経営理念・ビジョン
に関するよくあるお悩み

ビジョン・経営理念・目標

     

「ビジョンが必要と言われるが、どのようにビジョンを創ったらよいか分からない」
「ビジョン、ミッション、バリューなどと言われるが、意味がこんがらがってよく分からない」
「折角ビジョンを明文化して作ったが、浸透していない。形骸化してしまっている」
「ビジョン通りに社員が動かない。ビジョンに向って一致団結、という風には会社がなっていない」

このようなお悩みについて、よくご相談があります。
   

なぜ、ビジョンの策定や浸透は難しいのか、またそもそもどうしてビジョンは会社にとって必要なのでしょうか。本稿では、会社組織における経営理念・ビジョンの役割や施策を進める際に重要となるポイントなどを解説していきます。

    

経営理念・ビジョン
についての考え方

企業における
経営理念・ビジョンの重要性

まず、企業における経営理念・ビジョンの役割を解説していきたいと思います。経営理念、ビジョン、ゴール、目標、目的・・・様々な表現がありますが、本稿では細かい定義にはこだわらずに「ビジョン」という言葉で統一して解説していきます。

またここでは、ビジョンは「実現したい状態を描いたものである」という前提で説明していきますので、ご了承ください。
   

ビジョンは社員マーケティングのためにある

人々は、ビジョンに向けて力を能動的に発揮していきます。

例えば、キング牧師は「I have a Dream.」というスピーチを通じて、人種差別のない世界というビジョンを世界に示しました。これが公民権運動の力になったのは間違いありません。

オリンピック選手なども「金メダルを取りたい!」というビジョンがあり、そのために4年間努力し、成長し、成果を出していくことができます。チーム競技であっても、例えばプロ野球チームであれば「優勝したい!」というビジョンがあり、そのビジョン実現のために、みんなで頑張ってやっていけるわけです。
   

このように極論を言えば、トップの想いを明確化して、実際ビジネス上の効果が現れるのは「社員のやる気が高まる」「社員の離職率が下がる」といった、社員マーケティングの領域です。

顧客にとっては、会社のビジョンはあまり興味や関心がない場合も多いものです。顧客は、もっと具体的な、サービス・商品のベネフィットやストーリーに興味があることが多いかと思います。(但し、テスラ社のように、顧客が会社のビジョンに共感して”応援する”という形で購入する、というケースも出てきました。今後より一層増えてくるかもしれません。)

経営者の立場からすると、「給料払ってるんだから、うちの理念に賛同して頑張るのは当然だ!」という気持ちが出てくるのも分かりますが、人間の心はそんなに簡単ではなく、給料を払われているだけでは、 社員は会社のビジョンに対して無条件にコミットできるわけではないのです。
    

しかし、人が働く上で「意義深いことに貢献している」と感じられることはとても大切なことです。「やってもやらなくても変わらない」「自分の仕事に意味はない」と思うことに、一生懸命、能動的に取り組むことはとても難しいからです。

そういう意味で、ビジョンは企業経営に必須と言い切ってもよいかと思います。

「経営の未来」「モチベーション3.0」「フロー体験理論」「ビジョナリーカンパニー」「7つの習慣」など、多くの経営や組織に関する書籍でも示されているように、働く人々にとってビジョンというのは本当に大切なものになります。

ポジティブ心理学の権威であるマーティン・セリグマンはTEDでも「意義」の重要性を述べています。
    

     
TED2004 マーティン・セリグマンのポジティブ心理学
           

ハーバード大学のタル・ヘン・シャハーもその書籍「HAPPIER」のなかで「意義」の重要性について述べています。

ビジョンは、自分の仕事に「意義」をもたらすものです。誰しも、意義がないこと、意味がないことに、自分自身を従事させたくはないものです。
    

「 3人のレンガ積み職人」の話

これを端的に示す、わかりやすい例は日本のビジネス界で流通している「3人のレンガ積み職人」の話でしょう。

「炎天下にレンガを積んでいる三人のレンガ積みのそばを、旅人が通りかかった。

旅人は、それぞれ三人のレンガ積みに「あなたは何をしているのですか?」と声をかけた。すると、旅人の問いに対する答えは三者三様だった。

    

