Vol.134 利益追求とコンプライアンスは本当に両立不可能なのか?

今回のご相談内容

会社を成長させるためには、現場への高い目標設定や利益追求のプレッシャーは避けられません。しかし、近年の大手企業の不正ニュースを見ると、その「攻めの姿勢」こそがコンプライアンス違反の引き金になっているようにも見えます。利益追求と不正防止を両立させるための、組織構造のあり方を教えてください。

石川からのご回答

社会が企業に向ける目は厳しくなっています。

大企業においてコンプライアンス違反が発覚すると、企業イメージが大きく損なわれ、売上、利益の減少に直結してしまいます。「コンプライアンスの遵守が重要だ」ということは社会的に広く共有されていると思いますが、しかし、コンプライアンス違反、不祥事といったことは起き続けています。

原因は何で、どういった対策を取ることが必要なのでしょうか?

研修だけでコンプライアンス違反を防止できるのか?

「コンプライアンス違反防止研修」といったものが実施されることがあります。

コンプライアンス違反の事例はこういうものがありますよ。
こういうことはしちゃいけないんですよ。
これもコンプラ違反になるから気を付けてくださいね。

そういったことを研修で社員に教えるわけです。

しかし、コンプライアンス違反防止研修をやることによってコンプライアンス違反防止が出来ているケースはほとんどありません。実際に、コンプライアンス違反が生じた企業においてもコンプライアンス違反防止研修は実施されていたケースがほとんどであろうと思います。

それでもコンプライアンス違反が起きてしまうのだとしたら、違反防止研修には意味がない、実効性がないと判断せざるを得ません。

では、コンプライアンス違反は、なぜ起きて、本質的にどんな対策をとれば防止できるのでしょうか?

コンプライアンス違反が起こるケース

コンプライアンス違反が起こるケースは、大きく3つに分類できます。

1.ブラックボックス
2.現場への過剰なプレッシャー
3.特権意識

楽天モバイルの事件などは「1.ブラックボックス」の典型的な例です。情報がクローズになり特定の個人が「ズルができる」環境が出来てしまうと、それはコンプライアンス違反の温床になってしまいます。

「2.現場への過剰なプレッシャー」は、どこの会社でも持ちうるものです。ビッグモーターの件はその異常さが大きなニュースになりましたが、トヨタやダイハツといった企業においても認証試験の不正が発覚しました。少し前には、建設業における耐震偽造事件もありました。

製造業や建設業などは特にそうですが、短納期化やコスト削減のプレッシャーは現場に常にあります。これはコンプライアンス違反の原因となる根深い問題です。

近年では、フジテレビが大きな話題になりましたが、経営層や政治家におけるパワハラやセクハラの事例は枚挙にいとまがありません。これらは「自分たちは特別なので、社会常識と違うことをしてもOK」という意識が垣間見えます。

実際にコンプライアンス違反が起こる場合「ブラックボックス×現場への過剰なプレッシャー」とか「特権意識×ブラックボックス」といった掛け合わせになっていることも多いと思います。

こう見ていくと「そもそも、企業は常にコンプライアンス違反の危険性を抱えているもの」と捉えた方が適切だと思われます。

「自分は絶対に間違わない」「自分たちは絶対に間違わない」という意識ではなくて「自分たちは間違いを犯す可能性がある存在だ」という意識を持つことこそが、コンプライアンス違反対策のスタートラインだと言えるでしょう。

コンプライアンス違反が起こる企業の構造

「2.現場への過剰なプレッシャー」と「3.特権意識」について考えてみます。

企業活動において、これらを取り除くことはできるでしょうか?

企業活動において、売上をもっと伸ばす、コストをもっと下げる、利益をもっと増やす・・・といったプレッシャーが組織内に存在することはごく自然なことです。

「コンプライアンス違反防止のために、利益追求することをやめましょう」などという提言は現実的でしょうか?

