会社と社員が本当のパートナーとなる 生きがいラボ社の自己申告型給与制度
Contents
生きがいラボ株式会社とは
代表取締役 福留 幸輔さん
中小企業・ベンチャー企業専門の人事制度コンサルティング会社である生きがいラボ株式会社は、「人間の生きがいを追求する」を経営理念に、人事制度の常識を覆す「No Rating型人事制度」づくりの支援を行っています。
米国企業において年次評価を廃止したノーレイティングが2015年頃から話題になっていますが、生きがいラボは2010年からノーレイティング(No Rating)型人事制度の設計・運用コンサルティング実績のある稀有な人事制度コンサルティング会社です。
また、代表の福留さんは、総務・人事畑出身者が多い人事コンサルタントのなかにあって、法人営業(10年)・経営企画(4年)・WEBマーケティング(3年)・社長秘書(2年)などの多彩なキャリアを持つ異色の組織・人事コンサルタントです。
自己申告型給与制度について
まずは自己申告型給与制度という非常に珍しい制度が生まれてきた背景を聞かせてください
実感していた不満感
2010年以前、今の会社を設立するまでは、いわゆる普通の評価制度のコンサルティングをしていました。評価基準があって、点数をつけて、その点数によって昇給額が決まるといったものです。
しかし、いくら評価基準などを明確にして、評価制度の精度を高めていっても、結局は給与への不満などは変わらない、減らないということを感じていました。
経営者の方にも不満があって、社員の方にも不満があって。
それはなんでなんだろう?と、ずっと考えていました。
社員さんは「評価が低いんじゃないか」「ちゃんと見てもらえていないんじゃないか」「もっと評価して欲しい」そういうものがあるなと感じていました。「もっとお金が欲しいから評価して欲しい」というのもあるかもしれませんが「ちゃんと評価してもらえていない」という感覚が強そうだというのが実感でした。
一方で、経営者の方も「もっと給料を払いたい」というケースもあったり、逆に「この社員には払いすぎている」という感覚があったり、経営者の方の感覚と実際の給与額に乖離があって、そこに違和感や不満を感じているということも、ご支援している中で多々ありました。
経営者と社員の双方が、不満を抱きながらも日々仕事は進んでいる。
その不満についてちゃんと話し合う機会もなく。 そういう状況を給与制度によって解決したいと思ったんですね。
生きがいという観点
それともう一つ、社名にもしているほどなので「生きがい」ということは私にとってとても重要なテーマでした。
組織の中で全ての人が生きがいを持つには、どうしたらいいんだろうか?
それもずっと考えていたことでした。
経営者だけが生きがいを感じていて、社員が犠牲になっているような状況がいいとは思えないし、逆に、経営者だけが疲弊して、社員は生きがいを感じているというようなことも違うと考えていました。
それを考えていったときに、そもそも雇用する側/される側という構造があること自体が根本的な問題なのだという考えにいきつきました。
支配する側/される側、命令する側/される側、管理する側/される側といった構造自体が、不満を生んだり、生きがいを持ちにくくしていると考えたのです。
そういう関係性自体を変えることが重要だと考えるようになり、今は「会社と社員がパートナーである関係性」ということを提案し、その考え方に共感してくださる会社さんのご支援をするようになりました。
紆余曲折
ただ、いきなりそうなったわけではなく、やっていくなかで紆余曲折はありました。
最初は、年功制の給与制度にしていた時期もあるんです。給与のことは気にせずに、仕事やキャリア開発に集中してやっていきましょう、というような考え方でやっていました。
評価を行わないので、ある意味完全にNo Ratingでした。そしてこのやり方は、社員さんのウケは悪くなかったなと思います。評価面談なども行いませんから、評価者も、被評価者も「評価」というストレスから解放されたところもあります。
しかし、私個人として「これはなんか違うな」と。根本的な解決になっていない感じがしていました。
これだと、雇用する側/される側という構造自体は変わっていなくて、本当にパートナーのような関係になっているかと言うと、なっていないように感じられたのです。
パートナーというのは、結局「話し合って決めていく」という関係なのだと思います。
私自身も、コンサルタントとしてクライアントと契約内容について話し合って決めています。その合意された内容に対して、双方が納得しているからこそパートナーとして一緒にやっているわけです。
夫婦といったパートナーでも、意見の違いがあれば「話し合って決めていく」ということだと思います。どちらかが一方的に命令権のようなものを持っていたとしたら、それはパートナーというより従属関係になってしまいます。
だから、会社と社員が「話し合って決めていく」ということが本質的に重要だと考えるようになってきました。
社員の方が自分の給料について意見を言う機会というのが極端に少ない、というかほとんどないというのが現状は多いと思います。
賃金テーブルなどは、自分の関与しないところで決められていて、しかもブラックボックスである。そういうことが多いと思います。それはフェアじゃない。フェアじゃないときに、本当に質の良いパートナーシップを築けるかと言うと難しいと思うのです。
ですから、給与の決定プロセスを透明化する、民主的にするということを考えました。社員さんにも、話し合いのテーブルについてもらうということです。話し合いのテーブルにつくということは、責任も生じるし、大変なことかもしれませんが、それが生きがいにもつながっていくと考えました。
実際に、自己申告型給与制度を導入していくと会社でどんなことが起こるのでしょうか?
