Vol.58 社員の創造性やWell-Being(幸福・働きがい)を高めるために【アジャイル的経営編】

今回のご相談内容

これからの時代、社員が創造性を発揮できていない企業は、どんどんと競争力が減衰していくことになるように考えています。人間の創造性が発揮されていないものは、AIやロボットなどにどんどん代替されていってしまうからです。

同時に「社会的な労働力不足」という観点から考えると、社員のWell-Being(QOL・幸福度・満足感・働きがいなど)が低いと、人不足に陥っていくことにもなるように考えます。同じような仕事、同じような給与水準だとしたら、働きがいや充実度といったものの水準が高い企業へ、人が惹かれていくので、採用が上手くいかず、離職につながる要因となることは容易に想像できます。

企業が生き残っていくためには、社員の創造性や「働きがい」「well-being」といった幸福度を高めるような経営マネジメントが不可欠であると考えますが、いったいどのように高めたらよいのでしょうか?

        

石川からのご回答

創造性やWell-Being(幸福・働きがい)といったもの高めるのには、共通する要素が多いと考えています。重要な要素としては以下が挙げられます。


透明性

生成された目標

対話とガイドライン

個性とセルフマネジメント

アジャイル

前回は個性とセルフマネジメントについて書きましたが、今回は「アジャイル」についてお伝えしたいと思います。
   

変化が激しく長期的視野での判断が難しい時代に

これまで多くの企業で「1年」という単位が、基本単位として使われてきました。

これは本質的な意味や、戦略的な意味で選択されたものではなく、法律上、会計上、1年に1回決算をして納税をしなければならないというところから生じてきていたものです。

そこで「期首に計画を立て、1年かけて遂行し、期末に結果を測定する」ということが企業マネジメントの基本として採用されてきました。しかしこの1年単位のマネジメントには限界や弊害もあります。
   

まず、長期的な視野での判断が難しくなります。「3年かけて築いていくべきもの」みたいなものがあったとしても、それに取り組むことは今期の売上や利益につながりません。

だから「それ、今期の利益のプラスになるの?」と問われるとYesと答えられずに、優先度が下がっていってしまうということが起こります。この長期展望での打ち手を打ちにくくなることを避けて、上場を廃止してきた企業もあります。
   

また逆に「変化の早さに追いついていけない」ということも起こります。

期首の立てた計画は、期首時点の経営環境を前提として立てているため、経営環境そのものが変化してしまうと「この計画を遂行することに意味があるのか?」ということが生じてきます。

No Ratingという評価手法が注目されていますが、このNo Ratingというのは本質的には「人間をアウトサイドインで動かそうとしても創造性が発揮されない」ということと、もう一つは「期首計画に対する進捗で評価しようとしても無理がある」ということが背景にあります。
    

出典:写真AC

    

アジャイル開発的な経営マネジメントとは

アジャイルはもともとシステム開発の分野で手法として拡大、定着してきた概念と言っていいと思います。

システム開発をする際に「事前に全てシステムの設計図を仕上げてから、設計図通りのシステムを構築していく」というアプローチ(Vモデルとか、ウォーターフォールモデルとか呼ばれたりします)ではなく、ある程度の設計で、システムを実際に構築してしまって、利用したりしながら修正したり拡張していく開発手法です。

ここでは「アジャイル開発」から転用して、その概念を、マネジメントに生かしてみたいと思います。
   

アジャイルの良いところはとにかく「変化に柔軟に対応できる」ということです。

期首の段階では「価格勝負で、量的拡大を目指す!」ということが経営方針だった時に、例えば他社が「追随できないほどの低価格を打ち出してきた」というようなことが起これば、これは期中に方針を変更せざるをえなかったりします。

アジャイルが質高く機能するためには「長期的な目標や、ブレない目的」といったことが設定されていることも重要になります。
   

飛行機のフライトを比喩として説明すると、「目的地であるニューヨークに安全に着陸する」という長期目標、ブレない目的があります。その上で、フライト中は「目の前の現象に柔軟に対応していく」ということになります。

