中堅・中小企業ではどのような人事評価制度・報酬制度にすべきなのか?
Contents
人事評価・報酬制度の
役割と重要性
今回は、主に中堅・中小企業における人事評価・報酬制度の役割や基本となる考え方をご紹介します。
- 社員数が増えたので、評価報酬制度の作成に取り組もうとしているが、何を基準に考えたらいいのかわからない。
- 既に評価制度はあるが、社員のモチベーションやパフォーマンスの向上と噛み合っていないように感じており、見直しを検討している。
このような状況の経営層・人事責任者の方へ本記事が参考材料になりましたら幸いです。
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はじめに、そもそも「社員を評価する制度がない」というのはどのような状態なのでしょうか?
これは、その企業で働く社員からすると「値段の分からない寿司屋で食事をする不安」みたいなものが常につきまとうような状態になります。自分が何をしたら、何をしなかったら、大事な給料が上がるのか、下がるのか、その指針が全く示されないので、右往左往してしまう、という状態です。
だから、評価制度は絶対に必要!というわけではありませんが、企業規模が拡大するにつれて、社長自ら全社員を評価するのは限界もあり、会社としての「指標」として評価制度を整えることには価値があります。
例えば「協調性を持って働いて欲しい」と思っているのに、協調性を評価する制度になっていない。これでは、なかなか社員の協調性向上を促進することはできません。「こういう姿勢や能力を大切にしたい」「こういう人材をこそ評価したい」という思想が、しっかりと評価制度に反映されている必要があります。
また、評価制度は社員のモチベーションとも深く関係します。しかし、ここでお伝えしたいことのは、評価制度によって「社員のモチベーションをあげる」ことは難しい、という点です。
評価報酬制度とは、ハーズバーグの「二要因理論(動機付け・衛生理論)」でいうところ「モチベーションを下げる要因をなくす」という部分になります。
※ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論):アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した仕事における満足と不満足を引き起こす要因に関する理論。労働条件や給与は、充足すると不満足感が減少するが、積極的な満足感を増加させることはない。
基本的には、評価報酬制度をしっかりと作ったところで、社員のモチベーションはあまり上がりません。(社員のモチベーションが上がるのは、やりがいや成長の実感、チームワークの良さなどの方が大きいのです)
しかし、評価報酬制度が整っていないと社員のモチベーションを確実にさげていってしまいます。
人事評価・報酬制度作成の
ポイント【制度面】
それでは、「弊社でも評価制度を整えよう!」「今ある評価制度を見直したい!」と思ったとき、具体的に何に注意して考えていくと望ましい評価制度が作れるのでしょうか。
人事評価制度の作成の際のポイント、また注意事項を一部ご紹介していきます。
人事評価・報酬制度作成の観点
まず評価の観点ですが、実際に評価制度を作成する際にお勧めしているのは「経営陣の口癖」や「経営陣のイライラポイント」を元につくるということです。
「スピードが大事だ!」という口癖ならば、評価観点にスピードが入っているべきですし、「社員のITリテラシーが低くてイライラする」ということがあれば、評価観点にITリテラシーという項目があるべきなのです。
というのも、最も社員からすると困るのは、上司は毎日のように「〇〇」と言ってくるのに、評価観点にはその項目が一切入っていない、といようなことです。それを頑張っても評価されないのに、それを頑張ることを日々は求められる、というのは大変なストレスです。
ですので、冒頭でも申し上げましたが、「こういう姿勢や能力を大切にしたい」「こういう人材をこそ評価したい」という思想や期待が、しっかりと評価制度に反映されていることはとても重要です。
定量的だけでなく
定性的な要因も必要
定量的な評価は、評価するのがラクで、客観性が高いため公平であるとも言えます。しかし、定量化できないからといって、大切な観点で評価しないのも問題がありますし、なんでも無理やり定量化してしまうのも危険です。
例えば「チームワーク良く仕事をしてほしいが、チームワークは定量化できない」といって、評価観点から外してしまえば、「仲間のために頑張っても評価されないんだ・・・」となって協調性のない社員を増やすことになりかねません。
一方で「では何とかしてチームワークを定量化しよう」として、例えば「他部署の人間に挨拶をする回数」で評価します、などというのは論外なのです。本当にチームワークを発揮するのではなく、評価を上げるために「ただ、心のこもらない挨拶の回数だけ増やす」といった行動を助長してしまったりします。
ですから定性的に「本当にチームワークを発揮しているか?」ということを、しっかりと観察して評価していくことが重要になります。(故に、あとで述べるように評価面談の質が非常に重要になってきます)
評価観点が多すぎてもダメ
細かく作りすぎて、評価観点が20個も30個もある人事評価制度がありますが、これは実際問題としてはお勧めできません。社員は、30にもなる評価観点を覚えていられませんから、「なんとなく仕事をする」ようになってしまいます。
また、数が多いと、一つの観点の評価の比重が下がることにもなるので「まぁこの項目は無視していいや」という風になりがちです。(それでもいいと、割り切るやり方もありますが)
「評価と報酬のリンク」を
すればいいわけではない
「給料が増えるから頑張る」というモチベーションは、社員にとってないわけではないのですが、実はそれほど意欲を高める効果が薄いのです。
1年に1回、昇給したり、賞与をもらったりした直後は「やったぁ!嬉しいなぁ!」と思ったりするものですが、1か月もすればその喜びは忘れられ、普通のモチベーションの状態に戻ります。昇給、賞与、インセンティブなどによる意欲向上、生産性向上の効果は極めて限定的だと知っておいてください。
