Vol.114 企業で多様性はどこまで認めればよいのか?

今回のご相談内容

LGBTQやダイバーシティなどといった言葉に代表されるように、様々な領域で「多様性」という言葉が見受けられるようになりました。企業としても、多様性をどう扱っていくべきなのか、無視はできない問題だと考えています。

ただ、何でもかんでも多様性を尊重し、受け入れて対応していくというのは、企業として負荷も大きく、どうなんだろう?と思うところも正直あります。

会社組織において、多様性の問題はどのように考えていけばいいのでしょうか。

石川からのご回答

これほど「多様性」という単語が強く、影響力があり、正義である時代が過去にあったでしょうか?正直なところ、私(2023年現在44歳)が若い頃には、これほどまでに多様性という言葉に強さはありませんでした。

私が対の言葉として感じているのは「常識」ですが、以前は「社会人としての常識」といったようなことがもっとずっと大切にされていました。今は「常識は人それぞれ違う」「自分の常識を人に押し付けてはいけない」というようなことが非常に強くなっていると思います。

こうなってくると、何を正しいとして、その正しさを基に「叱る」や「教える」ということをしてよいのか、はなはだ分からなくなってきます。これは組織マネジメント上、非常に難解な問題だと思っています。

会社で多様性はどこまで認めればよいのか?

なんでもかんでも「多様性を尊重する」としていくと、組織としてはどんどんと収拾がつかないことになっていきます。

服装も自由でよい。個々人の選択を尊重する。
働く場所も自由でよい。多様性を尊重する。
勤務時間も自由でよい。朝型でも夜型でもお好きにどうぞ。

・・・だんだんと「会社」としては、デメリットも生じてくることになります。

勤務時間が「同時」でなければ、同期的なコミュニケーションはできなくなります。

挨拶はどうでしょうか。

挨拶をするのも、しないのも、個性であり、多様性を尊重しましょう・・・となってくると違和感を感じる方が多くなってくるのではないでしょうか。

しかし「なんで、挨拶が常識みたいなのを押し付けてくるんですか。もっと多様性を尊重してください」と言われたときに、どのような合理的な理由によって反論をするのでしょうか?

「”やる気がない”という個性も尊重してください。多様性の時代ですから」と若手に言われたらどうでしょうか。

多くの経営者・管理職にとっては、受け入れがたい”多様性”ではないでしょうか。

出典:ぱくたそ

会社で多様性を認められない領域

まず、組織(や社会など、2人以上の人間が関わっている共同体)にはルールというものがあります。

「赤信号は止まる」というルールは、共有されている必要があります。「赤信号で止まるかどうかも、個性の問題で、多様性を尊重すべきだよね」というわけにはいかないのです。それは「命の危険」という明確なデメリットがあって、それがメンバーにとって想像できるので「このルールはみんなで守る必要がある」という風に認識できます。

このように組織には「効率的、効果的に運営していくために設定されたルール」というものがあります。

よいルールは、「なぜこのルールを守る必要があるのか」を説明されたときに、一人一人が納得感を持てるものです。

では「朝9時にオフィスに出社する」というルールはどうでしょうか?

確かに、就業規則にそう書いているので「守るべきものだ」と、社長、管理職、人事部長は言うかもしれません。しかし、社員一人一人に納得感があるというと、難しくなってきます。「10時でもよくないですか?」「今どき、出社前提である必要ありますか?」といった意見が出てくる可能性は十分にあります。

「それでも、うちの会社では、絶対に朝9時にオフィスに出社するのがルールだ」ということを本当の意味で機能させるには、「なるほど、そういう理由だから、うちの会社は9時にオフィス出社が必須なんだな」と全社員が納得する説明が必要です。

そうでなければ、形骸化したり、納得いかない社員が離職したりすることは起こるでしょう。

均質性の高さの重要性

ちょっと違った視点から多様性について考えてみます。

多様性が高い、ということはバラバラであるということです。逆の方向性は何かというと、均質性が高いということです。一致している、似ている、ということになってきます。

実は、組織にとって「均質性の高さ」というものは、とても大切なものです。というのは、均質性が高いからこそ「一緒に喜べる」「一緒に頑張れる」「一緒に悔しがれる」といようなことが起こるからです。

例えば阪神ファンは、阪神タイガースが試合に勝った時に、一緒に喜べます。その時間はとても豊かで、幸せなものです。「阪神が勝つ」という目的に向かって、試合の最中も一生懸命応援するという時間を共有できます。

これはつまり、均質性が高いからです。

「何を目的としているか」「何を喜びとしているか」「何を悲しみとしているか」といったことの一致度が高いからこそ「同じ阪神ファンと一緒にいると楽しい」のです。

同じ試合を「阪神ファンと巨人ファン」で見に行ったらどうなるでしょうか。とてもストレスフルな状況になることは容易に想像できます。「わざわざ一緒に見に行く必要があるのか?」という疑問が出てきて当然です。

そうなのです、会社においても、「そんなに価値観が合わない人と同じ職場で働いている必要があるのか?」という状況は生じます。

「多様性は正義」と思考停止してしまうと、「とにかくこの合わない人とも一緒にいなければならない」となってしまいますが、「本当に一つの組織の中で、この価値観の違いが共存している必要があるのか?」ということはよく考える必要があります。

私たちは何を大切にしているのか?の明文化の重要性が増してきている

多様性の重要性が叫ばれている現在だからこそ、実は組織にとっては「私たちにとって譲れない均質性」を明文化する必要性が高まっているのです。

もしその組織としてのコアとなる文化(均質性)がなければ、組織はバラバラになって崩壊してしまいます。「私たちは●●を大切にしている組織です」というものがあって、その上で「●●以外の多様性については尊重していきます」ということができていくわけです。

もし、極端に「とにかく多様性こそが最重要です」みたいにしてしまったとしたら、

どんな売上を目指すのか、どんな商品・サービスでやっていくのか、どんな働き方や人事制度なのか・・・というのも全てバラバラになってしまうということになります。

ここ数年でも、何社も「自分たちの理念や存在意義を再定義する」「自分たちの大切にしたい価値観や文化を共有する」といったプロセスをご支援してきました。それは、会社としての求心力(均質性)が非常に重要であると認識している経営者の方が多いからだと思います。

自分たちの理念、存在意義、価値観などの均質性を高めていくことによって、社員がより理念に向けて自発的な創意工夫をしたり、協働する仲間たちと、喜びを分かち合えるということが起こるわけです。

一方で「多様性を尊重する」という側面のご支援も長年ずっとやってきています。

分かりやすいところで言えばギャラップ社のStrength Finderを活用して、「それぞれの思考パタンや、得意・不得意にはかなり個性があり、多様性がある」ということを、職場のメンバーでお互いに認識してもらい、その個性をどう生かしあうか?といったことを検討していただく・・・といようなことも多数ご支援してきています。

参考:事例/お客さまの声

しっかりと理念や文化の共有を行い、ルールとして定めるべき部分はルールとして定め、多様性を大切にし個性を生かしていくところは生かしていく。

これらにバランスよく取り組んでいけると組織は非常に活性化します。

 
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[Vo114. 2023/04/04配信号、執筆:石川英明]