Vol.98 職場の温度差問題:「関心のない層」をどう巻き込んだらいいのか

今回のご相談内容

組織変革の施策のひとつとして、職場のメンバー全員を巻き込んで、会社としてこうありたいよねという姿、ビジョンを策定し、浸透させていきたいと思っています。

ただどうしても社員間で温度差があり、ビジョンを創ることに意欲的な社員もいますが、「勝手に決めれば」といった態度の社員もいます。言われた仕事はちゃんとしてくれてはいますが、指示待ち、受け身的な態度で、ビジョンに向かって一緒に取り組もうという姿勢ではありません。

取り組みに対して批判的・否定的ということであれば、まだ何故これをやるのかを話し合えるところもあるのですが、、、

本当にビジョンを浸透させるためには、無関心・放棄しているといった層もちゃんと巻き込みたいと思ったとき、どうしたらいいのでしょうか。解決策を知りたいです。

石川からのご回答

選挙から考える「関心がない層」

ちょうど先日2021年の衆議院議員選挙が終わったタイミングということもありますので、選挙の話を使いながら、この相談について回答していきたいと思います。
  

今回の投票率は戦後3番目に低い55.93%とのことでした。

「投票に行かない」というのは、昔ながらの論理的思考的に考えると、

A.現状維持で問題ないから行かない
B.投票に行っても意味がないから行かない

という2つに分けられるのかなと思いましたが、

この最初の枝分け自体が「国政選挙に関心がある」というバイアスがかかっているなと思いました。

C.「そもそも選挙に興味を持ったことがない」

という人もいそうです。
  

Aの人たちは、「まぁ、今の与党のままでいいでしょ」「特に困ってないし」というような判断をしつつ、「かといって、わざわざ投票に行って与党に投票するまでもしない」というような消極性があるというようなことかなと思います。

Bの人たちは、「今の政治には不満はとてもある」「けど、投票に行ったところで自分の意見が通るわけではないので諦めている、絶望している」というようなことがあるということになると思います。消極性というよりは、諦めとか絶望という方が近い感覚です。

Cの人たちは、「自分の生活でいっぱいいっぱいで、選挙のことなど考える余裕もありません」というようなことになるかなと思います。
  

なぜ、この選挙の話を持ち出したかと言うと、組織変革という営みにおいて、こういう層がいるという考察はとても重要だと思ったからです。
   

出典:写真AC

「関心のない層」「消極的な層」の3タイプ別の攻略法

それでは、ご質問いただいた「ビジョン策定・浸透を本当に社員みんなを巻き込んでやっていきたい」という話に戻りましょう。
   

パーパスと言ったり、経営理念と言ったり、呼び方は色々あれど、利益のような定量的目標とは違う「意味を定義するもの」として、ミッションやビジョンの策定・共有というのがあるかと思います。

そして、ミッションやビジョンを会社で作るというときに

X.ミッション策定・体現に積極的に関わろうとする人
Y.ミッション策定・体現に関心は持っていて最低限の行動はする人

という人たちと共に

A.ミッション策定に文句も言わないし、積極的に関わりもしない人
B.ミッション策定に対して諦めの心を持っている人
C.ミッション策定に関心を持つ余裕がない人

という層があることをよく配慮する必要があります。

本当に「全社でミッションやビジョンが共有されている」という状態を実現しようと思ったら、A・B・Cの層の人たちがどうしたら本気で一緒に考えてくれるかを、こちらも一緒に考えないといけません。

まずB層から考えてみたいと思います。
   

B.ミッション策定に対して諦めの心を持っている人

この人たちは「関わってみたけど無駄だった」という体験を持っている人たちだと言えます。

「校則がおかしい、と訴えてみたが変わらなかった」とか「会社のルールがおかしいと主張したが、逆に煙たがられてしまった」とか、そういう体験が続くと「言っても無駄だ」とか「言わない方がましだ」というような想いが強化されることでしょう。

そういう人たちに「もう一度、自分から関わりに行ってもいいかもしれない」と思ってもらうには「あれ、意外と聞く耳を持たれたな」という体験がどうしても必要だろうと思います。
  

その体験の強度として一つには「意見を採用された」軸があるだろうと思います。

Lv1.主張したが全く聞く耳を持たれなかった
Lv2.主張を聞かれたが理由もなく却下された
Lv3.主張を聞かれたが納得いかない理由によって却下された
Lv4.主張を聞かれて、議論になり、最終的に却下された
Lv5.主張を聞かれて、議論になり、一部意見が採用された
Lv6.主張を聞かれて、議論になり、最終的に自分の意見が採用された

