Vol.74 個の力のビジネスから組織力で勝負できる会社にしていきたい

今回のご相談内容

これまで個の力でビジネスをやってきましたが、そろそろ「組織力」を高めたいと思っています。組織力を競争優位の要因にしていきたいと思いますが、どのようなことをしていけばよいでしょうか?

石川からのご回答

「もっと組織として、協力し合えるはずなのに」とか「業績は悪くないが、組織としては一体感に欠ける。。。」といったことが感じられたときに、「組織力を高めたい」というように思われるかもしれません。まず「組織力が高い」とは、どういう状態かしっかりと考えてみたいと思います。

   

例えば、サッカーのチームで考えてみたときに、組織力の高い強いチーム組織力の低い弱いチームがあり得ます。

組織力の高いチーム

  • 「勝つ」という共通目標を共有できている
  • 11人の選手が、同じ戦術イメージを持ち連動して動いている
  • ケガをする選手がいても、代わりの選手がすぐに活躍する
  • コミュニケーションがよく、相手の戦術の変化に組織的に対応している

逆に組織力の低いチーム

  • 勝ちに行くのか、引き分け狙いなのかなどがバラバラ
  • 11人の選手が、それぞれ勝手な別のイメージを持ち、バラバラにプレーしている
  • 誰かが抜けると、途端に連携が悪くなる
  • コミュニケーションがなく、相手の戦術の変化に組織的に対応できない

というような状態であると言ってよいかと思います。これはあくまで比喩的なものですが、ビジネスの世界にも置き換えることのできる要素がたくさんあります。
   

出典:写真AC

   

共通目標を持てているか

スポーツのようなシンプルなものでも共通目標を持つということはなかなかできなかったりします。攻撃の選手は点を取って勝とうとし、守備の選手は守り切って引き分けでよしとする、といったズレは起こったりします。

ビジネスはより複雑で、利益を増やそうというゴールはある程度共有化されるかもしれませんが、今年は利益を減らしてでも投資をしていくということもありますし、利益を最大化するだけでなく、ワークライフバランスを大切にしたいといったニーズは社内にあったりします。そうすると「共通のゴールに向かって、全員で頑張っていく」ということはなかなか難しくなります。

組織力を高めるためには、この共通の目標を持てるようにすることが重要です。「私たちはみな、あの目標に向かって頑張っている」という共通認識を持てるようにすることです。 それは「売上を伸ばす」かもしれませんし「利益を伸ばす」かもしれませんし「顧客満足度を高める」かもしれませんし、それらを複合的に合わせたものになるかもしれません。いずれにせよ全社員が「これがゴールだ」という共通認識を持てるようにすることが、組織力を高める上での第一歩です。
  

共通ゴールを持てるようにするには

例えばサッカーの試合で1-0で勝っているときに「勝つ」ことは共通の目標になるでしょうが「追加点を取って勝つ」のか「残り時間を守り切って勝つ」のかが共通認識になっていないと、組織力を発揮できないことになってしまいます。

会社でも「さらに売上を伸ばす、顧客数を増やす」ことが目標なのか、「売上を伸ばすことは第一目標とせず、顧客満足度を高める」時期であるのか、そういった方向性がはっきりと共有されていることが重要です。

例えば「この半期は、売上を伸ばすことよりも顧客満足度を高めることに注力する」という方針が共有されていれば、営業部は新規開拓よりも、既存顧客のフォローや、ニーズのヒアリングなどに注力し、そこから得られた情報から、サービス開発部がサービスをブラッシュアップするということに注力することになるでしょう。会社全体として追いかける指標としては、売上を無視はしないまでも、第一優先の指標としてリピート率、離脱率、顧客満足度などの指標を追いかけることになるでしょう。

そして、その半期を終えて無事にリピート率が高まってきたら、今度はまた売上拡大に舵を切り「売上増」が全社の共通目標になる・・・といった塩梅です。

売上増が目標となれば、営業部は新規開拓に勤しむことになり、サービス開発部は、増える業務量に対して対応できるよう、「これ以上受注があってもキャパシティ的に受けきれない」とならないように業務の効率化などに取り組むことになるでしょう。 こうした大きな方針や、追いかける指標について、少なくとも半期に一度は、全社で認識をそろえられるようなコミュニケーションの場(例えば事業方針発表会など)を持つことが効果的です。
   

どうしても共通目標を持ちにくいケースも

部署によって時間軸が違う、ということがあります。研究開発部門は、3年後の売上を作るための活動をしていて、営業部はこの四半期の売上を作るための活動をしている、というような場合には「足並みをそろえてやっていく」ということが難しい場合があります。

