Vol.30 中小企業の新人研修はどのように設定するべきか

今回のご相談内容

本格的に新卒採用を始めて2年目になりますが、今年度は新人研修についても昨年より整えていきたいと考えています。

「教えるべき内容を洗い出す」といったことをしていますが、それ以外にも中小企業が新人研修を準備する上で気を付けるべき点などあるでしょうか?

        

石川からのご回答

新入社員になってほしい像を描く

まずは、新入社員研修を経て、新入社員になってほしい像を描くところからまず始めるとよいでしょう。

  • ●●の実務ができるようになっている
  • 報連相などの基本ができるようになっている

といったスキル面が挙げられることが多いかと思います。
   

他にも

  • 先輩社員たちとの交友を深めてほしい(気軽に質問出来る関係性ができている)
  • 社風を理解しドレスコードなどが「馴染む」ようになってほしい

といったことも新入社員研修のゴールの一つとして挙げられるかもしれません。
   

また、もっと欲張りに考えると

  • 配属先以外の各部署の業務を理解し、仕事の全体像を理解してほしい
  • 1年後、3年後に求められる能力を理解し、今から勉強を始めてほしい

そんなことも挙げられてもいいかもしれません。

   

さらに今度は新人にどうなって欲しいかだけでなく、新入社員研修を通して「先輩社員たち」にどうなって欲しいかも考え、それも達成できるようにしていくことも考えるとよいでしょう。

  • 新人の素朴な疑問に回答することで仕事の本質への理解を深める
  • 他部署の仕事内容を思い出し、連携がスムースになる
  • 後輩を持つ、後輩が増えることを刺激にして模範となろうと背筋を伸ばしてほしい

このようなことも達成できるように、新入社員研修を行っていけると良いかと思います。
    

中小企業ならではの新人研修の工夫

出典:写真AC

    

大企業のように「研修会社に3ヵ月預けて研修し続ける」といった予算を組むことも大変ですから、中小企業では「手作り」ということはとても大事になるかと思います。

人事担当者がいればいいですが、いない場合もあるでしょうから、そうすると「先輩社員」たちが、新入社員の研修を行っていくことになります。
   

「どう新入社員研修を進めていこうか?」ということ自体も先輩社員たちに考えてもらうと、それもまた素晴らしい成長の機会となると思います。

「半日は誰かが座学をして、半日はそれに関する宿題をオフィスでやってもらって、夕方に宿題の発表をしてもらう、ようにしようか」などと、自分たちの業務の状態に応じて、現実的なプランを考えてみてもらうとよいでしょう。
   

実際には、例えば、新入社員に「各部署の業務についてヒアリングし、発表すること」と指示を出して、各部署にも「新人から依頼がくるので時間調整して対応してあげてください」といった根回しはしておくなどします。

そうして、先輩社員たちは新人にヒアリングをされて、自部署の業務について説明をすることで、自身の理解度、言語化能力も高めていくことができる。そして発表を聞いて「ああ、他部署は今そんな感じで仕事をしているのか」と分かる。そんな一石二鳥、三鳥となるような設計でやれるとよいでしょう。
   

新人に自由にヒアリングをさせてもよいですが、「この項目に沿ってヒアリングをしてくること」と事前に設計しておくことで「聞かれた先輩の方も背筋が伸びる」といったことを達成しやすくなるところもあります。

例えば「この仕事の顧客への価値、全社的な観点での価値はなんですか?」といった質問を入れておけば、必然的に先輩社員はそれについて考えて、自分なりの言葉で答えることになります。
    

振り返りの場を用意する価値

「上手な教え方」「最近の若者の傾向」といったことについて、先輩社員たちが書籍などで事前に学んでおくこともとても価値があります。「教え方」についてレベルアップしておくことは、研修終了後、配属されたあとにもとても役に立つことです。

新人の戦力を高めることと、先輩社員の指導力を高めることと、両方が達成されることが望ましいでしょう。

中小企業においては、入社後1週間程度でもこのような研修期間を用意できるだけでも非常に価値があると思います。実際の実務に必要な知識・スキルについては、研修期間を終えて配属後に身につけていけばよいでしょう。
   

出典:写真AC

    

大企業のように、何ヶ月も研修を行う必要はそれほどないと思います。それよりも、春(入社時)だけ研修を行うのではなく、月に1回程度「振り返り」などの場を設けることを考えてみていただきたいと思います。

1ヶ月経ってみて、自分が成長したと思えるところ、先輩から成長したと見えているところ、そういったことを確認できるような場があることはとても意味があります。

成長を実感できる場、というのは新人にとってとても大切なのです。

また「1ヶ月やってみたから出てきた疑問」などもあるでしょう。そういったことを忙しい日常の中ではなかなか先輩に質問ができないということもあるかと思います。時間を割いてそれらの疑問に対応できるとよいでしょう。

同期がいる、というような場合には、同期同士で悩みや不安を共有できるということにも価値があります。

    

振り返り、ということはとても重要です。新人を育てる側としても「達成度」を振り返られるとよいでしょう。

「こういう新人に育って欲しいと思っていたが、実際に半年経過してみて、1年経過してみてそのような新人に育てられたか?100点満点中何点か?」といった観点で振り返りを行います。

足りないところがあったなら「来年はどのような改善をしていくか?」を自分たちで考えてみることも必要ですし、自分たちだけで考えても分からないこともあるでしょうから、知識を増やしていく(書籍やセミナーなど)ことも重要です。
   

もちろん新人の側としても「1年経って、なりたい自分像になれたかどうか?」を振り返って、できたところ、足りなかったところを確認していくとよいでしょう。そして、目標そのものもまたアップデートされていくと思います。

ご質問に対する回答は以上となります。いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.30 2020/03/24配信号、執筆:石川英明]