1人目のレンガ職人は「見れば分かるだろう…私は親方の命令でレンガを積んでいるんだ」と答えた。

2人目のレンガ職人は「私はレンガを積んで塀を造っているんだ」と答えた。

3人目のレンガ職人は「私はレンガを積んで立派な教会を造っているんだ」と答えた。

    
「レンガを積む」という行為そのものは変わりませんが、3人目の職人は明らかに「意義」を感じているわけで、仕事の質、例えば「キレイにレンガを積もう」とするかどうかなどに、差が出てくることは容易に想像できます。
   

「強い」ビジョンを描く

ビジョンを描く際にまず重要なことは、その人自身が「この目的に向かって頑張りたい!」「この目的には価値がある」と本気で思えているかということです。

これが、ビジョンの「強さ」になります。

「そのビジョンの実現のために、自分の全力を尽くしたい」、そう思えるビジョンであれば、人は自然と頑張ります。世の中一般的に素晴らしい夢のあるビジョンなら何でもいいわけではなく、ビジョンに対して、本人がどのくらい共感・情熱があるかということが非常に重要です。
   

書籍『学習する組織』では、ビジョンに対するコミットメントレベルを以下のように解説しています。
    

『学習する組織』の ビジョンに対するコミットメントレベル

Lv.7 コミットメント

  • それを心から望む。あくまでもそれを実現しようとする。
  • 必要ならば、どんな「法」(構造)をも編み出す。

Lv.6 参画

  • それを心から望む。
  • 「法の精神」内でできることならば何でもする。

Lv.5 心からの追従

  • ビジョンのメリットを理解している。
  • 期待されていることはすべてするし、それ以上のこともする。
  • 「法の文言」に従う。「良き兵士」

Lv.4 形だけの追従

  • 全体としては、ビジョンのメリットを理解している。
  • 期待されていることはするが、それ以上のことはしない。
  • 「そこそこ良き兵士」

Lv.3 嫌々ながらの追従

  • ビジョンのメリットを理解していない。だが、職を失いたくもない。
  • 義務だからという理由で期待されていることは一通りこなすものの、乗り気でないことを周囲に示す。

Lv.2 不追従

  • ビジョンのメリットを理解せず、期待されていることをするつもりもない。
  • 「やらないよ。無理強いはできないさ。」

Lv.1 無関心

  • ビジョンに賛成でも反対でもない。
  • 興味なし。エネルギーもなし。「もう帰っていい?」

参考:学習する組織――システム思考で未来を創造する  2011年 (著) ピーター M センゲ , (翻訳) 枝廣 淳子 , 小田 理一郎 , 中小路 佳代子

     

このビジョンに対するコミットメントレベルは非常に重要で、Lv7の段階にまず経営者自身がいないといけません。

経営者が今のビジョンに対して「これを実現したい!」と情熱的に思っているか、強いビジョンであるかどうかを、私たちは最初に確認します。

このビジョンの強さを無視した「見栄えだけいい」ビジョンが世の中にはたくさんあります。例えば「すべてはお客様のために」みたいなビジョンです。

そのビジョンを、本当に心からそれが自分の望みだと思えていればいいのですが、実際にはそういうケースはほとんどありません。そういう見栄えだけのビジョンを語っているとき、経営者の顔は全然イキイキとしていないのです。
   

これまで接してきたお客様で、例えば「本当に望んでること……え、やっぱりフェラーリ乗ってみたいですけど……」と言いつつ、顔が輝いてきた方がいらっしゃいました。

これは、その社長にとっての「強いビジョン」です。「フェラーリ乗りたいぞ!」という。そのためにだったら、頑張れる。    

この「そのためにだったら、頑張れる」というのが、 ビジョンにとって重要なことは、言うまでもありません。逆に言えば「よし、大変でも頑張ろう!」と思えないものは、すでにビジョンですらないのです。
    

フェラーリ

出典:写真AC

     

「強いビジョン」であることは、必須です。会社のトップ社長にとって、ビジョンのコミットメントレベルがLv7であることは最重要と言っていいでしょう。

本当にそれを実現したいのであれば「日本の介護問題を解決したい!」でもいいですし、「世界の環境問題を解決する!」でもいいです。私たちは「俺がフェラーリに乗る!」もOKだと考えています。大事なことは「強く願っている」ということです。その想いの強さです。
   

では、会社の社長が、「うちの会社のビジョンは、私がフェラーリに乗れるようになることだ!」とビジョンを社員に提示してしたらどうなるでしょう?