このような軸で表すこともできるかと思います。

ちなみに「主張を聞かれて、議論になり、最終的に相手の意見の方が良いと思い自分の意見を変えた」というケースももちろんあり得ると思います。

ここで、Lv1~Lv3の体験ばかりなのと、Lv4以上なのとでは「自分もちゃんと意見を言ってみよう」と思う度合は全く異なってくることは想像できます。

私は新卒で入った企業が外資系のコンサルティング会社でしたが、Lv1やLv2の対応をしてくる上司はほぼ皆無でした。Lv3はなくはありませんでしたが、ほとんどの場合Lv4以上でした。このことは本当に恵まれていたと感謝しています。

そのような環境下では「どうせ言っても無駄だ」という思考は強化されにくいものです。むしろ「必要があるならばちゃんと言おう」という思考が強化されます。

つまり、主体性が強化されるといっていいでしょう。
  

C.ミッション策定に関心を持つ余裕がない人

C層に関してはどうでしょうか。

この層に関しては「ちゃんと聞きますので、どんどん自分の意見を言ってください」と投げかけたところで「・・・そんなことより、目の前のことで精いっぱいです」ということになります。

「うちの会社のビジョンはどういうものがいいと思う?」
「うちの会社の人事制度はどういうものがいいと思う?」
「うちの会社の事業戦略はどういうものがいいと思う?」

と聞かれたとしても「・・・すみません、ちょっと考えたことがないので・・・」ということになります。
   

そして本音を聞けたのであれば「そんなことよりも・・・」というものを持っているのです。

「そんなことよりも、残業が多いのをどうにかしてもらえませんか」
「そんなことよりも、給料を増やしてもらえませんか」
「そんなことよりも、Aさんが仕事をさぼっているのをどうにかしてもらえませんか」
「そんなことよりも、有給をちゃんととらせてもらえませんか」

などなど、ということです。

国政選挙で言っているような「外交問題」「エネルギー政策」など、そういうことは大事そうなことはなんとなく分かるけれども、そんなことより、今家族で揉めていることがあるんです。

そういうようなことに相似形で、会社が高尚な理念とかビジョンとか言っているのは勿論いいんですが、そんなことよりAさんがサボってるとか、家族の介護で仕事も大変だとか、そのことの方が大事なんですということはあります。
   

そういうときには、もしこのCの層の人を本当に巻き込んでやっていくためにはまず聞くことがとても大切になるのだろうと思います。

「うちの会社のビジョンはどういうものがいいと思う?」と聞くのではなく「今、困っていることはなに?なにか手伝えることはあるだろうか?」と聞くということです。

これを、例えば総理大臣とか、社長とかが、一人一人に聞いて回るのがいいのか、現実的にできるのかなどの問題はあると思いますが、本質的には「みんなでビジョンを共有したい」と思ったならば、どうしても聞くことが必要な場面は出てくるだろうと思います。
  

A.ミッション策定に文句も言わないし、積極的に関わりもしない人

Aの「ミッション策定に文句も言わないし、積極的に関わりもしない人」たちに対しては、それほど労力、エネルギーを割かなくてもよいというのが現実的な判断かなと思います。

少なくとも実際的には「こっちに行くぞ!」という方向性を示したときに、大きなパワーになるわけではありませんが……大きな障害になるわけでもありません。
   

職場のメンバー全員を巻き込みながら取り組むために

最後に。「X.ミッション策定・体現に積極的に関わろうとする人」という人たちは、勿論「意見が違う」ということが起こり得ます。ここに関しては、これだけでいくらでも言いたいことがあるわけですが、本質的には「しっかりと議論を交わし続ける」ということが非常に重要であろうということになります。

丁寧な議論を交わした結果、「それでは別々にやりましょう」と袂を分かつということはありえます。事業部がスピンオフしたり、経営陣がマネジメントバイアウトしたりというのはそういうケースの現れと言えます。

今回のビジョンの話でいえば、「あらためて本当にミッションをみんなで考えて作った結果、その結果に納得のいかない社員が離職した」といったことももちろんあり得ます。

これは会社というレベルだと「転職」という選択肢があるからこそで、国レベルだと「国籍を変える」といったこととなると、転職よりはだいぶハードルが高いところがあるでしょうから、同じレベル感で論じることはできないかもしれませんが。
  

近年、多様性という言葉は正義のように尊ばれているところがありますが、組織において均質性や共通性というものも非常に重要です。

同じ価値観を有している、同じ目標を有している、だからこそ高いチームワークが発揮されるということは勿論あるわけで、目標も価値観もバラバラの組織では、一つの仕事をスムーズに進めることすら難しくなります。

そういう意味では、社会における会社というものは「多様性以上に、均質性が重要である」ということが言えるかもしれません。社会としては「いろんな会社がある」ということで多様性を担保していればいいわけですから。
  

職場のメンバーを巻き込みながら社員1人1人が本当に情熱を持って、楽しく積極的に仕事に取り組める組織にするために。

経営者や管理職の方が、リーダーシップを発揮し、まずは自分からできることをやっていこうという方に是非受けていただきたい講座です↓↓↓↓

  

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo98. 2021/11/02配信号、執筆:石川英明]