イキイキとした会社へ
一つ分かりやすい現象としては、社員さんたちがイキイキと頑張りだすということが起こります。ただこれは全社員ということではなくて、1~2割くらいの社員さんたちにそういうポジティブな変化が起こってきます。
この1~2割の社員さんたちは、どちらかというと「もともと意欲的だった人が、さらに意欲的なった」とか「意欲はあったけれど、上手くその意欲を発揮する機会がなかった人が機会を得て活躍するようになった」というようなところが強いと思います。
特に若手の人たちでそういう変化が起こることが多いです。
逆に、ベテラン社員の方が割合としては多いですが、かなり苦戦する方もいらっしゃいます。「自分で自分の給与希望額を申告する」というのは、かなり意識の変化が必要で、そういう点で苦労される方も出てきます。そういう方たちも1~2割出てくることが多いですね。
あとの6~8割の方々にも前向きな変化が見られます。それはポジティブな変化があった人たちに引っ張られてとか、刺激を受けて、ということが大きいなと思います。
後で詳しくお話しすることになると思いますが、私のやっている自己申告型給与制度は「未来投資型給与制度」なんです。
基本的にほとんどの評価制度というのは「実績(過去)に対して評価をする」それによって給与額が決定する、ということになっています。
自己申告型給与制度は「私はこういう貢献をしていきたい」という未来の話を社員さんにしてもらい、「ではこれだけの(給与という)投資をする」という判断を、管理職・経営者の方にしていただく形になります。
社員の方がお一人お一人、自分で会社の未来とその貢献を考えて提案をするわけです。そのプロセスはとても意味があると思います。「言われたからやる」「言われたことをこなす」のではなく「自分で提案して、自分で実現していく」ということになります。 社員の方々が、前にも増してイキイキと主体的に働くようになられるのは、そういう要因もあると思います。
実際に、自己申告型給与制度を導入するステップはどういうものになるのでしょうか?
基本的にまず1年間という時間をいただくことがほとんどです。
1年間のイメージ
第一四半期:制度自体の策定
第二四半期:管理職が新制度を体験
下期:一般社員が新制度を体験
2年目に入り、正式に新制度を運用していくという流れになります。
- ステップ1
- 最初の制度自体の策定は、経営者、人事責任者、私の3者で作っていくケースが多いです。会社によっては、もう数名そのチームに加わります。
いきなり社員さんに「給与について自己申告してください」と言ってもこれは難しいので、ガイドラインとなるようなものを作ります。この時に、細かく作り過ぎてしまうと運用の柔軟性を失ってしまい、結局「言われたことをやる」に戻ってしまうリスクがあるので、あくまでざっくりとしたガイドラインを作ります。
「この役割はこういうことをして欲しいと思っている」「この役割を担うなら、だいたいこれくらいの幅の給与額と想定している」といったガイドラインを作ります。ジョブディスクリプションのような細かいものを作るわけではありません。
あとは、どういうプロセスにするかを決めます。申告を誰が受け付けて、どういう意思決定機関で決めるかといったプロセスを確定させていきます。
- ステップ2
- 次の3か月ほどで、この制度の運用主体となる管理職に実際に「自己申告型給与制度」を体験していただきます。管理職が「こういう貢献をしていきたい。なので、これくらいの投資(給与)にしていただきたい」ということを経営陣に提案し、しっかりと経営陣と話し合って、仕事内容と給与額を確定させていくということを体験していただきます。
この時はまだあくまで疑似体験なので、本当にそれによって給与額が変動するのは2年目以降になります。
- ステップ3
- そして、そのあとに一般社員に自己申告型給与制度を体験していただきます。上司に対して「こういう貢献をしていきたい。なのでこれくらいの投資(給与)にしていただきたい」ということを提案することを体験していただきます。
ここで、管理職が、部下の申告を持ち寄って、一人一人の役割分担や投資額の申告を承認するかどうかを決める会議を行います。これを投資委員会と呼んでいます。
あとは、管理職は決定した内容に沿って、部下が「こういう貢献をしていきたい」と定めた目標を達成できるように1on1などを通して支援していっていただきます。
ざっくりとこのようなプロセスで進んでいきます。
実際に導入されて、経営者の方からはどんな感想が聞かれますか?
