Vol.99 ビジネスにおける【再現性】と【創造性】を学ぶ

今回のご相談内容

イノベーションやクリエイティビティなどさまざまな言い方はありますが、要はVUCAの時代においては、同じことをただ効率的にやっているだけでは、会社は衰退していくのを実感しています。

しかし、そうわかっていても、既にある程度やってきていて、見えている範囲の中で、確実に成果が出そうなところをやってしまうことをなかなか手放せず、マンネリ化、既存のビジネスから大きく抜け出せないのも事実です。

石川からのご回答

ビジネスにおける【創造性】と【再現性】とは?

イノベーションが必要、クリエイティビティの時代だというようなことがもう長いこと言われているように思います。今回のご質問内容に対しては、【創造性】と【再現性】というキーワードを使って解説したいと思います。

【創造性】【再現性】というのは、対立するところがあります。

言葉の近似性で行くと

【創造性】不確実性、リスクを取る、新鮮、奇をてらった
【再現性】確実性、リスクを回避、馴染んだ、着実な

そんな風に分類できるかと思います。

ちなみに「科学的」や「論理的」はどちらに分類されるでしょうか?

これは【再現性】の方に分類されることになるでしょう。ということは、論理性や、科学的思考というのと、【創造性】というのはちょっと違うところにあるということになります。
   

「前例主義」や「官僚的」といった言葉はどちらに分類されるでしょうか?

これも、二つに分類するとしたら【再現性】の方に分類されることになるだろうと思います。
   

「科学的」「論理的」思考を重視した経営によって…

この数百年の科学の発達はすさまじいものがあります。

1800年頃に蒸気機関車が生まれたということですが、その頃はまだ「発電所で電気を作って、全国に配る」ということもありませんでした。電気、電話、通信、自動車、電車、あらゆる家電・・・そういうものは基本的に科学技術の産物です。

だから「科学が社会を豊かにする」という信念を強く共有してきたことはなんら不思議ではありません。そして「科学的であるか?」ということが非常に重要になったことも全く不思議ではありません。

日本の場合は、戦争の経験もあり、「神の国と信じていたのに・・・」といった反動から、宗教的なもの、科学的に論じえないものに対する嫌悪感が強かった時代もあったかなと思います。

ちなみに「宗教」や「宗教的」は、【創造性】と【再現性】のどちらかだと、どちらに分類されるでしょうか?これは意見が異なるでしょうが、興味深くはあります。
   

「科学的である」ということはまさに【再現性】があるということです。

同じ条件下で同じ実験を行ったら同じ結果が得られるということが「科学的に証明されている」ということになります。

「科学的に経営する」という言葉もあります。それは科学的な思考、論理的な思考を重視して経営をするというニュアンスだろうと思いますが、それはどうしても「再現性が高いかどうか」という発想につながるものだろうと思います。

しかし「過去のデータから、これをこうすれば、こうなると確実に分かっている」というものを実行していくとと、【創造性】というものは真逆の方向にあるといっていいでしょう。

上司が部下に「確実に成果を出せるんだよな?」と確認したとしたら「創造性よりも、再現性を私は重視していますよ」とメッセージを伝えていることにどうしてもなるでしょう。
   

【再現性】だけでなく【創造性】も高めたいのであれば

【再現性】は、重要です。

例えば新人研修というものを行います。

これは「先輩たちは、こういうところで失敗した。こういう形で成功した」という過去のパタンをあらかじめ学習して、再現性を高めようという試みだと言えます。

こういうものが一切必要ないという極端なことにはなりません。
  

しかし、【再現性】重視の文脈ばかりにいると「確実にできるか?」「論理的に説明できるか?」「根拠となるデータがあるか?」という問いが重要になり、新しいことを生み出すということは非常に難しくなります。

「過去にはないけど、これからの時代はぜったいこれが来るんです!」

そう提示されたものが、見たこともないもの、評価しようもないもの、奇抜なもの・・・だとしたら、それは非常に【創造性】は高いものが出てきたと言えるはずです。

しかし、実際の多くのビジネスの場面では「うーん、きっとこれは売れないよ。やめとこう」となることだろうと思います。ですが、個人や組織の【創造性】を高めていこうと思うのならば「見たこともないものだけど、だからこそやってみよう!」というようなリスクテイクもどうしても必要になるだろうと思います。
   

一方で、リスクテイクできるのは、【再現性】により財務を安定させられているといったこともあります。だから、対立要素というよりも、補完要素、循環要素なのだろうと思います。

【創造性】の高いチームを考えると

「それ面白いかも」
「分からないけど、やってみよう」
「リスクは覚悟してトライしよう」
「なんか見たこともないのが出てきた」

そういう台詞が多いはずです。

そして、ビジネスであれば、実際に「売上・利益に結び付ける」というところまでのプロセスは、創造性・新規性の高いものほど大変なプロセスになるでしょうが、それもまた創造の大事なプロセスの一部だと思います。

  

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo99. 2021/11/09配信号、執筆:石川英明]