Vol.113 内発性を重視したマネジメントとは?

今回のご相談内容

内発性を重視したマネジメントとは、実際に「目標設定」「採用」「人材育成」など、どのような変化があるものなのでしょうか。また、日本企業がなかなか内発的動機づけを重視したマネジメントに変われないのはどういう背景があるのでしょうか。

石川からのご回答

 

「外発的動機付け」をやり続ける大変さ

前回記事では以下の努力を続けることで、他律人材(外発的動機で動く人材)にもパフォーマンスを出してもらえるということを書きました。

  1. 上司自身が仕事に対して前向きであること、楽しんでいること、その背中を他律人材に見せること
  2. 他律人材の現時点の能力をよく見て「多少ストレッチすればクリアできる」という仕事を与えること
  3. 他律人材は自律的には頑張れないので、仕事のプロセスのあいだ頻繁に「進捗確認する」「激励する」「アドバイスする」をしてサポートする
  4. 成果が出たことを実感できるように最大限支援する。お客様の喜びの声を届ける、上司自身が仕事ぶりを褒める、など。

  

しかし、上記の4つの要素をやり続けるというのは、ハッキリ言って大変な手間です。上司からしたら「手間のかからない自律人材になってくれよ」と思うところです。

外発的動機付け(アメとムチ)は、何が困るかと言うと【やり続ける必要がある】ということです。

他律人材は、外発的な動機付けがなくなったら(上司からの褒める、叱るや、会社からの褒賞などがなくなったら)途端に、仕事のパフォーマンスが低下します。アメとムチで管理し続けなければならないのです。

  

なお、多くの会社が「外発的動機付け」を土台として組織マネジメントの仕組みを構築しています。

社員に、目標やノルマを課し、目標達成の進捗を確認し、成果が出れば褒め、成果が出なければ叱るというのは、まさにモチベーション2.0、外発的動機付けです。これはマネジメントの基本のようにされていますが、実はものすごく労力のいる大変なやり方です。

なぜこの外発的動機付けが、組織マネジメントの基本とされてきてしまったのでしょうか?

どう考えても、社員が自ら目標を掲げ、目標達成のために能動的に思考錯誤し続け、成果が出れば喜び、成果が出なければ悔しがり学んで再挑戦するというような、内発的動機、モチベーション3.0の人材だらけの方がラクです。どう考えてもラクなんですけれども、内発的動機を基本とした会社というのはまだそれほど多くありません。

それは根本的には仕事観や労働観や会社観といったものがどういうものかということが土台にあります。

  

出典:ぱくたそ

  

日本企業の多くが「外発的動機付け」を土台としている

多くの企業は、株主兼経営者である創業社長が創業し、ビジネスが拡大すると「人を雇用する」ということが生じてきます。この時に「人手が足りない」から「人手を補う」という感覚で、雇用し、雇用されます。会社の方としてはやって欲しい仕事が決まっており「この仕事を発注するには、年収250万円までなら妥当だろう」と考えて、人を採用します。

(この発想であれば、実は正社員ではなく業務委託や派遣社員といった雇用形態の方がよいかもしれませんが、この発想のまま正社員雇用をすることが実際には多いでしょう)

求人に応募するほうも「家から通える職場で、経験不問の高年収の求人がある。応募してみよう」というように応募する、ということは多々あるだろうと思います。

これは、採用/就転職の実際において、とてもよくある風景かもしれません。

  

しかし、よく考えてみると、これはまさに「外発的動機付けによって仕事をする」という仕事観が根底にあります。採用する側も、入社する側も、双方にそれがあるわけです。

「こういうことに貢献していきたい」「こういう目標を達成していきたい」という仕事への内発的動機ではなく、「条件がよさそうだから」という外発的動機付けで動いているわけです。採用する側も「他社よりも条件がいいですよ。あなたを外発的に動機づけできるように厚遇しますよ」という採用をしているわけです。

スタートラインからこうなっており、入社後も「ノルマ(目標)を与え、ノルマ(目標)の達成度によってアメとムチを与える」ということによって人の管理をする、ということになっていきます。

このような構造でマネジメントをしていて、「社員が自ら目標を掲げ、目標達成のために能動的に思考錯誤し続け、成果が出れば喜び、成果が出なければ悔しがるというような、内発的動機、モチベーション3.0の人材だらけの会社にする」というのは無理があります。

ではどうしたらよいのでしょうか?

