Vol.133 次世代リーダーを育成したい
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今回のご相談内容
「次世代リーダー」を育成したいと思い、中堅層を集めて研修をしたりもしたのですが、期待するような次世代リーダー存在が出てきたかというと、そのニーズは満たせていません。とはいえ、今後の会社のためにも、次世代リーダーが育ってきてくれることは外せない課題だと感じています。
社内で次世代リーダーを育てていくためには、どういうアプローチをするべきなのでしょうか。次世代リーダーがちゃんと育っているなという会社は何が違うのでしょうか。
石川からのご回答
「次世代リーダーを育成したい」というご要望はよくいただきます。比較的、大企業さんに多いご要望です。若手を集めて、数回の研修を実施し、能力を伸ばしたいと。「最後には経営陣にプレゼンを行う形をとりたい」というようなこともよくあります。
しかし、この「次世代リーダーを育成したい」というご要望にお応えするのはなかなか難しいものです。研修を実施し、発注者の方に満足していただくとか、受講者の方に満足していただくということは勿論あるのですが、やっている私としては「難しいなぁ・・・」というのが本音のところです。
そもそも「次世代リーダーを育成したい」というニーズを、より丁寧に見ていくとそこにはどんな意図や願いがあるでしょうか?
もちろん研修として「最終日に、それっぽく5年後に向けた事業計画を発表する」といった形をとることはできます。講師の介入度合を高めるほど、それなりにかっこいい事業計画にもなるでしょう。それは「いい研修だった」という形にはなるかもしれませんが、果たして元々の「次世代リーダーを育成したい」というニーズに応えられているのでしょうか?
通常業務と次世代リーダー研修のギャップ
次世代リーダー育成研修を行って、5年後、10年後を見据えた事業計画を検討し、発表してもらうとします。
ほとんどの場合、この研修が終了したら受講者たちは通常業務に戻っていきます。そして、通常業務の時間軸は、1週間や1か月、長くて1年程度ということが多いでしょう。目の前のやるべきタスクをこなす必要がありますから、当然のことです。
そうやって通常業務に戻っていけば「ああ、去年、次世代リーダー研修やったなぁ。」「10年後とか考えて提案したけど、あれなんか意味あったのかな?」というような状態になるのはごく自然なことです。
こういう状態に戻っていったとしてそれは果たして当初「次世代リーダーを育成したい」と言って、研修を発注した際に思い描いていたものなのでしょうか?
この状態で「当社では次世代リーダーが育ってきたなぁ」と思う人は、ほとんどいないのではないかと思います。
担当者は「当社、次世代リーダーの育成に時間とお金の投資をかけている」と言うかもしれませんが、確かにDoはしているかもしれませんが、成果に結びついているかというと、非常に難しいところです。
「最終日の発表」を何のためにするのか?
研修の締めくくりとして、最終日にプレゼンを行うという形をとることがよくあります。若手が半年かけて検討してきた内容を、経営陣にプレゼンする、というような形をとるわけです。
多くの場合、この「プレゼンの時間」の位置づけも非常に曖昧で中途半端なものになりがちです。
例えば、発表したものに対して経営陣目線で「全く話にならない。考えているレベルが低すぎる。もっとしっかり経営目線で検討できるように能力を高めてきて欲しい」と徹底的なダメ出しをするというのは一つの手です。その場合は参加者が適切に「悔しい」と思い「次回リベンジさせてください」となることが望ましいだろうと思います。
このループを数度繰り返していけば、そのプロセスを通じて「次世代リーダーが育ってくる」ということは起こってくるだろうと思います。
しかし、そもそも「今年の研修の企画だから、毎年やるとは決まっていない」とか「同じメンバーばかりが研修を受けられるのは不公平だから、来年度は別メンバーで同じ研修を行う」などという形になりがちだったりします。しかし、それで本当に次世代リーダーを育成できるかというと、これは非常に難しくなってきます。
1回きりしかやらない前提ということで「折角、若手メンバーも頑張って検討してきたので、経営陣からもポジティブなフィードバックをください」というようなことになって、大したことのないプレゼン内容でも「よく検討してくれました、素晴らしかったです」と、口だけのフィードバックが経営陣から行われる、というようなことになってしまったりします。
それで通常業務に戻っていけば「あの研修、イベントとしては面白かったけど、なんか意味あったのかな?」となってしまうでしょう。
最終日のプレゼン内容を「現経営陣の意に沿うようなもにおさめようとする」というような調整が入ることもよくあります。若手から奇抜な発想、斬新なアイデアなどが出てきたとしても、途中のプロセスで研修事務局メンバーの方がそれを止めてしまうというようなこともあります。
それでは「若手から出ないと出てこない発想力を、伸ばしていく」とか「それを経営に生かしていく」というようなことはできません。
「次世代リーダーの育成」が「プレゼン上手な優等生を作ること」なのであればそれでもいいのかもしれませんが、実際問題このAI時代には「上手なプレゼン資料を作る」だけであれば、AIの方がよほど優秀だということになります。

なぜ「次世代リーダーを育成したい」と思ったのか?