このような場合は、同じ会社とは言え、無理に共通の目標に向けて動くようにする必要はなく、それぞれ別にマネジメントをしていくと割り切ってよいでしょう。

プロサッカーチームでも、一軍の監督は「今期優勝する」ということを目標に動いているかもしれませんが、ユースの監督は「長期的に選手を育成する」ということを目標に動いているかもしれません。このようなときに無理に「同じチームなのだから、同じ目標を追いかけよう」とするとおかしなことになります。 どの部署であっても、短期であれ、長期であれ「会社の成長に貢献する」という点では同じ目標を追いかける仲間ではありますが、特に時間軸が違う場合にはそれぞれ個別にマネジメントをすると割り切ることも重要です。
   

連動して動けているか

チームスポーツでは「自分の右側の選手が、こう動いたら、自分はこう動く」といったことを共有できていれば、チームとして連動して動けることになります。

これは、企業活動においても同じです。

しかし、実際には「隣の部署がどう動こうとも、自分たちがやるべき仕事は固定されている」というような認識で仕事をしているケースが多々あります。例えば、物販をしていて、広告チームが大量に広告を投下するという判断をすれば、それに連動して、仕入れチームは在庫切れを起こさないようにいつもよりも多くの在庫を確保できるように動く必要がある、ということがあります。

この時重要なのは、広告チームの方が、仕入れチームの仕事内容をどれほど理解しているかということです。
   

仕入れ先の生産ラインが月産1000個が限界だとした場合に、それを知らずに「月間3000個の販売目標で広告を投下する」となれば、これは仕入れチームとしては非常に困ったことになります。

「それは仕入れチームの問題だから、仕入れチームでなんとかしてよ」と突き放していては、組織力が高い会社とは言えません。

広告チームとしては「今のこの追い風をつかまえたい!」といったタイミングが重要なこともあるでしょう。しかし、実際に生産が追い付かないのであれば、広告のタイミングを後ろ倒しにするのか、広告は売ってしまって受注を積み上げて、顧客に納品を待ってもらうのか、そういったことを考える必要があります。

仕入れ先に月産3000個の生産ラインを確保してもらうようにするのが、一時的なものなのか、それとも恒常的なものなのかなどによっても対応が違ってきます。 そうしたことを質高くコミュニケーションし、広告チームと仕入れチームとで連動して動けている必要があります。
   

部署ごとの連動性を高めるには

まず「自分たちの仕事は、相互に影響しあっている」ということ自体を認識していることが重要です。もし広告チームが「いきなり3000個売るとなったら、仕入れチームが困るだろうな」ということが想像もできていないとしたら、連動のしようもありません。

この相互の仕事の関係性を理解するのに王道なのが「業務フローの作成」です。業務フローを作成することによって、お互いの仕事の影響関係が可視化され、理解しやすくなります。
   

お勧めしたいのは「新入社員による業務フロー作成プロジェクト」です。これをすることによって、新入社員は会社の全体像への理解を深めることができます。

新人が、先輩社員たちのところにヒアリングに行って業務フローを作成します。その際に「この前工程の仕事は何ですか?」「この後工程の仕事は何ですか?」「この仕事の大変なところは何ですか?前工程からどんなパスが来ると困りますか?」「後工程にどんなパスをするとよいのですか?」といったことをヒアリングしてもらいます。

そうすると、ヒアリングされた側の先輩社員たちも、改めて自分の仕事の前後のつながりを意識するようになります。

新人が作った業務フローの発表会を行い、そこに先輩社員たちに参加してもらうようにすると、改めて「全社の流れはこうなっているな」ということが確認できます。1年間でアップデートされた業務フローもありえるので、その確認にもなります。一石二鳥三鳥の価値が得られるのが「新入社員による業務フロー作成プロジェクト」です。これは、連動性を高める土台の部分を作ってくれます。
   

    

この土台があったうえで、日々の業務の中で密接にコミュニケーションを取るようになることが理想的です。理想の状態としては、広告チームの担当者が「今度、一気に5000個売れるようなことをやりたいな」と思ったときに「そうだ、仕入れチームの担当者にまず相談してみよう」と思って、当事者間で必要な話し合いが自然と起こることです。

この時に「仕入れチームの担当者にまず相談してみよう」と思って、すっと仕入れチームの部屋に入っていけるかどうかは、日ごろからの関係性作りが重要になってきます。

そもそも担当者の顔も名前も分からない、というような状態であればこういったアクションはとることができません。顔と名前も分かったうえで、かつ「気楽に声をかけられる」関係性が出来ているかどうかが重要です。

そうした状態を作るためにも、部署をミックスしたようなコミュニケーションの場が必要となります。それは「社員旅行」かもしれませんし「飲み会」かもしれませんし、「全社朝礼」のような場かもしれません。

