Vol.106 ゼークトの4分類「無能な働き者」にどうアプローチすればよいか

今回のご相談内容

マズローの欲求階層説から考える「上の層に引き上げる」ために重要なこととその方法という記事がありましたが、よければゼークトの4分類で「無能な働き者」にどうアプローチすればよいか教えていただけますと幸いです。
  

参考:ゼークトの組織論
https://hataractive.jp/useful/1991/

石川からのご回答

ドイツのゼークトの組織論の「無能な働き者」とは

ドイツのハンス・フォン・ゼークトの組織論で言われている「無能な働き者」は、かなり厄介者の定義ですね。

学術的に明確な定義があるわけではないようですが、一般に流布している定義で行くと

  1. 動き回る、行動量はある
  2. しかし思考力、判断力が乏しく、独断で動くため失敗する
  3. 周りに迷惑をかける
  4. そのうえプライドが高く、反省力に乏しい

・・・これはなかなか大変そうです。
  

これは実は、「4.そのうえプライドが高く、反省力に乏しい」という要素さえなければ、アプローチはそれほどは難しくありません。

やる気があって、行動力はあるわけなので、その挑戦力や行動力は承認したうえで、上手くいかなかった理由について、一緒に分析をすればよいだけと言えばだけです。
   

「勝手に独断で動いてやらかす」という点においては、例えばこれが新入社員であれば「勝手に独断でやらかす」ことができる範囲は限られているはずです。

もし、限られていないとしたら、会社の承認プロセスなどをそもそも見直すべきです。

新人のできる最大限の範囲で「やらかしてしまった」場合でも、どんな大変なことをやらかしてしまったのか、事実をよく見つめるようにサポートすれば、人は基本的に反省します。

ところが「反省する力がない」となると、これは一気に難しくなります。
   

「無能な働き者」と見える人にまず気を付けたいこと

この「反省する力がない」と見える現象については、少し考える必要があります。

近年、だいぶ一般的に認知されるようになってきたADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害ですが、これは軽度もあれば重度もありますが、普通に自社の社員の中にいる可能性があります。

私自身、かつて同僚に対して「もしかしてADHDなのではないか?」と思ったことがあり、実際にその本人が医療機関で診断を受けると、中度のADHDだったことがあります。
  

発達障害にはADHDだけでなく様々な種類がありますが、こうした傾向をもった人材は非常に優秀な局面がある一方「それは普通はできるだろう」ということが、なかなかできないということがあります。

実際に私が接した同僚は、例えば「皮肉」といったことを読み取ることが非常に難しい人でした。例えばクライアントから「こんなミスも許されるなんて、御社は随分とおめでたい会社ですね」というメールが来たときに「自社は、めでたい会社だと褒められた」というような解釈をするということがありました。

言語をストレートに理解します。
   

こうした場合には、専門的な対応策を考える必要があります。

場合によっては、医療機関、社労士、人事などと連携をしながら対応をしていく必要があるでしょう。

なお「発達障害」「ADHD」といったものは、非常にセンシティブなものであるため安易に「あなたはADHDかもしれない」などと話さないようにご注意いただきたいと思います。
   

似たような記事:同じミスを繰り返す社員をどうしたらよいか?

    

「反省する力が弱い」人に対して

次は発達障害などの個性は持っていない人材に関する「反省する力が弱い」ということについて、考えていきたいと思います。

前段でご紹介しましたが「事実をよく見つめるようにサポートする」ということが肝要です。これは二つの要素に分解できます。

  

生じた事実

一つは「生じた事実」です。

  • 顧客が怒った
  • その怒りの対処のために同僚の残業時間が20時間になった
  • 結局失注となったため会社の年間売上が100万円下がった

このような事実をよく確認することが重要です。
  

そもそも、この事実自体をちゃんと認識できていないということが多々あります。逆に言えば、この事実認識をちゃんとすることができれば「それは申し訳ないことをした。。。」という反省の心が湧いてくるものです。
  

因果関係

もう一つは、より難しいのですが「因果関係」です。これは「あなたの行動が原因で、顧客が怒るという結果が生じた」ということです。ここに納得がいかなければ、当然反省することは難しくなります。

また「顧客が怒ってどうせ失注したのなら、残業してまで顧客対応しなくてもよかったではないか。なぜそれまで自分の責任にされるのか」というような「反論」も本人の中にあるかもしれません。

こういったことも納得いくように説明する必要があります。

「確かに顧客は怒ったかもしれないが、私が原因ではなく、先輩が原因だ」というような主張もあるかもしれません。その時には「先輩ではなく、あなたの言動が原因である」ということを理解できるように説明する必要があります。
   

ここまで読んで「・・・そこまでしなければならないのか」と思うかもしれません。

確かにそのお気持ちも痛いほど分かりますが、とは言え、そこまでしなければ、おそらく本当に反省をしてもらうということは大変難しいでしょう。

逆に言えば、ちゃんとそこまでやれば反省をしてもらうことができます。そして、反省をちゃんとしてもらえれば、成長し、より貢献する人材になっていってもらうことができます。
   

もう一つ【無能な働き者】への対応の観点としては「解雇する」ということもありえます。但し、日本の法律上、解雇するということは現実的にかなり難しさもあります。

そうなると「解雇するまではしないが、権限を制約する」ということも選択肢として出てくるでしょう。やらかされると困るので、やらかせないような範囲の業務範囲にとどめるということです。

リスクを低下させるという面では「業務範囲を縮小する」、成長可能性を拡げるという面では「反省を促す」、このバランスを取りながら対応していくということが現実的には大事なのだろうと思います。

   

いかがだったでしょうか。 いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo106. 2022/01/11配信号、執筆:石川英明]