Vol.93 令和の悩み ~部下育成とパワハラの問題

今回のご相談内容

なんでもかんでもパワハラとされてしまうことに恐ろしさを感じています。

上司が注意するとか、指導する、アドバイスをすることすら、パワハラ扱いです。論理的な指摘やアドバイスでも、社員が「人格否定された!」と捉えて訴えたら、こちらは非常に弱い立場です。

特に若手社員に対してほど、上司や先輩が「教える」という場面はどうしたって出てくると思いますし、訴えられるのを恐れて部下に何も言えない状況が会社のためにもお互いのためにもいいとは思えません。

もちろんすべての社員がそういうわけではありませんが、何かとパワハラだと騒ぎ立て成長しない部下や若手に対して、管理職や上司の立場の人間はこれからどうしていけばいいのでしょうか。

石川からのご回答

先輩が後輩にちょっとアドバイスをしただけで「あの人、上から目線でうざい」とか言われてしまったりします。怖ろしいことです。。。

「上から目線」もなにも、実際に上の人であり、経験が多い人であり、先輩なわけですから、上から目線であることの方がむしろ自然だったりするわけなのですが、、、

しかし、そういった上下関係的なものが、流行らなくなってきたとか、嫌われるようになってきたとか、機能しなくなってきたというのは、流れとしては間違いなくあると思います。

しかしこれが過剰となると、上司が部下に

「それでは上手くいかないから修正しなさい」
「その提案は却下する」

みたいな話をするのも、なんでもかんでも全部パワハラだということになってしまいます。
   

それを「パワハラだ!」と騒ぎ立てる部下の方に問題があったとしても、実際に弁護士を連れてこられて訴訟になるという話になれば、会社としても大きな負担になってしまいます。

今回のご相談内容はまさにこれからの時代の大きなテーマになってくるでしょう。

こういうような状況に対して、どのような対処が適切なのでしょうか?
   

出典:写真AC

“あたりまえ”の共通認識が変わってきているという問題

自分の意見を否定されることは、気持ちがいいものではありません。

「なんで否定するんだよ」
「なんでそんなこと言うんだよ」
「認めてくれよ」
「なんでそんな言い方するんだよ」

そんな気持ちが出てくるのは普通にあることだと思います。

とは言え一方で、間違っていることや足りないことは、指摘されなければ気づけないこともありますし、反省して、自分を変えるべきときもあるものです。
   

例えば始業時間に遅刻して、上司から「遅刻するなよ!」と怒られたとして、これも一つの自分の行動への非難、批判ということになるかと思いますが、「遅刻は悪いもの」というものが上司と部下で共有されていれば、この「遅刻するなよ!」というコミュニケーションが問題になることはあまりありません。

「理不尽に叱られた」と言って、パワハラだと騒ぐようなことにはあまりならないと思います。
   

しかし、例えば営業資料を作っていて、資料のデザインを青色中心に作ったときに上司から「青はないだろ。赤にちゃんと修正してね」と言われたらどうでしょうか。

これは部下としては、それが良いと思って青色にしているときに、根拠もなく否定されたと感じて、傷ついたり、腹が立ったりするということは、遅刻のケースと比べると起こりやすくなります。

もちろん上司の方が経験が豊富で、青色の資料ではお客さんの評判が悪く、赤色の資料の方が評判が良いといったデータベースを持っているからこそ、そういう判断になるわけなのですが、そのデータベースを共有していない部下からすると「頭ごなしに否定された」と解釈してしまうということが起こってしまうわけです。

昔の方が「目上の人は敬うもの」「目上の人のアドバイスは効果的で貴重なもの」という共通認識も強かったでしょうが、今は色んな事が変化が激しく、「考えが古臭い」「老害」などと捉えられることも増えています。

そうなると、「青はないだろ。赤にちゃんと修正してね」という言葉だけでは足りなくて

「私の100社からの経験を共有します。100社のうち、99社は、青色じゃなくて赤色をお客さんは好んできた。青色の資料を出したこともあったが、毎回評判が悪かった。だから、今回も赤色の資料にした方が上手くいく確率は高いと思っている。上司として失敗確率の高いまま仕事を進めさせられないので、今回は青に修正して持っていってくれ」

というような説明を行う必要もあるでしょう。
   

場合によっては、若い部下が、若い顧客とやり取りをする際に「青色の方がいい」ということが起こるということもあり得ます。それはあり得るため「自分のデータベースでの確率論が絶対ではない」ということも認識はしておく必要があります。