これは研究結果もあって、この理由を知りたい方はダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」などの書籍をご覧ください。
この評価と報酬は連動させるべきなのか、というのは重要な論点であり、様々な考え方があります。ここではひとまず「ある程度は連動させるべき」という考え方に則り、評価と報酬の連動についてもう少し話を進めていきましょう。
「ある程度は評価と報酬を連動させる」という場合、私たちは基本形として
- 評価の高低をつける(S評価、A評価、B評価など)
- 評価の高低によって「固定給の昇給率」と「賞与の分配率」を連動させる
- 賞与は、期末の利益と連動させる
ということを提示し、ここから、会社の考え方によってカスタマイズするという方法でご支援しています。
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これは例えば10人の会社で、「利益が2000万円出た。その中から賞与原資とするのは20%の400万円である。単純計算すると一人当たり40万円の賞与となるが、評価が高い人は50万円、評価が低い人は30万円などにもなる」といったような形になります。
どこまでオープンにし、どこまでクローズにするかなども、会社によって最適解は変わりますが、基本形をここにしてそこからカスタマイズしていくと短期間で納得のいくものが作りやすいのです。
短期的なお金でモチベートしたいのか、終身雇用に近く永く働いて欲しいのか、全社利益を部署役職関係なく全員で目指してほしいのか、利益は考えずによい仕事だけをして欲しいのか、などを考えながら調整していきます。
人事評価・報酬制度作成の
ポイント【運用面】
ここまでは、「人事評価・報酬制度」の「制度」づくりの部分についてご紹介してきました。続いて、作成した「制度」を運用する部分でのポイント、また注意事項をご紹介したいと思います。
人事評価制度を運用する際は、本人と評価者の間で(上司と部下の間で)、十二分に目標についてすり合わせた上で、目標に対する達成度合いを評価する、ということが非常に重要です。また、その評価面談の質と実施頻度が肝となります。
というのも、実はこの評価面談が、部下から見て「とても有意義な時間である」と感じられることの方が、「評価制度が存在しているか」よりも重要性が高いのです。
評価面談の質が高く、社員に適切な頻度で実施することができたら社員のモチベーションは高く維持され、成長が促進されます。
しかし、評価項目をいくらキレイに作り、評価と昇給等のリンクのロジックをいくらキレイに作ってもその効用は限界があるのです(かといって、あまりにも杜撰な評価制度になっていると、それは社員の不満を招き、労働意欲を低下させてしまうので、雑でよいわけではありません)。
評価面談の質を高める要素としては
- 難易度は適切か
- 具体的に認識があっているか
- 本当にその目標は会社への貢献になるか
の3点を確認しながら、すり合わせしていきます。
1.難易度は適切か
難易度が高すぎると「どうせ無理」と社員は諦めてしまいます。
また、となりの人の目標は簡単で、自分の目標は難しすぎると不公平に感じてやる気を失います。なので、難易度の調整はとても大切です。(「適切な難易度設定の重要性」については、別稿で詳しく解説します)
2.具体的に認識があっているか
具体的な認識のすり合わせも重要で、期末の段階で「君は目標達成はC評価だね」「え?自分はA評価だと思ってましたが・・・」となっては困るのです。こうなってしまうのは、期首の目標設定の段階での具体性が足りなかったのです。
しっかりと認識のずれが起こらないような具体性を持った目標設定を行いましょう。
※そもそもこの変化の激しい今の時代に期首に、1年分の目標を具体的に決められるのか?という論点は重要であり、そのために「目標を設定しない」「No Rating」という考え方が出てきてもいますが、これについては別の機会に。
3.本当にその目標は
会社への貢献になるか
そしてもちろん、その目標の達成が会社に貢献することかどうかはチェックしてください。例えば「今年中にTOEIC600点を取る」というのが、業務上重要な場合もあれば、全く関係ない場合もあるでしょう。その点は上司がしっかりと判断する必要があります。
また、定性要素、定量要素のバランスなどもよく考える必要があります。
例えば、サッカー選手を評価する要素を考えると
としたら、これは大問題ということが分かるでしょう。
DFもMFも関係なく、全員点を取りに行ってしまいます。
では「勝つためには走ることが重要だ」ということで、“走行距離”といった要素で評価しようとしたとします。そうすると今度は、試合に関係なく、ひたすら走り続ける選手が高評価ということになってしまいます。つまり、定量評価には限界があるのです。
試合に勝つためには、選手の「フィジカル」「スキル」「戦術理解」の3つが重要だと考えたら、この3つを評価項目に入れる必要があるわけです。そして、割り切って定性評価を行うことが適切な場合が多いのです。
(定量評価のみにこだわって、大量の定量評価観点を使おうとすると、その運用負荷はものすごく大きなものになってしまいます。プロ野球選手のようにはできないのです)
人事評価制度を作ることへの
リスク
ここまで、人事評価制度の役割や大事な要素をご紹介してきましたが、人事評価制度を作ることにもリスクはあります。人事評価制度を作ることの主なリスクは、運用の負荷、という面です。
ちゃんと評価制度を機能させっていこうと思うと、どれだけ少なくても「期首の目標設定面談」「期末の評価面談」は必要になります。
この二つをいっぺんにやっている会社も多くあるので、最低限は「年1回の評価・来期目標設定面談」ということになります。年1回に頻度で、適切に評価したり、目標設定したりできるかというと実際には難しいので、四半期に一度行う、といったことになってきます。
そうすると、現場の負荷はなかなか大きなものになっていきます。
いかがだったでしょうか。今回は人事評価・報酬制度についてご紹介しました。