  

内発性を育むことへのジレンマを乗り越えるには?

私はこれまで「キャリア研修」といったものを多数行ってきました。大企業でもベンチャー企業でも実施してきましたが、その際に「どの範囲のキャリアを考える研修にしますか?」ということを、責任者の方にお聞きしてきました。

それは「本音で内発的にキャリアについて考えたら、”転職したい”ということが出てくることはありえますが、どうしますか?」ということです。

これに対して、過半の反応は「いえいえ、それは困ります。あくまで当社の研修ですから。社内でのキャリアステップなどについて考えてみてもらう研修にしていただかないと」というものです。

一方で、「そうですよね。本当に本音で考えたら、そういうことを考える人材も出てきますよね。でも、そういう人材は、ちゃんと退職したほうが、本人のためでもあるし、会社のためでもあると思います。そのレベルで考えてもらうキャリア研修をぜひお願いします」という場合もあります。

内発性を育むということをしたときに、このジレンマは常についてまわります。
   

もし内発性を重視したマネジメントを行うとしたら、色々なものが現在の形と違うものになるでしょう。

【目標設定】

経営陣が掲げた売上目標が、各部署に予算としてブレイクダウンされる。

個々人が内発的に設定した売上目標の合算が、会社としての売上目標となる

【採用】

どんなスキル・経験を持っているのか。能力を査定する。

どんな人生のビジョンや志を持っているのか。どんな社会・顧客への貢献をしていきたいのかを聞く。

【教育】

人事部から見て「現場に足りないもの」の研修を用意して、社員に勉強させる。

一人一人が、自分に必要な知識、学びたいことを、セミナー、書籍、動画などから学んでいく。

  

このような内発性を重視したマネジメントを行っている会社の実例はこの10年で大変増えてきたと思いますが、まだまだ少数派ではあると思います。

内発性を重視した時に、最も違いが象徴的に現れるのは【目標設定】になるだろうと思います。

例えば「市場平均の成長率が3%であり、それを上回る成長率を達成することが求められている」というような目標設定のあり方は、まさに外発的です。

  • 「私たちは、今期、どれくらい売上・利益、ひいては給与を増やしたいだろうか?」
  • 「今期は、売上成長よりも、投資にかけた方がよいタイミングではないか?」
  • 「売上・利益といった財務指標だけでなく、残業時間、エンゲージメントなど、非財務指標を高めていきたいのではないか?」

そういったことを「自分たちで考えて、自分たちで決める」ということです。

これは、抽象度を上げて考えれば、相対の世界、比較の世界をやめて、絶対の世界を生きる、ということでもあります。

自分たちのことを、自分たちで考えて、自分たちで決める。
内発性を大切にする。

このシンプルな原則を大切にしたときに、納得感、責任感、自発性、協力、試行錯誤、創意工夫といったものは驚くほど高まります。

急拡大、効率化、経営陣の思い通りに動かすといったことは難しくなることもあります。(内発性から急拡大や効率化が進むこともありますが)どちらかというと、適切なスピード、必要な効率化、コミュニケーションの積み重ね、といったものが生じてくることになります。

根本的に、どんなマネジメント哲学でマネジメントしていくのか。内発性を本気で高めたいと思ったら、まずそれ自体をしっかりと考える、ということだろうと思います。

  

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

  

参考

▼「モチベーション3.0」についての詳細はこちらでも解説

 
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

 

[Vo113. 2023/03/07配信号、執筆:石川英明]