Vol.104 マズローの欲求階層説から考える「上の層に引き上げる」ために重要なこととその方法

今回のご相談内容

マズローの欲求階層説について、下の層の人を上の層へ引き上げるためには何が重要なのでしょうか。

社員のレベルを引き上げるために外的に何か働きかけることはできるのでしょうか。

石川からのご回答

マズローの欲求階層説について

マズローの欲求階層説。

古すぎて、時代遅れみたいに言われることもあるかもしれないんですけど、私はマズローには多分に影響を受けています。邦訳がある「完全なる人間」は何度も読み、「人間性の心理学」も読みました。
   

マズローは欲求階層説が有名だと思います。欲求には階層があるという考え方です。

生理的欲求があり、階層を上がっていくと、自己実現欲求があるというような考え方で「自己実現」という言葉の元祖は、多分マズローなんだと思います。(ユングも、自己実現のプロセス、ということを言っていますが)

複雑怪奇な心の動きや構造を、モデル化するというのは根本的に無理がある面がありつつ、でもモデル化することで考える糸口が得られるというのはあると思っています。ケンウィルバーにしても成人発達理論にしても、そういうモデル化の営みだよなと解釈していたりします。


欲求階層説の5段階の階層設定が、人間の心を説明するのにどれほど正確か、適切かということは
私はそれほど重要視していないのですが、マズローの言っている【満たされると現れる】というのは、真理を表しているのではないかと思っています。
        

欲求階層の下の層は「低次」なのか

欲求階層説的に言うと「低次の欲求が満たされると、高次の欲求が現れる」という表現になるんですけども、ここで一つ、私が思っているのは【低次の欲求】という表現は、とても誤解を招くと思っていて、自分がマズローの紹介をするときは【根源的な欲求】という言葉で言うようにしていたりします。

【満たされると現れる】はすごく大事なんですけど、その前に低次?根源的?について書きたいと思います。
   

欲求階層説の底にあるのは生理的欲求です。寝たい、食べたい、排泄したい、そういうような欲求です。それに低次というラベリングをするのが適切かどうか。

むしろ、寝る、食べる、といったことは人間の【根源的】な欲求といった方が適切なんじゃないかと、個人的には思っています。

寝る場所もない、食べ物もない、そんな状態だとしたら、寝る場所を確保する、食べ物を確保する、それ以外のことなんか考えられないよ、というのは、そりゃそうだろうと思うわけです。

それが低次と言われてしまうと「レベルの低い欲求だ」みたいな、少し侮蔑的なニュアンスが入ってくることに、自分としてはすごく違和感があるわけです。

ちなみに英語でいくと

Physiological needs
Safety needs
Love and belonging
Esteem
Self actualization

という表現されるのが多数のようです。

人間にとって、まず身体的な生存や安心の確保というのは、とても根源的で、それが満たされている状態であることはとても大切だろうと思います。

マズローが、ドラッカーとやり取りした書簡に「君の言うことはもっともだが、世界中の人間を見渡した時に理想論に偏り過ぎている」というような言葉があったというのがあるそうです。

これも、マズローが人間というものをどう見ていたかの一端が垣間見えるようです。

貧すれば鈍すじゃないですが、根源的なものが脅かされていたら、それ以上のことはなかなか考えられないというのは、私はすごく腑に落ちるのです。
  

根源的な欲求が満たされると「自然と」現れる

そして【満たされると現れる】ということも。

まず今日の寝床を確保したい。寝床が確保されたら、明日もちゃんと寝床がある生活を望む。

ずっと寝床や食べ物はあるんだと思えたら、満たされたら、仲間や、友人や、愛する人や、居場所が欲しい。

ちゃんと家族や仲間がいて、それは大丈夫と思えていて、そうなってきたら自分らしさを発揮していきたい欲が湧いてくる。

自分の個性も思う存分発揮できている実感があったら、真善美を追求していきたいという自己実現欲求が出てくる。

それは、私にとってはとても腑に落ちる考え方です。

そして、社会も、組織も、「ちゃんと根源的な欲求から丁寧に満たしていく」ということを考えることは、とても大事なんじゃないかと思っています。

それほど単純でもなく、直線的でもないとも思いますが【満たされると現れる】がもし真理なら、満たされるということの実現に注力していくことはある意味とても合理的だとも思うのです。

こちらの記事も!
マズローの欲求階層説(自己実現理論)から考える社員が主体的に働く組織とは

   

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo104. 2021/12/21配信号、執筆:石川英明]