ただ、実際には、経験値の少ない、考え抜いている度合も少ない部下のアウトプットの方がレベルが低いということの方が多いわけですが。
    

部下のリテラシーを高めたいときに気を付けることは

部下の方も

「自分の意見が否定されることはある」
「自分の意見が否定されたときに、大概の場合は上司の方が正しいことが多い」

ということは認識しておく必要があります。

この部下側のリテラシーが低いままだと、部下のマネジメントは非常に苦労しなければならないところがあります。
   

部下側のリテラシーを高めようとするときに

「上司からは直接言いにくい」
「第三者が伝えた方が効果的」

というのは非常にあるなと思っています。
   

上司が

「お前は、経験も少なくて、未熟なので、ほとんどの判断は間違うし、俺の判断の方が正しいことがほとんどなので、言うことを聞くように」

と直接部下に言ったとしたら、今の若い部下であれば、これを素直に受け止められる人はなかなかいないのではないかと思います。
   

しかし、これが例えば、先輩社員から

「そりゃお前、ちょっと傲慢ってもんだよ。部長の方が経験もあって、正しい判断の確率は高いだろう。しかも、その判断理由を全部事細かに説明する時間もないんだよ、忙しいから。青色で持っていって、赤色にしろって言われたら、なんで赤色の方がいいかは自分で考えたり、調べたりしてみなよ」

と言われたとしたら、受け取りやすさはかなり変わってくるでしょう。
   

新入社員研修などで、外部の研修講師を使うことも多いかと思いますが、このような場面で、まさに外部の第三者である研修講師から、こういった点を伝えていくことも効果的です。

例えば上司が「おい、お前残業が多すぎるぞ。コストの高い人材ってことだぞ!」と言ったら、パワハラで訴えられてしまうかもしれませんが、研修講師から「ビジネスの本質を考えたら、同じ仕事をして、業務時間内に終わらせられる人と、残業になってしまう人とで、後者はコストの高い人材だということです」と伝えることは、上司が直接言うよりもずっと難易度が下がります。

こういった部下側のリテラシーを高めるような教育ということも、組織として上手に行っていくことも必要でしょう。
    

   

「パワハラ」というような問題は、上司の側にももちろん気を付けるべきところがありますが、部下の方でも理解しておかなければなららないところがある、両面性のある問題だと思います。

これを一人一人の「上司の責任」に全て押し付けるのではなく、会社全体として「パワハラ」という現象が生じにくいように、役割分担や、管理職のトレーニング、部下の側のリテラシー向上など、多面的に取り組んでいくことが肝要だと思います。
   

今回お伝えしたように、部下に知っておいてもらいたい「仕事の常識」「リテラシー」を上司が教えようとすると、部下が曲がって受け取ってしまいスムースにいきにくいところは確かにあります。

もし会社の健全性を高めるために、外部のちからも使って社員教育の場の設計をご検討されているようでしたら、是非お気軽にご相談いただけますと幸いです。

弊社代表 石川は、組織開発総合支援の一手として社員研修の経験も豊富です。上場企業の管理職研修などを含め、延べ800日以上の登壇実績がございます。中小企業向けに、各社の状況に合わせた社員教育の場もご提案できますので、まずはお気軽にご連絡ください。

資料請求/お問合せまずはお気軽にご連絡ください

フォームへ移動

   

今回の回答は以上となります。最後までご覧いただきありがとうございます。

編集後記

私は最初、外資系コンサルティング会社に勤めていて、夜中まで仕事をしていることも普通の会社でした。今でいえば完全にブラック企業ということになるんでしょう。

同期でその会社にずっと残っているメンバーがいて、立場もかなり上の方になっていたりするんですが、ちょいちょい飲みに行ったりします。

そこで話を聞くと「いやー、昔みたいなのはもう全然無理だよ」「終わってないの?じゃあ徹夜してでも終わらせて、とか絶対言えないよ!」みたいな会話になります。

時代の流れを感じます。

健全な会社になっていっているのだなぁとも思いつつ、修行する道場みたいにも思っていた私からすると、寂しいような気持ちも正直あります。
   

さらに話をしていると「もう、部下と面談とかしててもびくびくだよ。いつパワハラって訴えられるか分からない。みんな胸ポケットにレコーダーを隠している、くらいのつもりで面談とかしてるよ。。。」みたいな話も出てきます。。。

上司受難の時代、と言えるかもしれません。

[Vo93. 2021/09/29配信号、執筆:石川英明]