そのビジョンを提示されて、共感して「よし、そのために頑張ろう!」と思える社員はなかなかいないと思います(笑)
    

ここで出てくるのが、もう一つの要素であるビジョンの「大きさ」になります。

この「大きさ」というのは、どれだけ多くの人がそのビジョンに賛同し、共感してくれるものかということです。先ほどのコミットメントレベルで言うと、経営者だけでなく、社員もLv7やLv6でいられるかどうか、ということになります。

「社長がフェラーリに乗る」というビジョンは、強いかもしれませんが小さいビジョンと言えます。(大きくて弱いビジョンより、私たちはいいと考えていますが)

この小さくて強いビジョンを、強くて大きいビジョンに描きなおしていく作業が、大切になってきます。
     

実際に、前述の社長との会話です。

「さて。これを社員に言ったら、”よし!社長をフェラーリ乗せるぞ!”って社員は盛り上がりそうですかね?」

「いや、まったく無理ですね(笑)」

「ですよね(笑)。強さを減らさず、でも社員も燃えてくるようなものにしていくとしたら、どんな感じになりそうでしょう?社長、社員の方にも「こういう幸せを手にして欲しいなぁ」と思うものは、何かありますか?」

「ああ、、、そう聞かれると、僕だけが高級車乗りたいわけじゃなくて。もちろん社員にもポルシェ乗ってもらうとか、別に車じゃなくていいんですけど、旅行が好きなら旅行に行ってもらうとか、そうやって人生を満喫してもらいたいなと思いますね」

・・・という感じで出てきた、その会社のビジョンは以下のようになりました。

「社長はフェラーリオーナーの夢を叶える!みんなも、乗りたい車乗ったり、行きたい旅行に行ったりする夢を叶える!」

     
このビジョンは「強くて大きい」ビジョンとして、しっかりと機能しました。社長も、社員のみなさんも「うん、そのために頑張ろう!」って思えるものだったのです。

これはあくまで一例ですし、例えば対外的にホームページなどに掲載するビジョンとしては、もう一工夫必要だったりもします。

しかし、私はビジョンの一番の役割は、対外的でなく、対社内的に「組織全体の方向性を束ねる」ことであると考えているため、このような社長も社員も盛り上がった!というビジョンであることを最重要視しているのです。
    

「大きい」ビジョンを描く

前述したとおり、ビジョンは、そのビジョンを示したら本当に社員に響くのかを考えていく必要があります。これは、ひとりの強くて小さいビジョンとは別に、社員向けの新しいビジョンをゼロから描くという意味ではありません。

今 描いた強くて小さいビジョンがどんなものかではなく、その強くて小さいビジョンを、社員の状況やニーズにあわせて、どう通訳して伝えてあげるか、といった側面です。
    

ビジョンを翻訳して描き直す際は、社員ひとりひとりの違ったニーズを全て満たすことが理想ではありますが、社員数が10名を超えてきたとき、それを実行するのは現実的に非常に困難です。

そこで参考になるのは、人間の「ニーズ(欲求)」に関する有名な心理学の研究、マズローの『欲求階層説(自己実現理論)』に基づく考え方です。始めに、欲求階層とはどのようなものかをご紹介します。

マズローの欲求階層説(自己実現理論)は、触れたことがある方も多いかと思います。その名の通り、人の欲求には階層があるとする考え方です。心理学者のマズローが提唱しました。欲求は、基本的に以下の5つの階層に分けられます。
   

マズローの欲求階層説(自己実現理論)

    

欲求階層説の重要な点は以下の部分になります。

【下位の欲求が満たされて、自然と上位の欲求が生じてくる】
【下位の欲求が欠乏してくると、上位欲求は減退し、下位欲求が中心となる】

    

マズローの欲求階層説からわかることは、職場においても、社員の欲求階層によって、一番満たしてほしいものや仕事に感じる意義も違うということです。

実際問題として、 会社には それぞれの欲求レベルの人が存在しています。うちの会社はこの層にいる社員が多いという傾向はあるかもしれませんが、基本的には、どの層にも何人かずつは当てはまりそうな社員がいるのではないでしょうか。
    

各欲求レベルの人が「そのためになら頑張りたい!」と思うように”翻訳”をしていくことで、 大きな「全社員に響くビジョン」に近づいていきます。

例えば、会社のビジョンとして「世界の環境問題緩和に貢献する」ということを掲げたとします。これは自己実現欲求人材には響くビジョンです。「ああ、自社の仕事は、世のため人のために貢献しているんだなぁ」というように思えるからですし、それによって意欲が刺激されるからです。

しかし、他の4つの種類の人材には響きません。なので、もう少しビジョンに対して「このビジョンが実現されていくことで、あなたにとっても素晴らしいことがあるよ」という翻訳をしていくのです。