お勧めは、オフィシャル(会議など)と、アンオフィシャル(飲み会など)の中間くらいの場づくりをすることです。業務時間中に、2時間ほどの時間を取って、部署ミックスでの相互理解の時間を持ったりするのです。 こうした場によって「あ、仕入れチームで担当してくれてるのは佐藤さんなんだな」と理解でき、かつ「佐藤さんとは個人的にも話したことがあるから、ちょっと相談してみよう」ということがすぐに起こるようになってきます。
    

属人的になり過ぎていないか

「組織力が高い」の反対の要素の一つは「属人的である」ということです。

会社の中で、その人しか知らない業務、その人しかできない業務というのがあるとそれは「属人的である」ということになります。そうすると、例えば、その人が病欠をしたり、転職をしてしまったりすると、ポッカリとその業務に穴が開いてしまうことになります。

業務が属人的になってしまうことを防ぐには「他の人も知っている、できる」という状態にすることですが、これはちょっと難しい問題です。

例えば、労務の仕事を一人の担当者がやっていて、その仕事は他の社員は全然業務内容を知らないとします。しかし業務量としては、一人分でちょうどくらい、だったときに、他の社員にも「その業務ができるように」と、研修を行ったり、業務経験を積ませたりするのは、ある意味では【無駄(重複)】ということになります。
   

この【無駄がない】ということと【属人的である】ということは、トレードオフな面があるため、安易に「とにかく属人的な業務を作らせない“!」と号令をかければよいというものでもないわけです。

また属人的であるということは、「私にしかできない仕事」と責任感やほこりを持ちやすい、といった側面もあります。悪いことばかりでもないのです。 しかし、それでも属人的になり過ぎているのは、マネジメントとしてはやはりリスクです。組織力が高い状態を作ろうと思えば「誰か一人に依存している」という状態は緩和する必要があります。
   

属人的にしすぎないために

まず基本的な打ち手としては「マニュアル作成」があります。自分のやっている業務について、新人が入ってきても、それをみながらできるようになるようなマニュアルを、各自が作る、ということです。

マニュアル作成が業務の一部として習慣づいている企業では、属人化を大幅に緩和することができます。

「自分も先輩から渡されたマニュアルを基に業務をやってきたし、やっている最中にマニュアルも追加・修正してきた。だからあなた(後輩)も、同じようにマニュアルを引き継ぐようにしてください」 これが徹底していると、属人的な業務というのはかなり減ります。先輩から後輩への引継ぎ、部署異動してきた人への引継ぎ、中途採用した人への引継ぎ、様々なケースで業務マニュアルは効果を発揮します。
   

出典:写真AC

外部環境の変化に内部体制が柔軟に対応できているか

組織力の高い会社は「市場環境が大きく変わったぞ!こっちに動くぞ!」ということを、組織全体として機敏に対応することができます。組織力の低い会社だと、市場環境の変化に経営陣は気づいて号令をかけても、「そんなこと起こってる?」「心配しすぎじゃない?」「急に変えるとか言われても」といった反応が現場から起こり、機敏に動くことができません。

これは人体の比喩でいうと「神経系がしっかりと通っている」ということが重要です。脳が号令をかけても、手や足に神経が届いていなければ動くことができません。同時に、例えば手が、火傷をするような熱いものに触れても、神経が通っていなければ(脊髄反射ができずに)、そのまま熱いものに触れ続けて火傷をしてしまう、ということも起こります。

「組織力が高い」ということは「神経系が、組織全体にしっかりいきわたっている」ということだと言えます。

組織全体に神経をいきわたらせるのに効果的なのが「対話」であり「対話文化」です。対話という神経回路が通っていることで、組織全体として機敏に動くことができるのです。

実際に、対話力の高さが、組織の機敏な動きに直結すると見せつけられたのが、コロナへの対応でした。長年ご支援している対話文化の根付いている会社さんでは、コロナが起こったときも、パッと社員同士が集まって対話をして、大枠の合意形成が素早くなされていました。

  • 「とりあえず話し合った方がいいね」
  • 「コロナ起こってるけど、仕入れとか出荷とかの業務はどうする?普通に続ける?」
  • 「社内の感染対策はどうする?」
  • 「オフィスに出社し続ける?それともリモートワークにする?」
  • 「出社しないとできない業務のある部署の人はどうする?」
  • 「人によって、すごく危ないと思っている人と、そんなに危ないと思ってない人と、ありえるけど、その温度差に対してどうする?」

