Vol.10 幹部社員の意識を高めるには?
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今回のご相談内容
社長の私一人で頑張っているような状態が続いています。
幹部社員たちには、中長期的な計画や会社全体の施策などを私と同じような目線で考えられるようになって欲しいのですが、なかなかそうなってもらえていません。一体、どうしたら幹部社員たちの意識は高まっていくのでしょうか?
石川からのご回答
「社長」と「社長以外」の溝は、なかなかに深いものがあります。これは、これまで数多くの企業様のご支援をさせていただいてきて実感するところです。
社長はまさに「最終責任者」です。
そして、それ以外の人たちは「最後の責任は、自分以外の誰かが負う」と思っています。同時に「最終的な決定権は、自分にはない」とも思っています。
もう一つ、端的な観点としては「転職」というものがあります。
私は、多くの社長様にお会いしてきましたが「転職」という選択肢を持っている社長はほぼ皆無でした。ほぼ全員の社長様は「自社をどう経営していくか」しか考えていません。
しかし、社長以外は「転職」という選択肢を持っています。「この会社がダメになったら」「この会社が合わなくなったら」転職しよう、そういう考えを、心のどこかでは持っているわけです。この差は、かなり大きなものがあります。
ですから、今回ご相談いただいた内容に対しては、私としては「お気持ちはとてもよく分かります。。。」「しかしながら、これはそんなに簡単な話ではありません。。。」というのが、まず最初の率直な気持ちなのです。
とは言え、それだけ済ませてはこの記事の意味がありませので、難しいことだということは前提の上で、どういうことをしていけば少しでも幹部の方たちが社長目線に近づいていけるのかということについて書いてみたいと思います。
社長と幹部の違いは”意志”
社長は
- 「会社をこうしていこう」
- 「会社をこうしていかなければ」
といった意志を、自然と持っていらっしゃいます。それは、トップとしての責任感だったり、リーダーとしての情熱だったりします。
しかし、幹部の方は前述したように
- 「最後は社長が決めることだ」
- 「社長が決めたことに従うのだ」
と思っている方が大半です。
まずは、この溝を埋めるようにしていくことが一つです。
簡単に言うと「社長どうしましょう?」「こうしないとダメだろう!」と指示や答えを与えていたコミュニケーションを変える、ということです。
「社長どうしましょう?」と聞かれたら「君が、どうしたいのか、どうするべきだと考えているのか、それをまとめて提案しに来てくれ」と返す、ということです。
これをやり始めると、最初は禁断症状が出てきます。幹部の側にもですが、社長の側にもです。
社長の側の禁断症状としては
- 「アドバイスしたい!」
- 「答えを教えてあげたい!」
という症状が出てきます。
幹部の側の禁断症状としては
- 「なんで教えてくれないんだよ」
- 「今までは教えてくれてたじゃないか」
- 「社長、職務放棄かよ」
という感じの症状が出てきます。
しかし、この禁断症状を乗り越えると幹部からの「私はこのようにしていきたいと思っていますが、社長よろしいでしょうか?」という”意志”が出てくるようになってきます。(実際にそうなるのには、1ヶ月でなる会社もあれば、1年以上かかる会社もあります)
まずは、大方針として、社長と幹部の溝を埋めるには「君はどう考えるんだ?」と”問う”ということが最重要だとご認識ください。
問うことの難しさ
さて、実際に問うだけで、幹部が目覚ましく成長するのであれば、どの社長もそれを実践して、その効果を享受しているはずですが、ことはそう簡単ではありません。
次に出てくる壁は「問うても、間違った回答や、質の低い回答しか出てこない」というものです。この壁にぶち当たって「えーい!やはり自分が指示・指導するしかない!」と元に戻る経営者の方も多いのです。(そして、それが悪いわけでも間違いなわけでもありません)
質の低い回答が出てきた場合は、「より質の高い問いで考えさせる」というのが重要になります。これがいわゆるコーチングの技術です。
例えば単純に「どうやったら売上を伸ばせるだろうか?」と問うて、「頑張ります!」と返ってきたとします。さて、ここから腕の見せ所です。
「うんうん、頑張る。いいね。具体的に、どう頑張ると前年同月より売上が増やせそうだろう?」
「そうですね、まずはお客様のリストに一通りもう一度連絡してみます」
「おお、いいね。どんな連絡の仕方だとお客様からの反応がいいだろうね?」
「・・・。反応・・・。まずは連絡してみますが。。。」
「自分に業者から連絡がきたとして、”最近いかがですか?”って聞かれたら、どう思う?」
「・・・、いや、お前に今は用はないよとかって思いますね。。。」
「僕らはそう思われちゃ困るよね?」
「ですね。。。うーん。。。」
「逆にさ、今まで”この業者、いい連絡してくるなぁ”ってのはあった?」
「うーん。。。あ!割とよく”競合がこんな動きし始めたのご存知ですか?”って連絡してくる人がいて、結構知らないこと教えてくれるんで助かってる、という人が、一人だけいますね」
「うんうん。」
「そうか!ただ連絡するだけでなく、お客さんの競合の動きとかをちょっと調べてから電話するとかするだけで違いそうですね!やってみます!」
「うんうん!」
・・・このような感じで「問いかける」「引き出す」ということがしていければ最高です。
成功体験を積ませる
”自分なりに解を導き出して、実行してみて、成果が上がる”というサイクルを経験してくると、だんだんと仕事が楽しくなってきます。そして、仕事への能動性や積極性が高まってきます。
「問いかける」というのはちょっと手間です。
最初から「競合調査をして、その話をお土産に顧客リストに電話せよ!」と指示したほうが簡単です。しかし「自分なりに考えてみて、解を導き出して、実行してみて、成果が上がる」という経験を積むことができません。「言われた通りやったらできた」もしくは「言われた通りやったのにできなかった」という経験しか残らないのです。
しかし「教える」から「問いかける」へ方針転換をして、幹部自身が「自分で考える」ことが身についてくると、これが変わってくるわけです。こうなってくると好循環で「自分で考える」⇒「結果が出て楽しい」⇒「もっと自分で勉強したくなる」⇒・・・ というようになってきます。
実際に、私がご支援してきているある会社様では、当初は「社長一人で頑張っている感じで・・・」という状態でいらっしゃったのが、かなり幹部と社長の目線が近づいてきました。
これは
- 「会社の目標設定について問いかける」
- 「会社の営業戦略について問いかける」
- 「会社の人事制度について問いかける」
といったことを愚直に繰り返してきた結果です。
正直なところ、社長と幹部との間にまだ”差”はあります。ありますが、その差は以前よりもかなり小さくなってはいて、社長様からもその点は非常にご満足いただいています。
完全に差をなくすことは難しいですが、差を縮めていくことはできますので、本日の内容も参考にしていただければ幸いです。
今回のご相談への回答は以上になります。お役に立つところがあれば幸いです。
[Vol.10 2018/05/22配信号、執筆:石川英明]