    

社員の層別アプローチの考え方

次から、マズローの欲求階層説を基に、各層にいる社員へどのようにビジョンを提示したらいいのか考えていきますので、是非自社で該当しそうな社員を思い浮かべながら、読んでみてください。
    

生理的欲求

最下層の生理的欲求(寝る、食べる)は、満たされていれば、次の安全の欲求(安心して暮らしたい、など)が生じてきます。しかし、何日も食べることができていない、ともなれば安全の欲求などいいから、まずは腹を満たしたい。そればかりが欲求として強くなる、という状況です。

現代の日本社会において、生理的欲求が満たされていないという人はそれほど多くないと思います。会社員という立場であればなおさらです。

ですので、ビジョンを提示する対象としては、次の「安全の欲求」から考えていきます。
   

安全欲求

安全欲求は、安心して暮らしていたいといった欲求です。

「いつクビになるか分からない」「来年もちゃんと生活できているだろうか?」こういったことに”ビクビク”しているようだと、安全の欲求が満たされているとは言えません。
    

以前の日本企業の中心的スタイルであった「終身雇用」は、この安全の欲求を満たす上では、非常に効果的であったろうと思われます。

現在も、会社員という時点で、漫然とではあっても「会社は来年も存在するし、給料は支払われる」という風に思えているケースが多いのではないしょうか。そういう意味では、今も多くの会社員にとって安全の欲求までは満たされていることが多いと考えられます。

この欲求がまだ満たされていない社員へは、主に「雇用の安定」「福利厚生」などへ訴えかけることが重要です。「このビジョンが実現されたら、雇用の安定性が増してより安全に暮らせますよ」「会社が大きくなったら福利厚生も充実していきますよ」というイメージです。
    

所属欲求

次に所属の欲求ですが、これは「居場所がある、仲間がいると感じられていること」というようなものになります。

脱線しますが、実は、社員の「所属の欲求」は、まずそもそも上手に満たせていない会社組織がたくさんあります。「自分は歯車のように感じる」「職場に”仲間”と思える人はいない」「他部署とは”関係がない”」「職場の人間関係がストレスだ」といったように。

人々が「自ら目標を設定し、主体的に働く」といった状態を、多くの経営者は望みますが「主体的に働きたい!」というのは、次の段階の承認の欲求レベル以上のものです。その手前の所属の欲求が満たされていなければ、これらの欲求は生じてこないのです。(下位の欲求の充足が、優先されるのです)
   

そう考えると、職場の人間関係が向上するように配慮することが、マネジメントにとっていかに重要かが見えてきます。

職場の人間関係(上司部下の関係、同僚同士の関係など)がギスギスしているレベルであると、人々は自分の才能を発揮して主体的に働いていくことは難しくなるのです。(この内容は、「組織マネジメントの前提」「部署内の一体感醸成」などでも解説しています)
    

自我欲求

こうして所属の欲求が満たされてくると、生じてくるのが「承認の欲求」ということになります。

この承認の欲求というのは「自己肯定、自己尊重」といったもので、自分の才能を生かして、自分らしく仕事をしたい、それができているという風に実感できることが重要になります。この欲求レベルを、自分の動機として仕事をしているとき、人は「イキイキと働いている」と言える状態にかなり近いことになります。

ですから、全社員が所属の欲求までは満たされていて、承認の欲求以上のレベルで仕事ができる職場であるというのはかなり理想的な状態になります。
   

この層にいる社員は、個性の発揮を求めていますので、「この会社にいたら、あなたの夢を追いかけられるよ」「この会社での仕事は、あなたの才能を存分に発揮できるよ!」といった部分をちゃんと伝えることが重要になります。

また、「・・・というビジョン実現のために頑張っていくプロセスで、あなたたちの才能やアイデアをどんどん生かしてほしいし、そうでないと実現していかないから、期待しているよ!」といったことを伝えることも効果的です。
   

自己実現欲求

最後の「自己実現の欲求」ですが、これはマズローが言っているのは「真善美の追求」という欲求です。一般的に「自己実現」というと自分らしく生きるというように解釈されがちかと思いますが、これは欲求階層説でいうと自我欲求なのです。

世のため、人のため、より善きこと、より美しいものを実現していきたい。自分のためか?人のためか?その境界が溶けてしまっているのが自己実現だとマズローは言っています。

