Vol.124 これからの経営で求められることは?

今回のご相談内容

2つ質問があります。

ひとつは、人事評価は「これをすれば昇給する」を、できるだけ明確にした方がいいのでしょうか。自社の仕事の中でどれが利益をもたらし、どこが損失を増やしているのかを明確にして、ちゃんと利益をもたらす仕事をした人が評価される仕組みを考えていますが、デメリットや副作用があるとしたら何がありますか。

もうひとつは、2024年春、小林製薬の紅麹が社会問題化していますが、その流れで、ニュースになるほどではありませんが、一部で小林製薬のホームページに注目をしている人たちがいるようです。これからの経営において、内部や株主に見せる情報と、お客さまに見せる情報の使い分けはどのようにしていくべきなのでしょうか。

石川からのご回答

人事評価は「これをすれば昇給する」を明確にした方がいいのか?

管理会計のレベルを高めて、社内の仕事におけるどれが利益をもたらし、どれが損失を増やしているのか、それを明確化させていくことはとても大切です。そしてその管理会計の発想を、人事の領域にも適応して、人事制度と連動させることも可能です。

すなわち「このKPIを達成すれば昇給」「このKPIが未達なら昇給なし」というようにするということです。

管理会計が素晴らしいのであれば、人事評価にも連動させて良さそうなものですが、それはそう簡単ではないのが組織の面白いところです。

管理会計において「これが利益に貢献する」「これが損失につながる」ということを細かく明確にしていくことは間違いなく大事なのですが、人事評価においては「これをすれば昇給する」を明確にし過ぎることは、デメリットや副作用もあるのです。

一つには「これをすれば昇給する」を明確にし過ぎると、そこに書いてないことはやらなくなります。評価基準に書いてあることしかやらない人材になります。「ホントはやっといたほうがいいんだろうけど」と思うことも、評価基準の中に入っていないのでやらなくなったりします。

「言われてないからやっていません」「どうして評価項目にないことをやらないといけないのですか」そんなセリフが社内に蔓延するようにもなってきます。具体的で明確なものを明示するほど、自分で考えて試行錯誤するという幅は狭まっていきます。

だからこそ、どの領域を、どの程度細かく明確化するかは考える必要があるのです。

特に人材を評価するという人事評価領域では注意が必要です。どうせ言われたことしかできないロボットであれば「これをやれ」「これはやるな」と明確化することは大切です。しかし「やったほうがいいかもしれないこと」を自分なりに判断できる人間に対しては、諸刃の剣にもなります。

曖昧過ぎる方針や、業務指示、評価基準はそれはそれで問題があります。しかし、具体的で明確過ぎることも問題になりえるのです。

出典:写真AC

小林製薬の問題から考える 広報と広告の矛盾

2024年春、小林製薬の紅麹が社会問題化していますが、その流れで、ニュースになるほどではありませんが、一部で小林製薬のホームページに注目をしている人たちがいます。

参考:
小林製薬「紅麹」問題 自主回収の製品まとめ(NHK):https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240327c.html
小林製薬HP:https://www.kobayashi.co.jp/corporate/business_model/

例えば「私たちは大きな市場の5%の売上よりも、小さな市場の50%の売上を狙います」というようなことが書いてあった、ということです。株主に向けた説明としては妥当なのかもしれませんが、小林製薬の商品を買う消費者がこのホームページの記事を読んだら、どう感じるのでしょうか。

少し前に、吉野家のマーケティング担当役員が、大学の講座での失言で炎上をしましたが、内部や株主に向けた説明が、外部や顧客に向けた説明としては不適切となる、ということがあります。

参考:
【KYジャーナル】吉野家幹部の不適切発言:https://www.nhk.or.jp/nagoya-blog/900/467747.html

例えば企業ホームページで「私たちは、情報弱者をターゲット顧客とすることで、情報を知らない顧客に対して、高単価で商品を販売し、高利益率を確保します」と書いていたら、株主にとっては魅力的かもしれませんが、購入者からすればたまったものではないでしょう。

以前は株主向けの広報と、顧客向けの広告は、全く別の媒体で展開されていたため、同時に見れるようなことは稀でした。しかしこれからの時代は、この矛盾がない、できるだけ少ない企業が、社会的存在として生き残っていくように思われます。

これからの経営で求められることは

物凄く単純に、顧客からはできるだけ高単価でお金をもらい、仕入れ先や社員にはできるだけ低単価で働いてもらうほど、会社としては利益が出て株主に配当を出せる、という構造があります。

その観点からすると、顧客や社員からすれば株主は敵になりますし、社員からすれば顧客も株主も敵ですし、株主からすれば顧客も社員も敵です。これはなんとも矛盾した構造なのですが、それを超えようという思想が近江商人の三方よしだということになると思います。

買い手よし(お客さんにとってもいい)
売り手よし(会社や社員にとってもいい)
世間よし(社会全体から見てもいい商い)

ここに、株主や仕入れ先・下請けなども入れて五方よしくらいにするのが現代風かもしれません。

働き手の視点からすれば、いい仕事をしていい収入を増やしたいのはごく自然なことです。

働く機会を提供してくれた株主に対しても還元したいですし、株主にも自分にも仕入れ先にも還元できるだけの価格を、気持ちよく払ってもらえるだけの価値を提供できる仕事をしたいものです。

やはり、そこで最も重要なのは【価値】なのです。

価値を高めるべく仕事をしていく。これは根本的に大事なことです。

そして、インターネットの出現により透明性が高まった現在、そしてSDGsなどの価値観が広がってきた現在、どのステークホルダーに対しても矛盾のない経営をしていくことが、本当に大切になってきていると言えます。

 
いかがだったでしょうか。いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。記事に対する感想や質問などもいつでもお待ちしております!

また、これまで組織をよりよくしていくご支援に実際に取り組んできて、「組織変革を上手く進めるツボ」「組織変革が上手くいかない落とし穴」といったことが、かなり見えてきました。この体験から得られた知見を、体系的に論理として整理したものを、「組織をより良くしたい」と思っている方がと共有したいと思い、組織変革塾を不定期ですが開催しております。

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[Vo124. 2024/04/02配信号、執筆:石川英明]