Vol.109 発達障害の人と一緒に働く
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今回のご相談内容
入社した時点ではわからなかったのですが、一緒に仕事をしていく間に、どうやらこれは発達障害的な傾向が強いのではないかという社員が現れました。この年次でできてほしい仕事が、他の同期入社のメンバーと比べて、これまでなかったレベルで、できないのです。
数年新卒採用をしてきて、各自ペースは多少違いつつも、期待される仕事ができるようになっていくものだったのですが、正直にこの社員については成長の壁を感じています。上司や先輩の問題かなどいろいろ考えましたが、よく観察してみると、本人が発達障害を持っている可能性が出てきました。
こういった発達障害傾向のある社員とどう向き合っていけばいいのでしょうか。
石川からのご回答
発達障害の人と一緒に働く
最近「社員に発達障害の傾向がみられるのだが、どうしたらよいか?」といった趣旨のご相談をいただくことが増えてきました。
発達障害と一口に言っても、アスペルガー症候群、ADHD、学習障害などなど特徴も様々で、また一人一人、その傾向の強弱なども違うものですから、「一律にこう対応すればよい」ということは難しいものです。
私自身、ADHDの部下(医療機関でADHDと診断された)と働いたことがあり、非常に大変な経験でした。ですから、発達障害の傾向がある部下を持つ上司、経営陣の方のお気持ちは察するものがあります。
しかし、発達障害は、もはや社会全体で5~10%程度存在すると考えられ(実際はもっと多いと指摘する専門家もいます)、学校で行くと40人のクラスのうち、2~4名程度はいるということになりますから、どう共に働いていくかということは、どの企業であっても考える必要のあるテーマとなってきているように思います。
ADHDなどの発達障害は、例えば「目が見えない」とか「車イスで移動している」といったように、
視覚的にすぐ認知できるものではありません。
それゆえに、本人も認識していないケースも多々あります。判断がとても難しいのです。
「何度注意されても同じミスを繰り返す」といったことが起こったりしますが、そうすると「サボっている」「やる気がない」といった解釈が起こることが一般的です。
「そういう個性を持った人材なのだ」というような解釈になることは、よほど発達障害などに関する勉強をしてきた方でないと難しいでしょう。
その辺りに、発達障害の方と共に働く難しさがあります。
まずは法律的な面から考えると
まず最初に大変厳しい視点から書きますが、管理職や経営者の方の素直な気持ちとして「クビにしたい」といったことが出てくることがあります。
ある経営者の方は「本人はADHDだと分かっていたのに、面接でそれを隠していた。解雇したい!」と明らかに怒っていらっしゃったことがありました。そういう気持ちが生じてくるのも、正直なところ理解できます。
法律的に確認すると「発達障害を理由に解雇する」ということは認められていないようです。私は法務の専門家ではありませんが、発達障害を理由とした解雇が現実的に難しいことは想像に難くありません。
実際問題どういうことが起こりがちか
発達障害に関する知識なく、発達障害の部下を持つと、上司の方が追い込まれていったしまうということが多々起こります。
何度注意しても同じミスを繰り返したりするので「自分の指導力がないのか、、、」「この部下のミスのせいで何度関係者に頭を下げ続けるのか、、、」といったように自分を追い詰めていってしまうことになります。
共に働いていく上で重要なのは、まずはADHDやアスペルガー症候群などの特徴をより理解し、どのような接し方が効果的なのかを知ることです。
これはまず大前提となります。
例えば、口頭での指示を記憶することが苦手→必ずメールなど文章で業務指示を出す(もしくはその場でメモを取らせる)といったことは、一つの現実的な接し方です。
アスペルガーには「皮肉などを読み取ることが難しい」といった要素があります。この特徴が強い人材であれば、複雑性の高い顧客折衝などは任せない方がよいということになります。
例えばお客様から「こんなスピードで返事が来るなんて、御社はのんびりしていていいですね」と皮肉がよせられたときに、「のんびりしていい会社だと褒められた」と解釈するというようなことがあるからです。
究極を言えば、管理職は「部下それぞれの状況個性に応じて仕事を振る」ことができれば理想と言えます。それによって部下のパフォーマンスを最大限引き出せることが理想です。
しかし、実際には「どこまで個別対応しなければならないのか」というのは、とても難しい問題です。
資料作成が得意な部下に資料作成の仕事を振り、プレゼンが得意な部下にプレゼンの仕事を振る・・・と言っても、プレゼンが苦手な部下にプレゼンをしてもらわなければいけないときも出てくるでしょう。
ましてや「朝が苦手な部下」や「コミュニケーションが苦手な部下」などとなってくると「それも上司の方で配慮して動かなければならないのか。。。」となると、非常に精神的にも、物理的にも負荷がかかってきてしまいます。