そして、マズロー自身は「実際に、自己実現欲求レベルで生きている人は多くはない」と言っています。ですから、全社員がこのレベルでいるということを望むのは、少々高望みと言えるかもしれません。

自己実現欲求の層へは、社会的意義があることを伝えることが重要になります。
    

喚起するビジョンを示す

   

このように補足的な”翻訳”をすることで、強くて小さいビジョンを、強くて大きいビジョンにしていくことができます。

    

共有ビジョンとビジョン共有

「共有ビジョン(Shared Vision)」というのは、「学習する組織」に出てくる概念です。

一般的にビジョンというものはトップなりリーダーなりが示して、それにフォロワーが追随してくるというようなイメージが強いかと思います。このような「一部の人が描いたビジョンを、それ以外の人たちに共有していく」というのをビジョン共有と読んで、共有ビジョンと対比して考えています。

それに対して共有ビジョンは「組織にいる一人一人が、まず自分自身のビジョン(個人ビジョン)を描く」「その個人ビジョンを持ち寄って、組織全体の共有ビジョンに生成する」といったステップで生み出されるものです。
    

ビジョン共有と共有ビジョン

    

私はビジョン共有と、共有ビジョンと「どちらのほうが良い」とは考えていないのですが、どちらを中心に考えるせよ、どちらの良いところも取り入れながら進めていく必要があると考えています。

ビジョン共有型で進めていくにしても、社員のコミットメントレベルをLv6やLv7に引き上げようと思ったら、社員との双方向のコミュニケーションは必ず必要になります。

社員から「ビジョンのここが疑問なんですが」「もっとこういうビジョンがいいと思うんですが」というものを吸い上げるようなプロセスがなければ、どれだけ素敵なビジョンを描いても、Lv5以下の社員しか、社内にいない状態になってしまうでしょう。
   

この「吸い上げる」という活動は、共有ビジョン的なプロセスです。

逆に、純粋に共有ビジョン的に進めようとしても、会社組織の中では「とはいえ、社長の希望もあるだろうし、それに逆らってでもやるの??」といった疑問が、社員の中からは出てくることもあります。

共有ビジョン的なプロセスで進めていくにしても「社長としてここは譲れない」といったところも、明示してもらいながら進めていく必要が出てきたりします。これはビジョン共有的な要素ですが、この双方の要素を適切にブレンドしながら進めていくことが、実際に社内でビジョンを浸透させていく上では重要になります。
    

施策を進める上で
重要となるポイント

実際のビジョンの作り方・
浸透の仕方

実際には非常にケースバイケースですが、お勧めのビジョン策定基本ステップをご紹介しておきます。
   

ビジョン策定基本ステップ

Step 1

中小企業では特に、やっぱりまずはちゃんと社長が「強くて大きいビジョン」を作るのが大事だと思います。

こういう会社にしたいなぁ、お客様からこういう声が欲しいなぁ、社員にこうであってほしいなぁ、社員にこういうことを還元できる会社でありたいなぁ。そういうことを、本気で思っているもの、思えるもの。それをちゃんと作ります。
   

Step 2

次に、そのビジョンを「たたき台」としつつ、幹部社員にも同じことやってもらいます。

だいたいの幹部社員は、ビジョンを作ったことがありませんから、最初はできません。ビジョンや目標は、上から「与えられるもの」だと思っているからです。

それでも、やってもらいます。そうして、社長のビジョンを軸にしつつも、自分たちの意見も入った「共有ビジョン」を作っていける感じになります。
    

Step 3

全社員にビジョンとして提示します。そして、みんなに考えてもらいます。

「このビジョンを大事にするにはどうしたらいいだろうか?」「このビジョンを大事にしたら、どんな素晴らしいことが待っているだろうか?」といったことを話し合います。

また、ビジョンに対する異議や質問が出てきたらしっかりと受け止めることが大切です。「折角作ったビジョンに文句を言うな!」などといった気持ちが生じることもあるかもしれませんが、ここはぐっと耳を傾けたいところです。

社員が腑に落ちないのは、実現性(シナリオ)の問題かもしれませんし、欲求階層説的な補足説明が足りなかったのかもしれません。どのような点で腑に落ちていないかをしっかりと把握することで、適切な手を打つことができるようになります。

必要に応じてビジョンに「加える」ビジョンを「修正する」ということをしていきます。
    

Step 4

最終化し、一旦完成させます。

ビジョンは「1回作ったら30年そのまま」と放置しておくと、どうしても形骸化していきます。「毎年」もしくは「3年に一度」くらいは練り直してフレッシュな状態にし続けることが大切です。
    

俗にいう「ミッション・ビジョン・バリュー」について

Co-ducationとしては「ビジョンとバリューだけでよい!」というのが結論です。経営理念や行動指針、ビジョン、中期経営計画、人事制度…と、どの会社もいっぱい作るんですけど、多すぎです!

