伝えたいこと、相手が自分に分かってほしいこと、そこに関心を寄せる、重心を持つようになります。ここからが「聞く」です。上司が部下の話を「聞く」ことをしようとしたときに、実はLv2やLv3にとどまっている上司は本当に多くいます。

Lv2や3とLv4の間には、大きな溝があります。

この溝の正体は何でしょうか?

それは「聞く側が、変わる気があるかないか」です。聞く側が、相手から影響される可能性を持っているか、相手の話を聞いて自分の方が変わる可能性に開かれているかどうか、です。

Lv5~Lv6

Lv5.相手の意見や背景を理解したい、受け止めたい

Lv6.相手が上手く伝えられないこともサポートする

Lv4.以上になって「聞く」ことをしていると、聞く側が変わらなければいけない可能性が出てきます。上司として、自分の接し方、教え方などが悪かったから、部下が上手くいっていなかった、というようなことが見えてくる可能性があります。もっと端的に、自分の欠点が指摘されることもありえます。

これは、ストレスがかかるので、無意識に上司は「聞かないようにしている」ということがあります。

悪いのは部下であって、自分ではない。変わるべきは部下であって、自分ではない。理解すべきは部下の方であって、自分が部下を理解できていないわけではない。そう思ってコミュニケーションをしているのです。そうだとしたら「聞く」ということを、本当にはしていないのです。

「聞く」スキル

相手を理解しようと思って「聞く」のであれば、相手が話しやすいように聞くことになります。相手が自分の話しやすいように話す、話したいペースで話す、話したい順番で話す、というようなことを受け止めるということになります。

もちろん、部下の話が分かりにくい、冗長である、要領を得ない・・・というようなことはあります。しかしそこで「聞きたいのはそれじゃない」とか「分かりにくいから、もっとわかりやすく話して」「端的に話して」などと反応をしていたとしたら、少なくとも”傾聴する”ということには当たりません。

これは上司としては非常に難しいところですが、部下に「話す力・伝える力」が不足している場合には、それを指導して成長させることも上司の仕事です。一方で「話している最中に話し方についてダメだしされた」となったら、部下の方は委縮して話したいことを話せなることは間違いありません。

部下のことを理解したいと思ってコミュニケーションをとるのであれば、一旦「聞く」方に振り切るとよいでしょう。「話し方について指導する」は、後回しにしておきましょう。

相手が話しやすいように聞くには、

・話したい方向性を受け止める
 ex.上司は解決策を聞きたいが、本人は原因を話そうとしているときに、まずは原因の話をしっかりと聞く

・自分の考えと違う話が出てきたときに、イラっとしない(受け止める)

・質問で方向づけしすぎない
 ex.「ほうほう、それでそれで?」は方向づけしていない
 ex.「それで、解決策は何だと思っているの?」は方向づけしている

・相槌、オウム返しなど「聞くスキル」を発揮する
 ex.「お客さんがやってくれなくて。」「そうか、お客さんがやってくれなかったのかぁ。」

・相手の思いを代弁しようと努力する
 ex.「お客さんがやってくれなかったこと?」

といったことが必要になります。

「聞く」の効能

そもそも「聞く」ことは何がいいのでしょうか?

一つ目には、ちゃんと「聞く」と、聞く側の成長の余地が見えてくることが多々あります。自分が見えていなかった、気づいていなかった、盲点になっていた、というものが見えてくるということが多々あります。本質的には「聞く」と、相手が本当に困っていることや、つまづいているところがよく分かります。

「プレゼンが上手になってほしい」と上司が部下に対して思っていたとして、ちゃんと聞くと「そもそも本人がプレゼンに苦手意識がある」とか「プレゼンを上手になりたいと思っていない。裏方の仕事に回してほしいと思っている」とか、そういうことが分かってきます。

そうすると、当然、部下に対する処方箋も変わってくるわけです。

病院と同じで、適切な診察(聞く)があって、初めて適切な治療(話す)ができるわけです。大した診察(聞く)もなしに、治療法だけ押し付けてくる医者のことを信頼できるでしょうか?

効果的な処方箋を出すためには、「聞く」ということはとても効果があります。

 

[Vo128. 2024/10/01配信号、執筆:石川英明]