Vol.105 組織変革において「対話」が必要不可欠な理由とは

今回のご相談内容

「言われたからやる」という表面的なものではなく、本当にその人自身が変わる、組織が変わる、という本質的な変革を起こしたいときに重要なことはなんでしょうか。

石川からのご回答

「変化」「変革」の上で外せない要素とは

私は、自分の仕事の中核に対話を置いています。個人や組織の変化を支援しようと思うと、どうしても対話というものは外せないなと感じています。
  

「今までAでしたが、今からBに変わります」

その言葉だけで、変化することができるのであれば「変化を支援する」という仕事など存在しないでしょう。

「今から、A⇒Bに変わります」という話をされても、疑問が浮かぶとか、反論が浮かぶとか、しっくりこないとか、ピンとこないとか、興味がないとか・・・いろいろなことがあるわけです。

それは、個人レベルでも、組織レベルでもそうです。
   

出典:写真AC

変革の中でよく見られる「面従腹背」という状態

これは河合隼雄先生の受け売りですが、例えば「遅刻を繰り返す生徒」がいたとして、その生徒に「明日から遅刻しないように」と注意をすることはそれほど難しくありません。(遅刻を繰り返す生徒、ミスを繰り返す社員、約束を守らない友達、どれもある意味同じ構造です)

もう一歩踏み込んで「遅刻はいけないことなんだ。なぜなら・・・」という理由を添えていくこともできるでしょう。

単なる注意(もしくは命令)から、理由の説明に変化することで「納得できました。それならばもう遅刻しません」ということは起こり得ます。

注意⇒説明

というシフトは、自分の中では「一歩、対話に近づいた」という感じがあります。
   

しかし。

実際には、遅刻の常習者は「そんな当たり前のこと知ってるよ」というような気持ちを抱くことが多いだろうと思います。そして「そんな当たり前の説教して、、、」と心の中で思いながらも「ハイ、分かりました。以後気を付けます」と言葉では返事をします。

これが、面従腹背というものだろうと思います。

この面従腹背という現象は、「変革」「変化」に関わるとき大なり小なり、そこかしこで見られる現象だと思います。
   

行動を伴う本質的な変化を生み出したいのであれば

面従腹背は、本当に納得しているわけではありませんから、当然行動が変化することはほとんど期待できません。「ハイ、分かりました。以後気を付けます」という言葉は「早く、この無駄なお説教を終わらせるためのおまじない」として、そういう状況の人たちが開発した技なわけです。

そして、この時に、どれだけ、注意をしても、説明をしても、面従腹背という状況にはほとんど変化を起こすことはできません。
  

そこで、進退窮まって「聞く」ということがスタートします。

「お前、なんで、そんな遅刻ばっかりするんだ」と初めて、相手の話を聞くことがスタートします。

これが、対話の入り口だと思います。
  

そして、入り口でしかないことも事実です。

ところが「聞いた」としても、最初は「ホントにすいません。反省してます」しか返ってこなかったりします。それは「どうせまたお説教しか返ってこない」「どうせ言ったって分かってくれない」という気持ちがあるからです。

「自分は遅刻が悪いことだと思っていないが、どうせ遅刻は悪いことだという決めつけの上でしか話が進まない」と、明確に思っているケースもあったりするでしょう。

だから、対話というのはとても奥深いのです。

そして、いざ対話となったら「正しい位置にいて、教えてあげる側」と「間違った位置にいて教えてもらう側」という構造は崩れていくことになります。この構造を壊していくには、勇気がいります。

だから、対話というのは、シンプルだけど、奥深いことでもあると思います。
  

遅刻をするということもありだということを受け入れたとしたら、自分も責任を持って学校のルール改正に取り組む必要があるかもしれません。遅刻者に注意をしてきた自分自身を反省しないといけなくなるかもしれません。

それはなかなかに大変なことです。

でも「そういうことも話をしていったら起こるのかもしれない」という覚悟を持って「なんで、そんなに遅刻するんだ」と聞いたら、「この人はもしかしたら話を聞いてくれるかもしれない」そう思って、対話が深まっていきます。  

  

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo105. 2022/01/04配信号、執筆:石川英明]