Vol.102 社員が心から共感して働きがいに繋がっている会社のビジョン

今回のご相談内容

社員が企業の理念(ビジョン)に共感していてそこに向かって、共に働いている状態というのはこれからの会社経営において非常に重要な要素だと思いますが、社員1人1人が、心から共感してそれが働きがいに繋がっている会社のビジョンというものは本当に作れるものなのでしょうか。

石川からのご回答

誰も本気で実現したいと思っていない会社のビジョン

組織変革の支援の一環として、会社のビジョンを作るお手伝いも行っています。

最近ではビジョンじゃなくてパーパスだというように別の言葉が登場していたりしますが、今日は言葉の定義の違いなどには深入りせずに、ビジョンという言葉を基本的に使っていきます。
   

このビジョンというのは「アウトプットとして文章が完成する」だけであれば、それほど難しくありません。「社会と顧客のよりよい暮らしのために全力を尽くします」とか「技術を通してより豊かな社会づくりに貢献します」とか、おおよそ、そういう言葉たちに落ち着くからです。

社員数が10名の会社でも、1000名の会社でも、同じようなビジョンにどうしてもなりますし、それほど差異化されるものでもありません。差異化される必要性も実際にはあまりないと考えています。

そういう、あえていえば「どこにでもあるようなビジョン」を、コンサルタントに高いお金を払って作ったり、経営企画部の大切な時間を何か月も使って作ったりすることがありますが、ではその折角作ったビジョンが、経営上どれほど意味を持っているかと言うと「ほとんど意味を持っていない」というケースに出会うことが多くあります。
   

作られたビジョンに対して、社員は特別共感もしてなければ、追求していきたいとも思っていない。

お題目としか思ってない。要は心がこもっていない。

なんだったら、社長も特別ビジョンに思い入れがあるわけでもなく、ビジョン構築プロジェクトをリードした経営企画部のメンバーもいまいちピンと来ていないみたいなことすらあります。

そのビジョンはお題目に過ぎず、心がこもっていないのです。
  

そういう形式的なだけのビジョンを作るのであれば、簡単に作れてしまいます。

   

出典:写真AC

社員のモチベーションを喚起するビジョン

そうではなくて

「このビジョンを実現したい」
「ビジョンの文章に触れると、初心にかえって意欲が湧いてくる」
「日々、ビジョン実現に向けて頑張っている」

そういう状態になるためにこそ、ビジョンを作るはずです。

要は、心が動く、心がこもっているビジョンになっていることが大切だということです。
  

ところが、

「社会と顧客のよりよい暮らしのために全力を尽くします」

という文章としてのアウトプットからは、心がこもっているのか、心がこもっていない形式的なものなのかの判断はつきません。

ホームページにどれほど立派な文章が乗っているかどうかは「心のこもった」ビジョンになっているかどうかにはほとんど関係がないのです。
   

オリジナリティに溢れた個性的なビジョンがホームページに掲載されていても、お題目に過ぎないこともありますし、とても簡素で、正直どこにでもあるような、ありきたりなビジョンがホームページに掲載されていても、全社を挙げて心からビジョンを追求している会社であるということもあり得るわけです。

そして後者のような会社の【状態】を作ることは、簡単ではありません。ホームページに掲載する【文章】を作ることは難しくありませんが、本当に実現したい会社の【状態】を作るのは、簡単ではないのです。

ですが、手間や時間はかかりますが、社員1人1人を適切に巻き込みながら、対話を重ねてビジョンを生成すると、【 本当にビジョンが会社に浸透している状態】はつくることができます。
   

社員が本気でビジョンを実現しようと思えている【状態】

例えば「社会と顧客のよりよい暮らしのために全力を尽くします」というビジョンがあったとして、社員が

「まぁ、会社には立派なお題目も必要なんだろう。けれど、自分が全力を尽くすのは、自分のため、自分がいい生活をするためであって、社会や顧客のためではないよ」

という本音を持っていたとしたら、

会社のビジョンは、少なくともこの社員にとっては

「このビジョンを実現したい!」
「ビジョンの文章に触れると、初心にかえって意欲が湧いてくる」
「日々、ビジョン実現に向けて頑張っている」

というものではないということです。

もしこれが

「仕事を通して、まず自分たちの生活を豊かにする。利益率を高め、生産性を高め、WLBのよい環境を作る。そのためにも、顧客から選ばれ、喜ばれ、継続される質の高い仕事を行う。そのために学び続ける」

といったビジョンだとしたら、また違ってくるはずです。
   

私個人としては、このようなビジョンはとても真摯なビジョンだなと思いますが、おそらくこのビジョンをそのまま会社ホームページに掲載することには抵抗のある経営者の方も多いのではないかと思います。

自社の繁栄が目的であって、お客様に尽くすのはそのための手段であるというように解釈されるようなものをお客様の目に触れるところに置くのはちょっと、、、というようなことです。
   

ホームページに掲載できるような立派な文章にすると、社員にとってお題目になってしまう。

社員が「大切だ!」と心から思うような文章にすると、ホームページに掲載できないようなものになってしまう。

こういうジレンマが起きるかもしれません。
   

ジレンマも含めて向き合った先にあるビジョンの浸透している職場

そして、こういったジレンマにちゃんと向き合って、そこから生み出されたビジョンというのが、真に価値あるビジョンになるのです。だからこそ、本当にちゃんとビジョンを構築するというのは簡単なことではありません。
  

社員の幸せと顧客の幸せは本当にトレードオフなのか?
補完関係や、循環関係で捉えられるのではないか?
社員も顧客も幸せな事業を作ります、というのは胸を張っていいのではないか?

多くの会社をご支援させていただく中で、そんな問いたちが生まれてきて、探求が深まり、本当に自信を持って「これが私たちの大切なビジョンだ」と言えるものが生まれてくることがあります。

そういう丁寧なプロセスを経て生まれたビジョンは【文章】としては、ごく当たり前のものになっているかもしれません。

しかしそのビジョンに対する一人一人の【状態】は、素晴らしく意欲的で前向きなものになっているということが起こるのです。

  

ビジョンの作り方・浸透についてはこちらの記事でも詳しく紹介していますので、是非ご覧ください。  

いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。

  

[Vo102. 2021/12/07配信号、執筆:石川英明]