Vol.130 社員が仕事に対してポジティブな労働観を持っている組織とは?

今回のご相談内容

社員がどういう姿勢で仕事をしているかは、会社全体の雰囲気を左右するだけでなく、企業としての競争力などにも大きく関係があるように思います。経営者の立場としては、組織力をあげていくという点でももちろんですが、社員には仕事を楽しんでほしいと思うので、仕事に対して、前向きに、意欲的に、挑戦的な姿勢でいてほしいです。この「労働観」みたいな部分は、やはり採用の時点で見極めることが大事なのでしょうか。それとも会社に入った後に、育んでいくことができるものなのでしょうか。

石川からのご回答

社員の労働観は組織の競争力に直結する重要な要素

社員一人一人が持っている「労働観」は、組織の俊敏性や競争力に直結する重要な要素であると言えます。

「言われたことをやるのが仕事だ」
「評価項目にあることをするのが仕事だ(それ以外はしない。無駄。損)」
「役割範囲は決まっていて、その範囲の中のことをするのが仕事だ→範囲の外のことは興味がない」
「お金(お給料)をもらうために仕事をしている。お金を稼がなくていいのなら仕事なんてしない」
「仕事は時間の切り売りだ」

こういった労働観を持った人はたくさんいます。むしろこれがスタンダード、普通の感覚かもしれません。

しかし、このような労働観のままで「いい仕事」をすることは難しいかもしれませんし、創造的な仕事、イノベーションを起こすような仕事をしていくのは尚更困難でしょう。今後AIに取って代わられるという意味においても、このような労働観でいるとキャリアが厳しくなっていくとも言えます。

労働観はどのように醸成されるのか?

労働観というものはどのように形成されていくのでしょうか?

昔、そのことに大変興味を持って「楽しそうに仕事をしている」人たちにヒアリングをしたことがあります。その人たちは全員共通で「周りの大人が楽しそうに仕事をしていたから」と答えました。私の周囲にいる、サンプル数10名くらいの話なので、統計的には価値を持ちませんが、かなり真理に近いところにあるような気がしています。

一方で、ネガティブな労働観もまた、身近な大人の影響が大きいものと思われます。

以前、運営していた就活塾での経験をはじめ、たくさんのキャリアの相談に乗ってきましたが、就職や仕事に対してネガティブなイメージや偏ったイメージを持っている人も、多くは家庭をはじめとする身近な大人の言動の影響を大きく受けていました。

「大きな会社に入りなさい」「安定している会社なのが大切だ」などのように、直接言葉として言われているケースもありますし、家にいるお父さんが会社の愚痴を言っていたとか、土日は普通に過ごしているけれど、日曜日の夜になると元気がなくなってくるとか、そういう姿を見て「ああ、仕事って嫌なものなんだろうな」と感じ取っていたケースもあります。

ただポイントなのは、極めて分母の少ない経験値によって個人の労働観が形成されてしまうということです。

出典:ぱくたそ

別の観点から話をします。

支援先のA社では、2~3年以上働いた社員たちは、みんなかなりポジティブな労働観を持っています。全員とは言いませんが、8割以上の社員がポジティブです。

  • 「会社のことが好きだ」
  • 「仕事はやりがいとか責任感を持ってやっている」
  • 「仲間が困っていたら助けるのは当たり前」
  • 「会社の変えたいところがあったら、自分たちで変えていける」
  • 「給料を上げていくためにも、自分たちで売上・利益を伸ばしていく」
  • 「お客様に喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい」

そういった台詞が、普通に流れてきます。

ほとんどの先輩社員がそういった感じなので、新しく入ってきた新入社員も「あ、そういうもんなんだ」となっていきます。朱に交われば赤くなる、ということだなぁと思います。

私は以前、就活塾を主宰していましたが、そこに来る学生たちも半分くらいはネガティブな労働観を持っていました。「就職は人生の墓場」みたいに言う学生もいました。人生の墓場に向かうためのイベントである就活を頑張れるわけもなく、成果も出ません。私がどれほど「仕事楽しいよ!僕は楽しんでるよ!」みたいに語りかけても「レアケースですよね」「他に見たことないです」「石川さんは特別なんですよ」みたいに例外扱いをされて、全然響きませんでした。

そこで一計を案じました。

短期間に大量の「仕事を楽しんでいる社会人」に出会ってもらうのです。1週間で10人以上の「仕事を楽しんでいる社会人」を浴びると、学生たちの固定観念が崩壊していきました。「あれ?意外と仕事を楽しんでる人たち、たくさんいるのか??」みたいになっていくのです。

このことは、組織づくり、組織文化づくりにおいても非常に重要なことを示しているように思います。

どうやってポジティブな労働観を持てるようになるのか

支援先のA社も、最初から8割の社員がポジティブな労働観を持っていたわけではありません。むしろ8割の社員は、一般的なネガティブな労働観を持っていました。「言われたことをやるのが仕事ですよね」「仕事にやりがいとか要らないんで、早く帰りたいです」そういう社員さんたちが普通に大勢いました。

そこから、ではどう変わってきたのか。

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一つ目には「社員の不満を受け止めて、改善活動を真摯に続けてきた」ということがあります。

