Vol.112 効果的な外発的動機づけの方法とは?

今回のご相談内容

正直、自社の社員が、いきなり内発的動機付けで動けるようには思えません。外発的動機付けで管理して動かす、頑張ってもらう方は、イメージがわくのですが……。外発的動機付けで何とか社員の主体性やモチベーションを高めることはできないのでしょうか。

石川からのご回答

 

内発的動機は重要だが難しいし、実践しようとすると問題も起こる

ご質問いただいたように、これまで数多くの組織のご支援をしてきて実感しているのは、社員の方に内発的動機による目標設定をしてもらおうとすると、それは結構難しいということです。

多くの人が、「目標を与えられて頑張る」ということにとても慣れてしまっているんですね。

これくらいの偏差値の高校に入れるように頑張ろうと、先生が設定する。
これくらいの大学に入れるように頑張ろうと、親が設定する。
これくらいのノルマをこなせるように頑張ろうと、上司が設定する。

   

そういうことに慣れてしまっているので、「自分で、自分の目標を設定する」ということに不慣れな人はたくさんいます。しかし、不慣れなだけで、慣れてくれば自分で目標を設定できるようになってはきます。
  

ちなみに、不慣れな状態で内発的に目標設定をしてもらおうとすると

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責任を取るのが怖くて目標を宣言できない
本音を開示するのが恥ずかしくて目標を宣言できない
そもそも自分がなにを実現したいのか感じ取れない
リテラシー不足で場違いな目標が出てくる
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というようなことが起こります。

  

逆に言うと、これらの障壁を一つずつ取り除いていけば、100%とは言いませんが、9割がたの方は段々と「自分なりに内発的に(かつ適切に)目標を設定する」ということができるようになってきます。

もともと、外発的動機付け(アメとムチ、モチベーション2.0)で動いていたところから、内発的動機(自発、自律、モチベーション3.0)へ移行していくので、その過渡期というのはあります。

「目標設定」はいきなりできるようにはならないということを前提に、進めていくことが重要です。

    

「外発的動機付け」を活用する

私は「外発的動機付け」によって「内発的動機を育む」ということはあるなと思っています。

そもそも仕事に前向きでない、積極的でない、嫌々仕事をしている、というような人材がいたときに、いきなり内発的に目標設定せよと働きかけても何も出てこないでしょう。

しかし、

無理やりでも仕事をさせる

大変だったけど成果が出てお客様から褒められる

仕事の楽しさを感じる

「次はもっとこう工夫してみようかな?」というアイデアが出てくる

というプロセスを経ることはあります。

いわゆる「成功体験を積ませる」ということです。

「無理やり頑張らせる」というような外発的なスタートですが、その一連のプロセスから内発性が育まれてくるということはあるわけです。

  

外発的動機付けの効果的な方法

外発的動機付けを必要としている人材を、便宜上「他律人材」と呼んでみます。
  

他律人材に、効果的な外発的動機付けをしていくにはいくつかの要素があります。

  1. 上司自身が仕事に対して前向きであること、楽しんでいること、その背中を他律人材に見せること
  2. 他律人材の現時点の能力をよく見て「多少ストレッチすればクリアできる」という仕事を与えること
  3. 他律人材は自律的には頑張れないので、仕事のプロセスのあいだ頻繁に「進捗確認する」「激励する」「アドバイスする」をしてサポートする
  4. 成果が出たことを実感できるように最大限支援する。お客様の喜びの声を届ける、上司自身が仕事ぶりを褒める、など。

  

一つ一つの要素を深堀して考えてみます。

1.上司自身が仕事に対して前向きであること、楽しんでいること、その背中を他律人材に見せること

上司自身が、会議、飲み会等のコミュニケーションの場で、仕事や会社の将来の夢を楽しく語っているのか、会社への不満ばかりを愚痴っているのか・・・では、当然変わってきます。

「あれ?もしかしたら、一生懸命仕事をしたら楽しいのかも?」と思わせられるような姿勢・言動であることはとても大切です。

  

2.他律人材の現時点の能力をよく見て「多少ストレッチすればクリアできる」という仕事を与えること

フロー体験理論における「没頭」の状態に部下をおけることは非常に重要ですが、他律人材においては特に重要になります。

難しい仕事を与えすぎて「不安」にさせても仕事は進みませんし、かといって難易度を下げ過ぎて「退屈」にさせても、それはそれで上手くいきません。「ほどよい難しさ」の仕事を振る必要があります。

  

3.他律人材は自律的には頑張れないので、仕事のプロセスのあいだ頻繁に「進捗確認する」「激励する」「アドバイスする」をしてサポートする

他律人材は、油断をすればサボる、楽をするという方向に流れます。ですから、仕事を任せた後も、見守り続ける必要があります。

細かい単位(例えば1日1回)で進捗を確認し、順調であれば褒め、仕事が遅れているようであればサポートします。これをすることで「仕事で成果が出た」という成功体験を積ませることができます。

   

4.成果が出たことを実感できるように最大限支援する。お客様の喜びの声を届ける、上司自身が仕事ぶりを褒める、など。

無事、成果に辿り着いたときには、他律人材が「成果を出せたんだ」と実感できるようにサポートします

「これだけお客さんが喜んでくれているよ」「私から見て、この辺が素晴らしかったよ、ここはとても工夫していたように見えたよ」といったフィードバックを返します。

他律人材は「自分で自分の仕事の良し悪しを評価する」ということができませんから、しっかりと「自分はいい仕事が出来たんだ!」と実感できるようにフィードバックする必要があります。

   

こうした努力を上司が積み重ねることによって、外発的動機付けは機能し、他律人材もパフォーマンスを上げていくことができます。

   

…とここまで読んでいただいた方の多くが、「こんなことやってられないよ」と思ったのではないでしょうか。

  

上記の4つの要素をやり続けるというのは、ハッキリ言って大変な手間です。上司からしたら「手間のかからない自律人材になってくれよ」と思うところです。

外発的動機付け(アメとムチ)は、何が困るかと言うと【やり続ける必要がある】ということです。他律人材は、外発的な動機付けがなくなったら(上司からの褒める、叱るや、会社からの褒賞などがなくなったら)途端に、仕事のパフォーマンスが低下します。

   

なお、多くの会社が「外発的動機付け」を土台として、組織マネジメントの仕組みを構築しています。

社員に、目標やノルマを課し、目標達成の進捗を確認し、成果が出れば褒め、成果が悪ければ叱る、というのは、まさにモチベーション2.0、外発的動機付けです。

これはマネジメントの基本のようにされていますが、実はものすごく労力のいる大変なやり方です。

どう考えても社員が自ら目標を掲げ、目標達成のために能動的に試行錯誤し続け、成果が出れば喜び、成果が出なければ悔しがるというような、内発的動機、モチベーション3.0の人材だらけの方がラクです。

  

どう考えてもラクなんですけれども、内発的動機を基本とした会社というのはそれほど多くありません。それはなぜかと言うと、そもそもの会社の成り立ち、歴史、採用の仕方、根本で持っている労働観・・・といった問題たちがあるからです。

これについてはまた次号で解説していければと思います。

  

  

参考

▼「モチベーション3.0」についての詳細はこちらでも解説

 
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

 

[Vo112. 2023/02/07配信号、執筆:石川英明]