私のところにご依頼くださる経営者の方々は、今までの給与制度、評価制度に対してなにかしら違和感を持っている方がほとんどなんです。
「なんか、教科書通りにやっているけど、本当にこれでいい会社になるのだろうか?」というような違和感をお持ちなんです。
ですから、実際に導入して一番よく聞かせていただけるのは「ようやく自分が探していた人事制度を、自社に導入することができた」といったお声です。 会社と社員が真にパートナーとしての関係を築き、一人一人が主体的に働ける環境を提供できる、そういう給与制度であるということです。
頼もしい経営パートナーの出現
あと、仰っていただけることが多いのが「管理職がとても成長してくれた」といったお声です。
今までは部下の給与額も知らなかった管理職も多いわけですが、透明性が上がり、部下の給与額も知ることになります。そうすると経営者感覚が鋭くなるようです。「会社の成長のために必要な(人への)投資を行っている」という感覚も磨かれます。
経営者の方は、近い目線で会社の未来を考える頼もしい仲間が増えたというように感じられることが多いようです。実際に、そのように仰られた経営者の方も大勢いらっしゃいます。
あらためて(今はまだ)大変珍しい「自己申告型給与制度」について、どんなところが重要とお考えか、聞かせていただけますでしょうか?
自己申告型給与制度は「社員を頑張らせる仕組み」を作っているわけではありません。結果としてより一層仕事を頑張る社員の方は増えることが多いわけですが、本質的には【自己決定】を大切にするという仕組みだと考えています。
自分で決めて、自分で責任を持つ。
このことがとても大切です。
「頑張らせる」といった「させる/させられる構造」ではないというところが、本質的に重要なところと考えています。
そして、組織的に働く上では「自分で決める」ためには対話、話し合い、コミュニケーションということは必須になります。何でも自分で勝手に決めていいということとは違います。
実は、自己申告型給与制度を導入すると、減給になる社員さんも出てきます。「これだけの貢献をしたいから、これだけの投資(給与)をして欲しい」と提案したけれども、実際には目標が達成できないことが続いた、、、そうなると社員と会社とで話し合って「これくらいに目標も下げて、給与も下げるのが妥当ではないか」ということになります。
自己申告型給与制度の大きな特徴の一つと思うのは、この減給という事象に対して、社員さんが納得しているということです。
一般的な給与制度であれば、減給となれば、大きな不満を抱いてしまうということが多いと思いますし、会社と社員とで認識のずれ、すれ違いが残ったままになるということが多いと思います。
そうではなくなるというのは、一つ大きな変化だと思います。
また、繰り返し申し上げているように「自己決定」「パートナーシップ」というのが自己申告型給与制度の本質ですから、管理職の位置づけも変わります。
管理職が「上」であって、命令をし、部下が命令を実行しているかどうかを監視するといった役割ではなくなります。
「こういう貢献をして、こういう投資(給与)をして欲しい」という内容が、どれほど管理職の考えていることと違いがあったとしても「あいつ困ったこといいやがって」といった解釈をするのではなく、申告の背景をしっかりと理解して、また管理職として伝えるべきことは伝えて、しっかりと話し合ってパートナーとしてやっていくということです。
これが、この制度を運用していく上での肝になります。
この肝の部分は、最初の1年間のトライアル期間中にしっかりと管理職の方に経験していただきます。命令し、監視するといった従属関係ではなく、目標を話し合って合意し、その達成に向けて協働したり支援したりするといったパートナー関係にシフトしていただくのです。
最後に、自己申告型給与制度は未来志向であるということです。
社員からの申告を元に最終的に給与額を決定する機関を「投資委員会」と呼んでいるのはそのためです。給与、人件費は、未来への投資であるということです。
現在の給与制度のほとんどは、基本的に過去の実績を評価して昇給額などが決定されます。
自己申告型給与制度で、過去の実績を完全に無視しているわけではなく、給与額を決定する上での参考材料の一つにはなっています。しかし、あくまで社員が「どのような貢献をしていこう、していきたいと思っているか」というWill、意志こそが中核です。
だからこそ、会社全体で「どのような成長をしていくか?」「どんな貢献をしていくか?」といった未来志向の文化が育まれていくのだと考えています。