  • 残業を減らす
  • 有休消化率を上げる
  • 1日単位でしか取得できなかった有休を半日単位で取得できるようにする
  • さらに時間単位で取得できるようにする
  • 業績が良かった年は決算賞与を出す(悪かった年は出さない)
  • 賃金テーブルを明示化し、どのように給与が上がっていくか社員がイメージできるようにする
  • 評価制度改善プロジェクトを社員主導で行い、評価項目などを改定する
  • ドレスコードに関する改定を繰り返す
  • リモートワークのルールの改定を繰り返す

などなど、細かいことを挙げていくと他にもあるのですが、こういった「改善活動」をし続けています。

その結果「声を挙げれば会社は変わる」「私たちの会社だ」という感覚が強くなったのは間違いないと思います。

二つ目には、部署や年次を超えた対話の機会の積み重ねがありました。

このことによって「隣の部署が何をやっているのか知らない」ということがほとんどなくなりました。「隣の部署が困っていても興味ない」といったこともほとんどなくなりました。さらに、ジョブローテーションも加速させたため「うちの部署さえよければいい」という発想は、ほとんど壊滅してしまったと言っていいと思います。

そんなにべったりとした人間関係ではありませんが「私たちは一つの会社における仲間である」といった共通認識はかなりしっかりと醸成されてきました。

三つ目には、長期のことを考える機会を増やしました。

もともと短期的な業績への指向性が強かったところがありましたが、意図的に10年後を考える機会を増やしました。そうすると「10年後は、この既存事業は厳しいな。。。」「今利益が出ているうちに、次の事業の柱を作るのに投資をする必要がある」といったことが、経営陣だけでなく、管理職や管理職未満の社員たちとしても共通認識となっていきました。

その結果、短期的な業績には寄与しない(赤字の期間もある)、新規事業への挑戦が会社として当たり前に取り組まれるようになりました。

このような取り組みの結果、上述したような

  • 「会社のことが好きだ」
  • 「仕事はやりがいとか責任感を持ってやっている」
  • 「仲間が困っていたら助けるのは当たり前」
  • 「会社の変えたいところがあったら、自分たちで変えていける」
  • 「給料を上げていくためにも、自分たちで売上・利益を伸ばしていく」
  • 「お客様に喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい」

といった台詞が飛び交う会社へとなってきたのです。

労働観を育むポイントは?

ポイントとしては、まずは「この船が好きだ」「この船は大事だ」と乗組員が思うことです。

不満があって、その不満を受け止めて改善して、より快適に過ごせる船になっていく。その積み重ねで「この船好きだな」「もっといい船にしたいな」「改造したいなら自分たちでやっていけばいいんだよな」という認知が醸成されていきます。

その上で遠くを見ます。

「この船はどこに向かっているのか?」「みんなでどの島に行きたいと思っているのか?」ということを考えていきます。それを考えると、今の日々の営みだけでは足りないことが見えてきます。

これは順番は非常に大切で「この船が好きだ」「この船は自分にとって大切な場所だ」となっていないのに、「この船でみんなでどこに行きますか?」と聞かれても、関心もないし、むしろ「それを示せない船長は不安だな」と思われたりしてしまいます。

もちろん新規事業を生み出していくというようなことはそんな簡単ではありません。支援先のA社でも、桁違いの成功を生み出せている、というような状況ではありません。しかし、売上構成比は改善されていて、新しい顧客層、新しいチャンネル、新しい商品などの構成が増えてきています。

自社の労働観が、現状どのようなレベルにあるのか、そのような観点で現状分析をしてみることには価値があると思います。

経営陣はどうか。管理職層はどうか。一般社員はどうか。

会社組織においては、基本的に「上から下」という流れがありますから、まずは経営陣の労働観が成熟していることが重要です。「シャンパンタワーの法則」のように、上から溢れていくものです。

まず経営陣から

  • 「会社のことが好きだ」
  • 「仕事はやりがいとか責任感を持ってやっている」
  • 「仲間が困っていたら助けるのは当たり前」
  • 「会社の変えたいところがあったら、自分たちで変えていける」
  • 「給料を上げていくためにも、自分たちで売上・利益を伸ばしていく」
  • 「お客様に喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい」

といった台詞が出てくる状態かどうかです。

経営陣にこれがなくて、いきなり一般社員層だけ変えようとか、管理職層だけ変えようというのは、だいたいにおいて成功しないでしょう。

経営陣の労働観は十分に成熟している、しかし管理職陣はまだ足りないところがある、となれば、経営陣と管理職陣が腹を割って話し合えるような機会を増やすといいでしょう。そこで会社や経営陣への不満を受け止めたり、立場を超えて、それぞれがどんな未来を実現したいかを考え、共有したりするような時間があるとよいでしょう。

そうして管理職陣が「経営陣と話してきて、労働観が変わった」「仕事の捉え方が変わった」「前よりもずっと働くことをポジティブに捉えている」となれば、その管理職陣は、自分たちが経営陣にしてもらったように、今度は自分たちが部下の一般社員たちにしていくことができます。

組織全体として労働観が成熟してきたならば、リスクを取って挑戦したり、垣根を越えて協力し合ったり、未来を創造するように試行錯誤を繰り返したりといった行動は「自然と」取られるようになります。

そういった会社は、伸びることはあっても沈むことはありません。

今一度「自社の労働観は、どんな状態か?」チェックしてみてはいかがでしょうか。

 

[Vo130. 2025/03/04配信号、執筆:石川英明]