利益追求は、民間企業の活動の本質の一つと言えます。「不正をしてまでも利益追求をしてはいけない」わけですが「利益追求をするな」とはなかなか言えません。確かに、一部の企業においては、売上や利益のプレッシャーがそれほど強くないケースもあります。そういった会社はコンプライアンス違反は生じにくいものです。

しかし、多くの企業にとって「利益追求の旗を降ろす」というようなことは難しいはずです。

もう一つの特権意識についてもですが、これも企業の存在の仕方に深く絡まっています。ほとんどの企業は、ヒエラルキー構造を持っていて「上に行くことをモチベーションとする」というような形を取っています。昇進、昇給ということを働くエンジンとしているわけです。

「上に行きたい」と「上の方が偉い」はセットです。上に行くほど、特権階級のようになっていくという意識は間違いなくあります。上に行くほどより自由になり、縛りがなくなり、「普通と違っていても許されるようになる」・・・というような感覚です。

また、例えば部下が上司のコンプライアンス違反を発見したとしても「黙っておいてくれ。そうしたら悪いようにはしない。」「これを上に報告したら、君がどうなるか分かっているか」などと圧をかけるということももちろんあります。(どこかのドラマのようですが、実際にこのようなことは起こります)

これはヒエラルキー構造と密接に結びついていることなので、この構造を解体することも多くの企業にとっては非常に難しいものになります。だからこそ、古今東西、企業におけるコンプライアンス違反というのはずっとずっと何度も発生し、ニュースになり続けているのです。

コンプライアンス違反を本質的に防ぐためにできることは

コンプライアンス違反は、例えば「トップの倫理観が高ければ防げる」というようなものでもありません。もちろん、経営陣の倫理観は高い方がいいに決まっているのですが、それでも「長年信頼していた経理部長が、不正を働いてた。裏切られた」というようなことは起こるものです。

コンプライアンス違反を防ぐために、本質的に重要なことは「透明性」です。透明性が高ければ高いほど、コンプライアンス違反は生じにくくなります。

コンプライアンス違反が生じるのは、ほとんどの場合“密室”です。「魔が差して」「目を盗んで」行われるものです。密室の状態をとにかく作らないことが、コンプライアンス違反を発生させない鍵です。

データの管理という観点で行くと、ブロックチェーン技術を活用することが重要です。「データを改ざんしたとしても、その改ざんの履歴も必ず残る」という状態であることは、”魔が差してしまう”ということへの抑止力となります。

定期的な異動も、効果のある対策と言えます。上手くいっている人材を、上手くいっている部署から異動させるということは、経営上のリスクもありますが、密室化、ブラックボックス化を防ぐという意味では非常に効果的です。

経営陣のできることとしては「報告書を信じるだけでなく、現場を見て回る」もあります。労力はかかりますが、密室化を防ぐには効果的です。

コンプライアンス違反は、いつどこで起こってもおかしくない、企業が”常に抱えているリスク”です。

「普通と違った、倫理観の低い人間が引き起こす例外的なこと」ではないのです。「真面目で優秀な人材でも、悪い意味で環境が整っていて魔が差してしまえばやってしまうもの」です。そしてそれは、経営陣においても、現場においても、どんな階層でも起こりえます。

根底の原因は、ヒエラルキー構造や、利益追求といった、営利企業の根本的な構造と密接に結びついています。企業におけるコンプライアンス違反防止対策を考えるときには、この根本的な構造を理解していなければなりません。

性善説、性悪説というものがありますが、性弱説という考え方もあります。

例えば、100万円の札束が、道端にポンと落ちていたとします。この時、倫理的に正しい行動は「拾って、警察に届け出る」ということになります。

しかし、もし全く人けのない場所であったらどうでしょう?「これ、拾って自分のものにしても、誰も気づかないのでは?」という思考が一瞬もよぎらない、ということはなかなか難しいのではないでしょうか。

これが街中で、自分以外の人も「あれ、札束が落ちているな」と明らかに気づいている、というような状況であればどうでしょうか?

普通の倫理観を持っている人でも「絶対にバレない」というような認知が起こる状況では、間違った行動を起こしてしまう可能性があります。

人が弱さに負けてしまわないように環境を整えること、つまり密室化を防ぐことが、企業のコンプライアンス違反の防止のために、本質的に重要なことであるでしょう。

 

[Vo134. 2026/04/07配信号、執筆:石川英明]