当初の計画航路は成田⇒ニューヨークを最短で飛ぶことになっていたとしても(これが期首計画にあたります)、実際には航路上にもし避けるべき雷雲などがあれば、それを避けて、計画航路から外れることもあるでしょう。

そういったことが続けば「11時半にニューヨークに到着する」といった計画だったとしても「12時到着に計画が変更される」ということも勿論ありえるでしょう。

これが「計画通り進める」ことを最重要視してしまうと、無理に計画航路上を飛び続ける・・・などということにもなりかねません。それが、望ましい結果をもたらさないことは容易に想像されることかと思います。
   

ここで「よし、遅れてもいいからこの雷雲を避けよう」と適切な判断をするためには

  • 「目的はあくまで、ニューヨークにつくこと」
  • 「時間よりも安全の方が重要」

という目的や価値観が共有されている必要がります。
    

もし「計画航路上を飛べ」という指示しかなく、目的地も分かっておらず、安全の重要性も認識していなければ、その飛行機のパイロットは、危険な航路に突っ込んでいってしまうかもしれません。
   

    

「計画を立てなくてもよい」わけではない

ここで「遅れてもしょうがないから、この航路は避けていこう」という判断は、人間の創造的な判断そのものです。

「とにかく計画を遵守する」「言われたことをやることが仕事」という状態では、創造性が発揮されず、目の前に本質的な課題があったとしても「言われているから、そうする」と危険に突っ込んでいってしまう、ということがありえます。
   

もちろん、社員の創造性が発揮されている組織ではそんなことは起こりません。

「これは想定していなかった事態が起きたけれど、本質的に取るべき選択は何だろう?」と一人一人が考えて、対処する、ということになります。

「仕事はとにかく計画を遵守すべし」ではなく「時には計画から外れることもあるので、アジャイルに、都度都度判断しながら進むのが仕事」という状態の方が、一人一人の創造性が発揮されるのは間違いありません。
   

但し、ここで極端に「だから計画を立てなくていい」ということにはならないと考えています。

まったく無計画に、何も考えずに突っ込んでいけばいいわけではなく、かなりの程度計画を練っておく必要性はそれはそれであります。

例えば「最短で飛べばこうなる」「しかし計画から外れた場合もありえるから燃料は余裕を持っておく」「しかし無限に燃料を積めるわけではないので、目的にたどり着けなさそうな場合は、手前のA空港に降りる」・・・といったシミュレーションをしておくわけです。

そういった事前のシミュレーション、予測、見立て、そこから生まれる「基本計画」のようなものの価値がなくなるわけではありません。

この「事前のシミュレーション」をすることに、才能や創造性を発揮する人材というのもまたいるものです。
   

社員の個性やタイプに配慮しながら配置を考える

人は、変化をストレスに感じるところがあります。あんまり毎日がコロコロ変わるようでは、落ち着いて生活できないし、仕事もできないという面があるのです。

その面から考えるとアジャイル的な仕事の進め方というのは、良いことばかりではなく、人によっては非常に負荷を感じたり、ストレスを感じたりすることがありえるものかと思います。


とは言え、ビジネス環境が変化してきていて、50年前よりも現在の方が「変化が早くなっている」のは間違いありません。

そうであったときに「変化し続けるのが仕事」ということ自体を共通認識としてどれほど持てるかということが一つ鍵になるかと思います。


また同じ会社の中でも、市場環境の変化に日々触れる部署などもあれば、比較的変化の波が遅れてやってくる部署などもあるかと思います。

その際に、個々人の個性として「変化大好き!」というタイプか、「落ち着いてじっくり取り組みたい」といったタイプか、そういった面も配慮しながら配属などを考える、ということも個々人のWell-Beingを高めるうえでは重要になってくるかと思います。

    

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.58 2020/11/24配信号、執筆:石川英明]