Vol.87 柔道日本代表から学ぶ 昭和的な価値観からの脱却――時代の変化にあわせた変容の必要性

今回のテーマ

2021夏、オリンピックの開催にあたっては、様々な意見がありますが、私自身はスポーツが大好きで、アスリートから学ぶことは本当に多いなと思っています。

日本の柔道が絶好調でした。男女ともに金メダルラッシュ。2012年のロンドン五輪では、金メダルなしで「日本の柔道もついに終わったか?」と思ってしまうような状況でしたが、そこから大きく変わってきました。

その変化への功績として、井上康生監督の存在は大きいものがあるように思います。比喩的に言うと、昭和的猛烈上司から令和的コーチに変化した。そのことが大きかったように思います。

今回は、柔道日本代表から学ぶ【昭和体質な熱血根性論組織】から、【令和的な”人”を大事にした組織】へというテーマで、これからの時代に求められる組織のあり方に迫ります。

   

参考記事:“ロンドンでの惨敗”から9年、柔道男子はなぜ復権できたのか…高藤直寿が優勝直後に井上康生監督に“謝罪”した理由とは [2021/07/28/Number Web/松原孝臣]

https://number.bunshun.jp/articles/-/849102

石川からのご回答

井上康生監督になって日本の柔道界は何が変化したのか

井上監督になってから起こった変化として

・金メダルを取れなかった選手も監督が賞賛する
・代表に選ばれなかった選手へも心を寄せる
・科学的根拠を用いて練習を行う
・量より質の練習や試合参加を行う

といったことが挙げられます。
   

この以前は

・金メダルを取れなかったら「練習が足りなかった」と選手を責める
・代表に選ばなかった選手には見向きもしない
・練習でも「気合を入れろ」「気合が足りないからだ」
・多少の怪我を押してでも気合で試合に出ることを奨励する

といったことがあったわけです。
   

スポーツの世界は、個人のパフォーマンスが如実に結果として現れるため、指導法が悪いと、それがそのまま結果として出てきやすいところがあります。

後者のような、昭和的猛烈上司による指導では上手くいかなかった。それが結果として出たのが、2012年のロンドン五輪、金メダルなしだったのだろうと思います。

しかし企業においては、「昭和的猛烈上司」が経営陣や管理職として存在していて、上手く成果が出ていないと、部下の方が悪い、部下の「気合が足りないからだ」という世界が、続いてしまっているということは往々にしてあります。

「自分たちはそういう風にして会社を大きくしてきた」
「自分たちはそういう風にして出世してきた」

その成功体験を捨て去ることはなかなかに難しいことだからです。

時折、伝統企業や上場企業における「上司から部下へのパワハラ」「上司から部下への罵倒」といったことがニュースになりますが、これらの多くは「昭和的価値観から卒業できていない」ということが根っこにあると言えると思います。
   

出典:写真AC

部下を「褒める」ことにも難しさがある会社の現実

私がある上場企業の管理職研修を担当させて頂いた際に「時代も変わりましたので、部下をほめるようにしてください。」とお話ししました。

それに対して、半数くらいの受講者の方が苦笑の反応。

そしてある受講者の方が率直に「先生、私は自分が褒められたことないので、部下をどう褒めたらいいか全然分かりません」と伝えてくださいました。

Howが分からないと。まさに、その通りだなと思います。

さらに言えば

「部下をどうして褒めなければいけないのか。自分だって褒めてもらったことなんてない。叱られて悔しい思いをしながら頑張ってきたんだ。褒めるなんて甘やかしじゃないのか。もっと言えば、、、自分だって褒めて欲しかった!今だって、もっと褒めて欲しい!!」

というような、心の中の動きがある方も大勢いると思います。
   

Howが分からないだけでなく、Why、なぜ褒める必要があるのか?というところも分からない、納得できない、ということも多々あるでしょう。

ただ、部下の方は平成的価値観を超えて、令和的価値観にどんどんなってきていますから、そうは言っても対応する必要性もあります。対応が出来なければ、2012年ロンドン五輪の柔道のように「金なし」に終わる、そういうことが起こるわけです。

  • 金メダルを取れなかった選手も監督が賞賛する
  • 代表に選ばれなかった選手へも心を寄せる
  • 科学的根拠を用いて練習を行う
  • 量より質の練習や試合参加を行う

   

これらの井上監督がやったことをビジネスの場面に変換してみると

  • 成績No.1以外の社員も管理職が賞賛する
  • 若手や中堅のまだまだ成績が大したことのない社員にも1on1など時間を割く
  • できるだけ根拠を持って指示、指導する、「仕事だから、いいからやれ」とは言わない
  • ワークライフバランスに配慮して、健康的に仕事に取り組めるように環境を整える

といったことが重要になると言えるでしょう。

    

変化することは簡単ではないが…

昭和的猛烈上司が、令和的コーチに変容しようとなると、そこには大きな心理的葛藤が起こるのが普通です。

そのようなときに活用できるツールが、成人発達理論のキーガン教授の「免疫マップ」や、NVCの「ニーズ」という考え方です。臨床心理学における「ABC理論」なども基礎的なものと言えます。ご自身が「経営者(管理職)として変化する必要がある」と思われる方は、これらのツールに当たっていただくとよいかと思います。

また、手前味噌で恐縮ですが、経営者の方がじっくり自分や自社の状況と向き合い、なかなか社内では話せないような領域も含めて方針を深められる、弊社のエグゼクティブコーチングサービスなどを活用いただくこともおすすめです。

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ひとつ気を付けていただきたいことは、もし「うちの上司にも、そういうツールを使って変わって欲しい」というように思われる方がいたとしたら、それはちょっと待ってください。

人は「変えられる」のが好きではありません。北風と太陽の話のように、変えようとすればするほど「変わるもんか」となったりするものです。

良かれと思ってしたことが、逆効果になってしまうのは辛いものです。
   

もし「うちの昭和的猛烈上司に、変わって欲しい」と感じていたとしたら、昭和的猛烈な時代の話を聞くことです。「話す」というのは、その価値観を”離す”、卒業するということにもつながっていくものなのです。

上司がひとしきり話した後、「・・・でもまぁ、時代は変わっているもんな。」と一言ぽつりとつぶやく。そんな風になったら最高です。

「相手の変化を促す」と言うことに関しては、とても専門的になり、長くなってしまうので、一旦これくらいにしておきたいと思います。
   

今回は、時代の変化に合わせた変容の必要性について書いてみました。 

少しでもこの記事がお役に立てば幸いです。

[Vo87. 2021/08/03配信号、執筆:石川英明]