そんなことが、パッと集まって社員同士で対話され「ある程度このラインで進んでいこう」「進めてみて、難しかったり、違和感が出てきたりしたらまた話し合おう」という感じで、非常に素早く対応していらっしゃいました。

人体の比喩に戻ると、まさに対話自体が神経となり、神経が、手や、足や、目で見たものや、耳で聞こえているもの、それらの情報を共有して統合していったわけです。社長・社員それぞれが見ているもの、感じているもの、考えているものは違いますが、それが一旦、対話(神経)を通して共有され「全体として、最善はどれか?」といったことが話し合われたわけです。

この対話の文化は、一朝一夕でできるものではありませんが、逆に言うと、しっかりと対話文化を築いていくことで、非常に強い組織力を持つことができます。他社が真似しようとしても、一朝一夕では真似できないので、強い競争優位にもなります。
   

対話の文化を醸成する一つの方法として、普段から日常的にOST、オープンスペーステクノロジーの手法を使った話し合いをしていくということをお勧めします。

OSTは簡単にご紹介すると、社員が10名とか20名とか集まって、2時間ほど時間をとって、「今、話し合いたいこと、相談したいこと」などを付箋紙に書き出して行う、対話の手法です。付箋紙に書き出されたテーマに興味がある社員だけが、そのテーマに参加して、そのテーマについて自由に対話をします。

OSTの良いところは「こんな無駄な会議、、、」とはほぼ確実にならないことです。なぜなら、検討されるテーマそのものが、自分たちが検討したいテーマであるからです。また、もう一つの利点は、「そのテーマに関心がある」という共通項で集まって話し合うことで、部署や年代などがミックスされて関係の質が高まることです。成功循環を好循環にしていくことにも寄与します。

対話のリテラシーについての土台の学習はある程度必要ですが、それほど大掛かりな準備がなくてもすぐに活用することができます。 こういった活動を通して、組織の対話文化を醸成し、組織の神経系をいきわたらせていくことができます。そうすることで、外部環境の変化にも機敏に動ける、組織力の高い組織になっていくことができるのです。
    

創発は組織ならでは

最後に「創発」はチームならではの現象で、この「創発」を起こせるかどうかも重要な点になります。創発は、今までにない新しいアイデアが生まれるということです。

一人の人間が考えられることには限界があります。もちろん例外的な存在はいて、例えばスティーブ・ジョブズのような人は「人と相談しながら新しい商品を開発した」というよりも「自分自身の天才的なひらめきによって、新しい商品を開発した」と言えるかと思います。しかし、ほとんどの会社組織にとっては、一人の天才のひらめきに賭けるよりも、チームにおける創発に賭けた方が合理的です。創発は、状況を整えていけば起こすことが出来ていきますが、天才を採用するというのはかなり運任せのところがあります。

創発は、簡単に言ってしまえば、違う意見がぶつかりあうことで生まれます。だから、Aさんと、違う意見を持ったBさんが、同じ社内にいるということは、創発が生まれる条件の一つが整っているということです。ちなみに、社内の考え方や価値観が良くも悪くも似通っていて、同調性が高い組織となっていると創発は生まれにくくなります。同調性が高い方が、現状の仕事はスムースにまわりやすいのですが、創発、新しいアイデアが生まれてくるということは難しくなってきます。

組織力を高めて、創発が生まれる組織にしていきたいと考えるのであれば、社内の多様性を保ったり、高めたりすることを意識する必要があります。「意見のぶつかる人が社内にいる」という状態を維持したり、むしろ増やしたりするのです。

単純化して言うと、

  • 「赤色のデザインがいいと思う!」
  • 「いや、青色のデザインがよい!」

このように意見がぶつかり

  • 「もしかしたら、紫色がよいかもしれない?」
  • 「いや、金色がよいだろう!試してみよう!」

というような意見が生まれてくることが、創発です。

これは最初に「赤色のデザインがいい」と出たときに「うん、そうだね赤がいい」「赤がうちの会社っぽいよね」と、同調意見ばかり出るようだと生まれてこないものです。

この創発が生まれやすい組織にしていくためには

  • 意見は違ってよい
  • 議論していく中で意見は変わってよい
  • 意見が違うからと言って、人間関係に持ち込む必要はない
  • 生まれてきたアイデアは「誰かのアイデア」ではなく「チームのアイデア」であることがあり得る

という認識を共有していることが重要です。 このような共通認識を、管理職が自部署において醸成していたり、経営陣が会社全体で共有していることができれば、創発の生まれやすい組織力の高い組織としていくことができるでしょう。

今回の回答は以上となります。少しでもこの記事がお役に立てば幸いです。

[Vol.74 2021/04/06配信号、Vol.75 2021/04/13配信号、執筆:石川英明]