Vol.76 組織が活性化するために大切なことや具体的な取り組みを教えてください

今回のご相談内容

「言われたとおりにやる」というスタンスや会社の歯車のように動く社員の集まる組織ではなく、社員1人1人が主体的に考えて動ける会社にしていきたいと思っています。

会社を活性化させていくためにはやはり根本的なマネジメントから変えていく必要があるのでしょうか。

石川からのご回答

会社組織を活性化するためには、社員一人一人が活性化されていることが必要です。

社員一人一人が活性化されているためには、社員一人一人が内発的動機から動いている状態であることが重要になります。 重要な問題は、内発的動機から動いているときに、それを「会社の方向性」とどれだけすり合わせを行えているかということになります。
  

これまでのマネジメントの問題点

これまでのマネジメントは「会社の方向性」が一部メンバーによって決められ、その方向性に対して貢献度の高い人材を高く評価し、貢献度の低い人材を低く評価することで、組織としての動きを管理してきました。社員が、自社に対して内発的にエンゲージしているかは問わず「求められる成果」を出しているかどうかを評価観点として、人材管理を行ってきたわけです。

これはとても合理的で、ある意味とても平等なマネジメントの仕方です。

しかし、この場合「アメとムチによる管理」が中心となり、ダニエル・ピンクの言うモチベーション2.0=外発的動機付けが行われるということになります。

外発的動機付けが悪いということではありませんが、ゲイリー・ハメルの言う情熱や創造性を社員から引き出そうと思うと限界があります。 一部社員は、個人の意思や力によって会社とエンゲージするかもしれませんが、多くの社員はアメとムチの管理に絡めとられ、モチベーション2.0の状態に留まり、情熱、創造性、主体性といったことを発揮しないことになるでしょう。
   

真逆の発想から形作られる組織もあります。

まず、個々人の内発的動機からスタートします。一人一人が「何を実現したいか?」「何をしたいか?」といったことを自分自身に問いかけることからスタートします。個人のWillからスタートするのです。

そのWillの重なったところにチームや組織が生まれます。場合によっては、そこから会社そのものが発生するでしょうし、既に会社がある場合にも、そこから新規事業や、プロジェクトが発生するでしょう。

このような組織では「上が、アメとムチを駆使して、下を管理する」必要がありません。そもそもが個人の内発的動機から始まっているので、言われなくても頑張ってしまうからです。最初から活性化しています。 しかし、逆に言うと「上がコントロールする」ということがほとんどできません。良い、悪いということではなく、これは組織の特徴の違いであり、思想の違いとも言えます。
    

マネジメントは管理すべきか主体性を活かすべきか

社員に仕事を「やらせる」と、社員は「やらされ感」の中で仕事をすることになります。やらされ感で仕事をしているので、求められている枠を超えて能動的にチャレンジをするといった行動をすることはほとんどありません。

そういった状態の社員は、役割範囲をよく確認してきます。「どこまでが自分の仕事なのか?」と。その範囲の枠を超えようと考えているのではなく、その枠の中で効率的に仕事をこなそうと考えているわけです。そして、枠の外のことは自分の責任の範囲外ですから「それは私の仕事ではありません」と対応することになります。
   

一方で、内発的動機から仕事をしている社員は、指示をされなくても自ら考えて動いていきますし、枠など気にせずに必要な挑戦はしていきます。“活性化している”と呼んでよいでしょうが、ただ問題なのは、内発的動機については方向性をコントロールできないということです。

本人がやりたいという意志を持っているものが、会社の方向性と揃っていないということも起こりえます。その時に「会社の方向性に沿って動け」と命令をしたとしたら、その時にはもはや内発的動機によって働くは期待できなくなるという難しさがあります。

   

出典:写真AC


   

社員の方向性と経営陣の方向性をすり合わせる

「組織全体として活性化している」という状態であるためには、社員が内発的に向かう方向と会社として向かう方向がある程度揃っているという必要があります。細かいところまで完全一致している必要はありませんが、大きなベクトルとしてはズレていない、ということは必要です。組織活性化の取り組みの肝の一つはここになります。