下記にご紹介する3点が揃っていれば、組織は充分に機能すると考えています。
   

組織が機能するために必要な要素

      

ビジョン

実現したい状態(その状態を実現するために当社は実現するという意味で、経営理念でもある。ミッションとの厳密な違いは難しく、超長期だとミッション、時間軸が明確だとビジョンということがあるかと思うが、ビジョンに一くくりがおすすめ。分けたほうが分かりにくい。)
   

シナリオ

ビジョンを実現していくための今描けている範囲のステップ(中期経営計画とかって呼んでもよい。常にビジョンに向けて描く。)
   

バリュー

行動指針。ビジョンが目指す山だとすると、「山の登り方の美学」がバリュー。登り方の価値観を表現したもの。

これはそのまま評価制度とほぼイコールであるべき。行動指針と評価制度がずれていたらそれはおかしい。ちなみに、採用基準ともほぼイコールであるべき。

    

支援事例

ビジョンの共有により
事業推進力を高めた企業の例

ご相談内容

上場を目指してみんなで頑張っているが、「社長の私の頭の中にだけ、壮大で緻密なビジョンがある」という状態のようで、社員の動きを物足りなく思うことがある。もっと一体感を高めて、事業推進力を上げたい。

ベンチャー企業で大変忙しく、いろいろなことを丁寧に共有する時間を取れずにいる。

ご支援内容

私たちとの対話を通し、ビジョンの共有を重要な投資として判断し、社員説明用に丁寧な資料を作り、定期的に繰り返しビジョンを発表する場を持つようにしました。

「トップとしてどのようなビジョンを描いているのか」「そのビジョンが実現されると、社会にどんなインパクトを与えられるのか」「そのビジョンを実現するために、どのような競争戦略で勝とうとしているのか」「中期的にどのようなステップで実現しようと考えているのか」といったことを、当社の担当者がヒアリングしながら資料を作成し、その資料を基に社長が社内向けにプレゼンを行いました。質疑応答の時間も、しっかりとりました。

その時間投資をすることで、「この会社で働くことのワクワクが増した!」「社長がなぜああいった判断をしているのかの理由が分かった」といった声が社員から増え、一体感が増し、事業の推進スピードも向上しました。結果として上場を果たすところまでになりました。
     

社員目線の意味や価値を共有して
売上UPした企業の例

ご相談内容

社内アンケートを取ったところ「会社の方向性が見えない」「ビジョンが見えない」といった声が多数あることが判明した。

しかし、当社では会社の理念やビジョンについて、社内の壁にたくさん貼りだしていて、そういったことは少なくとも形式的には共有されているはずで、どうしたらいいか困っている。

ご支援内容

結論を先に言うと、その会社では「5年で、1.5倍の年商50億円を目指す!」というビジョンを明確に打ち出しました。

その結果、社員は一丸となって「50億達成のために頑張ろう!」となり、社内から「方向性が見えない」といった声はほとんど聞かれなくなりました。そして実際に、5年後には年商50億円をクリアできなかったものの、約1.4倍ほどの年商を達成するに至りました。

この企業がビジョンを打ち出すことでこれだけ成功したのは「50億を目指す」という定量的で分かりやすい目標を提示したことに加えて“年商50億円の意味や価値”を丁寧に発信した ことが挙げられます。
    

実際、多くの企業で「年商○億円を目指す!」といったことは掲げられていても、それが社員のモチベーション向上に直結しているケースの方が稀なのです。

なぜなら「その年商を達成すると、自分にとってどんないいことがあるのだろう?」「単なるノルマじゃないか・・・」といった反応が、社員からは普通に起こるからです。

それをこの企業では、

  • 50億円を達成することで財務安定度が増し、雇用の安定度が増す。つまりみんなより安心して働ける職場になる。
  • 50億円を達成するためのチャレンジそのものが、刺激があり、やりがいがある。
  • 50億円を達成したころには社員数も増えている、部下も増えている。部下育成などの経験を積むことができる。

といった、 社員目線の意味や価値も丁寧に共有されていたため、社員からしても「よし!50億円頑張ろう!」と心から思えたのでした。