Vol.117 社員のエンゲージメントが高まるとはどういうことか?

今回のご相談内容

今回は前回に引き続き、こちらのお悩みにお答えしていきます。

新卒や第二新卒など若い人材を中心に採用をしているのですが、採用した人材が育ってきたなというタイミングで転職していってしまいます。今の事業をしっかりまわせる状況を作り、新しい事業にどんどん挑戦していきたいのに、人が定着しないために組織が安定せず、スピードが出せないような状況です。

業界全体で社員の定着率が高くないというのはありますが、単純にこのまま毎年採用コストがかかり続けるのはしんどいです。人材の定着率を高めるためには、もっと採用に力をいれて、うちに合う人材を採用できるようにするべきなのか、入社してからの育成面で頑張るべきなのか、どのような観点で考えていけばいいのでしょうか。

石川からのご回答

社員のエンゲージメントが高まるとはどういうことか?

最近よく会社を舟に例えて説明させていただくのですが、転職が当たり前の今の時代においては、「ちょっとでも居心地の悪いところがあると、別の舟に乗り換えようとする」ということが起こります。

「この舟、空調が悪くて暑いな」とか、「この舟、ちょっと雨漏りしてて危ないか」とか、そうなってくるとすぐに「この舟から脱出して、他の舟に乗ろう」となってきます。

なので、人材獲得競争においては、「いかに快適な舟か」ということをアピールし、提供する必要があるという認識が広がっていると思います。「素敵な社食がありますよー」「残業は少ないですよー」など、舟の快適さをアピールして、人材を採用していかなければならない、そんな感じが強くなってきているように感じています。

人材紹介会社のCMは、ネットであれテレビであれ大量に流れていて「もっといい条件の会社があります」と転職意欲を刺激してきます。

出典:写真AC

同じ船の一員(クルー)だという感覚

しかし、よく考えてみると、「雨漏りしてるから、他の船に移ろう」と思うクルー(船員)というのは、どうなのでしょう。船長からしたら、悲しい話ですし、一緒に頑張っているクルー仲間も「こいつはいついなくなるか分からない」となれば、どこまでどう一緒に頑張ったらいいか分からなくなります。

「船の雨漏りを見つけたら、真っ先に自分が直そうとする」みたいなことがないわけです。

更に言うと、新米のクルーが入ってきて、船旅の技術を手取り足取り教えていたら「技術覚えたんで、他の船で活躍してきます!」と言われたら、教えた先輩クルーは切ないかぎりです。

もちろん、実際問題として、職業選択の自由はあり、転職することは個人の自由なわけですが、ただやはり周囲の人間の心情からすると、なんとも言えない気持ちになるのも事実だと思います。

「一緒に船をメンテナンスしながら、舟を漕ぎ、目的地を目指していく仲間」

こんな仲間たちと一緒に旅をしていきたいな、と思うのは非常に自然な欲求だと私は思います。

では、この”仲間感”はどこからやってくるのでしょうか?

私は昔、社員さん同士の協力がかなり薄いある会社さんで、「仲間なんだから協力し合いましょうよ」と言ったら、ある社員さんから「仲間?同僚は友達じゃないんで。協力し合う義理はないです」と言われたことがあります。

衝撃を受けましたが、そのような認知が大なり小なりあるのが現実だなと痛感しました。

友達、家族、仲間、取引先・・・人間関係の種類を表す言葉は色々とありますが「仲間」感が育まれる実際の機会というのがあります。

「仲間」「一員である」という感覚が育まれるコツ

社員同士が仲間になる一つは、協働体験です。

例えば「新入社員歓迎会の感じをやった3人組」とかっていうのは、とても仲良くなったりします。苦楽を共にするプロセスが、その3人の関係性を育むのです。意見が違ってぶつかったり、大変なポイントを協力して乗り越えたり、最後にはみんなが喜んでくれたという達成感を共有したり・・・そのことが仲間感を醸成していくわけです。

これは「社員旅行にみんなでいく」みたいなことでも醸成されますが、「社員旅行の幹事をやった3人組」は、より一層醸成されます。

もう一つ、会社全体として仲間感が醸成されるのは「会社のルール策定に関わる」体験です。

リモートワークのルールを自分たちでつくる、有休取得率向上をテーマとして自分たちでプロジェクトを推進する、評価制度改定プロジェクトに携わる・・・そのような体験が、ものすごくエンゲージメントを高めます。

「舟のメンテナンスも気づいたら率先してやれよ」という説教によっては、クルーの舟への愛着心はほとんど湧かないのですが、「舟のメンテナンスプロジェクトに参加する」という体験は、クルーの舟への愛着心をとても高めるのです。

これは、様々な企業のご支援をさせていただいてきて、体験から断言できるほどです。

「私のもの」と思うから愛でる。というのは実際にそうだと思います。

私が買った、私の愛車だから、キレイにメンテナンスしようとする。しかし、逆のこともあります。「ずっとメンテナンスしてきたから、愛着がわく」そのパターンもあるわけです。「条件がいいから入社してきた」のであるなら「条件が悪くなったら離れる」わけですし、「もっといい条件が見つかったから離れる」ことになります。

しかし「苦楽を共にしてきた」ということは全く違う関係性を作ります。

もう一つ「同じ目的地に向かって頑張っている」ということも、全く違う関係性を作ります。

ぜひ質の高いエンゲージメントを醸成していっていただければと思います。

 
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。記事に対する感想や質問などもいつでもお待ちしております!

 

[Vo117. 2023/08/01配信号、執筆:石川英明]