Vol.59 中小企業における役割分担の問題を解決する2つのアプローチとは

今回のご相談内容

「マニュアルに書かれていないからできない」
「指示されていないからやらない」
「これは自分の役割ではないので」

このような発言をしている部下がいました。仕事がまわっていないわけではなく、人や部署にもよるんですが、実際問題、業務の役割分担があまりスムースにいっているとは言えない部署や業務はあり、どうしたものかと悩んでいます。

中小企業において、会社組織の、また各部署やチームの役割分担はどのように考えていけばいいのでしょうか。

        

石川からのご回答

役割分担が「言われたことしかやらない」状況を引き起こす

これまでのマネジメントでは、多くの場合「仕事に人間が合わせる」というカタチで、役割分担をしようとしてきたと思います。
  

例えば、業務フローを整備します。

1→2→3→4→5という業務フローがあったとして、担当者Aは1~3を担当し、4~5は担当者Bが担当する、というような形です。
   

     

これは特にアメリカにおいては、ジョブディスクリプション(職務定義書)として定義されて、きっちりと役割分担を線引きするようになっていました。

これは例えば、レストランにおいて「シェフは料理を作る」「ウェイターは料理を運ぶ」「掃除係は掃除をする」というように、きっちりと仕事が分けられているというような状況を生み出します。そして、それぞれの仕事ごとに報酬額も決まっているというような形になります。

こうすることで、従業員同士で、役割分担をモメることもなくスムースに仕事を進めていけるということです。
   

こういった状況においては、例えばウェイターはレストランにゴミが落ちていることに気づいたとしても、そのゴミを掃除をすることはありません。それは掃除係の仕事だからです。

ウェイターが掃除係に「ゴミ落ちてたよ。お願いね」と伝える、ということも起こらなかったりします。もしそれをウェイターにさせるのならば、それはジョブディスクリプションに記述されていなければなりません。
   

ジョブディスクリプションを定義するのは、上司やマネジメント層の仕事ですから(それもジョブディスクリプションに書かれている必要があるでしょう)、上司などがこういった細かい一つ一つのことを全て定義づけていくことになります。

「お客様のためを自分で考えて、最善の行動をとれ」というようなわけにはいきません。

役割分担はハッキリしますが「ジョブディスクリプションに書いてあることしかやらない」「言われたことしかやらない」というようなことが起こるという弊害も感じられるところです。
    

役割分担は決めず、1人1人が臨機応変に動けば解決するのか?

一方で、状況に応じて、臨機応変に、一人一人が考えて動く・・・というような考え方もあります。こうすると「自分はウェイターだけど、ゴミに気づいたから掃除しておく」というようなことも勿論起こりえます。

これはとても良いことのようにも思えますが、「誰かがやってくれるだろう」とみんなが無責任になってしまうというリスクもありますし、気づいた人がやるというときに特定の人間にとても負荷が集中してしまうというようなことが起こることもあります。

そうするとその不満がたまって「ちゃんと役割分担をハッキリさせて欲しい」という要望が出てくるようになることもあります。

そうなってくると、アメリカ型のジョブディスクリプションを作っていかないといけない・・・というようにもなってきます。
   

担当者Aは1~3を担当し、担当者Bは4~5を担当するとなった場合にも「3→4」のところの”→”の部分の仕事があります。

ここは非常に難しいところで、担当者Aは「ちゃんと仕事を渡した」と言い、一方で担当者Bは「あんな雑な渡され方したら後の仕事ができない」と言っている、というようなことも起こったりします。

また、ジョブディスクリプション的な考え方をすると、労働者(社員)の個性といったものは考慮されないことになります。

例えば「レストランの顧客との会話はシェフの仕事である」というような定義があったとして、こうなると「(料理はとても上手だけど)口下手なシェフ」は、その個性が生かされにくいでしょうし、逆に「コミュニケーションのとても上手なウェイター」もその個性を発揮できないことになるでしょう。
   

以上のようなことを考えると、一言に【役割分担】と言っても、これはなかなか難しい問題であることが見えてくるかと思います。

「役割分担くらい、現場でスムースに上手いことやってくれ」と言いたくなるような気持ちもあるかもしれませんが、それほど簡単なことではないということを認識することがよい役割分担を生むための第一歩と言えるかもしれません。
    

     

役割分担の問題を解決する2つのアプローチ

こういった難しい役割分担の問題に対して、解決するアプローチは大きく二つあると考えられます。

1.役割分担を上手くいかせる責任は全て管理職にあるというアプローチ

一つは、管理職や経営陣が、ジョブディスクリプションを書く技術を高めていくことです。これは状況や個性なども加味したうえで、頻繁に更新するといったことも含めて、「役割分担を上手くいかせる責任は全て管理職にある」という考え方にするアプローチです。
   

2.当事者同士で話し合って解決していくというアプローチ

もう一つは「当事者同士で話し合って解決していく」というアプローチです。「今日はこんな分担でいこう」といった合意を、従業員同士で対話しながら生み出していきます。

これはどちらの方が正しいというものではないと思いますが、今のビジネス環境を考えると、後者のアプローチの重要性が増してきていると言ってよいかと思います。
   

弊社が提案しているHuman Centered経営の考え方として「対話とガイドライン」ということを以前書きましたが、全くガイドラインがない(ジョブディスクリプション的なものが全くない)という状態だとなかなか大変ですので、ある程度は作っておきつつも、柔軟性や幅があるということを前提に、その幅の部分については、都度都度、当事者同士で話し合うというアプローチはかなり現実的です。

環境の変化が激しいなかでは、社員一人一人が外部環境(お客様や競合の動きなど)を汲み取り、同時に、内部環境(従業員のそれぞれの状況や個性など)を汲み取り、最適解はどれか?を考え、話し合う習慣がある組織の方が強い組織であるといってよいかと思います。
   

天才的な管理職がいて「毎日、完璧なジョブディスクリプションの更新ができる」「更新されたものに部下も完璧に納得している」という状態を作れるのであれば、それもアリかもしれませんが、こちらの方が現実的に難しいのではないか、と思うのです。

会社における最大の資産と言ってもよいであろう、社員の能力を生かすという意味でも、ジョブディスクリプションを明確化して、社員の個性を消し去っていくよりは、社員の個性や才能、能力といったものも加味して、役割分担を生成していくといったアプローチの方が効果的であると考えます。

今回の回答は、以上となります。

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.59 2020/12/02配信号、執筆:石川英明]