もう少し細かく見ていくと

  • 社員一人一人の内発的動機から方向性が打ち出されている
  • 会社(経営陣)としての方向性が打ち出されている
  • 両者の方向性のすり合わせが行われている

ということが必要になってきます。

この取り組みを行っていくことにはリスクもあります。

  • 「会社の方向性がハッキリしたことで、転職を決意した」
  • 「自分の内発的動機が明確になったことで、転職を決意した」

といったことが起こりえる、というリスクがあります。

但し、一時的に社員の離職のリスクはありますが、残った社員たちの活性度は高く、会社を活性化することにはつながっていくということと、会社の方向性をハッキリとさせたうえで、今後入社してくる人材たちは、しっかりと会社の方向性に対して内発的に貢献しようとしてくれる人材になってくるというメリットがあります。
   

会社と、社員個人の方向性をすり合わせる取り組みには何種類か存在します。

最も代表的なものは、管理職による面談です。1on1という言葉で最近は呼ばれることが多いかと思います。社員自身は、どのような方向に努力したいと思っているのか。会社はその社員に対してどのような方向性で努力してほしいと思っているのか。それについてのすり合わせを行う場の一つが1on1です。ドラッカーがMBO(目標による管理)と呼んでいるものも、まさにこれです。

他には、経営陣によるビジョン共有会などもあります。こういった会のサポートを多数してきましたが、丁寧に行うことで、会社と社員の方向性のすり合わせを効果的に行うことができます。

一つのやり方としては、まず経営陣が会社の方向性を示します。「こういう状態(ビジョン)を目指してやっていく」「こういうアプローチで実現していく」といったことを伝えます。そのうえで、社員一人一人に「その大きな方向性に対して、自分はどんな貢献をしていきたいか?」「示されたビジョンが実現した時に、自分にとってどんな成長や価値が得られるか?」といったことを、一人一人が考えていきます。 このような機会を持つことで、内発的動機のレベルでのエンゲージメント、方向性のすり合わせをしていくことができます。

   

   

外発的動機づけによって会社を活性化させることはできないのか?

外発的動機づけによって、会社を活性化させていくことも考えられます。但し、外発的動機付けには限界があります。

例えば、社員の能動性を高めたいと考えます。能動性という定性的なものを評価することは難しいため、評価項目に「改善提案数」などを入れ込むことで、マネジメントしようとします。

そうすると確かに、社内の「改善提案数」は増えることでしょう。それだけを見れば、会社が活性化しているように見えなくもありません。しかし、社員がやらされ感の中にいることは変わっていないままで出された改善提案は、真剣に考えられたものでもなく、提案した内容を実行していこうという意志があるものでもない、ということになることがよくあります。

そして社員同士では「評価項目に入ってるから、改善提案を一応出してるけど、あれ形骸化してて全然意味ないよね」といった会話がなされていたりするわけです。 しかし、それでも「まずは外発的動機付けから始める」ということもあり得ます。改善提案をしていく経験値自体は増え、改善提案に必要な知識やスキルも高められる効果もあります。
    

社員1人1人のWillを育む

個人のWillを育む機会が少ない日本の学校教育

日本の通常の学校教育では「個人のWillを育む」という機会はそれほど多くありません。既に準備されたカリキュラムに沿って、それを「覚える」という受け身的な学習が、学校教育の基本となっています。「何を学びたいか?」「あなたは何のために学ぶのか?」といったことを問いかけられる場面は、ごく限られています。

つまり、個人が、自分自身の内発的動機を育む機会というのはとても限られているということです。

個人のWillを育むということを、企業がしなければならないのかというと、「しなければならないこと」ではないでしょう。それはあくまで個人が、自分自身の人生に責任をもって育むべきものであると思います。
   

しかし、企業が、個人のWillを育むサポートをすることにメリットがないのか、というとそんなこともありません。個人のWillを育み、内発的動機によって動く社員が増えることで、組織は活性化していきます。