一律に求めるものを決めることで管理職を守る
発達障害の傾向が見受けられる社員がいる場合、管理職に過度の負担を負わせないために、「この役職の社員は、これをできる必要がある」といった基準を明確にしていくことが大切です。
その基準に達していないときには、もちろん昇給や昇格などはあまり起きないことになりますが、それでよいのです。
「5年目なんだからこれくらいできて当然だろう」というような一般的な基準を、発達障害を持つ社員に当てはめようとしてしまうと、当該社員にとっても辛いことになるからです。
「部下を成長させられない管理職」といった評価、印象になることがありますが、これは管理職の方と、そのさらに上席の方との丁寧なコミュニケーションは必要になります。
発達障害などについて上席がしっかりと理解を深めて「該当社員の成長について、他の社員と同じような基準で捉える必要はない」ということを、管理職に対して伝えることも大切になります。
そもそも発達障害について組織的に理解を深める
そもそも、ADHDやアスペルガー症候群といったことについて、組織的に理解を深めておくことも重要です。
例えば、そのような社内勉強会があることで「もしかしたら、私には発達障害の傾向があるのかもしれない」と自覚を深める社員もいるかもしれませんし
「私の部下は、ADHDの傾向があるかもしれない」と認識する管理職もいるかもしれません。
差別になってはいけませんが、適切に傾向を理解することで、適切な対応が取りやすくなるということは、発達障害を持つ本人にとっても、共に働く周囲の人にとっても、とても価値のあることです。
実際にあった例でいくと、ある人材(その人は発達障害の診断があったわけですが)は、法人営業の中で、複雑性が上がってくる後半のプロセスでは戦力にならない、むしろ足を引っ張ってしまうというところがあったのですが、新規開拓のドアオープナーとしては抜群の成果を出せるというようなことがありました。
本人も周囲も、特性をよく理解することで「むしろ、この領域では思い切り強みを発揮できて成果が出せる」というようなことがあったりします。
もちろん場合によっては「当社には活躍できる領域がないので、そもそも別業種を検討したほうが良い」ということもありえます。その場合には、建設的な意味で、会社と社員がよく話し合い、離職したほうがお互いのためであるということもありえるでしょう。
究極的には・・・
まず、前提として、発達障害を持つ社員に対して、一人の管理職や、一人の経営者が背負いすぎるようなことは健全でないと言えます。
その上で「個性」というものは、大なり小なりどの人材にもあるわけなので「一人一人の個性を大切にすればよい」というとてもシンプルな理屈にもなると思います。
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管理職向きの人材もいれば、プレイヤー向きの人材もいます。
細かいことが得意な人材もいれば、ざっくりスピーディに進めていくことが得意な人材もいます。
仕事中心の人生がいい人材もいれば、仕事の優先度は高くない人材もいます。
難しいことにチャレンジすることに喜びを感じる人材もいれば、同じことを丁寧に繰り返していくことに喜びを感じる人材もいます。
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そういった個性があって「それぞれの個性を持ち寄って(顧客や社会に対して)いい仕事ができればよい」と考えれば、一人一人の強みも弱みも、矯正すべきというようなものではなく、生かしあい、補いあいをしていけばよいということになります。
発達障害という特徴も、その文脈で言えば、個性の一つなわけです。
給与などの報酬や、影響力の大きい役職への昇格などについて、その貢献度合いや能力に応じて公平に行えばよいと思います。
しかしだからと言って、自社にとって給与が高くなかったり、高い役職についていなかったりする人材が、人間として価値が低いとかそういうことでは決してありません。
例えば、車いすの人材が、移動については助けを借りながら、プレゼンテーションについては天才的な力を発揮するとか。
例えば、介護や育児において労働時間が制限されている人材が、その限られた時間の中ではとても大切な役割を果たしてくれているとか。
例えば、アスペルガー症候群の人材が、周りを明るくするようなコミュニケーションは苦手としつつも、データ分析の領域で大きな貢献しているとか。
事業への貢献度合いを基準にして公平に報酬(給与)を分配したとしても、人間としての価値は、誰しも尊いのであるという認識は、とても大切なことだと思います。
その共通認識が、深く豊かに育まれている組織ほど、多様な人材がイキイキと働くことができ、活力ある組織になることは間違いありません。
今回の質問に対する回答は以上となります。
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。
[Vo109. 2022/03/15配信号、執筆:石川英明]