Vol.91 会社と社員のエンゲージメント(関係性の質)を高めるためにやるべきこととやってはダメなこと

今回のご相談内容

これからの時代で会社の競争力を高めるために、会社と社員(個人)のエンゲージメントスコアを高めることが重要ということですが、エンゲージメント(関係の質)を高めるためには具体的に何をすればいいのでしょうか。

石川からのご回答

エンゲージメントは「すり合わせ」だということを前回書きました。

会社がその社員にして欲しいこと。社員自身がやりたいこと。こういったことがかみ合って「エンゲージメントスコアが高い」という状態になるわけです。

多くの会社では「会社が社員にして欲しいこと」はある程度明確になっているでしょう。それを「指示・命令」することで仕事が回っているというところも多いだろうと思います。

しかし、これだと一方的になりますから「すり合わせ」にはなっていません。

しっかりと双方にとってかみ合った状態を作るには、「社員の方からもやりたいことを出してもらう」ということになります。

   

出典:写真AC

〇〇を生み出す仕組みがエンゲージメントを高める

同業である生きがいラボの福留さんは【給与自己申告型人事制度】というものを開発して、その導入をしていらっしゃいますが、この制度はまさに「社員が自分のやりたいことを提案する」制度です。

来期、こういう貢献をしていきたい。
だから、給料はこれくらいを出してほしい。

そういう提案をボトムアップ的に行っているわけです。
   

私もご支援先で、社員さんたちにボトムアップ的に考えてもらうことは多々あります。

・どんな会社にしたいか?
・どんな人事制度にしたいか?
・どんな売上構成比にしたいか?
・どれくらいの社員数にしたいか?
・どんな新商品、新チャネルに挑戦したいか?

そういった目標を考えて頂いて、それを実現するためのアクションプランも考えてもらいます。

「ただ考えてみただけ」というトレーニングのケースもありますが、多くの場合は、真剣に考えて、必要があれば経営陣にプレゼンをするとなります。

社員一人一人が「会社に言われたことをやる」という受け身的姿勢で仕事をするのではなく、「自分は、どういう仕事をしていきたいのか?」「どう仕事をしていきたいのか?」を自ら考え、能動的に仕事をしていくというのはとても大切なことです。

「言われたことをやる」受け身的社員より、「自分で考えたことに取り組む」能動的社員の方が、パフォーマンスが高いことは、容易に想像されると思います。

まずは「社員が自分自身で考える機会」があること自体が大切です。これによってエンゲージメントが真に高まる土台が整います。
   

エンゲージメントスコアを下げてしまう要因は〇〇

このような「社員一人一人が考える機会」を面倒くさがる経営者・役員、管理職の方もいます。

理由としては大きく二つあって、

  1. 大した意見が出てこない
  2. 会社の方向性と違う意見が出てきても取り扱いに困る

ということです。

この二つの理由が、まさにエンゲージメントスコアを下げてしまう要因になってしまいます。
   

1.大した意見が出てこない

まず「大した意見が出てこない」というのは、そりゃそうなのです。なにせやったことがないわけですから。初めてプールに入っていきなり泳げるわけはないですし、イタリアに着いた直後からイタリア語が喋れるわけでもありません。

これはトレーニングなのです。

実際、トレーニングを積んでいくと「大した意見」が出てくるようになります。
   

あるメーカーさんでは「中期経営計画を社員主体で作る」ということを始めましたが、初年度に出てきたものは確かに大したものではありませんでした。社長からたくさんダメ出しが出ました。

しかし、2年目にはかなりのレベルのものが出てきました。

そして3年目には素晴らしい中計を、社員が主体となって作り上げました。3年目には社長が「これは、私が一人で作ったモノよりもずっと素晴らしい」と感嘆していました。

これが1年目の段階で「やっぱり社員にやらせても、大したものは出てこない」と判断してしまっていてはこうはなりません。
   

2.会社の方向性と違う意見が出てきても取り扱いに困る

もう一つの「会社の方向性と違う意見が出てきても取り扱いに困る」というところも、エンゲージメントを考える上ではとても重要です。

例えば「営業範囲を関西圏に広げたい」という社員の意見があったとして、社長としては「営業範囲は、関東圏で拡大する」という方針があったとします。確かにこのような時には「折角意見を出してもらっても、却下するしかない」というようなことが起こることはあります。

このようなケースの時に

A.だから、意見そのものの表明機会を与えない
B.意見の表明機会はあるが、理由なく却下する
C.表明された意見に対して、なぜそれを採択できないか説明する

このような対応のパタンがありえますが、Aの方がラクと言えばラクで、Cの方が手間がかかるものです。
    

では、エンゲージメントが高まるという観点からするとどうでしょう?「どうせ却下されるのだから、AでもCでも関係ない」でしょうか?

そんなことは全くありません。

これらの選択肢の中では、確実にCがエンゲージメントを高める選択です。

   

エンゲージメントを高めるために不可欠なこと

エンゲージメントはすり合わせであり、つまり対話が大切なのです。

「私はこういうことをやりたいです。」
「残念ながら、こういう理由でそれは許可できないよ」

こういった対話がある組織は、エンゲージメントスコアが高くなっていきます。反対に、この対話をサボれば、エンゲージメントスコアは低下していくわけです。

エンゲージメントスコアは、もちろん「会社の望むもの」と「社員が望むもの」が一致してかみ合っているときに高くなります。そのようになるよう企業努力をすることは大事です。
   

ただ実際には、そんなにきれいに「会社の望むもの」と「社員が望むもの」が一致するとは限りません。

しかしそのようなときに「双方ともに、誠実に話し合いましょう」という姿勢があることは、エンゲージメントを高める土台となるものです。そしてこの対話は、経営戦略の浸透やビジョンやバリューの浸透といったことにもつながるのです。

もちろん、経営戦略やビジョン・バリューといったものが浸透している組織の方がエンゲージメント・スコアは高くなります。
   

今回の回答は以上となります。最後までご覧いただきありがとうございます。

編集後記

先週は、旅館業の方との打ち合わせ、エグゼクティブコーチング、クライアント企業との打ち合わせなどがありました。

社長業は忙しく、なかなか「ちゃんと自分のために時間を取る」ということができなかったりしますね。

エグゼクティブコーチングなどは「月にこれだけの時間は、絶対に自分のための時間を取る」という、自分への約束、自分へのご褒美みたいな面があるなぁと思います。これまでも、多くの社長さんにコーチングをさせていただいてきましたが「あ、自分の本音に気づいた」みたいになられたことも多々あります。

ある社長さんなどは「あ、本音ではもう社長業を引退したいと思っているんだ」とコーチング中に気づかれて、そこから丁寧に事業継承の準備をされていかれました。

そういう大切な時間ですから、私としてもいつもある種の緊張感を持って迎えています。でも、いい時間になるとやっぱり嬉しいですね。

[Vo91. 2021/09/14配信号、執筆:石川英明]