「次世代リーダーを育成したい」という大テーマについて、そのニーズを深掘りしていくと、多くの場合「既存事業の行き詰まりを感じている」「若手の発想で、その行き詰まりを打破するようなアイデアを出してほしい」というようなことがあったり、「若手のモチベーションが低い。もっと情熱や主体性や当事者意識を持って、仕事に取り組んでいって欲しい」といったようなことがあったりします。
前者の「既存事業の行き詰まりを感じている」「若手の発想で、その行き詰まりを打破するようなアイデアを出してほしい」というところから「だから、次世代リーダー研修だ」という発想になるのは大変危険なことです。
正直なところ、それは現場の若手の仕事ではなく、経営者の仕事そのものだからです。
ところが、例えば社長が「自分はあと任期は4年だし、10年後、20年後の未来を考えて作っていかなければいけないのは若手だから、若手に考えさせよう」というような発想を持っていたとしたら、それそのものを変えなければいけません。
「自分が引退するまではやればいいや。自分が引退した後のことはまぁ、残った人が頑張ってください」というようなトップの下で、若手社員たちのモチベーションが上がるでしょうか?少なくとも「この人についていきたい」とか「この人のために頑張っていきたい」というような類のモチベーションは起きないでしょう。
自分自身の任期はあと4年だったとしても、経営者として10年後、20年後の自社の未来を見据えて、足元で取り組むことと、未来への種まきと行っていく必要があります。
そのような意志であれば「人事部主導で1回だけの次世代リーダー研修を行う」というようなことにはなりません。
むしろ「当社の10年後の繁栄のために、今から何をすべきかを検討する」という社長直轄プロジェクトに、若手メンバーをアサインすることになるでしょう。そのメンバーに選ばれた社員は「次世代リーダーとして成長してくれた」ということになっていくことでしょう。
後者の「若手のモチベーションが低い。もっと情熱や主体性や当事者意識を持って、仕事に取り組んでいって欲しい」といったことが真の理由であれば、このテーマをど真ん中に置いて、会社の仕組みや研修といったものについて検討すべきです。
なぜ情熱や主体性、当事者意識を若手が持てていないのでしょうか?それは、人事制度や評価制度への不満が大きく、やる気を削いでいるからかもしれません。会社の将来性に対して不安を感じて、会社へのロイヤリティが下がっているからかもしれません。直属の上司のマネジメント力に問題があり、上司との関係性に問題を抱えているのかもしれません。
もしそのようなことがあるとしたら「次世代リーダー研修」をやったとしても本質的な解決策にはなりにくいでしょう。
人事制度や評価制度への不満が大きいようであれば、若手社員に「人事評価制度刷新プロジェクト」を任せてみるというのも非常に有効です。検討観点について適切にサポートすることが出来れば、人事評価制度についての真剣な検討機会は、社員を大きく成長させることにつながります。
若手社員が会社の将来性に不安を感じているのであれば、経営陣がしっかりと長期的な展望を示して、若手社員が納得できる、安心できる状態を作っていくべきでしょう。
直属の上司のマネジメント力に問題があるのであれば、研修を受講するのは若手ではなく、上司の方がマネジメント研修を受けて、しっかりとマネジメント力を高めていくことこそが必要になるでしょう。
「次世代が育っている」会社はどんな会社か?
ちゃんと「次の世代が育ってきているな」という会社があります。そういった会社は、もちろん研修なども実施していますが、最もしっかり行われているのは「チャンスを与える」ということです。それが最も端的に現れるのは人事異動です。
ポテンシャルのある人材を、例えば新規事業室長に異動させて、3年間新規事業立ち上げの苦労を体験させるとか、海外支店に異動させて、異文化でのマネジメントの苦労を体験させるとか、そういったことをして次世代リーダーを育成しているわけです。
私は「研修」の仕事も多くやらせていただていて、研修は研修で意味があり、価値があるものだと思いますが、やはり研修は手段でしかないので、研修以外の手段が適切であればそちらをお勧めします。
次世代リーダー研修を否定はしませんが、研修だけで次世代リーダーが育つということはなかなかありません。トータルの設計として、例えば「研修の中で光っている人材を見つけ、その人材を苦労の多い大変なポジションにその後異動させる」というようなプロセスを描いていた方が、やはり成果を出せることになります。
選抜研修を行い「同世代の出世争いのライバルたちを集めて、競争心をたきつける」というようなことが目的であれば、それも機能することでしょう。「今後は、経営チームとして動いていくことが重要だから、関係性を高めて、チームとしてのディスカッションの質を上げていって欲しい」というよう意図でも”研修”を実施する価値があるでしょう。
[Vo133. 2026/03/03配信号、執筆:石川英明]