もちろんリスクもあります。社員のWillを育んでいくと「自分が本当にやりたいこと」「自分が本当に尽くしたい事業」というのが明確になってきたりします。その時に「そのやりたいことは、うちの会社の中ではできない」と思った社員は、離職していくことになります。その離職のリスクを背負って行うことが「社員のWillを育むサポート」です。

しかし、そのリスクを上回るメリットも得られるのがこの取り組みです。離職する社員も出てくるかもしれませんが、逆に言うと残った社員は「自分の意志で、自社で活躍することを選んだ人たち」です。自分自身がやりたいことが「この会社ならできる」「この会社でこそできる」と思っている人材たちが、会社を活性化しないはずがありません。

    

まず最初にできる個人のWillを育む方法

個人のWillを育むサポートを企業が行う際に、まず最初にできることは採用プロセスの中にあります。

採用プロセスにおいて「どんなことをしたいのか?」「どんな事業に取り組みたいのか?」というWillに関する問いかけをし、その返答内容が自社のビジョンやミッションに重なっている人材を優先して採用するということです。「この会社に入るには、Willが問われているのだ」と実感され、実際にWillを重視して行う採用プロセスにはとても価値があります。候補者たちも自分自身のWillを確認することになりますし、入社した人材は、自分がしたいことと会社が行っていることの重なりが大きく、内発的動機によって動ける人材であるからです。

  

採用後にも、社員のWillを育んでいくサポートをすることはできます。最も典型的なサポートは、社員に対して外部のコーチの活用などを提供することです。自分自身がどんなことを実現していきたいと思っているのか、どんなキャリアを築いていきたいと思っているのか、そういったことを考える時間を取り、日々の仕事に対して内発的動機から意味を感じて取り組んでいけるようにサポートするということです。

一人一人にコーチをつける、まではいかなくとも、年に1回、個人としてのキャリアを考える機会を設けるなど(キャリアデザイン研修を社内で実施するなど)の打ち手を打つこともできます。 こうした取り組みをしていくことで、内発的動機から動いていく、主体性の高い積極的な人材が溢れる組織にしていくことができます。
   

出典:写真AC

ホールシステムアプローチ

組織を活性化していく上で重要な考え方の一つに、ホールシステムアプローチというものがあります。ホールシステム、つまり全体性を大切にするアプローチであるというものです。これは簡単に言ってしまえば「一部の人間で作った事業計画に、多くの人間従う」といったアプローチではなく「みんなで事業計画を作って実行していく」といったアプローチだというものです。

一部の限られた人間で事業計画などを作るのは、素早く作成できるなどメリットもあります。しかしどうしても「作って与える側/作られたものを与えられる側」、さらに言うと「やらせる側/やらされる側」という構造を持つことになります。

これに対してホールシステムアプローチでは、多くの人間がかかわって事業計画などを作成するために手間暇がかかるところがありますが、「やらせる側/やらされる側」という構造を持たず「自分たちが作ったものを、自分たちで実行していく」という構造を持つことになります。これは深いコミットメントで動いていける大きな利点があります。
   

ちなみにホールシステムアプローチでは、必ずしも全員で(事業計画などを)作る必要はありません。各部署・各年次からそれぞれメンバーが選出されたプロジェクトチームで、(事業計画などを)作っていくという方法もあります。

「自分たち以外の誰かが勝手に作ったモノ」という認知にならずに、「自分たちも一緒に作ったモノ」という認知になることが大切です。

Co-ducationでは、ホールシステムアプローチによるビジョン策定を「ビジョンツリー」というツールを活用して行っています。ホールシステムアプローチによる事業計画策定は「幅あり事業計画書」という方法論を使って行っています。 こうしたアプローチを採用することで、誰かが作ったものに従わされている、やらされているという消極思考ではない状態で、組織を運営していくことができるのです。

今回の回答は以上となります。少しでもこの記事がお役に立てば幸いです。

[Vol.76 2021/04/20配信号、Vol.77 2021/04/27配信号、Vol.78 2021/05/11配信号、執筆:石川英明]

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