Vol.68 社員に自分と同じように会社のために情熱的に働いてほしい

今回のご相談内容

家業の小売店を継いだ2代目経営者です。もともと年商2500万円規模だったものを自分の代になってから、1億円ほどに伸ばしてきました。

私は、会社を大きくしていくことや売上を伸ばしていくことが楽しく情熱があるのですが、現場の社員や幹部クラスの人材でも、私〈社長〉の掲げる目標にどうもついてこれているような気がしません。仕事に対してやる気がないわけではないのですが、「より大きく」「より高く」という目標に強い関心があるような感じではないのです。

できれば社員にも、私と同じように情熱的に仕事をしてほしいと思っているのですが、やはりそれは難しいのでしょうか。

   

石川からのご回答

このような問題は多くの会社で起きていて、実は、よくいただく相談でもあります。

今回のご相談内容については、まず人には「タイプ」があるということを理解することが重要です。
   

まずそもそもタイプがある ― あなたはどのタイプ?

一つのタイプは「競争・成功タイプ」です。

これは起業家や経営者、スポーツ選手などに多いタイプです。競争そのものが楽しくて好きで、その競争に勝って成功するということに純粋に喜びを感じます。

「より大きく」という意識が強く、去年よりも売上を大きくしよう、ライバル企業よりも売上を伸ばそうという発想がナチュラルに出てきます。
   

別のタイプに「手芸・園芸タイプ」があります。家庭菜園などを楽しむようなタイプです。世代でいうと若手に多く、ジェンダーでいうと女性に多いかもしれません。

「より大きく」といったことにはあまり関心が向かず、「毎日を丁寧に暮らす」といったことに喜びがあります。

出世や売上拡大のために残業をしまくって働くという時間配分よりも、そこそこに働いて、早く家に帰り、丁寧に夕飯を自炊するということに時間を配分します。
   

仕事に対する意欲や情熱のタイプ

     

タイプの違いは「違い」であり「優劣」ではない

まずこの「タイプの違い」を違いとして認識できることが重要です。特に、競争・成功タイプの方は、つい、これを「違い」として捉えず「優劣」として捉えてしまうケースがあります。

競争タイプにとって「優劣」という軸が重要であるので、これは仕方がないところでもありますが、競争・成功タイプは、手芸・園芸タイプを見て、「向上心が足りない」「成長欲求が足りない」「もっと貪欲さを出していくべきなのに」と批判的に見てしまうことがあるようです。
    

しかしこれはタイプの違いなので、いかんともしがたいのです。

どれほど競争・成功タイプの人が「もっと上を目指そう!」を叫んだところで、手芸・園芸タイプの人たちからは「なんでそんな暑苦しいことを押し付けようとしてくるのだろう・・・・」と思われてしまうため、なかなか理解されません。
   

会社にはさらに問題となる構造がある

またさらに問題となる構造があります。

社長にとっては「売上を増やす!」「店舗数を増やす!」「社員数を増やす!」といったことはワクワクする夢になるかもしれませんが、社員にとっては、売上増や店舗数増や社員数増といったものはそれほど魅力的な指標とは言えないことです。

これは、競争・成功タイプの社員であってもです。
   

社長にとっては、売上が伸びることで自分の年収も増えるだろうことは紐づいていたりもしますし、店舗数や社員数が増えれば、自分の喜びなどが満たされていくことも容易に想像できるでしょう。

しかし、社員の立場からすると「ずっと一社員のまま」「ずっと給料は変わらないまま」だとしたら、会社規模が大きくなることにはほとんどの魅力が感じられません。

むしろ「いろんな人が入ってきて面倒くさいかも。今の小さな会社で気心の知れた人達と働いている方がいい」とか、「拡大のために仕事が忙しくなるのは嫌だな。拡大しなくていいから、忙しくない方がいい」とか、そういう気持ちが湧いたりするものです。

手芸・園芸タイプの社員であればより強くそういった気持ちを持つことでしょう。
   

競争・成功タイプの社員であっても「売上を増やす」よりは「年収が増える」方が響くでしょうし、「社員数を増やす」よりは「自分の部下が増える」方が響きやすいということはあるでしょう。

社長と社員は立場が違うため、全く同じ指標を「同じようにワクワクしよう」というのは構造上も難しさがあるのです。
   

出典:写真AC

    

人間が情熱的になるとはどういうことか?

人間が「情熱的になる」というのは、どういうことでしょうか。

情熱的である、夢中である、というのは基本的に内発的なものです。「言われたからやる」といったもので情熱的にするのは非常に難しいものです。
   
例えば、子供の頃、夢中になって漫画を読んだり、TVゲームをしたりしなかったでしょうか?夢中になるというのは、それが面白いからという純粋な内発的なものの時に起こります。

「宿題をやりなさい」と言われて、机に向かうものの、全然集中できない・・・といったよう体験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。

自分以外の誰かから「やれ」と言われたものに夢中になるということほど難しいものもありません。

社員に情熱的に働いてほしいと思ったら、社員自身が情熱的になることを活用するしかありません。「情熱的になれ!」と外から押し付けることはできないのです。
   
では、どのようにして「社員が情熱的に働いている」を実現できるでしょうか?

これについてはWhat(何をするか)の情熱と、How(どう関わるか)の情熱を使って考えるとよいでしょう。
   

Whatの情熱Howの情熱の活用

WhatもHowもどちらも自由に選べた時に、人間は最も夢中になって動きます。

例えば「来週ゴルフに行こう」と自分で何をするかを選んで、ラウンド当日も自分の打ちたいように打っていきます。こうした時は夢中になってできるものです。

仕事においてもWhatもHowも社員自身が選ぶことができれば「情熱的」「夢中」という状態は起こりやすくなります。
   

しかし、どうしても「会社としてこれに取り組んでほしい」というように、Whatについては社長や上司から指示が出ることもあるでしょう。

その時はできるだけHow(どう進めていくか)については裁量を渡して任せることです。それだけでも、社員の仕事への夢中度はかなり変わってきます。

またWhatについては「上から命令する」ことになる場合には、Why(これをやる重要性、意味はどんなものか)について丁寧に説明することで、Whatを選べない弊害を緩和することができます。

例えば、競争・成功タイプの社員に対してであれば「この重要な仕事を成功させたら、確実に評価が上がるよ」というようなことを伝えることが効果的かもしれませんし、

手芸・園芸タイプの社員に対してであれば「短期的には大変だけれど、長期的には自社のワークライフバランスをよくするためのものだから頑張ろう」というようなことを伝えることが効果的かもしれません。
   

社員は、社長とタイプも違えば立場も違います。

「違いがある」というのは大前提です。
   

「うちの社員なのだから、何もしなくても、自分と同じように会社のために情熱的に働いてほしい」という気持ちも出てきたりするかもしれませんが、それはかなり難しい欲求であったりします。

タイプの違いや立場の違いを受容したうえで、「社長としてできる効果的な打ち手」を打っていくということが、組織全体の熱量を高めていく上では重要なことだと言えるでしょう。

   

今回の回答は、以上となります。

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。

[Vol.68 2021/02/16配信号、執筆:石川英明]